その１３　思い出のお尻


「あの、あん、お、おやめに、あのダメです、こんなの、ね」
　必死の思いで、後ろに回した左手で江川の手を掴んではいる。
　だが、なぜか力が入らない。
　成美の手を振り切るまでもなく、きゃしゃな手に掴まれたまま、悠々と、尻を、ウエストを、そして、女らしいカーブの腰を、撫で回している。
「あっ、だめっ」
　敏感なウエストを、ぶっとい指が、バイブレーションしながら撫で上げてきたのだ。
『あぁん、だめぇ、そんなことしたら、見えちゃうぅ』
　だが、もはや、とっくに、ワンピースの裾は持ち上がって、直接、パンティー一つの尻を撫で回されていた。
　サラサラサラ。
　しなやかな細いウエスト、急カーブの女らしい腰、丸くて、柔らかい尻。
　全てを自由に撫で回す、その手。
『あ、これ、裾が被さってるけど、私の手の分だけ見えちゃうかも』
　フレアな分だけ、触っている部分は、ワンピースが被さって下着が見えないはずだった。
　だから、江川の手を押さえようとして手を伸ばせば、その分だけ裾がまくれ、下着が見えてしまうはずだった。
『どうせ、押さえられないなら、見えないようにした方が……』
　追い込まれてしまった成美は、ひどく倒錯して考えてしまった。
　本当は、今すぐ、振り向いて、頬の一つもひっぱたけば良いのだ。
　だが、自分に隙があったかも、と思えば、怒りも見せられず、なによりも「酔っ払いのちょっしたイタズラ」だと思えば、通り過ぎるのを待つことを考えてしまったのだ。
　そうなると、自分の手がある分だけ、裾がめくれて下着が見えてしまう方が、重要なことに思えてしまう。
　人間、追い込まれてしまえば、トンチンカンにもなろうというモノだ。
『下着が見えちゃうと、もっと、興奮させちゃうかもしれないし』
　とっさに押さえていた手を離して、両手でシンクに掴まってしまう。
　もちろん、押さえていた手を離されれば、江川は、さらに調子に乗って快感を送り込んでくる。
『あ〜　だめえ、早くやめてぇ、あん、ヘンになっちゃう、あぁ、どうしよ。ドキドキしちゃって』
　なまじ、自分の家だ。
　相手は夫の上司。
　夫だって、すぐ隣の部屋で寝ているのだ。
　身の危険を感じない分だけ、必死で抵抗する気持ちが起きなかったのかもしれない。
　そして、さっきからのアルコールが、あまりの羞恥の状況で、一気に回ってきた。
　成美は怒るよりも先に、ワケが分からなくなっていた。
　いや、体中にわき出してくる快感が、そうさせていたのかもしれない。
『声を飲み込まなきゃ。だって、ただでさえ敏感な所なのに、あ〜ん、そんなトコ、直に触れちゃだめぇ』
　ミニワンピの奥を一気に手が上ってくる。
　敏感なウエストを太い指が直に、サラサラサラと、身体を逆なでするように、絶妙の振動をさせながら、動き回っていた。
「あの、やめてくださいっ」
必死で出した声だった。
　だが、思わず、ボリュームを絞ったのは、夫を気遣ったせいだ。
『彼を、今、起こしちゃったら大変だもの』
　成美は、夫が自分を大事にしてくれてるのをヒシヒシと感じている。
　肉体的にはセックスレスでも、愛情は、二人の間に豊かすぎるほどある。
　もし、こんなシーンを見たらどうなるか。
『このスケベ上司に暴力でも振るっちゃったら……』
　理屈では、夫が正義でも、明日からの会社を考えれば、そんなことをさせるわけにはいかなかった。
『私が、この場を上手く収めれば良いだけだもの。なんとか、穏便にしなくちゃ。ああ、あん、だけど、この人、あん、え、エッチ過ぎるう』
　背中をのけぞらせてしまった。
　普段はパッチリとした黒目がちの目を、ギュッとつぶって耐えている。
「あっ！そ、それは」
　パンティの生地をかいくぐって、尻を直接撫でてきた。
「ね、あの、あっ、くっ、ね、夫が起きてきます、ね、おやめに、ほら、もう、っく」
　真剣にたしなめている間も、今度はウエストを、絶妙な動きで、サラサラ撫で上げてきた。
　それも、両方の手の何本もの指が、一度に動き回る、いやらしい中年のテクニック。　成美は、懸命に声を我慢して、慌てて唇をかみしめるしかない。
　眼を閉じて、身体を駆け上ってくる快感に耐えなくてはならない自分が悔しかった。
『こんな風になっちゃうなんて。あん、あたし、あん、ちがうのぉ、お酒のせいよ、それに、アレの前だし……』
　生理前の自分が、一番敏感になるのが今なのだと、今さらながらに思い出している。
『これなら、一人でしておけば良かったのに』
　年末年始の忙しさで、しばらく遠ざかっていた甘美なオーガズムの記憶が、急速に、蘇ろうとしている。
　身体が、オーガズムを欲しがっている「声」を、成美は危険色に塗られた文字で読み取っていた。
　このままでは、自分が淫らになってしまうかもしれない。
　ザワザワとした切ない快感が、子宮の奥に芽生えていたのだ。
　その時、ふと、江川が話しかけてきた
「ね、奥さん頼みがあるんだ」
「あ、だ、ひっ、あう」
「奥さん、ね、頼むよ、頼むよ、お願い」
「ひっ、あ、く、わ、分かりました、分かりましたから、ね、と、止めて。この手を、ね、おやめに、なって」
　身体をひねって、何とか手を振り払おうとした。
　だが、身体が言うことを聞かない。
　シンクの縁を掴む手を離したら、よろけてしまいそうだ。
　第一、もし夫を起こしたら、と思えば、動きが控えめになるのもしかたなかった。
「奥さん。別にイヤらしい意味で、こうしているんじゃないんだ。勘違いしないで」
「そんな、ダメです。どんな意味でも、ダメ、ね、離して、この手を、お願い」
　ひそひそ話のような声で、一生懸命に止めるというよりも、懇願だ。
　だが、もはや、自分の後ろを自由に触りまくるその分厚い手を振り払えない。
「奥さん、お願いを聞いてもらえるなら。ね、お願いします」
「分かりました、聞きますから、聞きますから、お願い、この手を離して」
　ねちねちとした、そのくせ、女に慣れた、絶妙の動き。
　だが、表情も、言葉も、真剣な「お願い」
　その相手は、夫の上司。
　ともかく、成美は、手を離してもらえるように頼むのが精一杯だったのだ。
「奥さん」
「はい」
　一瞬、指が止まった。
　真剣な表情で見上げてくる気配に、一瞬、今の状態を忘れて、思わず、真剣に返事をしてしまった成美。
「実は、妻が死んで、もう１０年になるんだ」
「え？そうなんですか？」
　そんなの初めて聞かされた。
　夫は一言もそんなことを言ってくれなかった。
「うん、ボクの妻は、奥さんのようにキレイじゃなかったけど、まるで、ドラム缶みたいなヤツだったんだけど……　愛していた」
「そんな、え、えっと、あの……」
　自分の妻をドラム缶にたとえられても、困るのだが、この状況で、そんなことを言われても、成美は、答えようがない。
「実は、妻の唯一の自慢は、ヒップのカタチ。こればっかりは、天下一品で。で、失礼なんだが、こうしてみると、その……　妻のお尻のカタチに生き写しなんだ」
「え？そんなことをおっしゃっても……　あ、ちょっと、あ、困ります、あん、ちょっと……」
　愛している妻を亡くした、と言う話を、人妻が、ショックなしで聞けるわけもない。
　そのショックは、成美の心のどこかに、ちょっとしたスキを作ったのだろう。
「すまない。本当にすまない。ああ、だけれど、本当に、似ているんだ、ああ、そうだ、この形だった、この柔らかさ、ああ、これだ、キョウコ、ああ、キョウコぉ……」
　決して大きい声ではないが、まるで、泣きそうな声を上げてお尻を撫でてくる江川。
　れっきとした「大人の男」に、まるで、子どもが大切な仔犬を撫でまわしているような表情をされてしまえば、成美の、心の奥がキュンとなるのも無理はない。
　心の隙間に芽生えた、母性本能なのだろう。
　一瞬、さっきから尻を撫でまわされ、恥ずかしい愛撫をされていたことを、どこかに飛ばしてしまう成美は、あくまでも、怒りよりも、自分に内省的なタイプなのだ
　尻を触る相手の手よりも、奥さんを亡くした心の傷が、気になってしまう。
「あの、えっと、奥様のこと」
「ああぁ、キョウコ、なんで先に、ああ。キョウコぉお！」
　ギュッと尻タブを掴まれる。
「っ！」
　思いっきり掴んでいるはずなのに、その力のいれ具合、入れる場所が、絶妙だったのだ。　
　思わず、ビクンと背中を反応させ、ようやく声を押さえ込んだ成美だ。
「あ、あ、いや、その、いや……　すまない、あまりに似ていてるもので」
　ピタッと止まった手の動き。
　だが、食い込んだ指が、じわんと快感を生み出している。
「すまん。この通りだ」
　だが、次の瞬間思わぬ動き。
　いきなり、丸っこい江川の身体が、小さく、床に丸まったのだ。
　深々と土下座をしていた。
「え？え？あの、やめてください。ね、頭をお上げになって」
「この通りだ。失礼は十分承知している。だが、十年ぶりに妻に会えた気がして。失礼の段は平にお詫びする、だが、すまない、ほんの少しだけ、あとホンの少しだけ」
「え、ちょっと、あの、いったい」
　いきなり、夫の上司に、頭を床にこすりつける土下座をされてしまえば、どう対応すれば良いのか、困ってしまうのが普通だろう。
　まして、古いしつけを受けて、夫を立てることと真顔で母親から聞かされた成美が。
　うろたえて、一刻も早く頭を上げてもらうことしか頭に浮かばないのだ。
　自分が受けた「失礼な段」のことなど、その瞬間は、吹っ飛んでしまう。
あの、並河に対してもそうだったが、ともかくも、相手が頭を上げてくれないと、成美の頭は動かない。
　なによりも「自分にスキがあったから」と、反省してしまう女なのだ。
「あの、お願いします、頭をお上げになって。ね、お願い」
　とっさに、江川の肩を起こそうとしたが、江川は、頭を床にこすりつけたまま、ビクとも動かない。
「すまない、あとホンの少しの間だけ、頼む、しょぼくれた中年オトコの切ない頼みだ。頼む、奥さん以外に、頼める人はいない、少しだけ、少しの間だけでいい」
「はい？」
「キョウコのお尻を思い出させてくれ。それを思い出にして、オレは残りの生涯を生きれる。頼む、ホンの５分で良い、頼む。なにとぞ、見逃してくれ」
　肩を掴んだ成美の手を、すがるように、掴み、拝むようにして、お願いだ、と繰り返されれば、成美は、その手を振り払うどころか、真剣に考えてしまうのだ。
『それって、要するに、私のお尻を、もっと触らせろってことよね。だけど、真剣みたいだし……　奥さんを亡くされて、お辛いんだろうし……』　
　頼む、頼むとすがるその目は、真剣そのものだったのだ。
『どうしょ。オトコの人の、こういう弱みをさらけ出しちゃった姿を見て、絶対ダメって言うのは、なんだか可哀想な気がするしぃ』
　暴力的なら、成美も真剣に抵抗できたのだろう。
　だが、大の男が弱みを見せて、真剣にお願いしてきたら、それにＮＯと言えるような成美ではないのだ。
『イヤらしい気持ちじゃないなら、少しだけ私が我慢すれば……』
　きっぱりと断る雰囲気などみじんもなく、迷いが浮かんでいるのを、江川は、シメタと、勝利を確信していた。
　成美が、そういうふうに考えるであろうことを、もちろん、読んでいたのだ。
「お願いします」
　もう一度、ダメ押しに、額を頭にこすりつけた江川は、頭を上げた瞬間、黒目がちの瞳の奥に、優しげな光が浮かんでいるのを、素早く見たのだ。
『勝った、な』
　もちろん、江川の妻が１０年前に、など、口からでまかせに決まっていた。
　それどころか、あまりにも若くて美人の妻は、会社でも評判だった。
『どうやら、その話は、奥さんにはしてなかったってコトか』
　目に涙まで浮かべてみせる、演技派の江川だ。
　お人好しで、世間知らずの成美が、疑えるわけもなかった。
「奥様のこと、愛してらっしゃったんですね」
　先ほどまでの不埒な行為も、怒りに変わるより、憐憫に変わっていた。
　愛する妻を失って、ついつい、酔って行きすぎた行為をしたくらい、許さなくてどうするのだ。
　男が酔った上での過ちは、許すものだと、躾けられていた。
　成美の気持ちは、既に、江川を許している。
　だが、素直に、触って良いなどと、言えるわけもなかった。
『だって、恥ずかしすぎるもの』
　だが、江川の顔は、喜色満面。
　成美が許したのを、分かっている顔だった。
『あ、もうダメ、これだけ無邪気に嬉しそうな顔されちゃったら、拒めないかも』
　一つ許せば、次の頼みも拒めなくなるのは、成美の優しい性格でもある。
「ありがとう、ありがとう、うん、本当にありがとう、さ、じゃあ、そのまま、お願いだ。いつもそうしていたみたいに、そこに掴まって」
　成美の返事も待たず、いきなり立ち上がって、段取りが始まった。
「ありがとう、ありがとう、なんて、優しい奥さんなんだ。うん、僕の目に狂いはなかった。お願いして良かった、うんうん。さ、こっちに来て。そこ掴まって」
　すぐ横のキッチンテーブルの前に立たされた。　
　困惑した成美の後ろで、子どものように純真な笑顔。
　この後、人妻の尻を触るんだと言う淫猥さよりも、大切なガンプラを買ってもらったばっかりの子どもみたいな表情だった。
　だからこそ、成美は、もはや言うとおりにしてみようと、思えたのかもしれない。
　いつもなら、二人で食事をするテーブルは、いつもなら、醤油差しやら、書きかけの家計簿や、読みかけの本が置いてあったりする。
　だが、お客様が来る今日はキレイに片付いていた。
　その端っこに、成美は、細い手を突いた。
　少しだけ、上半身を前に傾けているから、まるで、お尻を突き出したみたいな格好。
『なんで、こんなこと、してるんだろ、ワタシ』
　今さらながら、頭の中はパニックを起こしている。
「ひっ」
　いきなり、白磁のような太腿を、後ろから、スッと撫で上げられたのだ。
ヒクンと震えた成美は、声、と言うか、息をグッと、短く吸ったような、押し詰められた悲鳴を口に吸い込んだのだ。
　考えてもみないような場所をいきなり触られたせいだろうか。
　確かに、その瞬間、ズキンと感じてしまったのだ。
「あの、そこは、お尻じゃ」
　とっさに、抗議しても、お構いなしに、指先が振動しながら掌が、絶妙の摩擦で、サラサラっと、白く張りつめた太ももを上がってくる。
　ヒクヒクヒク。
　感じてしまっていた。
「いいんです、奥様のような美しい方のヒップをいきなり触る失礼はできません」
『そんなぁ、失礼って言うより、それ、ちょっと、ダメ！』
　だが、ここで急に、ダメと言えば、逆に、感じてしまったのを認める気がして、ついつい、耐えようとしたのだ。
　そう。
　たかだか、脚を撫で上げられるくらい、なんでもないはずだったのだ。
『いけない！』
　だが、それが、甘過ぎる読みで、自分がピンチだと悟ったのも、一瞬だった。
『あん、か、感じすぎるぅ』
　江川の手は、あまりにも絶妙すぎるタッチで、太ももの後ろ側をスルスルと上っていた。
『あん、私ったら、何でそんなエッチなの。そんなつもりじゃないのに。あぁ、だけど、これ、この人の手ったら』
　絶妙だった。
　その手の動きは、成美が今まで出会ったどんなチカンよりも微妙な力加減で、太腿を何度も何度も、撫で上げてくる。
　夫すら、こんなに熱心で、微妙な触り方をしたことはなかった。
　甘い電流が生まれていた。
　唇を噛みしめねばならなかった。
『油断したら、声、出ちゃうかも』
　そんな恥ずかしいマネはできなかった。
　あくまでも、江川の思い出のためのはず。
　まして、隣の部屋で夫が寝ているのだ。
『ダメ。絶対。そんなことしたら……』
　首を振って耐えようとした。
「くっ、んっ」
　唇を噛んで、声を漏らさないようにしてる。
『ダメ、感じちゃ！　私のカラダ、しっかりして！』
　成美が懸命に、快感を押さえ込もうとしても、江川は懸命に感じさせようとしてるのだ。
　そして、人妻の感じやすい身体は、分が悪い。
　どれほど耐えようとしても、気持ち一つで、快感から逃れられるわけがない。
　容赦なく、白磁の太ももを、細かなバイブレーションまでさせて撫で上げては、膝の裏、つまり、ひかがみと呼ばれる、皮膚の薄い場所まで指が戻る。
　触られたことも、いや、愛撫されることなど思いつきもしない場所を、イヤらしく動く手に撫でられると、膝がガクガクして力が抜けそうになる。
『違うの。いやらしい事じゃないのよ。奥様を思い出す、思い出作りに協力しているだけなんだからぁ』
　ぐっと、テーブルの縁を掴む手に力を入れる。
『あああ、っく、あ、だけど、これだめぇ』
　声はかろうじてこらえたが、脚がヒクン、ヒクンと震えが走っている。
　止められなかった。
『お願い、気がつかないで』
　ザワザワする電気が、背中を登りそうになっている。
　懸命に、こらえようとするが、そんな成美をあざ笑うように、微妙に、手が内ももまで撫で上げてくる。
　ヒクンと背筋を反り返らせる。
　反射的に、脚が、少しだけ広がってしまったのだが、自分で気がつくハズもない。　
　江川の動きは、淡々としているが、単調ではない。
　ひかがみの薄い皮膚をくすぐるように撫で上げたかと思うと、白磁の太ももを、ゆるゆると撫で上げてくる。
　春風に煽られるように、お腹の下がゾクゾクしてくるその感じ。
　思わず心で身構えたその瞬間、パンティーラインに届くギリギリで、風のように、ふわりと引いていく。
　ホッとしながらも、なぜか、物足りなさを覚えてしまう自分に驚いている隙に、サラサラサラっと、内ももの柔らかさを撫で上げて来る。
　さすがに、女の部分に近づいてくると、成美の身体は、自然に緊張してくるのは、当たり前なのだが、もはや決して、それが嫌悪ではないことを自覚してしまう。
　サラサラした手が、微妙な振動をしながら登ってくる度、成美のどこかに甘美な電流がきらめいて、ヒクンと震えてしまうのだ。
『あ〜ん。我慢しないとぉ、気づかれちゃう。でも、これ、あ、そ、そこまで上がってきたら、あん、だめぇ』
　たった一言「イヤ」と言う言葉。
　口にすることをいつの間にか忘れていた。
　いきなり、恥ずかしい反応を我慢するハメになったせいなのか。はたまた、酔いが手伝ったのだろうか。
『だめぇ、感じちゃ。そんな恥ずかしいコトはあってはダメなの。あん、だ、だけどぉ、生理前だしぃ。だめ、そんなの。あぁ、こんなことで、感じちゃうなんて』
　確かに、身体の中に、モヤモヤがたまってはいたのだ。
「え？そ、そこは」
　気がついたら、太い指先は、あっさりとパンティーラインに侵入していた。
　さすがに焦って、止めようとしたのだが、その時には、とっくに指が、丸いヒップの一番下側のやわらかな皮膚を、つーっと、なぞっていたのだ。
　薄い布地に包まれた、敏感な皮膚。
　そのすぐ下側の微妙なラインを、内側から外側になぞってくる。
「っつ、あ、ぅくぅ」
　お尻がこんなに感じるなんて、初めて知った。
　高校時代にチカンされたことはあるけど、ここまで、ザワザワしなかったもの。
　やめてと言おうとして口を開けたら、恥ずかしい声が漏れちゃいそう。
　小さな声で、ダメ、ダメ、ダメ、って言うのが精一杯。
　うわごとみたいな私の声を、聞いているのかいないのか。
　パンティーの下側に沿って動いているのかと思ったら、時々、するって、パンティに包まれている部分まで、指が忍び込んでくる。
　ダメ、って言う時には、また、すっと、外側から。
　だけど、またスルって、滑らかな動きでパンティーをかいくぐってくるの。
　お尻から、白い電流が生まれていた。
『あ、あぁ、わたし、こんなに感じちゃうなんて』
　敏感な肌を直接触られるザワザワ感に、成美の頭に、何かが、ぐるぐる回り始めてた。