その１７　ターニング・ポイント


　うっすらと汗ばんだ、しなやかな肢体が、目の前でしどけなく伸びていた。
　広がったままのすらりとした脚も、閉じる気力が起きないようだ。
　それほどの絶頂だったというわけだ。
『まあ、十分かな』
　ここまでくれば江川には、余裕すら生まれる。
　ある程度予想はしていたとは言え、成美には豊かな素質があったのだ。
『それにしても、ここまで理想的だったとはな。』
　快感の余韻が残る白い身体を眺めながら、江川は、己の目利きに自己満足しきりだ。
　なんといっても、まず第一に夫婦仲がよくなければいけない。それには、妻が真面目でなくてはならないし、お互いお互いを信頼してなければ続かない。
　夫婦仲がたとえ良くても、両方に「素質」がなければ、続く訳がない。
　そして、なんていっても、成美が肝心なのだが、ここまで見てきた限りでは、最高の部類だろう。
　素直さと真面目さがあって、しかも貞淑。
　そのくせ、実は マゾが入っていて、とってもエッチで敏感な身体を持っている。
『今も十分に敏感だが、ここから磨けば、どうなるかだな』
　なんでも受け入れられて、しかもそれを快感に変えられる才能。しかも、たいていの男を引きつけてやまない顔に、身体。
『さっき触った限りでは、しまりは良いし、それだけじゃなさそうだ。これは、なかなか楽しみな持ちモンだぞ』
　こんな好条件には、滅多に巡り会えない。
『宝だよなあ』
「あぁ」
　ため息のように漏れだす、男をそそる声。
　よほど、さっきの快感が大きかったのだろう。そっと、白い太ももをなで上げるだけで、快感の余韻が身体にこだましているに違いなかった。
『もう落ちたってことでいいかもな。だが、一応念には念を入れておくか』
　これで仕上げにかかれるだろう。
　おそらく、初めてであろう「夫以外を飲む体験」までもっていけば、今日はこれでいい。
　と言うよりも、本来、それ以上は御法度なのだ。
『今回は、うまく行き過ぎたくらいだけど、うまくいったときほど締めてかからないと』
　本来は、ただのスケベ男だ。だが、実は慎重なところも持ち合わせている江川は、念には念を押すことにした。
『ここは、マゾ体質を、もうちょっとだけ攻めておくとするか』
　もちろん、その方が面白そうだというスケベ心も手伝って、行動に移る江川だ。
　まだオーガズムの余韻が残る女体に、ゆっくりと宣言した。
「さあ、奥さん。約束通りだ。奥さんのオ○○コ使わせるんだな？」
　目を閉じたまま、白い肩をヒクリと振るわせた。
　わざと命令口調にした言葉に反応しているのだ。
『よしよし、敏感だ』
　多少芝居がかっても、こんなとき「支配者の態度」を取られると、マゾ体質の人間は、こうやって反応してしまうものだ。
「感じたな？たっぷりとイッたはずだ。一人だけいい思いをしたんだからな。約束通り、オレのチ○○ポを入れるんだぞ」
「あぁ」
　うめくような声を漏らしながら、ゆっくりと顔を振る成美。
「知ってるぞ。本当はスケベなんだな。奥さん。オ○○コが、ビショビショだ。けいれんしてるじゃないか」
　わざとナカに触れぬようにして、美肉を片手でパックリと開けてやると、ヒクヒクと白い身体が震える。
「ああ、許してぇ」
　震える小さな声を絞り出すが、脚を閉じようともしない。広げた美肉の入り口が、小さくすぼまった。
　まるで男を迎え入れたがっているようだ。
『思った通りだ。こうやって、強く言葉で責めれば責めるほど、余計に感じてる。これは、いいぞ』
　だが、いくらマゾ体質でも、貞淑な人妻を初めて「調教」するときには、ある意味、セオリーがある。
　強く出て、妥協する。
　それが基本だった。
　ここまでくれば、貞操と引き換えに、いくら貞淑な人妻でも、男を咥えて飲み込むくらいまではやらせることができるはず。
　本当は、男の本能として、最後までやってしまいたいのはヤマヤマだが、この段階でそれをやるのは、重大な「信義違反」だろう。
　特に、今回は江川の初仕事だ。
　慎重にやるべきだった。　
「さあ、奥さん。イッちゃったんだから。自分で、このチ○ボを入れるんだ」
　それだけは、とすがる言葉に合わせて怒張をつきつけようと、江川は腰を浮かしかけていた。
　だが、成美の官能を甘く見ていた。
　あまりの快感に吹き飛んでしまった理性と、そして焦らされ続けた官能が与えた影響は、江川の予想をはるかに超えていたらしい。
既に、限界を超えた焦らしに、女体が成美を乗っ取ってしまっていたのだ。
「は、はい。あああ、もう！知らないから！」
　驚き、という言葉と、幾ばくかの男の欲望が、成美の行動を自由にさせていた。
「え？奥さん？」
「あああ、ご覧にならないで。いやあぁ！」
　あ、と思うまもなく、身体を入れ替えた成美は、一気に、黒光りする怒張を自分から入れてしまったのだ。
　さすがの江川も唖然とするしかない。
『これは……』
　強烈な締め付けの美肉だ。
　だが、これ以上ないほど硬くなった江川のものは、ビショビショのそこに、ヌルリと入ってしまった。
「ああああ！」
　まるで、身体の中心をヤリで下から貫かれてしまったかのように、白い背中をのけぞらしている。
「うぅぅううぅ」
　背中を痛烈にのけ反らせた快楽の姿勢のまま、快感の嗚咽がこぼれている。
『うん？この感触は』
　プニュリとした感覚が、先端にあたった。
　子宮口に一気に届いてしまったのだ。　
　目を丸く、と言う言葉はこのときの江川のためにあるようなモノだった。
『まさか、いきなり、本当に自分から入れてくるなんて』
　行動の大胆さと、自分が成美に仕込んだ焦らしが思った以上に働いていたのだということに驚くだけではなく、予想以上の女体の「具合」は、まさに天性のものだ。
『こいつは、すごい。初めからここまで具合がいいとは』
　だが、江川の驚愕をよそに、騎乗位などという言葉すら知らぬ成美は、あっさりと怒張をくわえ込んだまま、一気に上下に動き始めた。
　まさに、本能のまま、快感に支配された人妻は、大きく膝を広げた和式トイレのスタイルで、身体を上下に動かしての逆ピストン運動だ。
「あん、あん、あん、す、すごい、あう、あうう」
　激しい快感が、身体の動きを止めることを許さない。
　この体勢では、硬く屹立した怒張が、子宮口を直接押し上げるまで、深く入ってしまうのだ。
　焦らしに焦らされた成美の快感は、一気に、子宮から噴き上がって、快感の気泡を脳に溢れさせている。
　全身に汗を浮かべながら、成美は動いていた。
　だが、激しく動けば、全身を上下するこの動きが続くはずもない。まして、初めてのこの体位では、軽いオーガズムが何度も駆け抜けるのに、肝心なところに届かない。
『あん、もっと、もっと、ああ、なんなのこの感覚。もっと、きっと、もっとが……』
　すぐそばにあるはずの、もっと深い快感が、手が届きそうで、届きそうになるたびに逃げていくみたいだ。
　感じているくせに、もっと深い快感を求めて、人妻の肉体が焦れったくなっている。
　やはり、成美のようなマゾ体質は、男に犯される形でないと深くイケないのだろう。
「あん、あ、あ、もう、ああ、あ、ど、どうしてぇ」
　じれたように首を振る成美は、立て続けのオーガズムと、立ちふさがる焦れったさに、半泣きになっている。
　ここに至って、江川は、唖然の表情から一気に覚悟を決めた顔になった。
『この後のことよりも、この状態をなんとかしてやらないとな』
　あまりにも、具合のいい美肉の快感もあったのだが、江川の気持ちの中心は、ここで止めたら可哀想だということ。
「じゃあ、スケベな奥さんのために、最後までしてやるぞ。ケツを出せ」
　グッと持ち上げて引っこ抜くと、成美は、もはや一秒のためらいも見せられずに、いそいそと尻を高く掲げてしまった。
　犯されるメスのポーズ。
『こんなカッコ、恥ずかしいのに！もう、我慢できないんだもん！』
　夫にもしたくない、こんな破廉恥な格好を、夫でもない男にしてしまう自分に猛烈な羞恥を覚えたのは事実。だが、それよりも、圧倒的なモノでそこを満たされないと、我慢できなかったのだ。
　きゅっと締まっている美肉も、ここまでヌルヌルになれば、一気に、ズブリと男は挿入できる。
　白い背中がのけぞった。
「ああああっ」
　後ろから、ズンと貫かれた瞬間、普段の成美とは打って変わった太い声が、どこかしら艶かしくなった唇から漏れてしまった。
『ああ、熱い。なんなの、これ？溶けちゃぅ』
　美肉全部が燃え上がるように、熱い。
　子宮が蕩けている。
　蕩けた子宮の入り口を、あの黒光りするモノに突かれているのだ。
　子宮を直接かき回されているような、そんな感覚だった。
「あん、あん、あ、あ、あ、あっ、だ、だめぇああああ！い、いくぅ！」
　「瞬殺」っという言葉がある。
　江川が、二つ、三つと動いただけで、あっという間に、成美の全身を真っ白な光がスパークして、深くて暗いドロドロに投げ込まれてしまったのだ。
　初めての快感だった。
『とけるう』
　子宮から、蕩けてしまうイメージの中で成美は崩れ落ちていた。
　いや、むしろ、このまま全部が溶けてしまいたい、そんな快感の中で、成美の意識が、フッと消えていったのだ。
　だが、次の瞬間、子宮を鷲掴みされたような、そんな衝撃が、成美を目覚めさせた。
「え？」
「目が覚めた？」
「ああああぅ」
　優しげに声を掛けられても、成美にとっては、それどころではない。
　気が付いた瞬間、ピンク色の電流が、全身をスパークさせていた。
　しなやかな身体をバックから貫かれ、白い背中をのけ反らせてしまう。
　尻を高く掲げ、男に委ねた、ハレンチな姿。
「あん、え？あん、あう、あ、おう、おぅ、あ、何、これ、何いぃ？」
　なんと、つかの間、意識を失ったらしい。
　だが、男を逃がしたくないと言っているかのように、少しも緩まない美肉は無意識のまま、硬い怒張を包み込んでいた。
　ピッチリと包み込む肉ヒダは、成美自身の快楽の秘液で、トロトロと溶けている。
　動く度に、ピチャピチャと湿った音がして、ピッチリした美肉に入り込んだ空気が、時々、放屁にも似た破裂音をさせる。
「あん、や、あん、あああ、あう」
　巧みに腰を使い、速いピッチで左右上下と、後ろから攻められている。
　頭の中が沸騰しそうだ。
「なかなか、スケベなカッコだな、奥さん。感じるんだろ？スケベな犬のように、尻を持ち上げてる。ほら、ほら、ほら」
　犬にスケベも何もないが、その一つ一つのフレーズ自体が、成美の秘められたマゾッ気を刺激しているのは確かなのだ。
「あああ、いう、いや、あああ、うあう、ああああ！」
　子宮からの電流で、またもや、何かが吹っ飛んだ。
　美肉が勝手にギュッとしまってしまう。
『恥ずかしいのにぃ』
　突き出した尻がいくら恥ずかしくても、この快楽から逃れるとは思えない。
「旦那以外の男に犯されて、感じてるんだね。雌犬みたいに。ケツを振ってるよ。止められないんだろ」
「ああ、いや、いやあぁあ」
　顔をいくら振って拒否の言葉を吐いても、江川の動きに合わせるように動いてしまう尻を止められない。
　まるで雌犬が犯されているような、惨めな姿を自覚したとたん、さらに心の中の何かのストッパーが、また吹き飛んでしまうのだ。
「さ、ここからが本番だよ」
「あぁ、ダメ、これ以上は、う、あう、ああ、あう、うあう」
　うわごとのように、声が漏れる。
　ダメと言いながら、もっとと叫んでいた。
　まるで、貫いている江川の怒張だけが、自分の真実であるかのように、全身にザワザワとした快感の泡が溢れていて、自分が自分ではないのだ。
　ただ、持ち上げた尻だけは、成美の意志とは関係なく、江川の動きに合わせて、左右にウネウネと動き続けている。
「おお！奥さん。名器だよ、ここまで締め付けてくる。う〜ん、これはスゴイ。三段締めだあ〜　おまけに、入り口は閂ってヤツだ」
　成美が意識してなくても、美肉だけが勝手に蠢いていた。
快感を搾り取るその動きは、まさしく、怒張を搾り取る動きそのものだ。
　江川が一気に動いていた。
「あ、あ、あう、あああ、あ、い、い、いく、いく」
　ビクン、ビクンと背中をのけ反らせた瞬間、成美の美肉がザワザワとお互いが違う方向に締め付けながら、カリに巻き付いてくる。
「よし、行くぞ、奥さん、出すよ、ほら、出すよ」
　ドクンと子宮に届く熱いモノを意識した瞬間、成美の頭の中が一気に弾けていた。
　快感というよりも、苦しさの一歩手前の、SweetDeath。
「いくうううう！」
　完全な雌犬のスタイルになりながら、成美は全身を硬直させてから、ぐったりと崩れ落ちたのだ。
　たっぷりと人妻の胎内に精を放った江川だが、幾分困惑した表情のまま、幸せそうにベッドに沈んだ成美を見下ろしている。
　そして、慌てて、ティッシュを取ると、あふれ出してくる己の精液を拭き取り始めたのを、知るよしもなかった。
　ただ、その翌朝、成美は、昨夜脱いだはずの服を着たまま、目覚めたのだ。
「え？着てる……」
　何とも違和感がある状態だが、服を着ていた。
「ウソ、ヘンな夢？え？あっ……」
　アレは夢だったのかと、一瞬、思った瞬間、身体の奥から、トロッとこぼれてくるモノがあった。
　服の間から、人妻としてよく馴染んだ、あの、栗の花に似た独特の匂いが立ち上ってくる気がした。
「私……」
　江川の出したモノなのだと、もちろん、思い知るしかない。
『しちゃったんだ……』
　どんな顔をして江川に会えばいいのかと、ラブレター告白したばかりの中学生のような照れを感じてしまった。
　思っていたような嫌悪感が生まれないのは、最後は自分から求めてしまったという自覚があるせいだろう。
　和式のトイレにしゃがむように、自分から入れてしまったのだ。
『あれって、私、自分から……　なんで、あんなことしちゃったんだろ』
　自分でも訳が分からなくなっていたのだ。あの時覚えているのは、強烈な、寂しさと焦燥感、そして、快楽への期待だったのを、自分でごまかせるはずもない。
「あ、だけど、朝ご飯、つくらないと」
　他人に服を着せられた違和感を馴染ませながら、キッチンに行くと、そこはがらんとしている。
「あの、え、江川さん？」
　向こうでは、夫はまだ高いびきで眠っていた。
「江川、さん？」
　返事はなかった。
　ごく簡単に片付けてくれたテーブルには、思っていた以上に几帳面な字で、手紙が載っていた。
＜いろいろと、ご馳走になりました。大変に美味で、特に最後にいただいたお味は最高でした。そのうち、またぜひご馳走になりたい。＞
　短い置き手紙。
　自宅で接待したお礼の手紙に過ぎない短い文。
　だが、その手紙の真の意味を知っている成美にとっては、心がザワザワとしてしまうのだ。
　それが、拒絶や嫌悪ではないことを、成美は知っていた。