最終章

１．意外な出会い

　朝早く、目覚めた仁美は、自分が真垣の腕の中にいることを知った。
（いっしょに寝たんだ・・・初めて・・・・今日から、ずっといっしょなんだわ）
　満ち足りた気持ちで、再び眠りに落ちた。

「仁美」
　仁美は、真垣の声で目が覚めた。真垣は目覚めた仁美にキスすると
「仕事なんだ。出かけるから・・・」
「えっ・・・・ごめんなさい、起こしてくれればよかったのに・・・・」
「いいんだ・・・・じゃぁ、行ってくる」
　慌てて仁美は、起きたが、近くには何も見につけるものがなく全裸で玄関に向かう真垣の後ろを、仁美は追いかけた。
「いってらっしゃい」
　新妻のように仁美は、真垣を見送った。

　午後になって、仁美はフィットネスジムとエステに向かった。真垣に指示されて通い始めて、回数は減ったが、それでも週に１回は通っていた。ただ、フィットネスクラブでのマッサージはやめて、エステに変えていた。

「おつかれさま」
　もう、馴染みになったインストラクターに挨拶して、仁美はジムを出て、隣のビルに最近出来たエステに向かった。
　２Ｆで、エレベーターを降りると、通路に３人の女性がいた。３人並んだ手前の女性は美菜子だった。
「あら、偶然ね・・・・」
　先に声をかけたのは、美菜子だった。
「美菜子さん・・・こんにちは・・・」
（えっ・・・・弥生？・・・・）
　一瞬、美菜子の向こうでこっちを見た女性が、姉の弥生のように見えたが、美菜子だけを残して二人は、足早に立ち去っていった。

「今日は・・・ここ？」
　美菜子は、エステの入り口に目をやった。
「ええ。・・・・・美菜子さんは？」
「今日、上のクリニックでうちの子達の定期検診があって・・・・」
「さっきの人も、美菜子さんのところの・・・・？」
「えっ？・・・ああ、そうよ。彼女もそう」
「彼女・・・・なんて・・・？」
　仁美は、もしかしたらと思ってきいてみた。
「かの女？・・・弥生っていうの。・・・・・知ってるの？」
　仁美の表情が変わったのを見て、逆に美菜子が仁美にきいた。
「やっぱり、・・・・姉です」
「えっ・・・・・ほんとに？」
「さっき、ちらっと見えて、もしかしたらって思ったんですけど・・・・」
「そう・・・狭いわね・・・・世の中」
「弥生が美菜子さんのところに来たんですか？」
「ううん。真希ちゃんって会ったことない？・・・その子が連れてきたの」
「でも、・・・結婚してますよ、弥生」
「かまわないわ、それに・・・・まだだけど、たぶん近いうちに離婚するわよ」
「あっ、そうなんですか？・・・・最近、会ってないので・・・・」

（このあいだ会ったときは、なにも言ってなかったのに・・・・）

「あのぅ、弥生も、わたしみたいに・・・・」

　仁美には、あのおっとりして、引っ込み思案な弥生が、自分と同じように誰かの持ち物になっていることが想像できなかった。

「そうよ、でも、弥生、男の人はあまり・・・・でしょ。真希ちゃんって実は男なの。どこから見ても女性そのものなんだけどね・・・・弥生には、真希みたいな子がいいみたい。でも、わたしも好きなのよ、弥生が・・・・」
「美菜子さんが・・・？」
「そう。だめかしら？」
「そんなことは・・・・・」
「弥生もあなたのことは知らないのね」
「はい・・・」
「私は、話さないけど、隠しとかないといけない？」
「いいえ・・・でも、私から話します」
「そう・・・・・・」
　美菜子は、ふと何か思いついたようだった。
「仁美」
「はい」
「弥生を見てみる？・・・しばらく会ってないんでしょ？」
「ええ、・・・でも、今日は・・・・・」
「ううん・・・会うんじゃないのよ。見るの・・・弥生は、見えないから・・・」
　仁美は、美菜子の言うことがよくわからなかったが、美菜子に手を引かれて、ついて行った。

「ここで、待ってて」
　待合室で美菜子に待つように言われた仁美は、誰もいない待合室の壁際に立った。しばらくすると、数人の男性が入ってきて、思い思いに待合室の椅子を窓際に動かし始めた。皆申し合わせたように、無口だった。
（なんだろう、この人たち？・・・整形？・・・まさかね・・・・・・・・弥生を見に来たんだわ、きっと）
　仁美は美菜子が言った、“見る”の意味がなんとなくわかった。

　ドアが開いた。中から、診察台ごと、若い男性２人に押されて、弥生が出てきた。
（えっ・・・・分娩台？）
　弥生の足は、大きく広げられ、台の上に固定されていた。弥生を乗せた診察台は、椅子が片寄せられた待合室の中央に作られた空間で止まった。
　異様な光景だった。足を広げ高く上げたほとんど全裸の女性を真ん中に、周りの男たちは、ゆっくりと近寄っていった。相変わらず、誰も喋らない。美菜子と診察していたお医者さんだと思われる女性は、少しはなれてその様子を見ていた。

「・・・ぃゃ・・・・・・・」
　静かな空間に、弥生の小さな声が響いた。
（弥生・・・・）
　男たちは、弥生に息がかかるほど近くまで顔を寄せてはいるが、決して弥生に触れようとはしなかった。輪姦されると思い込んでいた仁美は、この異様な光景に、仁美は、息を殺して状況を見守っていた。どのくらいの時間がたっただろう。
　はぁ・・・・・・はぁ･･･・･はぁ・・・・はぁ・・・はぁ・・
　弥生の息づかいが、だんだん荒くなってきて、拘束されている手足をもぞもぞと動かし出した。
　美菜子が弥生に近づいた。
「いじって欲しい？」
　美菜子が弥生の耳元でささやいた。
「うん」
　かすれた声で弥生が答えた。美菜子は周りにいる男たちにうなずいて合図した。脇に立っていた男が、弥生を驚かさないようにゆっくりと乳房に手を置き、乳首をつまんだ。反対側の男は、両手で砂山を作るように乳房を盛り上げると、乳首を口に含んだ。股間に顔を近づけていた男は、クリトリスを指で刺激し始めると、左の太ももを揉んだ。もう一人が右の太ももをなで、アナルに指を入れた。
　美菜子は舌を差し入れ、女医が耳を噛んだ。
「ああ・・・ああ・・・・いい・・いい・・・・・」
　弥生の反応は早かった。知らず知らず、仁美も輪に加わっていた。弥生の口を女医に譲った美菜子が、仁美の手を引いた。股間をいじっていた男をかき分けて、美菜子は、仁美を弥生の股間に導いた。
（わたしが・・・？するの？）
　美菜子は、仁美の顔を見て黙って頷いた。仁美は、大きく広げられた弥生の股間に顔を埋めた。弥生の肉壺に舌を差し入れ、指で肉襞をかき分けると、クリトリスを唇ではじいた。舌の刺激に弥生はすぐに反応した。
「ああ・・・あああ・・・・いいいいく」
　ガクンと背中を反って、弥生は何度も達した。

　ふぅー、ふぅー
　弥生は何度も大きな息をした。やがて、周りにいた男たちは、徐々に弥生から離れて、待合室から外へと出て行った。その間も、相変わらず、一言も発しなかった。仁美も、黙ったまま美菜子に軽く頭を下げて、出て行った。

２．弥生と仁美

　次の日、仁美は、弥生とホテルのスカイラウンジで会う約束をした。

「弥生、元気？」
「どうしたの？急に・・・？」
「うん。ちょっと、いろいろ報告があって・・・」
「何？」
　仁美は、とりあえず、自分のことを話すことにした。

「あのさぁ、私のマンションだけど・・・いらなくなっちゃった」
「どういうこと？・・・今、わたし、住んでるんだけど、そこに・・・」
「どうしたの、稔さんと喧嘩でもしたの？」
「う、うん・・・別れようと思ってる」
「そう。・・・やっと、その気になったのね。そのほうがいいよ」
「ありがと。で、どういうことなの？」
「うん・・・彼がね、結婚しようって・・・・・」
「結婚？・・・・・・そう、よかったね」
「ありがと。・・・式はあげない、籍を入れるだけ」
「そう。もう入れたの？ううん。まだ、明後日、いっしょに・・・・」
「そう。お祝いしなきゃ」
「いいのよ、お祝いなんて・・それから、使ってるなら、マンション、そのまま住んでていいよ」
「ありがとう」
「弥生は？・・・・離婚するって、いい人が出来たとか？」
「ううん。そんなんじゃないの。いやになっただけ。会社も辞めたわ」
「そう、で、次の仕事は見つかったの？」
「ええ、まぁ」
　曖昧に答える弥生に仁美は、どう話を切り出そうか考えていた。

「いろいろ、お世話になりました」
　厨房のほうから、制服姿の女子高生が出てきて、責任者らしき男に頭を下げていた。
（あら、あの子）
　女子高生は、ここでアルバイトをしていた知美だった。知美は、仁美たちのほうへやって来て、通り過ぎようとしたとき、あまりに表情が暗いので思わず弥生が声をかけた。
「こんにちわ。どうしたの、辞めちゃうの？」
「ああ、こんにちわ。・・・・ええ、ちょっと、都合が悪くなって・・・」
「そう、残念ね・・・・あなたに会うのが楽しみだったのに・・・・」
「えっ・・・そうですか？・・・・ありがとうございます・・・・・じゃぁ」
　弥生の言葉に、とまどいながらも一瞬、表情が明るくなったように感じた。知美は、奥の席で待っていた男性と一緒にもう一度、弥生たちのそばを通ってレジに向かった。弥生の横で立ち止まり、もう一度、弥生にお辞儀をしようとしたとき、
「辰夫」
　仁美が、知美の横に立っている男に向かって呼びかけた。辰夫の表情が、変わった。
「知美、レジで支払いして、外で待っててくれる、すぐ行くから・・・」
　辰夫は、不安そうな表情の知美にそう言って、先に外に出した。

「あの子は、俺の娘だから・・・・。へんなことしてるわけじゃないから・・・。」
　憎悪のまなざしを向ける弥生に、辰夫は弁解するようにそう言った。
「娘って・・・高校生でしょ」
　弥生が言った。
「血はつながってないけど・・・・、あの子の母親と結婚したんだよ。だから、ちゃんと親子だから」
「そんなことを言うために・・・・・」
「いや・・・そのぉ、悪い事したし、それに、疑ってそうな顔だったから・・・・」
「嘘でしょ。彼女、暗い顔してたわ。何かしたんじゃない？」
「冗談じゃない。・・・・母親が亡くなったんだ。このホテルの支配人だったんだよ」
「そうなの・・・・ごめんなさい。ひどいこと言っちゃったわね」
「知美っていうんだけど、ひどく落ち込んでて・・・・元気になったら、また、ここでバイトするかもしれないから・・・・」
「そう・・・・大事にしてあげてね・・・・あなたのことは言わないから、安心して」
　弥生は、辰夫の意図を察して、答えた。
「ごめん・・・。ありがとう・・・」
　そう言って、辰夫は深々と頭を下げ、入り口で心配そうにこちらの様子を伺いながら待っている知美のところに急いだ。弥生は、知美に向かって微笑みながら小さく手を振った。

「弥生」
「何？」
「実はね、辰夫のこと・・・・・。あの日ね、私が誘ったの・・・」
　仁美は、本当のことを言おうと思ったが、弥生が制した。
「いいの、もう。あれは、レイプなの。辰夫もそう言ってるし、私もそう思ってる。もう、辰夫もいいパパになってるし。忘れましょう。あなたも再婚するしね」
「弥生」
「仁美、ごめん。私、夜の仕事始めたの。そろそろ行かないと行けないから・・・」
　弥生は、さらっと仁美に仕事のことを伝えた。

「夜の仕事って？」
「会員制クラブの何だろう・・・ホステスかなぁ」
「弥生、私、昨日、あなたを見たよ」
　弥生は、どきっとした。
（あれ、やっぱり、仁美だったんだ）

「どこで？」
「私、隣のビルのエステに行ったの。そこで・・・・」
「そう。私、昨日そこで健康診断受けてたのよ。声かけてくれればよかったのに・・・」
「そうなの」
　そう言って、テーブルに千円札を置いて弥生は席を立った。

（言いにくいよね、弥生。私もそう・・・・今度、ちゃんと言うね）

　仁美はわざと時間をかけてさめたコーヒーをすすった。