その２０　主人にだけは……


『あ、ダメぇ、エッチな声になっちゃう。あぁ、そんな風に見ないで。あ〜ん、見えちゃう。恥ずかしいのに……　いやぁ』
　膝と手で身体を支え、尻を突き出したポーズ。
　ただでさえ羞恥を覚えるポーズだ。
　おまけに成美には、忘れたくても忘れることのできない、甘美で羞恥な記憶がある。
　思い出そうとしなくても、あの快感がジーンと子宮を痺れさせてしまうのだ。
『江川さんを、このカッコで……』
　そう。
　決して、二度と味わってはいけない、あの溶けるような快感。
　とっさに成美は思い出すまいとした。
　だが、その努力はあっさりと消し飛んで、子宮が震える。
『あん、だめ、思い出しちゃダメ、あれは、ダメなの、ダメなんだから……　あ、だ、だ、け、ど、こうやってお尻を、私ったら……』
　成美のクリンと丸いヒップがヒクリと震えた。
　夫以外の男性を、夫にすら与えられたことのない快感は、成美に何かを刻み込んでしまったのだろう。
『ああぁあ、いやあ、こぼれちゃう』
　その瞬間、透明な液体がトロリと中からこぼれたのを、成美自身が身をすくめるような羞恥の中で感じていた。
『思い出しちゃダメぇ……』
　しかし、不可能だった。
　なんといっても、今の格好こそ、「男」を、そう、あの江川を、受け入れて、蕩けるようなオーガズムを覚えてしまった、あのスタイルなのだ。
『違うの、違うの、これは、治療なのよ、あ〜ん、違うのぉ、このカッコ、あぁ、でも、あの時、腰をキュッと掴まれて、大きい江川さんが……　あん、ダメぇ、思い出しちゃ』
　あの時、江川を受け入れたしまったポーズなのだと、一度、意識してしまえば、もはや、止まるわけがない。
　おまけに意識するまいと、それを打ち消そうとすればするほど、かえって記憶が鮮明に蘇ってしまうものらしい。
『ああ、あ、ダメ、思い出したら……　あ、ダメ、見られてるのに、ああああん、で、でも、でも、ああ、だめ、熱くなってくるぅ』
　あの溶けるような快感を味わったポーズのまま、初めて会ったばかりの男に覗き込まれていると思えば、成美の身体にわななくような羞恥を生むのも当然なのだ。
　しかし、羞恥は、単なる羞恥で終わらない。
　甘やかな熱を生み出した羞恥心は、ザワザワとお腹の下の方が騒ぎ出す甘い感覚につながってしまうのだ。
　おまけに、いくら、男性経験が少ない成美でも、性の味を知っている人妻だ。今の姿が、男にどのように見えてしまうのか、分からないはずがない。
『丸見えになっちゃってるのに……　　あぁ、だめぇ、こぼれてるぅ……　私……』
　身体の奥から何かがトロトロとこぼれている感覚がある。
　それが何を意味するのか、もちろん知ってはいても、だからといって、それを止められるものでもない。
『あぁ、だめ、私、濡れちゃってる、違うの、エッチなコトしてるんじゃないのにぃ』
　かすかに、濡れている場所に息があたってひんやりと感じてしまうと、逆にそこから、熱が生み出されてしまう。
『熱い。見られてる……』
　視線を受け止めている場所が、勝手に熱を帯びていた。
「あん！　んぅっ」
　慌てて口を押さえた。
　先生の手が、成美のクリンと丸い尻に触れたのだ。
　一瞬のうちに、ピンク色をした電流が、成美の皮膚全体を包み込むように駆け巡って、子宮をキュンと収縮させた。
『あ、あ、あう、だ、だめ、う、あああぁ』
　肘を突いて身体を支えながら、懸命に両手で口を塞ぐ成美。
『こんなカッコ、ダメ、丸見え担ってるのにぃ、あああ、だめぇ、あう、か、感じちゃ、ダメぇ』
　上半身を低くするその姿は、ますます、尻を突き出す淫靡な形になってしまうのを意識しても、止められるものではないのだ。
　突き上げるように、高く掲げた尻を、サラサラとした手つきで、撫で回されると、どうしようもない快感が、身体を貫いてしまうのだ。
「ふぐっ、ん、ん、ん」
　懸命に押さえている口から、押さえきれない声がこぼれてしまう。
　目を閉じ、口を押さえて、懸命に快感と戦う成美の尻に、腰に、脚に、先生の手は容赦なく撫で回してくる。
『あん、ああ、もう、先生、私が濡れているのを……　あ、アソコを見ちゃって、るぅうう、あ、だめ、あう、こ、こえが……』
　その時、何かが限界点を超えたのかもしれない。
　だから、逆に気が付いてしまった。
『視線が……　ううん、これ、先生の息よね？』
　自分の尻に、先生の息がふわっ、ふわっと、当たっているのを感じ取ったのだ。
『あん、そんなに近くから見ないでえぇ』
　息が尻に当たる度に、目の後ろで白い光がチカチカと点滅している。
　成美はもちろん、恥ずかし過ぎて、先生の顔がどこにあるのか確かめられない。
　けれども見なくてもわかる。
　視線が子宮に届くほど、すぐ近くから見つめているに決まっていた。
『ああ、もうやめてぇ』
　しかし、その言葉を出してしまえば、逆に、自分が感じてしまっているのを暴露しているようなものだ。
　いや、今となっては「やめて」と口を開いた瞬間、猛烈に淫靡な声が漏れてしまうに決まっていた。
『違うの、これ、治療なのぉ。治療なんだから、ヘンなことなんて……　あ、う、あ、うぅ、ああ、だけど、あ、だめぇ』
　気が付けば、先生の手が、尻の割れ目に沿って頻りに撫でている。
　後ろのすぼまりこそ、触れてこないが、強烈で、そのくせ頼りない快感が、わき上がってくるのを止められない。
　しかし、こんな所を撫でるのが、治療なのか？
　気が付けば、先生の手は、後ろからあらゆる場所を、サラサラと撫でてくる。
　まるで、それこそ愛撫を、それも焦らすような愛撫を延々と繰り返されているような気がしてきたのだ。
「あん、あ、あん、あ、あのぉ、まだ、あん！あの、あまりそこは痛くは……」
　先生が軽く押してくる場所は、成美自身も知らなかった性感帯を正確に掘り起こしてくるのだ。
　その動きは「悪いところ」を探していると言うよりも、感じさせ、そのくせ、これ以上ないほどの意地悪さで焦らす、Ｍに施す愛撫以外の何物でもなかった。
　高めれては、焦らされ、抑えられ、また高められる。
　こうなってくると、もはや、治療に頭がいくよりも、あの時、江川によって満たされた、あの強烈なオーガズムの記憶ばかりが頭に浮かび上がってしまうのも当たり前だ。
『あの時、いっぱいに、あそこに、江川さんのが……』
　女性の、その部分に、ぐいっと入り込んできた、あの強烈な「トドメ」を思い出さずにはいられないではないか。
　いつとも知らず、成美の白い尻がモジモジと男を誘うように動き出していた。
　しかし松原の低い声が、冷静に説明してくる。
　その声を聞けば、今は「治療」の最中なのだと、理性を取り戻すしかない成美だ。
　操られているかのように、オーガズムの一歩手前と、モヤモヤのど真ん中を、行きつ戻りつの成美は、もはやわけが分からなくなってきてしまう。
　いや、むしろ、積極的に、自分がどこでどうしているのか、全てを忘れて、快感に浸りたいとまで思ってしまうのも当然だった。
　それを冷静に覆ってくるのが、松原の低い冷静な声だ。
「いや、ここだけでも、微妙なポイントが、数十ヶ所あると言われているんですよ。一応そこを確認していきますから。もうちょっと我慢して」
「は、はい」
　聞く者の理性を無理やり呼び覚ます冷静な声。
　そうなれば、あのめくるめくオーガズムをあきらめて、一人の患者に戻るしかない成美だが、そこには羞恥が待っている。
　なんといっても、夫にも見られたこのないポーズを至近距離でのぞき込まれているのだと思い知るしかないのだ。
『恥ずかしいのに、あぁ、もう、やめてぇ』
　だが、白衣を着た人間に、丁寧な口調であっても、断固として治療だと言われてしまえば、痛みを抱える人間は何にも言えるはずがない。
　だからガマンするしかないのだ。
『だけどぉ、あん、だめ、そこぉ、感じ、過ぎちゃう、からぁ、あ、だ、だめに、ああ』
　声を押さえる努力はできるが、快感の電流に身体が震えてしまうのを止めるすべはなかった。
　ヒクヒクと快感に震えてしまう自分に、真っ赤になっている成美に、男の声が冷静に説明してくる。
「ホントは、微妙にずらして、数百ヶ所も見分ける名人もいるらしいんですけどね、残念ながら私のような凡人だと、こうやって」
「ん、んん、ん、ぐぅ、ふぐぅ」
　押さえた掌の下から、勝手に声が噴きこぼれる。
　これこそフェザータッチと言うのだろう。
　まるで羽で撫でられてるように、さらさらさらっと撫で上げ、手が移動して、また、サラサラサラッと撫で上げる動き。
『あ〜ん、私って、こんなにエッチなの？これって、治療のはずなのにぃ』
　夫とのエッチなら、その先を「おねだり」してしまっているはずだった。
　限界点なんて、とっくに超えている。
『あぁ、このまま、だと、ああ、ほ、ほしくなっちゃう、かも……　あん、だめぇ、これ、治療よぉ、真面目なんだからぁ、あん、でも、あ、もうちょっと、う、上を……』
　懸命に自分に言い聞かせようとするその心とは裏腹に、お尻の丸みをたどるように上がってくる手を、ゾクゾクと待ち望む自分がいるのに、気が付いてしまう成美だ。
「あんっ」
　押さえていたはずの手は、シーツを掴んでいた。
　痛烈な快感だった。
『いやあん。そんなぁ、何でこんな風に、私、感じちゃうなんて』
　手が、腰のくびれに沿うようにサラサラと撫で上げていた。
「ごめんなさいね。撫でまわしているみたいでしょ？」
　焦らされる成美の、燃え上がる身体を諭すように、淡々と説明する松原の低い声。
「でも、ね、こうやって、微妙な場所って、ね、ホントに微妙ですから、ホンのちょっとくぼんでいるツボを、全部確かめるしかないんですよ」
　すまなそうに言われれば、それを非難することもできない。
「え、あっ、い、いえ、あの、あんっ、あ、でもっ、あの、何か、あの、ちょっと、こんな風になんて」
　エッチに触られているとしか思えない触り方。
『だって、痛いところなんて一箇所もないのにぃ。あん、ううん、こんなに微妙なタッチだと痛いところなんてあるはずない、ものぉ……』
「ごめんなさいね。でも、初めての患者さんだと、いろいろと勘違いされることがあってですね、ここまでていねいには診察しないんですよ」
　相変わらずの、丁寧で冷静な低い声。
「えっ、うっ、そ、あぁ、そうなんですか」
　あん、だめ。
　そこぉ。
　松原の手が、お尻の丸みに沿って表面をサラサラしている。
『なんでそこがツボなのぉ？ああ、こ、こんなにヘンに、なっちゃう、な、ん、て』
　いつしか、身体に生み出された熱に、全身が震えている成美だ。
　しかし、成美の熱さにちっとも関心のない風に、冷静に、松原が低い声で説明する。
「ええ、だって、ほら、まるで撫でているみたいでしょ。ダンナ様の上司の方がたまたま、私のお得意様でしてね。それなら、こうやっても、ほら、誤解はないですよね？」
「え？」
　とっさに、あの江川のドングリ眼が浮かんだ。
『あ、だめぇ』
　その次の瞬間、身体を貫いた、あの快感を思い出していた。
『く、くるうぅ、あ、い、いくっ』
止めようと思ったときには遅かった。ツンと鋭い快感が、成美の背中をのけ反らせてしまった。
「むぐぅう、う、う」
　せめて、口を押さえたままの手で、声がくぐもったのが救いだった。
　成美の白い背中が、弾けたオーガズムで、のけ反ってしまった。　
　はっ、はっ、はっ……
　１００メートル競走をした直後のような短い息を吐く成美。　
『あの時、いっぱいお尻をいじめられて、感じちゃったワタシったら、そのまま一気に寝室で……』
　ヒクンと子宮が収縮している。
　そう、子宮が、キュンとなった感じ。
　オーガズムを得たはずの子宮は、全く満足してない。さらなる大きな快感を欲しがって、強烈に収縮していた。
　それでも成美は、最後の理性を振りしぼって耐えようとしたのだ。
　グッと目を閉じて、右の掌をグッと唇に押し当てて。
　だが、身体は逃げだそうとはしていない。
　無意識のうちに、尻がわずかに後ろに突き出され、ヒクヒクと男の手を誘うように動いている。
「いや、ね、ほら、こうやって」
「え？あん！あっ、ああぁ、あう！」
　サワッと、かすかに触れられるだけで、いや、逆にかすかな動きだからこそ、成美の唇から、はっきりとした快感の声を誘い出してしまうのだ。
「大丈夫ですね？ちゃんと、分かっていただけます？ていねいに診察してますからね。なにしろ、ダンナ様の上司から頼まれちゃったんですからねえ」
「あの、でも、あ、あっ、あのぉ、あう！」
　冷静な声とは裏腹に、フェザータッチが、成美を追い上げるかのように一気に撫で回してくる。
『あぁ、ああ、もう、もう、い、いかせ……　ダメ、ダメよ、何を考えてるの……』
　首を振りながらも、懸命に耐える成美。
　しかし、そんな成美の様子など意に介さないかのように、松原の声は低く落ち着いている。
　それがまた、成美の羞恥をえぐるのだ。
「大丈夫ですよ。あくまでも治療ですから。もし、私が治療を越えてイヤらしい事をしたりしたら、せっかくの上司の、えっと江川さんの顔を潰してしまいますものね」
「え、あ、う、あん、え、え、江川、さんの……」
　もはや、体中がふわふわと浮かぶような快感に包まれている。
『欲しい、あれ、あれが、あれで、ナカを』
　美肉の中に、熱いモノを欲しがっているのだと、はっきりと自覚していた。満たして欲しい怒張が、江川のモノであると言うことを成美は意識できてない。
「ええ、なんでも、ダンナ様は、江川部長の片腕だそうですよね。くれぐれも、大事に、ていねいな診察をしろと言われたんですよ〜」
　あの時のいけないオーガズム。
　思い出すだけでも美肉がキュンキュンと収縮していた。
　自分でも分かるくらい、尻が震えている。
　まるでおねだりしてるみたいに。
「え、あ、あう、え、ええ、ちゃんと診察していただいてますって、ええ、もちろん。あ、で、でも、ま、まだ……　あ、だ、でも、あっ、もう」
　成美は危うく「イカせて」という声を飲み込んだが、もう限界だった。
「はい。じゃ、もうすぐお終いですよ、ここはどうですか？」
　先生の指が、尻のくぼみに指をグッと深く。
『痛い！』
　突然の痛みだった。
「は、はい、少し」
　今度は脇腹の中に指がニュッと入ってくる。
「痛む？」
「はい」
「そうですか、じゃ、ここは？」
　成美の筋肉の間に指を差し込んだかのように、深い場所に入った。
　指先が、フルフルと振動したのだ。
「痛っ！」
　腰の奥にある、神経が直接掴まれたような痛みだ。
　あっさりと指が抜かれていく。
「なるほど。じゃあ、これは終了ですよ。よく我慢したね」
「……うん、うん、どうやら、仙腸関節は少し、損傷してしまったようですね。でも、腰椎の損傷の方が大事でしてね」
『あ〜ん、また、オカシクなっちゃう』
　上り詰めかけた快感が、痛みのおかげで、少しだけ引いたはずだった。
　しかし、一度、引いたはずの快感が、あっという間に、さっきよりも高い場所から再開してくるのだ。
「よ、腰椎、ですか？」
　とにかくガマンするしかない。
　自分をごまかすためにも、無理してでも会話するしかなかった。
「今度はこっちを調べますね。脊椎の、つまり椎間板ヘルニアの方ですけど」
「はい、あ、あうっ、つぅう、あっ、あん、あ、あん、あうっ」
　手で口を押さえる余裕すらない。
　懸命に声を抑えていても、我慢できるレベルではなくなっていた。
　松原の指が、蛇の動きのような滑らかさで、腰の後ろ側にスルスルと流れてくる。
　その微妙なタッチが、絶妙すぎるのだ。
「あう、はう、あ、あ」
　成美が意識しないうちに、腰がゆっくりとうねりだしていた。
　ヒクヒクと蠢く度にこぼれてくる透明な秘液が、ついにはツッと、太ももを流れ落ちている。
　いやいやと首を振りながらも、尻だけが高く掲げられていた。
「どうですか？」
「は、はい、あっ、んっ」
「これだと、背骨と腰のつなぎ目から、ほら、このあたりが痛むことが。どうです？」
「はううぅ」
　柔らかな手が、尻の方まで伸びて、クルクル動いてくる。
『何なの、これ！』
　さっきよりも、子宮にダイレクトに届く快感。
「いえ、あまり、痛くは、あう！あんっ、あ、い、いたくはぁ、無いみたいですぅ……　あん、け、けどぉ、先生、もう……」
だんだん何をされているのか、分からなくなっている。
　ともかくエッチな声をガマンしなくちゃダメなのだ。
　なにしろ、夫が彼、すぐ隣の部屋にいる。
　これ以上声を出してはダメなのだ。だが、限界なのだ。
　いっそ、このまま、全てを忘れて、イカせて欲しいと成美の頭に、そればかりがリフレインして響いては、最後に残った理性が、か細い抵抗をしていた。
「あっ、だ、くっ、あっ」
　一生懸命ガマンしているはずが、だんだん、ガマンできなくなってる自分が恥ずかしすぎる。
　しかし、突然、快感が中断された。
「え？」
　あまりにもあっさり引いてしまった手を追いかけるように、尻が動いたのを、成美自身も気がつかない。
「さて、奥さん、だいたい、分かりました。たぶん、ヘルニアが多少入ってると思いますけど、基本的には、仙腸関節のネンザが、痛みの中心ですね」
　先生の手が突然、お尻の上の方、そう、腰骨の硬いところあたりに当てられた。
　それだけでも、ひくっと快感の衝撃。
　しかし、ヒクリと動く成美の尻を柔らかく撫でながら、松原の低い声が響く。
「じゃ、ちょっと痛いですよ」
「え？キャッ！痛い！痛いぃ！」
　ちょっとどころではない。
　頭に火花が飛ぶような、すごい、激痛だ。
「痛い、先生、痛いです」
　だけど、先生の指が成美の悲鳴なんて無視して、ぐ、ぐぐっとあてられて、その度にものすごい痛みが成美の背中を貫いてくる。
　激痛だった。
「痛い、いたあい〜」
　で、トドメのように、もう一回。
「痛っ！」
　痛みで、身体がギュッと硬直した。
　背中を貫く、初めて知った激痛だった。
　さっき腰を打ったときよりもはるかに痛かったかもしれない。
　痛みが引ききらない成美の耳に、松原の低い声が優しげに宣言した。
「はい、大丈夫ですよ」
「え？」
「腰回りの筋肉の緊張状態を解きましたから。はい、支えますからね。ゆっくりと身体を降ろして」
『え？動く？』
「はい、ゆっくり身体を落として。大丈夫。腰は痛みません。痛まないようにゆっくり降ろしますからね。さ、力を抜いて」
　恐る恐る、力を抜いて動いてみる。先生の手がウエストに当てられて、それが微妙な感触だけれど、今はそれどころではなかった。
　しかし、少し動き出せば、さっきまでの痛みが全く出ないのに驚いてしまう成美だ。
『痛くない？』
　おっかなびっくり、そろそろと動く。
　ホンの少しでも動けば、襲ってくるはずの激痛が忘れられるはずもなく、四つん這いの状態から、腰を落とすまでには時間がかかる。
　ようやく腰を落としたその瞬間だった。
「そう、ゆっくり。ほら、緊張しない。緊張すると、ここにでますよ」
「あん、いやん」
　いきなり、右の胸をスッポリと手の中に入れられてしまったのだ。
　えっと思う、その次の瞬間だった。
　ツンと尖りきっていた乳首を、掌が微妙に、こすり上げたのだ。
「うっ、あん！」
　不意に、わき上がった強い快感の電流が、成美の白い背中を一気に突きつけたのだ。
　ヒクン！
　小さな泡が、パチンと弾けた感じ。
　背中がかすかにのけ反って、目を閉じてしまった。
　キューンと子宮が響いてる。
『ウソ、イッちゃった？』　
　そう、それは確かにオーガズムだった。
　しかし、信じられるはずがない。
　ついさっき、身体は強烈な痛みに貫かれて、それまでの快感なんて吹き飛んでいたはずだ。
　それなのに、胸をすっぽりと覆われたその瞬間、確かに、何かが弾けたのだ。
『イッちゃったんだ……』
　認めるしかなかった。
　しかも、そのイキ方は、それで満足できるタイプのオーガズムではない。もっともっと大きなオーガズムを思わせる、そんなイキ方。
『どうして……　あぁ、どうしよ、欲しくなっちゃってる、どうしよ、アレが、欲しい、私……』
　信じられない。
　胸は確かに敏感だが、一瞬のうちに、イッてしまうものなのか？
　成美は、自分の身体を駆け抜けた信じられないほどのピンク色の電流に、驚きながら、そのくせ、身体を委ねようとしていた。
　それにしても、治療と全く関係のない、胸を包む手の動きだ。
『これってセクハラ？』
　しかし、セクハラのセの字を思い浮かべる余裕もないほどあっという間に、手がどけられてしまった。
『え？え？え？』
　拍子抜けするほど松原の雰囲気にはエッチな気配が少しもない。
『どうしよ。これって私の考えすぎ？』
　むしろ、感じてしまった自分がエッチ過ぎるかのように思えてしまうほど、松原の姿は、冷静だったのだ。
「さて、奥さん。一応、身体は、すこし動くようになりましたね」
「え。ええ、ほんとう。あんまり痛くない！すごい！さっきまでとは、全然違う！」
　驚いた。
　身体に溢れる快感の予兆はともかく、ついさっきまで、身動きもままならなかったはずの痛みが、あっさりと取れていたのだ。
『なんなの？これって魔法？』
　身体の中の猛烈な欲求を、無理やりねじ曲げるには、自分の身に起きた、魔法のような治療に驚いていた方が都合が良い。
「先生、すご〜い、ですぅ」
　素直な甘え口調が、とっさに出ていた。
　なんと言っても、ついさっきまで、痛くて少しも動けなかった身体。おまけに、その魔法のような手の中で、瞬間的なオーガズムに上り詰めたのだ。
　成美の心に、信頼と、そしてなにがしかの別の感情が生まれるのは当然だったのかもしれない。
　なんと言っても、あっという間に、あの激痛が取れたのは、事実なのだ。
『この先生、本当にすごいってコトよね』
　劇的な痛みの取れ方に、ついさっきのセクハラを忘れてしまう成美だ。
「おっと、あまり動かないで」
　柔らかな手が、成美の腰を押さえてくる。
「今は一時的に、筋肉の緊張を解いて、少しだけ動けるようにしただけです。これで動くと、もっと悪くなっちゃいますよ」
「え？そうなんですか？」
「はい。何しろ、あの格好をずっとさせているのも、気の毒ですからね。じゃ、下肢にしびれが入ってないかとか、もうちょっと調べますね」
「あ、はい。お願いします」
　もう、信頼するのは当然だった。
　何をされても、疑う気持ちなどみじんも浮かばないだろう。
　何しろ、動けないほどの痛みを、劇的に痛みを取ってしまったのだ。
『先生は、本当に凄いんだもの。恥ずかしいのくらい、ガマンしなくちゃ』
　それに……
　と、再開された手の動きを受け止める気持ちになりながら、成美は考えざるを得ない。
『えっと、感じちゃう、のは私がいけないのよね。だって、治療してもらってるんだもの……』
「さてと。えっと、とりあえず、太腿を触りますね。あの……　奥さん？」
「はい？」
「やっぱり、このまま上を向くのは恥ずかしいですよね？」
「え？……ええ、できれば」
　改めて言われれば、一度は見られてしまっているとは言え、恥ずかしさがこみ上げてくる。
　何しろ、ついさっきの、瞬間的なオーガズムのせいなのか、自分でも分かるほど、乳首がツンと尖っているのだ。
　おまけに、身体の中の猛烈な欲求は、今すぐ、太いモノを受け入れたいと叫んでいるのだ。
　仰向けになった瞬間、自分が、恥ずかしい行動をしてしまいそうで、自分で自分が怖い成美だ。
『そんな、恥ずかしいとこ、見せられるはずないもん』
「じゃあ、後ろからなら、さっきより恥ずかしくないですよね、ちょっと失礼」
「あん、いやん」
両脚をグッと大きう広げられてしまった
　両膝の間に、松原が、すとんと腰を下ろせるほどの間隔だ。
　女の秘奥がさらけ出され、丸見えになっている。
『ダメぇ、恥ずかしい』
　恥ずかし過ぎる姿。
　おまけに、脚を広げた瞬間、大陰唇がグッと広がる感触が、モヤモヤとした快感を生み出して、またもや、トロリとこぼしてしまっていた。
『違うのよ、こ、これは治療なんだから。治療のために、必要なのよ。勘違いしちゃダメ』
　自分に言い聞かせるしかない。
　なんと言っても、身体の奥から、今もトロトロとこぼれてきている。
　治療に必要なのだと自分に言い聞かせない限り、恥ずかしさで死んでしまいたくなるに違いないのだ。
　いや、たとえ治療であっても恥ずかしいのは同じかもしれない。だが「治療のため」と言い聞かせることで、かろうじて、我慢してる成美だった。
　しかし、ふと気が付いてしまった。
『あれ？先生、私の恥ずかしい場所を覗いている気が……』
　視線が熱いほど突き刺さっている。
　恥ずかしいくせに、子宮に熱が届いてしまうのを、無視することなどできなかった。
『あん、だめえ、また、こぼれちゃう……』
　ヒクリと動いた尻を無視して、松原の手が、ゆっくりと伸びてきた。
「ここから、ここが」
「ひっ」
　松原の手が、ヒザのすぐ上から、スッと撫で上がって、脚の付け根の、ギリギリの所まで撫でるように動かされた。
　ビクン、ビクン、ビクン。
『あ、ダメ、ああああ！』
　軽いオーガズム。
　成美の太ももが、快感のケイレンをしてしまう。
　それは、甘やかな感触。
　だが、決して満足を許さない、もっともっと大きな波を無意識のうちに期待させてしまう、そんな切ない、小さな頂上なのだ。
　松原の手は、淡々としているようでいて、その先にある物を期待させてしまう動きだ。
『あ、ダメ……　恥ずかしい場所、触られちゃう！』
　かすかな警戒と甘やかで、本能が求めてしまう快楽の期待。
『え？そんなぁ！』
　だが、あとほんの少しで、ビンと強い快感が、と思ったそのホンの数ミリの手前で止まってしった。
『あ、そこ、そんなに濡れて……』
　最後の瞬間、松原の指が、確かにヌルっとしたのを、確かに感じていた。
『すっごく濡れてる。ううん、こんなに濡れたことないかも。私……　どうしよ……』
　治療されているはずなのに、かつてないほど、自分が濡れているのだと知ってしまえば、恥ずかしくて、顔を枕に埋めるしかない。
　しかし、成美の羞恥など無関心であるかのように、松原の声は、あくまでも低く冷静に響いている。
「この間で、麻痺があるといけないので、ここを確かめます。小さなくぼみを探しますけど、もし、痺れたような感覚があったら教えてくださいね」
「は、はい」
　成美の羞恥に一っつも関心なさそうな声。
　しかし、その間も指が太腿を微妙な強さで辿るから、声が出そうなのを何とか我慢しなければならない。
　ただひたすら、快感に耐える。
　成美の頭は、それで精一杯なのだ。
『私、このままだと……』
　指が後数センチ滑って、秘部に触れれば、とんでもないことが起きそうな予感がしている。
『我慢できないかも……』
　もはや、自分が、本格的にイッてしまうのは、確実だった。いや、イカせて欲しいのだと、はっきりと意識している。
　だが、その時声が我慢できるのだろうか？
　大声を上げなら、イッてしまう自分を、どうしたら良いのか、ふと、隣の部屋で待っているはずの、夫の顔が浮かんでしまう。
『でも、声が出ちゃったら、夫に……　あぁ、だけど、どうしたら、我慢が……』
　快楽の声を夫に聞かれてはならないのだ。
　しかし、この快楽を中断することなど、思いも寄らなくなっていた。
　その成美の困惑を見抜いたかのように、松原が声を掛ける。
「えっと、これは、十分注意しながらしますから、ちょっと時間をかけますね。おっと、でも、このままだと、ご主人も心配なさっているはずですよね」
「え、ええ」
　改めて夫のことを言われると、すっごく申し訳ない気分になってしまう。
『あぁ、あなた、ごめんなさい』
　夫のことを浮かべさせられれば、心の中で謝る成美だ。
　しかし、しかないのと自分に言い聞かせながら、こんなところを夫に見られてはならないとも思う。
　その葛藤を正確に見抜いているかのように松原が優しく語ってくる。
「そうだ。ご主人には、ちょっとお使いに行っていただきますよ、その方が、安心して施術を受けられますよね？」
「え？」
「だって、ご主人がいつ、我慢できなくなって、覗かれるかも知れないじゃないですか？奥様は、やっぱり恥ずかしいですよね？こんな格好を、いくら旦那さんでも見られたら」
　この姿を見られたら……
　もはや目の前にあるオーガズムを我慢できなくなっているのを、成美は自覚せざるをえない。
　いや、心の中で言葉にはしていなくても、もはや、はっきりと、目覚めてしまった女体は、オーガズムの光を求めていたのだ。
「じゃ、ちょっと、ダンナ様には、今の時点の診断を説明して、引き続きお調べするところだ、ってお話ししますね。いいですよね？」
「え、ええ」
　イキたい。けれども、イクとろこを夫に知られたくない。
　だから、夫がここにいなければ、そんなことしか考えられなくなってた。
「……しゅ人！　ご主人！　どちらですか？」
「あ、は、はい。はい、ただいま！」
　その時、フワッと白衣が背中に掛けられた。
　大きな白衣は、すらりと伸びた脚の方まで覆っている。
　心から先生に感謝した。
　こんな姿を、絶対、夫に見せられないから。
　だが、夫がいなくなれば、身体が弾けるようなオーガズムが味わってしまうことになるのを、はっきりと意識してる成美。
　夫以外の男の手で。
　背徳感はないわけではない。だが、痺れるような、あの恍惚の快感ばかりが成美の頭を占領していた。
　早く、思いっきりイカせて欲しかった
「は〜い。終わりました〜？　あ、あぁ、ありがとうございましたぁ。いかがでしたか？」
　どこか、間の抜けた声を上げながら顔を出した夫を、成美は、見ることができなかった。