その２２　陰と陽


　何をするのだろうか？
　分かるわけがない。
　だが、成美には分かっていることがある。
『何をされても、きっと私、もっと感じちゃう』
　戦慄に身体が震える。
　今ですら、最後のセリフをかろうじてガマンしているのだ。
　そう、人妻が、他の男に決して言ってはいけない言葉。男をねだる、あのセリフだ。
『だけど……』
　苦しかった。
　男のモノで満たされたいという、オンナの本能は、貞淑な人妻を狂わせる一歩手前だったのだ。
『ああ、入れてって、言っちゃう、あぁ、お願い、イカせて、もう、お願いよぉ』
　だが、成美の心がイカせてと叫んだ、その瞬間だった。
「あああ！あう！」
　突き抜ける淫声を甲高く発してしまった。
　ホンの少しだけ、かき回す動き。
　たったそれだけで、モヤモヤってした身体の中を、一本の光がキュンと突き抜けていったのだ。
『イッちゃったんだ、私』
　ただ、普通のイキ方ではない。
　突き抜けた快感がパチンと脳の中で弾けたくせに、弾けた後は、もっとモヤモヤしたモノに包まれている。
　指があっという間に引っこ抜かれて、その両手は、成美の脚も、身体もスルスルとなでつけてくる。
　微妙に触れる掌から、快楽の電流が送り込まれているみたいだ。
　掌の動きに合わせるように、全身が震えてしまう。
『なんなのこれ？』
　突き抜けた快感に声が我慢でできなかった。
　確かにアレはオーガズムだった。　
　だけれど、弾けたはずの快感の泡は、掌からの電流で、もっともっと膨らんで、子宮から頭に届いてしまう。
「ああぁ、あ、あああ、あうぅ」
　夫とのベッドの中でしか、出してはいけない声が、止められなくなっている。　
『ダメ、そんな声を出しちゃ』
　心のどこかで、どうせ夫は聞いてないのだから、と囁く悪魔がいる。
　だが、貞淑な人妻が、夫以外の男に、決して聞かせてはいけない声なのだ。
『どうせ、もう、なんども聞いちゃってるよ？我慢できないんでしょ？』
　先生の低音は、心の中で、そう囁いてくる気がする。
『ううん、ダメ、そんなの。漏れちゃったのはダメなの。だから、もう、これ以上は……』
　だが、果たしてこれ以上続けられてもガマンができるのかは分からない。
『ガマンするの。ダメなんだからあ！ああん、で、でもぉ』
　自分を叱りつけるはずなのに、これ以上は、我慢ができないことを、知っているのも自分なのだ。
「あああぁ、あう、あ、も、もう、あ、あううぁうあ」
　びりびりと全身を突き抜ける快感。そのくせ、トドメには、絶対に届かない。
　快感は、もどかしさから、苦しさへと変化していく。
　そのくせ、快感の小さな泡は絶えず弾け続けては、ピンク色の快感を生み、一つ弾ける度に、新たな小さな泡が、子宮の奥からわき上がって、身体を疼かせてしまうのだ。
『ああん、なんなのこれぇ。なんとかしてぇ』
　快感を通り越した苦しいほどの切なさは、もはや、苦悶の世界に近い。
『ああ、お尻、動いちゃうぅ」
　尻がヒクンヒクンはしたない動きをしている。
　恥ずかしい。
　だが止められない。
「あん、あ、あ、あ、ああ、そ、そんな、あう」
　熱を感じさせる手が、サワサワサと、太ももをたどってくると、無意識のうちに、快感の場所にたどり着くことを思ってしまう。
『ああ、もっと……　奥に……　だ、ダメ、そんなこと、考えちゃ、だめぇ！』
　葛藤する心よりも、オンナの体は正直なのかもしれない。
　夫がいつも褒めてくれる、すらりと長い脚は、ごく自然な動きで広がり続けて、ビショビショの秘部をさらけ出している。
　頭のどこかで自分の羞恥の姿をわかっているのに、身体が言うことを聞かない。
『どうしよ、広がってる、見えちゃうのに。止められないなんてぇ、あ、だめ……』
　熱い手が太ももを、スルスルと奥へと撫で上げると、体中がわかない手、さらに脚を広げてしまうのだ。
「は、あう、あ、あ、あの、あぅ、う、うぅ」
　だが、ギリギリのところで、熱い手はサッと、また戻ってしまうのだ。
　切なくて、苦しくて、意志とは関係なく、成美のクリンとした尻が、少しだけ持ち上がっている。
　まるで男が入るのを誘うような、動きだ。
　ギリギリのところでまたもや、熱い手は、膝まで戻ってしまう。
　そして、また、ギリギリの所まで撫で上げてくる。
「あああぁ、あ、あう」
　声を抑えているはずだが、と息のような呼吸は、甘い淫声にも聞こえている。
「んっ」
　声にならない悲鳴を上げたのは、またもや手が戻ってしまったから。
　そして、じっくりとまた太ももを上がってくる。
　いつの間にか、成美は、押しとどめようとする心が吹き飛んでいる。
『お願い、触って、そこを、ああ、後、ほんのちょっと、あ、もうちょっと奥へ……』
　恥ずかしい。
　だが、恥ずかしいその場所を、グニュリとまさぐられることしか考えられなくなっている成美だ。
『指、欲しい。そのまま、奥にぃ』
　もう、それしか考えられなかった。
　アソコは、自分で考えるのも恥ずかしいくらい濡れてる。
　トロリとこぼれている感覚があった。
　それも信じられないほど。
　ついさっき、指を入れられたあの感触だけが、今の成美の心を占領しているのだ。
　さっき、指を入れられた、あの瞬間を、もう一度身体が欲しているのだ。
「ああ、あう、あ、あ、あ、あぁ……」
　もうダメだ。
　エッチな声は、これ以上、我慢できない。
　自分が抑えられなくて、両手で口を塞いでた。
　不思議と「やめて」と言えない成美なのだ。
　ただひたすら、声を我慢するしかない。
　もう何も考えられない。
「んぐ、ぐっ、ふぐっ」
　口に当てた掌に、目一杯かじりつくようにして、かろうじて、恥ずかしい淫声をこらえたのは、熱い手が、今度は元に戻らなかったから。　
『え？広げてる？』
　片手が、グッとアソコを外側から引っ張っている。
『いやああ、なに、それぇ』
　後ろから伸びた手が、自分の秘部を遠慮無しに広げている。
　じっと顔を近づけて、のぞき込んでいるのに、だ。
　羞恥と屈辱を感じるべきことだった。
　だが、それだけで、もう、成美の子宮が溶けてしまったのだ。
　ずぅーんと爆発したような快感。
「あ、あ、あっ、くっ」
　いつの間にか、しなやかな指に目一杯力を込めて、枕をギュッと握っていた。
「あ、あ、あ、あぁ、あう」
　恥ずかしいが、身体が勝手にトドメを欲しがっていた。
『私、あああ、お尻、突き出しちゃってるぅ』
　まるでおねだりしてるようなものだ。
「あ、あああ、あうぅ」
　もどかしげに、尻を動かしていた。
　もはや、回り中ヌルヌルのそこに指をグッとあててアソコ広げながら、その中は、絶対触ってこないのだ。
　周りをたどるように、指が動いて、脚の付け根をたどる動き。
『もう、ほんのちょっとでイキそうなのにぃ！』
　指に支配されているのかもしれない。
　もうちょっとで見えている頂上。
　だが、成美を支配する指は、決してそれを許してくれない。
『あぁああ、オカシクなるぅう』
　ミラージュ。
　砂漠に浮かぶミラージュ。
　それは蜃気楼。
　渇した旅人の目前に現れて、でも、決してたどり着けない、幸せの泉。
　見えているのにたどり着けない苦しさ。
　かといって、それをあきらめて、目をつぶることもできない切実なもの。　
　戻ることも、進むことも許さない、成美を支配する指。
　切なさで、子宮が熱くなってい。
　初めてのカンカク。
　イキそうで、イケない。
　頭の中が焼き切れそうな焦燥感など、知らぬ顔で、先生の低音が、落ち着いた響きで成美の背中に降ってくる。
「いいんですよ。ほら、足の付け根、ね、ほら、いたくないでしょ？ここは？ほら？」
「あう、い、たくは、あ、あう、ないけどぉ、あうう、ああ、もうぅ、ああぁ」
恥ずかしい場所の回りに置かれた指は、プニプニとそこを広げては、外側を撫でていく動き。
　頭の中は、快感の霧で、もう、真っ白だ。
　弾けたい。
「あ！だめ、あ！」
「気持ちいいですか？」
「気持ちよくなんて、あぁ、そんな、ああぁ」
　せめてもの抵抗を、あざ笑うように、指が女の奥底を弄ぶ。ゆっくりと広げては、プニプニと指先で撫で回す。
『ああ、ダメ、お願い、感じてるけど、だって恥ずかしくてぇ』
「気持ち良いですか？」
　かぶりを振る成美。
　気持ち良いだなんて言えるはずがない。恥ずかしすぎる。
『だけど、先生、分かってるよ、ね？』
　尻がうねって、トドメを欲しがっている。全身で、感じている姿は、隠せるはずが、ない。
『どうしよ……　このままだと……』
「気持ち良いって、言わないと、ほら、素直に」
「あぁ、だめ言えないぃ」
　懸命に抵抗しながらも、喉の奥には、こみ上げている。
『気持ち良い』
　だが、それを言ってはならないのだ。
　貞淑な人妻が、夫以外の人間に、言ってはならないのだ。
「ダメですよ、素直にならなきゃ、治りが悪い」
　低音で響く声に、優しく叱られる。
『あん、だけど、そんなこと、恥ずかしくって。エッチって思われちゃう。それに、第一、彼以外に、そんなとこ見せたらダメなんだからぁ……　あぁ、だけどぉ、ああぁ』
　懸命に自分を何とかしようとするのだが、もはや身体が、どうしようもなくなっている。
　地響きを立てた快楽の怒濤が、最後の境界線を突破しようとしていた。
『でも、それだけは口にしたら、だってこれ、治療だもの、それは、え、あ、だめぇえ！』
　その瞬間、成美のためらいが吹っ飛んだのは、指が、ほんの少しだけ離されてしまいそうになったから。
「す、すみません」
　頭の中は、イカせてと言う言葉しかなかった。
「ね、痛い時は痛い、気持ちいいところは気持ちいいと、自然な気の流れが大切にしないと治るモノも治らない。任せていただければ、約束通りあっという間に治りますよ」
「はい、あぁああ、あうぅ！」
　返事をしただけのハズなのに、成美の口は勝手に恥ずかしい声を出している。
『ああ、もう、お願い、イカせて、あ、だけど、そんなことを、ホントに言ったら』
　最後のためらいと、もどかしい身体の要求が、成美の思考を奪っている。
「あん、あ、はぅう、だってぇ、はずかしくて、あうう」
「ほら、奥さんの気の流れが、私にも影響してきましたよ」
「あ、あう、え、なに？え？あっ……」
　突然、先生の手が、成美の右手をそっと掴んだ。
『これは、アレを？』
　グッと先生の方に引き寄せられる手。
　成美といえども、セックスを教え込まれた人妻だ。
　その先に、何があるのかくらい、分かってる。
　だが、もはや抵抗する気になんて、なれるわけがない。
『うそ？握りたいの？私？』
　指が触れた瞬間、成美は、自分が「それ」を握りたくなっていたのだと、気付いてしまった。
『あぁあ、熱い、大きい、これ』
　自分を満たす、熱いモノ。
　成美は求めていたのだ。
　成美の身体は、とっくに正直になっている。
　この熱いモノで満たして欲しくてしかたがないのだ。
『あぁ、ダメなのにぃ。これ、だって、欲しくて、ああ、熱い、これ』
　指先が自然に、巻き付いていた。
　当たり前のように、成美のしなやかな指が、しっかりと男を握っている。
　不思議と、夫のことは浮かばなかった。
　江川の、あの硬いモノが浮かんでた。
　いや、今、この瞬間、夫巴川の時とも違うのだと思い知らされてしまう。
　怒張に巻き付いた指からも、包み込んだ掌からも、なぜか、不思議な電流のような快感が流れ込んでくるのだ。
　うっと快楽のうめきを上げるのを、しっかりと見られていた。
「どうですか？　奥さんの気の流れが、ちゃんと、届いているでしょ」
　先生の手は、どけられている。
　成美は、夫以外の硬直した怒張を自分から握っているのだ。
『熱い……　ああ、これ、気持ちいい。何で、これ、握ってるだけで、気持ちよくなっちゃう』
　確かめるように指先を蠢かす。
　男を愛撫する動きそのもの。
『私、これ、欲しい……　これ、アソコに、欲しくなってる……』
　成美は手を離せない。
　いや、自らの意志で、こすりあげ、撫で上げる動きをしていた。
　男を愛撫する。
　自分の意志で、だ。
　信じられなかった。
「どうです？」
「あ、あの、熱くなってて……」
「欲しいでしょう？」
「あぁ、知らないぃ」
　意地悪な言い方だった。あくまでも成美に言わせたいのか。
　だが、手は、正確に成美の気持ちを語ってしまう。
　熱くて硬いものを、ゆっくりと上下に動かしてた。オトコに尽くす動きだ。
　きっとそれが返事になっているはず。
『私、これ、ああ、しちゃう？これを？』
　だが、あくまでも冷静な低音は、成美に、その一言を言わせたいのだろう。
「奥さん、今、中途半端でしょ。逝かせて欲しい？」
「いやあ、お聞きにならないで」
　顔を振りながらも、熱いモノを握る、その手は、ぐ、ぐ、ぐっと物欲しげに上下を早めている。
　扱く度に、手の中の怒張から、快感が流れ込んでいた。
　やめられない。
　握っている手の中の熱さが、直接、子宮に快感を送り込んでくる気がした。
　まるで掌が、そのまま、美肉になってしまったかのようだった。
「否定してない。ってことは、逝かせて欲しいんですよね、ホントは」
「あん、あう！」
　先生の指が、さっきよりも、ホンの少しだけ、内側をたどった。
　ヌルヌル過ぎる動きは、自分の濡れ方を、まるで見せつけるかのようだと成美は、羞恥に包まれる。
『どれだけ私、濡れちゃってるの？』
　だが、羞恥のポーズを取る余裕なんてなかった。
『ああぁ、イキたい……』
　それしかない。
「さ、奥さん、本当のことを言いましょう。自分に素直になることは、気の流れを正しくしますからね」
「気、の、流れ？」
　頭が回らない。
　気の流れなんて、どうでも良い。
　イカせて上げると言って欲しい。それしか成美の頭に浮かばない。
　だが、先生の言葉は、どこかしら成美に、言い訳を教えてくれてる気がした。
『本当のこと？何、言ってしまっていいの？恥ずかしい言葉を？』
「そうです。奥さんが今、離せなくなってる私のチ○ポには、奥さんからの、陰の気が脈々と流れ込んでいます。さ、逝きたいでしょ？それは自然なことです」
「だけど、あ、あうう」
『自然なの？イクのって、自然なの？気の流れがあるから？エッチじゃなくて？』
　そうだ。
　ひょっとしたら、恥ずかしくないのかもしれない。
　イカせてもらっても良いのかもしれないと、成美は思えてくる。
　あまりにも甘美な考えだった。
「さ、言葉にしてごらんなさい。気の流れを正しくするんですよ」
『気の流れを正しく？じゃ、これ治療なの？そうよね？治療なんだもの、そうよ、治療だもん。自然よ。きっと自然なことなのよ……』
　その時、熱を発する手が、いきなり、腹から離れて、クリンと丸い尻を、サササッと円を描くように撫で回してくる。
「うっ、はうっ」
　眉毛の間に縦のしわ。
　苦しさを我慢するかのように、成美の整った顔が歪む。
　もちろん、それは苦しみではない。
　熱を持った何かが、ツンと貫いた。
『ああぁ、これぇ』
　かすかに顔を横に振りながら、だが、成美は何か違うと感じた。
　確かに、気持ちは良いが、求めてるのは、こんなものではない。
　撫で回される尻をヒクリとさせてしまった瞬間、意識から振り払おうとしたはずの言葉が浮かんでいた。
『ああ、アソコを、なんとかしてぇ』
　それを正確に読み取った、低い声。
「さ、言ってごらん」
　グッと、何かが胎内に突き刺さる。
　掌の熱。
　響く低音。
　成美の子宮が、共鳴してしまった。
　キューンと、恥ずかしい場所が収縮していた。
「あぁ、あ、あ、そ、それはぁ」
　もうダメだった。
『そうよ、治療していただいているんだもの、自然なんだもの、気の流れが、あ、あ、もうだめ、このままじゃ……』
　気が付いた瞬間には、口が勝手に動いていた。
「あう、い、い、イカせて、ください」
　言葉が終わるか終わらないかの刹那、男の手が軟らかな尻肉をクッと掴んで振動させながら、太い親指が、恥ずかしい場所に届いていた。
「あああ！」
　ヒクンと成美の頭が、のけ反る。
　不意に身体が空中に放り出されたような衝撃。
　いや、身体が浮かび上がった錯覚なのかもしれない。
　つかの間の空白。
　白い電流が、一気に背中を駆け上る。
「あああああ！あうぅうう！」
　突き抜けた快感。
　それこそ求め続けて、ずっと与えられなかった、干天の慈雨。
　ひび割れた身体にしみこんでくる甘露。
　いや、成美の身体すべてが、パチンとはじけ飛んだのかもしれない。
　しなやかな身体が、信じられぬほどのけ反る。
　一瞬の静寂。
　息すらもできない成美の子宮では、白い波濤が砕け続けている。
「は〜　ハッ、ハッ、ハッ」
　ようやく息を吐き出した後は、酸素を求めて激しい呼吸をするのがやっと。
　余分な肉が一ミリもついていないクセに、張りつめた弾力と柔らさを合わせ持った細身は、ガクガクと全身がケイレンしている。
　初めて味わう快楽に、成美の白い身体は満たされていた。