１．記憶

「はーい！次の方診療室にお入りください。」
　少し太めな40過ぎの看護婦が患者を呼び入れる。　
　ここは片田舎のどこにでもある小さな病院。
　足を怪我したという労務者風の男が診療室に入っていく。
　片足を引き摺りながらガチャっとドアを開けた。
　病院独特の消毒剤の臭いと、ほのかに香水の匂いが男の鼻をくすぐった。
　室内には先ほどの看護婦と白衣を着た女医が机に向かって座っていた。
「ちょっと、足をやっちゃってさあ、診てくれよ。」
　男がぶっきらぼうに口を開くと、女医がこちらに振り返った。
　男は一瞬目を見開いて立ち止まってしまった。
　そこにはこの田舎には相応しくない女性がいた。　
　芹沢麗子34歳。この町に来て4年になる。
　化粧、髪型ともセンスがよく、知的な感じに見えた。
　そんな中にも、どこか妖艶さを漂わせていた。
「今日はどうされました？」
「あっ、ちょっと現場でつまづいちゃってな．．．」
　医者と患者の何気ない会話がなされていく。　
「それでは、そこのベットに座って下さい。○○さん、手伝ってあげて．．．」
　男は看護婦の肩を借りて、ドスンとベッドに腰掛けた。
「い、いててて．．．」
「じゃあ、ちょっと診てみますから。」
　麗子はイスごとベッドのそばに移動して、男に近づいた。
　その時、さっきの香水の匂いが、鼻を再び刺激した。
　思わず、深く吸い込んでしまう。
（ああ、近くで見ると、さらにいい女だ）
　男は、頭の中にふしだらな気持ちを巡らせていく。
「足をここに乗せてください。」
「．．．．．．」
「ちょっと、聞いてます？」
「あっ、ごめんごめん。」
　男は見とれてしまっていた。
　麗子はベッドの上に乗せられた足を、靴下の上から触診していった。
「い、いて！」
「どうやら、捻って痛めたようですね。」
　さらに、骨に異常がないか調べるため体を寄せていく。
　次の瞬間、診察に集中していた麗子の脚が開いてしまった。
　膝上のタイトスカートがずり上がり、太ももが露になってしまった。
　ちょうど、斜めに寝そべるような体制をとっていた男の位置からスカートの中が見えてしまった。
　薄いベージュのパンストとその奥にシルクのパンティが見て取れた。
「ゴク．．．」男はおもわず生唾を飲み凝視してしまった。
　しかし、男の目が下半身を視姦し続けているとも知らず熱心に触診していた。
「でも骨に異常はないようですね。」
「ああ、そうかい、ありがとよ！　それにしてもあんたエッチなパンツ穿いてるな。」
　そう言われて、初めてスカートの中を覗かれている事に気付いた。
　麗子は、はっとして開いている膝を閉じ、同時に顔が赤くなっていった。
「やめて下さい！診察中に何やってるんですか！」
　室内に声が響いた。
「へへへ、しょうがないだろ、見せてくれたのは先生なんだから。」
　男は、理不尽な言い訳をした。
　あやまりながらも淫気な目で麗子を見ていた。
「先生、ここも診察してくれるかい？」
　男は顔を自分の股間に向けて合図した。
　その直後、麗子は目を見開いて、息を呑んだ。
　作業ズボンの股間部分が、その生地をやぶらんばかりにふくらんでいたのだ。
「きゃ！な、何を考えているんですか！」
「わりーな、こっちも反応しちまったよ。」
「もう診察は終わりです！受付で薬をもらってください。」
　そそくさとイスを元の位置に戻しながら叫んだ。
「悪い、悪い。ちょっとからかっただけだよ。んじゃ、どうも．．．ごちそうさん。」
　男はニヤニヤしながら、診察室から出て行った。
「麗子先生、大丈夫？．．．田舎だからあんなの多いんですよ。」
　中年の看護婦が心配して声をかけた。
「え、ええ．．．大丈夫。次の患者さんをお願い。」
　麗子はかろうじて冷静を保っていた。

　結局、そんな状態のまま診察もすべて終わり、今は机に向かってカルテに目を通していた。
　何枚目かにあの男のカルテが出てきた。
「あっ、これ．．．全く無神経な男だったわ。」
　憤慨しながらも、ふとあの場面が思い出されてしまう。
（あぁ〜あの隆々とした股間のふくらみ）
（あんなに逞しいの久しぶり．．．）
　脳裏に焼きつき、忘れられないでいた。

　麗子は数年前までは、都会の大学病院で外科医として働いていたが『ある理由』からこの町に来て、開業医をしていた芹沢幸二と見合い結婚した。
　新婚当初は、毎晩麗子の体を求めてきたが真面目で仕事第一の彼とは、最近夫婦の営みがなかった。
　だから平静を装いながらも、もんもんとした日々を送っていたのだ。　
　そして今日、男の物を見せられて、再びあの頃の事が蘇ってくる。
　麗子には思い出したくもない過去があったのだ。
　．．．身も心もズタズタにされた恥辱の数々。