はちみつ太郎 作
| １２０ 昇は告白する。網戸の前で聞かされた時、性衝動が起き、一度発射したこと。松山と笙子の夫婦のような会話、二人の会話でそれが促されていたこと。 わだかまりはあるが、このままであれば、昇の下に笙子は帰ってこないこと。そういう気持ちが、今の行動に作用していること。それを告げると、松山に願いを請うた。 「松山さん・・・これきりに・・・してもらえますか。・・・なんだか、笙子が遠くに行きそうで。」 「これきり・・・ですか。」 「はい。」 「旦那さんがそういわれるのに、僕は断る言葉を持ち合わせません。」 「ありがとう・・・いいかい、笙子？」 「うん。・・・いい、それで。」 ベットの前で抱き合うと、崩れるように笙子を押し倒す。笙子の口の周りを舐め、先ほどまで処理していた松山の精の臭いを感じている。 興奮はそれに作用され、勃起を維持していた。笙子は、松山の視線の中、昇の陰茎を扱き、いつにない勃起具合を確かめている。 「昇さん。・・・もう、・・・入れて欲しい。・・・大丈夫なうちに。」 「松山さんに見られながらでもいいんだな。」 「うん、見られていたい。・・・啓輔さんっ・・・お願い。」 「あぁ、夫婦の交わり・・・なんだか、切ないけど見させて欲しい。っていうか・・・参加させてもらえますか？」 「参加・・・あ、はい。」 勃起した陰茎のしごきをやめると、寝転んだままの昇に笙子はまたがった。元気なうちにというあせりか、陰唇に添えた亀頭はなんどもなんども暴れ、行き先を定めない。 松山は背後からそれを声を消して笑みを浮かべた。まどろっこしいそのさまが夫婦の愛だろうと知る。それを一時的に妨げるように挿入を手伝うように笙子の肩に手をかける。 「あぁぁ、・・入ったぁ。」 「おめでとう。・・・悪い、参加させてもらっていい？」 「うんっっっ・・・うんっっ。」 松山はベッドに登り笙子の横に仁王立ちし、肉身を笙子の口に差し出すと昇の顔を見る。頷くだけで笙子に答えを出すと、目を閉じることなく口に含んだ。 舌を肉身にまぶらせる笙子は、感謝の言葉を発しているように感じた。なんどもなんども、松山は肉身に交わる舌でその感謝の意を受け取っていた。 昇は、少しだけだが腰を動かし始めた。庭で射精したとはいえ、堪りに堪った白い塊は生膣の感触を味わうと、松山のようには持つ筈もなかった。 二拍子で刻む、腰の動き。笙子には、それで満足だったのかもしれない。夫婦という絆、それを見下ろしながら松山は感じ取っている。 喘ぎこそ小さいが、松山への施しはいつもより稚拙で、心はここになかった。なんども歯は当たり、唾液の感じも少なく摩擦が亀頭にダイレクトに感じてしまっていた。 心地よい痛みなのか、松山のエレクトは収まる事ない。昇は、目を閉じ、微かな射精感を堪えているように見える。笙子は、松山に視線を送る。 松山は笙子の心を読み取った。口から肉身は吐き出され、笙子の唇を奪うと、なんども名残を惜しむように舌を、唾液を交えていた。 昇の突き上げが次第に大きくなり、ベットは波を打っている。舌を離すと、松山は握っていた手錠の鍵を解錠し、寝室から立ち去った。 笙子は松山を振り返ることなく、ドアの閉まる音と同時に、赤身の残る両手首を昇の首筋に絡め、交わりを深くする。 「昇さんっ・・・ね、ね・・・もう大丈夫だから・・・どこにも・・・いかないからぁぁぁ。」 「あぁ、・・・もう、大丈夫。・・・子供、・・・欲しいね。」 「うん、うん・・・中にぃぃぃ・・・だ、だしてぇぇぇ。」 廊下の外にいる松山はその言葉を聞き、敗北感を肩に抱え階段を降りた。その後、３０分以上かかり着替えを終えると、着信履歴の確認をし、部下の男に連絡を取る。 「俺だ、・・・あぁ、薬注が暴れてる？神足の残党か。・・・迎えに来れるか、広永町の三丁目・・・コンビニの角。」 松山は電話を切ると、身支度を整え玄関に立った。寝室のほうを向くと、二人の声は聞こえないが、ギギッと床の軋む音だけが響いていた。 「おめでとう。・・・１８週目かな。」 「本当ですか。・・・よかったぁぁ。」 言われたと同時に涙が零れる笙子。向山の研究所ではなく、大学病院の診察室で向山は笙子に懐妊を告げる。生理が止まり、妊娠の兆候は判っていた。 「がんばったね。・・・ここまで。」 「はい、・・・よかった。」 「少し、心配事・・・よね。」 「あ、・・・はい。・・・松山さんとは・・・避妊をしていましたし、・・・。」 「安全日には？」 「・・・、正直、してない時も。」 「最後の日・・・旦那さんとの・・・前は？」 「避妊はしてました。」 「そう、・・・ま、心配しなさんな。」 「はい。・・・しません。」 「強くなった？」 「え、旦那ですか？」 「そうじゃなくて、笙子さん。」 「あ、そうかも、・・・お母さんになりますから・・・強くないと。」 「出産後、・・・鑑定だけはしておきましょ。・・・旦那さんには言わなくてもいいから。」 「はい、お任せします、先生に。」 「３６週までは、エッチしちゃだめよ。」 「え、あ、はい。」 「最近してる？」 「知恵袋とかで見てたんで・・・口で・・・。」 「うん、いい答えね。」 笙子は向山と笑いあった。止まらないほど、笑みを浮かべあう。笙子は音沙汰の消えた松山のことを尋ねたいが、口ごもり、聞きそびれている。向山はそれを見逃さない。 「松山警部？・・・彼は、移動になりそう。・・・県警本部から警察庁出向。」 「左遷ですか？」 「いいえ、栄転よ。・・・神足組の壊滅が上に認められてね。」 「東京に？」 「そうね・・・奥さんも連れて。・・・未練？」 「・・・、ありません。・・・もう。」 「もう」というところに向山は笙子の女を感じていた。その気持ちをくみ、向山は笙子の頭を撫で、堪えていた涙を零し、向山に抱きついた。 涙を隠す化粧を直した笙子は、診察所を出たところで一人の男性に声を掛けられる。 「なんだかいいことがありましたね？」 「あ、はい。・・・そうですね。」 「先生は、居られますか？」 「あ、たぶん、・・・まだ、おいでかと。」 「ありがとうございます。・・・。」 入れ替わりで扉をくぐる河は、笙子の後姿を憂いている。夕刊の事件記事のところを表にし、向山の部屋をノックする。返事のない間、扉の前で記事を再度読む河は、大きくため息をつき一言つぶやいた。 「一月に起きた薬物事件で逮捕起訴された建設会社男性役員を・・・不起訴処分とした。・・・男性役員の弁護側が主張する、逮捕時の違法な逮捕の状況を裁判所側が認め・・・この男性役員を不起訴処分とした。」 |
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| 2014.10.11掲載 |
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