第４章
　
１．姉

　週末、こちらに帰ってくるはずだった真垣の予定が変更になり、予定があいたので、仁美は姉の弥生に電話を入れた。弥生は、２８歳、外資系の証券会社に勤めている。４年前に同じ会社の男性と結婚したが、子供はいない。夫婦仲もよくない。即離婚した仁美と違って、優柔不断な弥生は、そんな生活を変えることへの踏ん切りがつかず、ずるずると結婚生活を続けていた。
　仁美は、食事でもしようと弥生を誘った。

「弥生、何にする？」
　ここは、「サムバディ」という名の店で、二人がよく来るアイリッシュパブレストランだ。けっこういい雰囲気で仁美は気にいっていた。すでに、テーブルにはモッツァレラチーズ・ピザがあった。会うたびに痩せていく仁美を前にして、弥生は食べることをためらった。
「あまり、食欲ないんだ。このピザ半分もらっていい？それでいい」
「いいよ。飲み物は？」
「同じでいい」
　仁美は自分と同じカシスオレンジを注文し、ソーセージとポテトを追加した。

「仁美、少しやせてない？ダイエットしてんの？」
「えへっ、わかる？ダイエットはしてないけど、まぁ、なんというか、生活にはりができたというか・・・」
「それって、いい人ができたっていうこと？」
「まぁね。この前言ったサイトで、何人か物色したんだけど・・・ひとり、よさそうなのがいて、会ったのよ、昨日」
　仁美は、適当な話を作り上げ、弥生に話した。
「ひさしぶりに電話よこしたと思ったら、そういう話か、ふーん？で・・・？」
「すんごい背が高くて、かっこいいのよ。で、その上、けっこう優しくておもしろい人で、これならいいかなって、ホテルいったの」
「即、ホテル？」
「まぁ、誠実そうな感じだったし・・・って言うか、ちょっと飲んじゃって・・・」
「またぁ・・・・？」
「でも、ほんの少しよ。正気だったもの。」
「正気でホテルに行っちゃったってこと？」
「でもね、本当にいい男だったの、なんて言うか“当たった”って感じ。サイトにいる男って、やりたいだけって感じでしょ。でも、ぜんぜん違ってて。」
「それって、逆に遊び人ってことじゃないの」
「うん、たぶん。そーとー遊んでるね」
「やだ、仁美、そんなんでいいの」
「だって、別に結婚するわけじゃなし、いい気持ちになれればそれでいいんだから」
「そりゃ、そーだけど・・・、で？」
「・・・いっちゃった。３回・・・４回かな、よくわかんないけど・・・そのくらい」
「えっ・・・・」
　弥生は、驚いた表情で仁美を見た。

「別れる気になった？」
「えっ？」
「いいかげん、別れちゃえば・・・あんな男。弥生、ずっとあいつといっしょにいるつもり？」
　仁美は、弥生の夫をよく知っているわけではない。ただ、会っては夫の愚痴を言う弥生に対して、うんざりしているだけだ。
「いやなら、別れて、いい男を探す。」
「そんなこと言ったって・・・・」
　血のつながった姉妹でありながら、優柔不断な姉、弥生の性格は、即断即決の仁美にしてみれば耐えがたいものだった。
「出会い系、使ってみれば？」
「出会い系ね・・・・考えとくわ」

「弥生、頼みがるんだけど・・・」
　仁美は、やっと本題に移った。
「何？」
「あのね、わたし、その男と一緒に暮らそうかなって・・・・・」
「えっ？」
「別に、すぐにどうこうっていうことじゃないんだけど・・・・。」
「同棲するっていうこと？・・・もう？」
「まぁ、そういうこと。それでね、弥生、これ、わたしのマンションのスペアキーなんだけど、預けるわ」
「えっ？どういうこと？あなたは？」
「わたしは持ってるよ。それはスペアキー」
「どうして私に？」
「弥生がね、亭主がいやになって、家を飛び出したくなったら、勝手に使っていいっていうこと」
「仁美は帰らないの」
「うん、当分ね。だから、郵便とか入れてくれたりとか、たまに窓開けてくれたりとか掃除なんかしてくれたりすると、すごくありがたいかなって」
「もう。・・・そういうことか」
「うん、そういうこと」
「わかったわ。月に１回か２回は寄ってあげる。それで、いい？」
「うん、まぁ。それでいい。」
　仁美の携帯が鳴った。メールが入ったようだ。
「彼氏から？」
「うん。ごめん。行っていい？」
「まじ？」
「ごめん。」
「うーん。しょうがないな。あなたのおごりよ。いい？」
「もちろん。・・・ごめんね。弥生」
「いいのよ。じゃぁ、またね。いつか、彼氏、紹介してね」
　そう言って、弥生は帰っていった。弥生の背中を見送って仁美も店を出た。

２．フィットネスクラブ

「すいません。ちょっと、場所がわからなくて・・・」
　一樹からのメールで、慌ててやってきた仁美だったが、指定された場所がわからず、少し迷ってしまった。「ここは、知らなかった？」
　そこは、フィットネスクラブだった。真垣と再会し、以前よりも８ｋｇも太っていた仁美は、なんとか元に戻そうと一樹にいいジムを紹介して欲しいとたのんであった。
「ええ、ここは・・・・？」
「うちの系列だから・・・・」
　中に入ると、一樹は受付を素通りして、仁美を中に案内した。
「一樹さん・・・あのぅ・・・手続きとか・・・いいんですか？」
　不安になった仁美がきくと
「えっ・・・。ああ、だいじょうだよ。真垣さんに頼まれてるからね」
「そう・・・ですか」
「何でも自由に使っていいし、何時来ても、何時間いてもいい。専任のインストラクターもつくよ」
「ええっ・・・でも、・・・・」
「ただ、条件があって・・・・これに着替えて・・・真垣さんから」
（真垣さんから？）
　仁美は、一樹に渡されたレオタードを持って更衣室に入った。
（何、これ？・・・・）
　与えられたレオタードは、前の部分は鋭い角度で腰骨の上まで切れ上がっており、後ろはほとんど紐といったほうがいいくらいで、生地は薄く、前にも後ろにも、胸にも裏布はなかった。胸元は大きく開いており、乳房は半分以上が露出した。乳首はかろうじて隠れてはいたが、薄い生地は透け、晒しているに等しい状態だった。
（この格好で・・・）
　仁美は、しばらく、鏡の前に立っていたが、勇気を出して部屋を出た。仁美を見た一樹は、
「弘樹、この子を頼むよ」
　若いインストラクターが、一樹に呼ばれ、近づいてきた。
「仁美さんだ」
「はじめまして、片山弘樹です」
　若いインストラクターは、微笑を浮かべた顔で頭を軽く下げた。
「じゃぁ、頼むね」
　そう言って、一樹は出て行った。

　弘樹は、裸も同然の仁美の体をじっと見つめると仁美に言った。
「脇とお腹かな？」
「ええ」
　消え入りそうな声で仁美は答えた。
「わかった。じゃぁこっちに来て、始めましょうか」
　弘樹は、仁美にベンチプレスをさせた。仁美が台に仰向けになり、足を開いて準備をすると、周りの男達が仁美を取り囲むように集まってくる。汗をかくと、薄いレオタードはもはや何の意味もなく、男達に全裸を晒しているのと同じだった。
（見られてる・・・これじゃ、裸も同じ）
　仁美は、周りから送られる舐めるような視線が怖かった。レイプされるかもしれない・・・そんな不安がつきまとった。仁美が器具の間を移動すると、何人かがついて来たが、やがてその数は減っていった。男達は、股間を盛り上がらせ、仁美が立って移動してもすぐにはついてこれなくなっていたのだ。仁美はそのことに気づいて、思わず、笑いがこみ上げてきた。それまで感じていた不安はもう、消えていた。仁美から視線をそらし、ぎこちない格好でエクショサイズする格好がおかしかったし、気の毒でもあった。
（ごめんなさいね。どうにかしてあげたいけど・・・・こんなに大勢じゃ・・・どうにもできないもの）

　真垣が帰ってくるまで、仁美は毎日、ジムに通った。
「仁美、泳ぐかい？」
　水曜日の夜、ジムから帰ろうとしていた仁美に一樹が声をかけた。
「いいんですか？」
「ああ、いいよ。今日は、うちの専用になってるから」
「でも、水着持ってないですよ」
「それは、問題ないよ」
　一樹は、仁美をプールに案内した。

　スイミングは、プールが閉まってからの使用で、仁美と同類と思われる女性たちが２〜３人、インストラクターの指導で泳いでいた。仁美を含めてみな、水着は着ていない。インストラクターのほか、一樹の会社のスタッフだと思われる人たちが外から、あるいは水中からカメラを回していた。

　エクショサイズが終わると、仁美はマッサージルームに連れて行かれた。
「マッサージを受けてもらうよ」
　一樹が、なにか確認するような口調で仁美に言った。
「・・・・はい・・・」
　仁美は、一樹に何か意図があるような気がしたが、逆らうことは出来なかった。

　マッサージ台の上に、仁美は全裸で仰向けに寝かされた。２人の男性が、無言でマッサージを始めた。１人は上のほうから顔、首、肩、そして乳房へと。もう１人は、片脚ずつ高く上げ、その後両足を大きく広げ、太股から仁美の股間へと指を這わせた。
　彼らの指は、微妙な動きで仁美を刺激した。
　仁美は、次に起きることを既に理解していた。仰向けからうつ伏せにされると、マッサージ台を抱きかかえるように手と足を固定され、顎を立てて頭を固定され、前から男性が肉棒を仁美の口に差し入れてくる。後ろでは、もう一人の男性が、仁美のアナルに肉棒を差し込んだ。前と後ろから同時に挿入される。もうアナルに痛みを感じることもなかった。喉の奥深く挿入されて、息苦しいのは変わらないが咳き込むこともなくなっていた。
　口に挿入していた男性が、何の予告もなしに突然、仁美の口を白濁液で汚した。それを見て、後ろの男もお尻の中に出した。男達は、仁美に何も告げず、一方的に放出すると、口を犯していた男は仁美が肉棒を、きれいになめ終わるまで、仁美の口の中に留まり、その男がようやく離れると、今度はアナルに挿入していた男がそれを仁美の口に差し入れた。さすがにお尻に挿入されていたものを口に含むのには抵抗があったが、仁美はだまってそれに応じ、後ろの男の肉棒もきれいにそうじした。
（これも、真垣さんの指示？）
　真垣に会えないことがつらかった。
　１週間がたち、ようやく、真垣から帰ると連絡があった。