その２１　彼去りし後

　玄関の鍵を閉めた音の後に、軽い金属音。
『チェーン、掛けてるんだ』
　夫がいくらカギを持ってても、チェーンを外さないと入れない。
　もう、これから何があっても、夫は入ってこられない。
『あん、だめぇ』
　夫が入ってこられないと思ってしまったら、なぜか、ズンと、甘い何かが上ってきてしまう気配。
　あわてて奥歯を噛みしめて、甘い呻きを、かろうじてこらえる成美だ。
　す、す、す、足音にもならない先生の気配が近づいてくる。
　部屋のすぐ外の気配が、じっとこっちを見ているのが、なぜかわかる。一糸まとわぬ身体に、フワリと白衣を掛けただけの無防備な姿を。
　裸同然の姿を見つめられる羞恥は、さっきまで、もっと恥ずかしいコトをされていたのとは、関係ない。
　強烈な羞恥。　
『どうしよ。私ったら……』
　先生の視線を感じた瞬間から、夫が外に行ってしまったと……　そう、この家に「男」と二人きりになってしまったのだと、あらためて強く意識してしまうのだ。
　ゾクゾクとしたモノが背中を上っている。どこか、寒気にも似た甘いムズムズ。
　そのムズムズは、油断すれば子宮に忍び込んでくる。そう思わせる、不思議な感覚。
『ふたりっきりになっちゃった。私、いったい、なんで……』
　いつの間にかそうなってしまった。ついさっき会ったばかりの「先生」と二人っきり。それも、ただの二人きりではない。
　フワリと掛けられた白衣の下は、一糸まとわぬヌード。
　その、無防備すぎる姿の白い裸身を、布団の上に横たえている。
　貞淑なはずの成美ではあっても、夫にセックスを開発された人妻の身体には、強烈すぎるほど、オーガズムへの欲望が目覚めさせられてしまっている。
『こばめない……』
　なにを拒めないのか、その単語を浮かべることすらできない成美。
　だが、言葉にしなくても、思うように満たされない身体全体が、「何」を求めているのか、知っていた。
　緊張しなくてはいけないはずなのに、いや、男の目の前で裸になっているのだ、貞操の危機を感じなくてはならいはずなのに……
『私、とんでないことを……』
　しようとしているのかもしれない。
　その時、気配が廊下から、ふわりとそばに来た。
『ゴクリ』
　カラカラに乾いたはずの喉で、何かを飲み下した成美は、緊張に身をすくめたまま、かすかにミシ、ミシッと畳を踏む音が近づく。
　気配が、１センチ近づくごとに、成美の羞恥は急上昇だ。
『あぁ、だめ、やっぱり、恥ずかしい。ううん、だけど、これって、治療だし……』
　だが、成美の｢女」が、逃げ出すことを許さない。
　中途半端なモヤモヤが、成美の子宮で熱を生み、身体全体に力が入らなくなっている。
『違うの。これ、エッチなコトするじゃないんだもの』
　卵形の顔を、枕にすっぽりと埋め込みながら、ことさらに、じぶんにいいきかせるしかない。
「さてと、奥さん。治療を再開しますよ」
「は、はっ、はい」
　成美の羞恥を見透かしたような落ち着いた声。落ち着く低音は、逆に、成美の淫らさを見抜かれているような気がした。
「ここからは安心して治療を受けてくださいね」
「あ、は、はい」
　そう、治療なのだ。
　これからするのは、腰の治療。だから、ちっともおかしなことではないのだ。
自分に言い聞かせている。そのくせ、白衣の下の裸身が、いつの間にか熱くなっているのを、どこか、他人事のように意識してしまう。
　よこしまな気持ちを振り払うように、少しだけ顔を上げて先生の方に顔を向ける。
『あ、近い』
　もちろん、先生の顔なんて見られないから、足先だけ。
『こっち、向いている……』
　すぐ目の前で見下ろされている。
　白衣の下の裸身を直接見られているような、そんな羞恥が、ツンと背中を駆け抜けていた。
　身体の奥に、うずうずと巻き起こる甘い予感を打ち払うように、成美は、努めてきちんと喋ろうとしている。
　しかし、意識すればするほど、甘やかななにかが、いつしか、成美のそこを、またもや濡らしてしまうのを、成美はどこか、遠い感触で、知っていたのかもしれない。
「あの、すっごく安心してます。だって、あっという間に痛みが」
「ははは。それは当然ですよ、治療に来てるんですから」
　低音の先生の声が、気さくさを表に出しながら響いている。
　誠実そのものの声。
「だって、先生の手ったら魔法みたいですから」
　まるで、少女のように甘えた口調になってしまう。
『だって本当だもの。治療、とっても、効き目あるんだからぁ』
　ことさらに、先生を信用したい成美は、無意識のうちに、むしろ少女になることで、自分の淫らさをごまかしていたのかもしれない。
「痛みも取れるけど、結構、感じるでしょ？」
　いきなりの核心だった。
　一瞬、言葉の意味を受け止めるまでに時間がかかる。
「いやっ！おっしゃらないで」
　顔を枕にギュッと埋めてしまった。
恥ずかし過ぎる。
　やっぱりバレてたのだ。
「恥ずかしがらないで。感じてくれた方が、治療は上手くいくんですから」
　低い声が誠実そのものに響いてくる。
『え？どういうこと？』
　だが、さすがに聞き返せなかった。
　それではまるで、感じたのを認めてしまうことになってしまうからだ。
「気の流れというのがありましてね。あ、説明の都合上、ちょっと仰向けになってくださあいね、ほら白衣を掛けますから」
『あ〜ん、白衣を掛けておいてくれるなら、わざわざ、一度とらなくても良いのにぃ』
　一瞬、アヒル口になった成美は、恨みがましい目で、先生を見上げる。
　だが、成美の白い背中から剥がした白衣を、いかにも「サッと掛けるよ」と待ち構えていては、素直に従うしかなかった。
「はいっ」
　小さく答えて、片手で胸を押さえながら仰向けになる。
　そのくせ、下の茂みは隠せない。
『だって、何か「今さら」って感じよね。隠したら、かえって、ヘンよ』
　第一、胸と底を同時に隠しながらでは、どうしても動きが不自然になる。そんな不自由な姿で仰向くは、恥ずかしい気がしたのだ。
　成美の背中が布団に着くと同時に、フワッとかかる白衣。
　なんか、コロンとも違う、アジアンチックな「香」の匂いがした。
「あのですね。気の流れが滞ってまして。腰の方はその流れがこのあたりに」
『え？』
　先生の手がお腹の上にあてられて、すっすっすっって撫でてきたのだ。
『あ、手が温かい』
　ちっともいやらしい感じがしなかったのは不思議なんだけど、その手はちょうどおへその下の方。
　温かかった。
　そのくせ、サラサラと、白衣越しなのに温かさが伝わってくる。
『あ、この感触、ん、な、なんか、微妙』
　快感だと思いたくないほどの、微妙な快感。
　成美は、自分が意識しないうちに、わずかに脚をこすり合わせているのを知るよしもない。
　温かいと言うよりも熱いと言えるような、手が、ヘアのギリギリくらいまでを円を描くように撫でている。
　感じるっていうより、なんか、心地よい温かさが染みこんで来るみたいな、初めての感触。
「ここが子宮。で、この裏側が腰ですよね」
「あ！確かに、そうですよね！」
　そうだ。
　確かにその通り。
「東洋医学では、気の流れを見ます。奥さんの身体でエネルギーが……　ちょっと失礼」
　パッと白衣をどけられちゃう。
　あっ、っと一瞬声を上げかけた成美は、いかにも真面目な顔で、淡々とした仕草に、ついつい、とっさに動けなかったのだ。
「治療」を恥ずかしがる方が、おかしいではないか。
　そんな思いが、成美の動きを縛ったのかもしれない。
『だって、エッチな目で見てるって思ってるワケじゃないもの、先生に失礼かなって思ったら隠すわけにもいかないじゃない』
　自分に言い訳するしかない。
　その間も、全てをさらけ出した成美の裸身は、夫でもない男の目に、容赦なくさらされているのだ。
　チラリと見えた自分の乳首がツンと立っているのが恥ずかしかった。なぜか、今さらのように、薄いピンク色をしてるのだと、考えてしまったのは不思議だった。
　おもむろに、先生の手が伸びてくる。
「んっ」
　思わず、目を閉じてしまった成美は、次の瞬間、のけ反ることになる。
「本来なら、女性のエネルギーは、特に、ご結婚されている方は、ここから」
「あん」
　いきなりピンと立ってる乳首に掌を当てられたのだ。
　甘い声が出てしまっていた。
　淡々とした動きなのに、その一撃は、不意を突かれたと言っていい。
　いや、目を閉じて委ねた瞬間から、ひょっとすると待っていたのかもしれない。
　ともかく、思わず、甘い、声を出してしまったのだ。
　しかし先生は、いっこうに気にしない顔で、淡々と、成美のしなやかなお腹を滑り降りてくる。
「ここに流れてきて」
「はうっ」
　口を押さえたけど、今度も間に合わなかった。
　隠しようも、ごまかしようもないエッチな声。
　先生の手が、乳首から、そのままスッと、子宮の上あたりまで微妙な振動をつけて動いたのだ。
　我慢なんて、できない電流が、そこから生まれていた。
「いいですよ、感じるのは治療でもありますから。自然を妨げてはいけません」
「だって、あぁあ、あん、あ、あのぉ」
　手が微妙に動き出す。
　甘やか予感。　
　だが、先生の手を押さえられない。
　これは治療なのだ。
「はい、ここで、抜けます」
「あん！」
　抑えてたはずの口から、止めてる間もない声が出てしまった。
『だっていきなり、大事なところの中心に、触れて……』
　脚が広がっていた。
　温かい手が、秘部を覆う。
「あん！」
　甘い声で啼く成美が、のけぞってしまう。
『あ、あ、ゆ、指が！』
　成美の秘部に、いきなり指が、ヌルリと入れられたのだ。
「ああああ！」
　身体全体で軽くのけ反る、その中心を、甘やか電流が駆け抜ける。
　思いも掛けないオーガズムが、成美の背中をのけ反らせていた。
『ああ、恥ずかしい』
　いきなりの衝撃に、軽く逝ってしまった。
　だが、少しも快感の高さは、落ちたりしない。むしろ、どんどん高まる気配に、成美の脚がヒクヒクと震える。
『もう、とっくにヌルヌルになって他のは自分でも知ってたけど、こんなに欲しくなってたなんて』
　身体がこわばって、ピンク色の電流が身体の中をかけぬけていく。
「っく……」
　知らないうちにヒクンと白い尻を動いてしまう。
「あああっ、あう、あっ」
　小さなうめきが漏れる。
　抑えきれない声。
『はしたないけど、ツンって、鋭いトゲみたいなオーガズムが頭の後ろに抜けてっちゃったんだもの。ガマン、できないぃ』
　ヒクンと白い身体が震える。
　入れられたままの指が、ぴくりとも動かないのに、勝手に熱を放っていた。
「あぁ……」
「イッちゃったみたいだね」
「あぁ、そんなことぉ」
　ズバリと言われれば、それを認められるわけがない。
　夫と愛を育てる我が家の、その部屋で、成美は、今日始めてあったばかりのお琴の指で、オーガズムを、それも、経験したことのないタイプの快楽を味わっているのだ。
　認めるわけにはいかない。
『そんなことは……』
　ない、って言おうとした瞬間だった。
「あああん！」
　ほんの少しだけ入った指が、ぬるりとかき回したのだ。
　広げてしまった脚が、さらに広がってしまう。
　頭の後ろ手、ピンク色の光がフラッシュした。
　ひょっとしたら、これもイッたことになるのかもしれない。
　初めての快楽だ。
　はあ、はあ、はあ。
　息が苦しいみたいに、激しく酸素を吸ってしまう。
　成美の、ピンと張りつめた白い太ももがヒクヒクと物欲しげにケイレンしている。
　顔を振り立て、苦悶の表情の成美に、優しい低音が降ってくる。
「いいんですよ。本来、奥さんは、もっともっと旦那さんと愛を深められる。それが、ひいては、気の流れを正しくして、子宝に恵まれることになるのです」
「あ、だ、だめ、あう、あん、だって、私、主人と愛し合って、あああぁ」
　全然しゃべれない。
　ちょっとした振動だけでも、そこから、驚くべき快感が上ってしまうのだ。
　おまけに、既に成美の身体は、その快感を、完全に欲しがってしまっていた。
　油断すると、指をもっと入れてって言ってしまいそうなのだ。
『ううん「もっと」って言っちゃうだけじゃない』
　成美の頭で、言葉にならない言葉が、その後の自分を、リアルに見つめている。
　喉の奥で、絞り出してしまいそうな言葉があった。
『このまま、大きいのを入れて』
　喉の奥に、すべにへばりついていた。
『欲しい』
　成美は、はっきりと意識してしまっていた。
　ここに夫がいたら、きっと、今すぐ、エッチをおねだりしたはずだ。
『だって、こんな切ない気持ち、初めてなんだもの』
　だが、夫はいない。
　身体に埋め込まれている、夫以外の指。
　熱かった。
　熱は、快感をもたらしている。
　アソコをかき回されて、ジンジン快感が上ってくるのに、もっともっと、っと身体が勝手に暴走してる、不思議な感覚だった。
『あ、ダメ、私の身体！脚を閉じなきゃ。閉じるのよ！』
　だが、指をゆるゆると動かされる度に、逆に、足は広がってしまう。やや膝を曲げて、広がりきっていた。
　もっと欲しいと言いたげな動き。
　男を迎え入れる姿そのものだろう。
「奥さんは、本来、もっともっと、女性としての悦びが得られるはずなんです」
「あぁう、私、だって」
　そんなことを言われても、と成美は思う。
『主人とのエッチは満足してるって思ってるのに』
　自分がウソを言っているのを、成美は意識してしまう。だが、満足してるのは本当なのだ。
　江川の時のような快感はなくても、夫に、満足してる。
そう、満足してるはずなのだ。
　ゆっくりと、成美の白い顔が、イヤイヤと動いていた。
　だが、それは、自らに埋め込まれた指を拒否してるのではなかった。
　ひょっとしたら、もっと、と求めてしまおうとする自分の快楽を拒否しようとしている、成美の貞淑な何かだったのかもしれない。
「あああぁ」
　小さくうめきが漏れていた。
「いいですか。気の流れが滞っているのは、奥さんのオンナとしての可能性が発揮されていないせいなのです」
「そ、それって……」
「現に、今、味わっているこの快感。ご主人に教えてもらったことはありますか？」
　ヒクンと反応してしまう成美。
　聞いて欲しくない、その質問。
「ある」と言いたかった。
　だが、成美の心は、そう言わせてくれない。
　身体が、嘘をつかせてくれないのだ。
『だって、とってもジンジン痺れてるのに、もっともっとって、うずくんだもの』
　こんな不思議な快感は、味わったことがなかった。それどころか、こんなのがあるなんて考えたこともなかった。
　夫の笑顔が浮かんでいる。
『ごめんなさい……』
　初めてと言うのは、夫に申し訳ない。だが、ウソもつけない成美になっていた。
　答えなどいらなかったのかもしれない。
　初めから、男は知っていたのだ。
「あああぁ」
　指がわずかに抜かれる。
　成美のしなやかな腰が、追うように、わずかに持ち上げられてしまう。
「奥さんは真面目だし、ご主人を愛してらっしゃる」
「ああっ」
　わずかに指が入ってきた。
　成美の腰がヒクリと震え、つっと、透明な液体が、尻の方にまでこぼれてしまった。

『ダメ、また、身体が勝手に気持ちよくなろうとしちゃってる』
　急速に、またピンク色の電流が、背中を駆け上ってくる。
「もし私の治療を受け入れれば、腰だけじゃない。ご夫婦仲も、もっともっと良くなるし、何よりも、奥さんの可能性を全部開発して上げられる」
「あ、う、か、可能性？」
「そうです。奥さんはもっともっと、ご主人を喜ばせられる。そんな風な身体になれば、もちろん気の流れは正しくなって、子宝を授かるのは当然です」
「赤ちゃんを？」
　え？え？え？
　その言葉は、一瞬快楽の流れを押しとどめ、成美は、全身で、先生の言葉に反応してしまう。
『赤ちゃん？これで、赤ちゃんを授かるようになるというの？』
「そうです。奥さんが考えたことのない世界がこの世にはある。ご夫婦で、それを受け入れるだけで、気の流れは正しいものとなっていくのです」
「だけど……　あ、あ、あ」
　ヒクン。
　また、短く鋭い電流に、身体が仰け反ってしまう。
　指が入ったままなのに、敏感なボタンが、親指で優しくクリクリされていた。
『ああ、もう、逝っちゃいそう』
　とっくに、何度も、弾けてしまったはずなのに、もうすぐそこに来ているのは、今までとは違う、オーガズムの大波の予感。
『もうすぐ。あ、そ、そこに、来てるぅ』
　先生の言葉が耳に入らなくなってきた。
　遠くで響く低音が、何となく聞こえている。
　成美の全ての神経が、クリとナカに集中していた。
「あ、あ、い、い」
　ヒクンと鋭い快感。
　クリがくるりと撫で回された。
『ああ、イッちゃう、イクぅ』
　成美の身体がこわばって、絶頂の泡がパチンと弾けそうになった、その時だった。
「え？あ、そ、そんなぁ！」
　先生が指をスッと抜かれてしまったのだ。
　甘〜い、気持ちよさのに満たされるはずなのに、急に、身体の中が、切なさの塊に乗っ取られてしまう。
　身体の中に、どうしようもない苦痛。
　何が何だか分からなくても、全身が溶けるような快楽から、不快を溶かし込んだ液体に、いきなり投げ込まれたような、苦痛。
　苦しかった。
　成美は、だだっ子のように顔を激しく振る。
「あ、どうして、あぁ、いやあ」
　もう、はしたないって思う余裕もなかった、
　とにかく、イカせて欲しいってことしか考えられなかった。
　でも、先生の真面目な声が、何かを囁いてきたのだ。
「……せになって」
「え？」
「うつぶせになってください。まだ、これからですからね」
　もう、先生に逆らうことなど思いもよらないことだった。
　イカせて欲しいってことしか考えられない。
『ひょっとして、このまま後ろからされちゃうのかも』
　だが、そんなのダメって思う、貞淑な成美は、そこにはいなかったのだ。
　快感が欲しいのではない。
　全身を包み、身体の底からわき上がる不快な感覚を何とかしたい。
　それだけだった。
　もはや、慎みも、恥ずかしさも、貞淑も、どこかに吹っ飛んでしまった。
　先生の言うことを聞くしかないのだ。
　一気に、うつぶせになろうとした。
　だが、ゆったりとしか身体が動かない。
『あ〜ん、なんでぇ』
　身体が重かった。
　自分の身体を、壁越しに操っているようなもどかしさ。
　だが、ゆっくりとうつぶせになる時、成美の目は先生を意識してしまう。
『脱いでる』
　ゆっくりとうつぶせになる成美を見つめたまま、白衣の下に着ていたシャツも、ズボンも脱ぎ始めている。
『このまま、されちゃうんだ……　あぁ、だけど、今、ダメって言えない……』
　うつぶせの裸身を晒したまま、目を閉じて、待つしかない成美。
　もはや先生を見るのが怖くなっていた。
　見なくても分かる。ブリーフを下ろす気配。
　気が付いているのに、気がつかないフリしてる。
　成美は、自分が、すっごく、淫らなのかと思ってしまう。
『ううん。絶対、淫らよ。私』
　うつぶせになったまま、先生が、ぜーんぶ脱いでしまう気配を知りながら、成美は、黙っていたのだ。
　意識から追い出した、そのどこかで、太い物が、自分の中に押し入ってくる快感を思ってしまう。
『ああ、もし、今、あの低音で命令されたら、きっと、自分から……』
　江川を受け入れた時をはっきりと意識していた。
『また、このまま先生のモノをいれてもらうポーズを……』
　後ろから男が入るのを待っている、あの淫靡な姿を取ってしまうのだ。
　もう止められなかった。
　いや、止めるどころではない。
　子宮が、疼いていた。
　切なさが背中を伝って、沸々と頭の中が沸き立っている。
　体中が、大きなモノを欲しがっていた。
『あぁ、満たして。アレで、私を満たして』
　男が欲しいということしか浮かばない。
　貞淑ではあっても、成美は成熟したオンナなのだ。
　ヒクリと、丸い尻が震えた。　
「あああぁ」
　呻いてしまう。
　柔らかな仕草で尻が優しく撫でられていた。
『ほしい』
　決して言ってはいけない言葉なのだ。
　夫がいる身なのだから。
『でも、彼、今でかけてて』
　二人っきりだった。
　はっきりと、それを意識してしまうと、次の瞬間、貫かれている姿が自然に浮かんでしまう成美。
　伏せたままの顔をゆっくりと振って、打ち消そうとしても消えない。
　そんな成美の尻は、ゆっくりと撫でられている。
「さて、じっくりと気の流れを理解してもらいますからね」
「はい」　
　もう、なにをいわれても、きっと「はい」しか言えないと思った。
　背骨にそって、しなやかな背中が震え始めていた。
　いつの間にか、太ももが、大きく広がっているのを、頭のどこかで知っていたのかもしれない。