その１５　寝室


「いやあ、やめて、しない、しないのぉ」
「奥さん、さっきイッちゃったでしょ？これでイレちゃっても、もう、合意の上ですよ」
「違うの、違うったらぁ」
「でも、大丈夫」
「だ、大丈夫って？」
　一縷の望みを掛けて聞き返す成美。
「ええ。奥さんに無理矢理したりしません。ね？ただ、ここだと場所が悪い。旦那さんが目を覚ましたら、誤解するでしょ？向こうでお話しでもしましょ」
　なだめるように囁く江川のその腕は、意外にがっしりしているのだと、なぜか、成美は思ってしまう。
　単に太っているだけかと思ったら、逞しくもあったのだ。
　それにしても、下着をつけてない。ミニフレアのスカートは、めくれ上がって、簡単に恥ずかしいところが見えてしまう。
　裾を直したいのだが、その度に、抱えている手の力を抜くまねをされるから、落ちてはいけないと掴まり直すハメになって、直す余裕がない。
　そのくせ、首に手を回した瞬間から、またもや、お姫様抱っこを強調するように逞しい腕ががっちりと成美を支えてくる。
「恥ずかしい。見られてるのに」
　見せてはいけない茂みまでばっちりと見られている。この恥ずかしい姿のまま、がっしりと抱えられているのだと思うと、理性の働きが悪くなっても当然かもしれない。
　アルコールで麻痺しかかっている成美の理性は「お話するだけ」という言葉に、甘美な妥協を強いられていた。
「大丈夫、何にもしませんって、ボクは紳士的なオトコですよぉ、奥さんがいやがるコトなんてできるはずないじゃないですか」
「そんな。だって、そんなことぉ。ダメぇ」
「それとも、ここで押し倒しましょうか」
「いやあ、それだけは」
　くなくなと頭を振る成美の仕草は、既に、拒否と言うよりも、男への媚態に過ぎなくなっている。
『だめ、だめ、そんなこと』
　拒否してるはずだ。
　そのくせ、自分を抱えている太い腕のがっちりした感覚と、太ったその身体がのしかかってきた時の暖かさを、思い浮かべてしまう成美なのだ。
　首を横に振る成美を見つめながら、満足そうな江川。
　もはや、落ちたも同然だった。
「じゃ、嫌なことをしないってコトで、ともかくここから出ませんか？それとも、ここでヤッちゃう方が良い？入れちゃうよ、旦那さんの前で」
　どうせ力が入らないんでしょ、と囁かれた。
『さっきイッちゃったばっかりだから』
　なるほど、拒否できる余裕がないかもと、思ってしまうのは、ホントかもしれないが、余裕を持っている江川の暗示にかかりかけているのかもしれない。
　いくら体が求めていても、貞淑な人妻として、「言い訳」がないとイケナイのだ。
『力が入らない。どうしよ、このままだと、ここで、されちゃうかも』
　成美の麻痺しかかった理性は、夫のすぐそばで犯されてしまうかもしれないという警告を発している。
　だが寝室に行けばお話ですむかもしれない。
　そんなはずはないのに、人間というのはすがりたい事実を見たがるものなのだ。
　とんでもない話だが、羞恥とアルコールで陶酔し初めた成美の理性は、ともかくも、夫の目の前から逃げたいと言うことばかりなのだろう。
「だめぇ」
　夫の目の前。
　ここから離れることは、何よりも優先する気がする。
『そうよ、ここじゃ、もし、夫が目覚めてしまったら大変だもの。それに江川さんだって、「話をするだけ」だって言ったもの』
　ピタリと動きを止めた成美に、江川はにこやかに耳を近づける。
「あの……　お話するだけ？ホントに」
「ええ、奥さんが嫌がるコトなんて一つもしませんよ。それとも、ここで入れて欲しいのかなあ？」
「あん、いやん、そんなことぉ」
「じゃあ、寝室に行きましょうね」
　決して、寝室で江川を受け入れるつもりなどない、そう思ってこそ、成美の白い顔は、コクリと頷いたのだ。
　だが、子どもでもない成美が、このまま寝室に行けばどうなるのか、ホントは、分かっていないはずもなかった。
　お姫様抱っこされたまま、顔を、がっちりした江川の二の腕に埋めていたのは、もはや、気持ちが半ば受け入れていたのも同然だった。
　少なくとも江川、もはや自信満々。
　やわやわと抱える指をうごめかして、抱きかかえた人妻の柔らかさを楽しむ余裕があった。
　混乱した成美のスカートは、いつしかめくれ上がってしまって柔らかな茂みを少しも隠してくれないのだが、もはや直す余裕すらない。
　狭い廊下だ。
　抱きかかえた成美を斜めにしながら、数歩で寝室のドアがある。
「あの、本当に、お話だけで」
「奥さんが嫌がることなんてしませんよ、安心して」
　さ、と促されて、寝室のドアをガチャッと開けてしまったのは、抱きかかえられた成美のきゃしゃな手だった。
　背中でドアを閉めた江川は、ゆっくりと夫婦のベッドに成美を降ろしながら、一気に添い寝するように横に来る。
「きゃ、だめぇ」
「大丈夫。嫌がることはしませんよ。約束ですから」
「嘘、だって、ダメって言ってるのに。あん、お話だけって、あん、いやあ」
　いきなり手がスカートに入ってきた。
　とっさに脚を閉じたが、その時には、さっきビショビショにされた場所にしっかり手が入っていた。
「大丈夫、触るだけですから、さっきの続き、続き、ほら、嫌じゃないでしょ？さっきよりも濡れてる」
「やあぁあ」
　か細い声で拒絶してみせるが、成美の細い右手は、江川の脇にがっちりと抱えられ、腕枕をするように頭の下を通った太い左手が、華奢な左手首をがっちりと握っている。
　イヤイヤと、顔を振るが、そのくせ、抵抗の声は、密やかななのだ。
「ああああ」
　ハッキリとした淫声。
　ヌルリと、美肉をかき回されたのだ。
「あぁ、いやあ、あん、お話、だけだって、あん」
「嫌がることはしませんって約束ですよ」
「うそつき、あ、や……　ダメ、あ、あ、あん」
「ほら、奥さん、嫌がってない。こんなに感じてる。ホントに、嫌なら、イッたりしないでしょ？」
「いやなのぉ、あん、だめぇ」
　敏感なところを弄られながら、懸命に抵抗しようとするが、すでに腕は動かない。
　いや「動かない」のだと、成美は思い込んでいる。
　力が入らないのだ。
　おまけに、敏感な場所を探ってくる指は、絶妙に振動してくる。
　いくら押し殺そうとしても、さっき指でイッてしまったばかりの人妻の身体は、中途半端な燃え方で煽られてるってこと。
　感じる声を抑えるのに必死になるしかない。
「もし、こうやって感じるのが嫌なら」
「え？」
　どこかしらユーモラスなどんぐり眼が覗き込んでいる。
「嫌なのに、イッちゃうって、どんだけスケベな奥さん、ってコトになりますよ」
『あん、違うぅ。スケベなんかじゃないぃ」
「でも、オ○○コ、ヌルヌルだし」
「いやあん、おっしゃらないで」
　恥ずかしい言葉で攻められると、消え入りたいほどだ。
　そのくせ、そうやって、恥ずかしい言葉を言われるほどに、なぜか子宮の奥が熱くなってしまうのが自分でも不思議だった。
　だが、そんな成美のコトを知り尽くしたかのように、次々と恥ずかしい言葉を浴びせかける江川の指は、的確に、成美の官能を追い上げてくる。
　ぐるぐる回る頭の中は、言葉責めと、指先が生み出す官能に煽られて、子宮から流れ出すピンク色の電流に負けてしまいそうなのだ。　
　このまま、身を任せてしまえばと、悪魔のささやきが、さっきから子宮に宿っていた。
『ダメ、ぜったいダメなんだから、あぁ、だけど、あ、もう少しだけ……　触られて、このまま……　ああ、見えちゃってるのに』
　抵抗どころか、フレアのミニはめくれ上がって、恥ずかしい場所を弄る指がはっきりと見えているのだ。
　もはや脚を閉じていられなくなっていた。
「違うのぉ、違うのぉ、あっ、あっ」
　指が、敏感な「ボタン」を、クルクルッと絶妙の加減で触る度に、甘やかな衝撃が、貞淑な人妻の子宮をダイレクトに貫いてしまうのだ。
「そう。違うでしょ？奥さんはスケベだから。ね、嫌じゃないでしょ？だから、感じちゃう。ほら、人妻だもの、こうされたら、感じるのなんて当たり前ですよ」
「いやっ、いやあ」
　拒否しているはずなのに、大声は出せない。
　いや、目一杯嫌がっているはずの身体に、力が入らないのだ。
『だって、彼を、もし起こしちゃったらダメだもの』
　自分に言い訳してしまう成美だ。
「ね、嫌じゃないから、脚が広がっちゃった」
　ほら、と頭の下に差し入れられた手で、下半身を見せられる。
　めくれ上がったスカートの下には、黒い茂み。露骨な動きで、手が差し入れられている。
『いやっ、こんなエッチなとこを、見られてる』
　慌てて目を閉じてイヤイヤをする成美だ。　
「いやいやあ」
「奥さん、ちょっと、お手を拝借」
「え？」
　あっと思ったときは、両手は、交差するみたいにして、頭の上で押さえられてしまった。
二つの手首を、分厚い左手一本で抑えられていた。
　こんな形、いくら成美の細腕でも、本気で暴れれば、ほどけるはず。
　だが、それが分かっていても、成美の身体に力が入らないのだ。
　頭の上で、両手をまとめられたまま、くなくなと身体を捻ることしかできない成美を満足そうに眺める余裕が生まれていた。
「うん、良い子だ。そうやって、奥さんが積極的なら、ご褒美だね。ここらでもう一度、逝かせてあげるからね」
「そんなぁ、ことぉ、だめえ、あぁあ！」
　肩幅ほどに広がったまま、力が入らない脚の間に、江川が、一気に体を潜り込ませてきた。
　素早い動き。
　とっさに脚を閉じようとしたが、太ってるのに素早い動き。
　あっという間に両脚の間に入り込んだ男の身体に、めくれ上がった成美の秘所は、何も遮る者もない。
『入ってくる、とうとう……』
　覚悟を決めてしまうしかない。
　自分がこれほど濡れてしまっている。男の愛撫に屈服してしまっているのだ。このまま犯されても、もはや抵抗できない。
　片手で押さえされているはずの成美の両手は、形ばかりに押さえられたまま、なぜか身動きできない。
『仕方ないの。だって、脚だって、閉じられないんだもの』
　閉じようとした脚は、割り込んだ男の身体にぶつかって広がったままだ。
「だめぇ」
　弱々しく、形ばかりの抵抗を口にはするが、もはや、硬いものに貫かれる瞬間を覚悟しないわけにはいかなかった。
　ゴクリと息をのんだ成美は、観念して目を閉じた。
『入ってくるのね。とうとう』
　両手を頭上に押さえられたままの成美に、低い声が聞こえた。
「両手はこのまま」
「え？」
　まるで催眠術のように、そう囁くと、江川は一気に向きを逆さにして、成美の股間に、顔を埋めてきたのだ。
「あぁあ！だめぇ、いや！ああああぁ、あん、あん、あん」
　ぴちゃぴちゃぴちゃ。
　猫がミルクを飲む音。
　恥ずかしい音。
　だが、そんなことなど意識できない。
　一気にこみ上げてきた快感に抗う、最後の努力で精一杯なのだ。
　敏感なボタンを吸い上げては、ぬかるみの秘所を、力強く、舌がかき回してくる。
　入り口にも、軽く入ってくる、淫らな舌。
　力が入らない。
　いつの間にか両脚がグッと広がっていた。
　なぜか、頭の上で組んだままの両手を崩せない。
　くなくなと頭を振るしかできない。
「ああ、だめぇ、あ、あん、あん、あん」
　軽く舌が入ってくる度に、短い声が出てしまうのだ。
　止められなかった。
『ああ、だめぇ、こんなことぉ、あ、だけど、あ、そ、そこ、もうちょっと奥に』
　はしたないという言葉を思い浮かべる理性は、既になかった。
『こんなことしちゃイケナイのに』
懸命に、自分を叱っているのに、早くも絶頂が兆してくる。
「さ、イッちゃっていいよお」
「ああ！」
　指がヌルッと入ってきた。
　強烈な快感が、電流となって子宮を貫く。
「あん、あん、あん、あん」　
　何者かに操られているかのように、成美のすらっとした脚が、ぐっと広がってしまう。恥ずかしさを思い出す前に、身体が反応してしまったのだ。
「あぁ、あぁ、あぁあぁ、あぁ」
　甘い声にビブラートがかかっているのは、美肉の上側をこすり上げる動きでピストンする指に、煽られてのこと。
「はう！」
　クリトリスが、吸い上げられた。
　身体全体が吸い取られてしまうような強烈な快美感。
　一気に、背中を白いモノが通り過ぎる。
「ああああ、いく、い、い、いっちゃう、いくううう！」
　弾けた。
パーンと頭の中で弾けた泡が、全身を溶かしてしまう。
　身体がマグマに溶けてしまいそうな、そんなおびえにも似た強烈な快感の中で、成美は、子宮が熱く燃え上がる予感に身体を震わせていた。