はちみつ太郎 作
| １１９ 駅弁売りの売り子は、販売中の弁当のよさを客に知らせている。 具材、パッケージ、出汁、値段。どれをとっても売り子が言う高品質を客は知らぬ振りが出来ないでいる。その味は知っている。この売り子よりよく知っている。 が、それを買うお金がないわけでもない。食べる自信がないだけだった。売り子は、別の客に売り込むことはなく、列車の窓にたたずんでいる一人の男にだけ良さを伝えていた。 「あぁ、きもちぃぃ。・・・もうすぐ、・・・だぁぁ、笙子。」 「あぁ、あぁぁ、あぁぁ・・・だ、だめぇ、・・・抜いてからぁぁあ。」 「しているよ。・・・コンドーム。」 「そ、そうだけどぉぉぉ。」 「判ったよ・・・・どこでもいいんだろ？・・・おま○この外なら。」 「うん・・・あぁぁ、あぁぁあぁ・・・・あひんっあひぃぃんっ。」 売り子は客の前で、弁当売りの口上をなんども聞かせている。ついには、弁当までもが、その口上を真似、列車で遠くを見つめる男に最後の言葉で購入を促した。 購入の意思を告げたとき、すでに発射のベルは鳴り、白線の内側に下がるよう駅員の放送が聞こえていた。 「あぁぁぁ・・・・いくっ・・・・あんっ・・・・だめっ・・・・そ、そとだよぉぉ。・・・お、お願いだしぃぃっ。」 「ああぁぁぁぁぁぁあ、。・・・・でるっ・・・・あっ・・・・・パシッ・・・・ドブユッ・・・ドビュ。」 肉身を外し、白い泡を纏った避妊具を急いで外す松山。笙子は、崩れるように床にへたり込む。ちょうどいい高さのところに笙子の顔がくると、剥き身になった肉の砲は、笙子の鼻筋を目がけ、遠ざかる特急列車の勢いでほとばしった。 垂れる精液を手で掬い、床に零れることないようにするが、掬い逃れた精液は笙子の太ももに垂れる。視線を松山の砲身に向けると、先端からは数滴の精液は床に零れている。 松山の先端に口を沿え、いつものように清掃奉仕を始める笙子。網戸越しにカーテンの隙間からのぞく昇は、雨の勢いを気にすることすら忘れている。 庇の少ない今の住居は、犬走りを雨に濡らしている。その滲んだ雨の上、勢いは違えど、松山と同じ成分の液体は濡れた犬走りにどろりと横たわっている。 雨の勢いは強いが風向きが違うのか、流れ落ちるほどの雨量ではない。昇は、その精液を土で覆い、スリッパの裏で擦るように隠滅していく。 窓際からは視線を感じない。顔面に射精された笙子の姿は拝めないが、テッシュを数枚取り上げる音。その音を聞き、次なる段階に進むことを理解させられた。 がさがさとカーテンが内なる風で揺らめく。テレビの明かりだけが室内の表情を灯し、網戸に近寄った昇は、見慣れたはずの物に驚かされる。 網戸の網には、笙子の尻がへばりつき、ステンレス素材の網は、押された勢いで少し外側に変形されていた。新築時に施工業者に言われたことを思い出す。ステンレス網戸は、紫外線にある程度強いが、外圧の変形には弱く、形が変形したままになることがあると。 まさにそれだった。笙子の尻は網戸を押している。薄暗いが、肛門も陰唇もサーモン色した膣の前庭も昇の目の中に収まっている。吐き出された射精液を舐めさせられているだろうその姿勢。四つんばいで、手錠のはまる両手と膝下を床につけ、治まることなく切っ先を向けたままの松山の肉身を清掃させられている。 「きれいになったよ。」 笙子の声でさせられているという言葉が当てはまらないことを知る。網戸につけた尻がなんども揺さぶられるのは、喉の奥までもが性的な穴であることの証だった。 昇は、もう一つの穴。それだけは、無事でいてくれと願うが、もう処女ではないその穴の存在は知らされることはない。 喉奥で尿道口を擦り、精液の雫は、消滅したように見える。尿道内には、出番を待つ精子たちが、笙子の卵を求め立ち並んでいて、宿主の松山を急かしていた。 口から肉身が離されると、網戸から半歩はなれたところで二人は抱き合った。もう、昇の存在を気にすることのないようにだった。手錠姿の笙子は、両手で陰茎を手コキし続けている。舌は絡み合い、カーテンの隙間は風で大きく開いたままだ。 舌を休めるように松山は笙子に話しかける。世間話のようで、そうでない、どことなく夫婦の会話のようだった。 「子供・・・欲しくないか？」 「え、うん。欲しいよ、お金の関係がなければ、すぐにだよぉ、それは。」 「男の子？女の子？」 「どっちかって言うと・・・女の子。」 「おれもそう。・・・かわいいもんな女の子。」 「うん、手がかからないし、・・・保育園でも、ね、女の子かわいいし。」 「作る？」 「だ、誰と？」 「・・・。」 鼻に指を指し、昇を差し置いて松山は精の放出をアピールする。拒絶するように鼻から指を離させ、その指を網戸の外に向ける。 「そうかぁ・・・固いな。」 「うん、だって、それは。」 「そこが、良いところだし・・・な、笙子の。」 「ありがとう。」 松山はただ昇を煽っているわけではない。そう、感じさせるものがそこにあった。松山の思いがそこにあるかどうかは別にしてだが。 笙子は両手を一度離すと、手のひらの臭いを嗅ぐ。精子臭さの残る匂いを吸い込み、再び肉身を握り締め、持続する血流を確かめていた。 昇は、笙子の本音、子供の授かりの願いを始めて聞いた。涙が出そうなくらい悔しさがこもる。その本音を聞き出せたのは自分ではない、他人棒である松山だった。 煽りと捉えるか、治癒への叱咤と取るかは、本人次第だが、踏ん切りをつかせてくれた笙子に少し苛立ちを感じてしまっていた。小雨から本降りになれど、労いというか気使いなく進められている松山との交わり。 互いの指同士での愛撫の合間に聞こえる夫婦のような会話は、雨粒の大きさとともに嫉妬が芽生えている。もう一つの事実もそこに芽生えている。 確かになりつつある勃起。それを見た笙子の言葉を想像する。「良かった。これで、元に戻れる。」と言ってくれるだろうか。「また、ダメにならない？もう少し様子みようよ。」と言われるだろうとネガティブだった。 手コキを続ける笙子は、足を絡め、松山に体を合わせている。 「寒くなってきた。」 「窓、閉めるか？」 「え、だって・・・。」 「さっきから、誰もいない。・・・旦那さん、激オコか？」 「うそ、・・・ほんと、いない。・・・寝室？」 小さい音だが、玄関ドアの開く音がする。侵入者ではないだろう。昇の足音は階段を登り、寝室のドアが静かに閉じられる。陰部を弄りあう二人は、手を止め、ソファーベットに腰掛けると、昇の気持ちを察した。 「子供の話、怒ったのかな？」 「そうじゃない、自信がないのに・・・自信のある人の言葉で、・・・悔しくなってると思う。怒ってるわけじゃないと。」 「だといいけど・・・どうする？」 「どうしたい？」 「俺は、まだしたい。・・・出来れば・・・なしで。」 「それはダメだって。・・・私も、・・・したいけど。」 「気になるよな。」 「うん、とっても。」 松山は中断も考える。が、自らの性欲がその判断を戸惑わせる。このまま押し倒しても、笙子は拒むことはないだろう。が、次の時、躊躇し、断られることも想像した。 「今日は、ここまでにする。・・・笙子との関係、終わらせたくないし。」 「それはないけど、・・・昇さんのことも、考えなきゃだし。」 松山は笙子の髪をなでる。うつむき加減の笙子は、少し不安の涙を目に貯めている。零れ落ちるほどではないが、微かな揺れが起きれば筋を作ってしまうだろう。 手錠の鍵、ケースのなかから取り出すと、解錠するために鍵穴に差し入れる。「がちゃ」と言う音。鍵穴からではなく、リビングと廊下の開く音だった。 トランクスだけの男、先にはがまん汁を少し染み付かせた昇が部屋に入ってきた。 「松山さん、手錠そのままにしててください。」 「あ、・・・こんばんわ。・・・はい、・・・私は？」 「・・・。」 笙子は、昇の顔を見ることが出来ない。全裸に手錠、他人棒は全勃起で笙子のほうを向いている。半身で体を松山から離し、昇の言葉を待った。 「松山さん・・・一緒に、してもらえないですか？」 「旦那さんとですか？」 「はい、・・・今なら・・・なんだか、出来そうな気がして。」 「え、えぇ、笙子・・あ、奥さんさえよければ。・・・お手伝いします。」 「笙子でいいです。・・・いつもの呼び方で・・・その方が・・・なんだか。」 「判りました・・・笙子・・・いいのか？」 「私は、二人がよければ・・・。」 「良かった・・・断られると思って・・・踏ん切りをつけて・・・良かった。」 昇は笙子に近づき、寝室へ移動を促した。笙子は、立ち上がると昇の後ではなく、松山の後ろを付いていく。手錠は解錠されることなくされたままだが、昇の鍵は外されていた。 |
| あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。 |
はちみつ太郎さんの作品群→ |
|
| 2014.10.8掲載 |
無断転載禁止！