その１４　 お姫様抱っこ


　なまじ、家の中だったのが悪かったのだろう。
　電車でチカンされるのと違って他人の目がない。
　なによりも、自分の家で、危険を感じるわけがない。
　夫だって、すぐ隣の部屋で寝ているのだ。
　それだけに、一つ、許したことで、江川の思うがままになっていた。
　いつのまにか、分厚い手は、成美の白磁の肌を、ダイレクトに触り放題になっている。
『あん！ダメ！何、この人の手！上手すぎる！』
　サラサラと撫で上げてくる手つきが絶妙すぎた。
　成美が唯一知っている男の愛撫、つまり、夫とのセックスでも、されたことのない、絶妙な愛撫。
　おまけに、その手が、尻の上側まで上り詰めると、クルっと回って、また下に来るのだが、そのたびに、恥ずかしい場所のすぐそばまで伸びてくるのだ。
　指先が、恥ずかしい場所に近づく度に、ビリビリするような気持ちよさが、成美の下半身に、熱いなにかをため込んでくるのだ。
「あ、ぅく」
　声を出しかけて、慌てて口を押さえた瞬間、その「危険さ」を意識した。
『このままだと、恥ずかしい声が止められなくなっちゃう』
　それは、本能の動きなのかもしれない。
『もう一度、アソコを、されたら、もう、ダメになっちゃうかも』
　スッと手が上に来たときに、思わず脚を閉じてしまったのだ。
「え？きゃっ、だめ！」
　小さく悲鳴を上げてしまった。
　それは、狙い澄ましたタイミングに違いなかった。
　成美が脚が閉じる瞬間を、バッチリととらえた早業。
　パンティーが、いきなりヒザの下まで下げられてしまったのだ。
　当たり前だが、脚を広げている限りは、ぜったいに脱がせられない。けれども、恥ずかしがって脚を閉じる瞬間は、何の抵抗もなくなるのだ。
　そんなことは、成美だって分かっていた。
　明るい部屋でエッチされるとき、恥ずかしがる成美は、そうやって何度脱がされたか分からない。
　だが、そう知っていても、脚を広げたままでいるのは不可能だったのだ。
　とっさにしゃがみ込む成美。
　膝まで下ろされた下着の底の部分を、見られるわけにはいかないのだ。
　考える前に、女としての羞恥心が、その部分をみせてはならぬと、とっさに、しゃがみ込んでしまったのだ。
　だが、まるで、それを待っていたように、江川の手が下で待ち受けていた。
「え？」
　すとんと、江川の手に腰を下ろした形になる。
「え？え？え？」
　とっさに、パニックになりかけた成美は、そのまま尻ごと押し上げられて、テーブルに上半身をもたせかけた形になってしまった。
　尻だけを、後ろに突き出していた。
「あん、だめ」
　一瞬、浮いた脚から、足首に巻き付いたパンティーが抜き取られてしまった。
　早技だった。
「いやぁ」
　尻から持ち上げられた下半身は、スカートがまくれ上がっている。
　成美が抵抗する前に、裸の下半身を見られていた。
　あまりのことに、成美は逃げることもできない。
　スカートを下ろそうとする前に、顔を覆ってしまったのだが、それを、自分で不思議に思うこともできない。
「あの、ダメです。あの、もう、あぁ、いやぁ、見ないでぇ」
「大丈夫、大丈夫。ほら、栗本君が起きちゃうからね、静かに、大丈夫、もうちょっとだけ。ああ、なんて、きれいな、うん、思った通り、理想のお尻だよ」
「やめてぇ、見ないで、見ちゃダメ、許して」
　なんでこんな時に許してもらわなければならないのか、自分でも分からないが、その瞬間、確かに、本気で許しを請うている成美がいたのだ。
　そんな成美の混乱を、江川は、とんと、相手にしない。
　丸い尻をサラサラと撫で回しながら、成美の秘部を後ろからのぞき込んだのだ。
「大丈夫、ダイジョ〜ブ、あれ？だけど奥さん、あれえ？」
「え？何？何？」
　その瞬間、江川の声がする場所で、自分のどこを見られているのか痛いほど分かった成美だ。
　そして、何を言おうとしているのかも。
　そのくせ、視線の突き刺さっている場所から、ズキンとした、快感が、崛起と立ち上ってしまったのだ。
　見られていた。
「おお、感激だ、奥さん、濡れてるよ」
「だめだめ、見ないでぇ、いやあ、そんなこと、な、あん！」
　いきなりの衝撃だった。
　秘部に指が入ってきた。
　ヌルヌルだった。
「あぅ」
　とっさに口を覆ったのだが、声は抑えきれない。
「ぐ、ぐ、だ、ん、ん、ん、ああぁ、あうっ」
　ダメっと言おうとするのだが、その声は、淫らなうめきになってしまう。
『違うの、お酒のせいだもの。お酒を飲んじゃったから、私、普通じゃないんだモン』
　だが、成美だって、さっきから、恥ずかしいもので、濡れてしまっているのは、わかってはいた。
　だが、まさか、ここまで濡れてるとは思わなかったのだ。
　ピチャピチャと濡れる音がした。
　そのたびに、発火利としたピンク色の波動が、成美の背中を駆け抜けるのだ。
　逃げるよりも何よりも、快感に耐えなければ、恥ずかしい反応をしてしまう。
　何よりも、身体から一気に力が抜けて、快感に翻弄される成美は、逃げようがない。
『ああ、だめぇ、この手、ふりほどきたいけど、不自然な体勢だから、ダメなのぉ、だって、夫が起きちゃったらたいへんだもの
　誰への言い訳なのだろうか。
　成美は、動けないコトを、仕方ないのだと自分に言い聞かせていたのだ。
　夫を起こしてはならない。
　だとしたら、大きな声なんて、もっと出せるはずもない。
　静かな声で、なんとか江川を制止しなくては、なんとか逃げなくちゃと思うのだが、恥ずかしい声が漏れそうで、やめてと冷静に言うことすらできなかった。
「あぐぅ、ふぐぅ、ん、ん」
　口を押さえているのがやっとだ。
　太い指が、恥ずかしい場所をヌルヌルと好き放題にかき回してくる。
　ゆっくりと夫に開発されてきた人妻の身体だ。
　こうなっては、快感を押さえることなどできるはずもない。
　カラダに力が入らなくなっていた。
　ただ、身体の中を走る電流のせいで、ヒクン、ヒクンと、腰を動かし、背中をのけぞらせてしまうだけだった。
『違う、違うもん、酔っているせいなんだもん。エッチじゃないもん』
いつのまにか、声を我慢するだけで精一杯になってた。
　何とかやめてもらわなくては思うんのだが、絶妙な指使いでアソコをかき回されてしまうと、止めるどころか、声を抑えるので精一杯だ。
「ああ、うぅう、あうぅ」
　それすら、もう不可能になりつつある。
　それでも、必死の思いで「やめて」と言おうとするのだが、そのたびに、狙い澄ませたように一番敏感な場所のそばを、ヌルっと弄られてしまうのだ。
　ヒクヒクと、淫らに腰が動いてしまうのを止められない。
　まるで、おねだりするように、成美の尻は指に合わせて動き始めていた。
『あ〜ん、ずるいぃ。ダメって言わせてくれない』
　しかし、恥ずかしい声だけは出してはならない。こんなことで淫らになってしまうのを知られてはならぬのだ。
　とっくに、女としての恥ずかしい反応をしてしまいながら、パニックを起こした頭は、声だけは、と、そればかりを考えている。
『恥ずかしい声だけはダメなの。絶対聞かせちゃダメ。ああ、だけどダメなの、だめぇ、エッチなコトしちゃ』
　頭の中が、ぐるぐると混乱していた。
　アルコールと快感に、成美の頭は思考を停止してしまっている。
　その上、いつの間にか、すらりと長い脚が少しずつ広がって、江川が触りやすくしているのを、認めたくなどない。
　懸命に声を抑える成美。
　だが、左手は尻の丸みを撫でながら、浅く秘所をかき回してくるその動きに、いつの間にか、物足りなさを感じてしまっていた。
『感じちゃいけないんだけど、あぁ、だけど、江川さん意地悪。これだけ自由にしてるのに、アソコだけは、すぐそばまでしか、さわらないんだもの』
　焦らされているのだと、分かっていた。
　浅くかき回されるだけもピンクの電流が身体をひくつかせてしまうのに、一番敏感なボタンは、決して触れてこないのだ。
　指が、いつまでもかき回してくる以上、女の自然として、それを待ち望んでしまうのは当たり前なのだ。
『あん、もう〜　ちゃんと、声を出さないように決意してるんだから、早く触って……も良いのにぃ　……いやあ、私ったらなんてことを。で、でもぉ、もう……』
　いけないコトだと分かっている。
　だが、十分に焦らされた身体は、生娘ではない。
　夫とのセックスで十分に開発された人妻が、ここまで焦らされれば、ホンの一瞬で良いから、鋭い快感が欲しくなる。
　敏感な場所を、一気にせめて欲しくなるのは当然なのだ。
「ああ、ありがとう。奥さん。おかげで妻を思いだせる。ああ、キョウコ、オレを残していっちまうなんて。ああ、そうだ、この形、この感じ。ああ、キョウコぉ」
　妻を慕う言葉と、感謝を、呪文のように唱えているのがくせ者なのだ。
　根が真面目な成美にとって、簡単に嫌だと言えない身だと、思い出させてくるのだ。
　亡き奥さんへの愛情に負けて、我が身を犠牲にしようと一度は認めたことを、いつ、どこで断れば良いのか。
　まだしも、江川が己の欲望を言葉にすれば、きっかけになるかもしれないが、つぶやく呪文が、成美への感謝と妻への思慕では、そうもいかない。
　そのくせ、分厚い手が巧みに掘り起こしているのが、成美の子宮がじれてしまうほどのジリジリする快感。
『ああ、ここまできたら、いっそ。あぁ、だけどそんなことぉ、言えないっ』
　モヤモヤとしたじれったさが、次第、次第に、成美の思考を「それ」だけに集中させていく。
　ぬる。
　またもや、浅く身体をかき回されて、身体がのけぞった。
『イキたい』
　はっきりと、その言葉を思い浮かべてしまった瞬間だ。
　ヌルヌルと浅くかき回す指は、入り口をホンの少しだけ試してから、クリの方へと向かう。
『あ、そのまま』
　あの、鋭い快感を、身体が勝手に期待してしまう。
　あとホンの少しの所で、すぐ脇を、スッと素通りしてしまうと、がっくりと肩が落ちてしまうのは、自分でも気づかない。
　だが、震える尻、淫らがましくゆっくりと動き始めた腰を、しっかりと見定めているのは江川だった。
『あ〜ん、もう、だめ、そこ、触って。ああぁ、イカせてぇ……　いえ、だめよ、何を考えてるの私！　そんなことあって良いわけが。ああ、でも、ここまで来たら……』
「じゃ、奥さん、そろそろおサネを触りましょうか」
　イカせてと口にしてしまいそうな自分と戦っている成美だ。いきなり、江川の言葉を理解できない。
「くっ、あ、え？え？おたね？なに？」
「おサネですよ、ほら、これ」
「あああ！あん！」
　短いが、はっきりした快感の声を上げてしまった。
　小さなバクハツかと思えた。
　さんざん焦らしてきたクリを、いきなりピンポイントでとらえられたのだ。
「あ、あぅ、そ、それはぁ、だ、あ、だ、めぇ」
　電流が流れっぱなしになっている。
　とてつもなく速い潮流が、白い波頭を砕け散らしながら、身体を駆け巡っている。
「あ、い、や、あ、あうう！」
　抵抗するも何も、考える余裕がなかった。
　さんざん、オナニーをしてきた快感など、子供だましに思えるオーガズムが、身体を貫いてしまったのだ。
　わずかにつま先立ちになったまま、しっかりとテーブルの縁に掴まった手が、グッと硬直した後、一気に力が抜けてしまった。
「あっ、だ、だ、あ、だめぇ、いっ！」
　イクという恥ずかしい言葉をかろうじて飲み込んだつもりだが、意識が弾けてしまった。
『あ、あ、なにぃ、これ……』
　白い電流が、子宮から脳へとダイレクトにつながっている。
　オーガズムの頂点から、なかなか降りてこられない。
「はあぁ〜」
　力が抜けた。
　真っ白になった意識が、戻ってきたときも、体中に快感が渦巻いていた。
『たったあれだけで、私、イッちゃうなんて。ああ、だけど、まだ、身体がもやもやいてる、どうしよ、さっきよりも、ヘンになっちゃってる』
　全身に力が入らない。
　ハアハアと荒い息をする身体から快感の余韻が引くどころか、さらなる快感を求めていた。
『だめ、そんなの』
　これ以上、何かをされれば耐えられないのだと、成美は分かっている。
　ゆっくりと指を使われている、その部分は、圧倒的な快感を欲しがっているのだ。
「あ、あ、あ」
　焦らしながらも、今度は、敏感なクリを弄ってくる。
　そのたびに、指のリズムに合わせるように、声が我慢できなくなってる。
「ほらほら、旦那さん、起きちゃいますよ、いいんですか？」
「だめぇ、それ、あん、なら、あ、あ、やめて、やめ、あん！」
「声出したら、起きちゃいますよ、旦那さん」
「じゃあ、やめ、あん、だめぇ」
「うんうん。良い体だ。大事にされているねえ。だが、ちゃんと感じると、もっともっと気持ち良くなるよ」
「もういいの、もう、やめてぇ」
「え？ホント、じゃあ、これで声、我慢できたら、やめるからね」
「え？な、なにを、あ、あふぅううんぐっ」
　何をされたのかよく分からない。
　その瞬間、江川が何かを言った気がしたのだが、背中を駆け上ってきたオーガズムに、成美はカクカクと頷くしかできなかったのだ。
　だが、敏感な部分も、ビショビショになったその場所全体も、もはや訳の分からない強烈なキモチ良い電気が流れてくるのだ。
　声をこらえることなどできなくなっていた。
　いや、精一杯、両手で口を押さえているからこそ、この程度で済んでいるのだった。
『あ〜ん、こんなの知らなかった。なんなのこれぇ。身体が自分で動かせないみたい』
　噴火するマグマのように、こらえようのない快感が、身体をざわめかしている。
「あ、あ、あ、あぁ」
　思わず眼を閉じて、快感の渦に浸ってしまおうとする成美だ。
『え？ウソ？なんで？』
　指を止められてた。
　思わず目を開けて江川を見てしまう成美。
　それが、無言のおねだりであることは、分かってはいても、そうせずにはいられなかったのだ。
　もはや、その表情は「やめて」の顔ではない。
　男におもねる「もっと」の顔になっていた。
　江川からすれば、思っていたとおりの表情だ。
　たっぷりと時間をかけた焦らしが実を結んで、もはや成美は逃げられない。
　江川は、心からうれしそうな表情になる。
「奥さん。ほら、奥さんの負け。約束通り、向こうに行きましょうか」
「え？約束？」
「さっき、約束したでしょ？声を出したら、あっちに行くって。奥さん、キモチ良くなりながら、頷いたよ」
「そんな約束、あん、そんなのしてないぅ、あぁ、だ、めぇ」
　微かに、自分が頷いていたのを思い出した成美は、ついさっき与えられたオーガズムを思い出すだけでも恥ずかしい。
　そのくせ、身体は、ちっとも満足せずに、もっと大きなオーガズムを求めているのだ。
　逃げることができない。
「あ、あ、だ、あう、あん、だめ、そんなこと」
「寝室、あっちですよね」
「きゃっ、だめ、やめっ、あ、ちょ、ちょっと……」
　いきなり、お姫様抱っこされていた。
　とっさに脚をジタバタ動かしたのは、理性の抵抗と言うよりも、本能の振る舞いだったかもしれない。
「ほら、奥さん、こんな時間に、ドスンって落としちゃうと下の階の人にまずいでしょ」　江川は、マンション住まいの人妻の「もう一つの本能」とも言うべき弱点を突いてくるのだ。
　下の階への物音は、周囲に気兼ねせねばならない主婦にとって、最も避けるべきこととして刻み込まれていた。
『ずるい』
　確かにこの時間に「ドスン」と音がすれば、下の階の方に迷惑。
　とっさに、下の階に住む、中年の主婦の顔が浮かんでしまった。
　そうなってしまえば、大人しくするしかないのだ。
「何にもしません、って。ただ、今の状態で旦那さんが起きちゃうとまずいでしょ？向こうでお話ししましょうよ」
　大人しくなった成美を余裕の表情でお姫様だっこ。
　大丈夫、大丈夫と、リビングとの境を、ずんずんと歩いて行く。
　とはいえ、狭い部屋だ、数歩で廊下は目の前になる。
　目の前に、いびきをかきながら、熟睡する夫を見てしまえば、まるで怖いモノを見るように、ヒッと息を詰めて顔を江川の肩に埋めるしかない。
「だめぇ、行かない、行かないもの」
　小さな声で抵抗しながらも、もはや、抵抗らしいことはできなくなっている。
　今、夫が目覚めれば、最悪なのだ。
　だが、そう思ってしまうこと自体、もはや江川の術中にはまっていることでもあった。
「あれ、じゃあ、ここで、強烈にしちゃいます？一気に奥さんに入れちゃっても良いんですよ、旦那さんの前で」
　今にも降ろそうとする仕草に、逆に、江川にしがみつくしかない。
　にやりと笑った江川の顔を、見る余裕はなくなっていた。