| その２５ 催眠 白く、伸びやかな裸体の端々に、震えが走っていた。 甘やかな震えだ。 『ああぁ、こんなカッコしちゃってるぅ』 夫に見られたら、なんていわれるだろうかと、ふと頭に浮かぶ。 『あっ、だめぇ』 顔を意識したとたんに、ゾクリとした何かが、子宮の奥から生まれそうだった。 『ダメよっ、考えたりしちゃ。あの人を思っちゃったら…… だめよ、そんなの』 あわてて夫のことを考えるのをやめねばならなかった。 強烈な背徳感と羞恥に理性を吹き飛ばされそうだった。 だが、理性を取り戻そうとすればするほど、甘美な何かが子宮を熱くしてしまう。 『あ〜ん、なんでぇ、ダメなのにぃ、身体の奥が、何だか、熱くなっちゃう』 強烈な光に照らされているかのように、湧き上がる甘美な何かをはっきりと意識しているのだが、なぜ、そうなるのかが分からない。 『ダメよ、ヘンなこと考えちゃ。そうよ、これ、ヘンなことするんじゃなくて、治療なんだからぁ。治療よ、治療。成美、しっかりしなくちゃ！あぁ、でも、見られて……』 きらめくようなオーガズムの予感が点滅していた。 『ダメ、思い出したら……』 こみ上げてきた記憶を、慌ててかき消そうとしたが、遅い。 あの、クリニックでの淫らな診察。 江川に教え込まれた、夫以外との初めてのセックス。 フラッシュバックする記憶は白い衝撃波となって、あっという間に子宮にズーンと響いてきた。 あの診察台の上でこみ上げてきた異様な快感も、江川が教え込んだ、あの快感も、思い出しては行けないと思えば思うほど、子宮が勝手に呼び覚ましてしまうのだ。 身を任せてしまいたくなる官能の誘惑は、すぐそばに迫っていた。 『だめ、そんなの。愛してるんだから。愛する人以外になんて…… もう、絶対にダメなんだからぁ』 甘い誘惑に乗ってはいけない。人妻なのだ。 『あなた以外の人になんて…… ダメなのぉ』 愛する人以外に感じてはならない。 身体の芯の方から湧き上がる官能を、懸命にかき消そうとする成美だ。 だが自分に言い聞かせようとする理性は、騒音のレベルにもなりそうな強烈なヘビーメタルが邪魔してくる。 それだけではない。 理性が我が身を抑えようとすればするほど、その先には、恥ずかし過ぎる羞恥心がかき立てられてしまうことに、愕然としてしまうことになる。 視覚を奪われた以上、残された皮膚感覚が研ぎ澄まされてしまっていた。 真面目で貞淑な成美も、性の味を知ってしまった一人の女だ。いや、人並み以上の豊かな性感に恵まれているのを江川に教え込まれてしまった身体なのだ。 その身に一糸まとわぬ姿のまま、我が家の布団の上で、夫でも、恋人でも、愛する人でもない男の目にさらされている。 『私、もう濡れちゃってる、きっと』 濡れているどころか、尻の方にまでしたたっている気がしている。 恥ずかしいところまで、全部見られているのだ。そんなことは、恥ずかしくて嫌なはずなのに、なぜか、強烈な痺れに似た感覚が成美の身体を縛り付けているのだ。 『なんてトコを見られてるの、こんなトコを』 考えれば、考えるほど、今の自分の姿が、どれだけ恥ずかしいものなのか。 『ぜんぶ、見られてるのに…… だけど、私、オカシクなっちゃってる』 自分でも信じられない、想像すらしたことのない非現実的なコト。 現実とは思えない現実だが、男の視線が突き刺さって、成美の皮膚感覚はチリチリと小さく爆ぜるような感覚を覚えている。 視覚を奪われてはいても、いや、視覚が奪われているからこそ、自分に絡みつく、ねっとりとした視線に敏感になってしまう。 「あんっ」 胸元に、わずかな風を感じた気がした。 『あっ、胸が……』 なぜかツンと乳首が尖ってしまっている。 ひどく恥ずかしいのだが、もはやどうなるものでもなかった。 ヘビーメタルの轟音の中で、成美の頭の後ろ側には、白い光と、ピンク色のモヤが交錯している。 『あぁ、なんなのこれぇ』 羞恥を感じるのは仕方ないのかもしれない。だが、その羞恥が、身体の奥で途方もないモヤモヤに変わってしまうのだ。 『ヘンになるぅ、どうしてぇ、ダメなのにぃ』 感じてはならない快感。 『恥ずかしいのに…… 感じてる、わたし……』 目隠しをしたままの無防備な全裸を、夫でも、恋人でもない男の目に、一方的に晒している羞恥が、ゾクゾクした被虐の快感に変わってしまっている。 否定したくても、できなかった。 それどころか、わき上がってくる甘美ななにものかは、次第にそれが強くなっていく確信さえあったのだ。 『何で、私、こんな風に、なっちゃうのぉ』 白い太ももがピッチリと重なっていた。 トロリとこぼしてしまった自覚が、脚をピタリとくっつけさせているのだ。 『ダメぇ。こんな所を見られちゃったら』 頭の中が真っ白になりそうな羞恥と緊張で、後のことなど考えられない。 今は、ともかく決して脚を広げまいと力を入れているしかない成美だが、懸命に閉ざそうとする、すらりとした脚は、なぜか、もじもじと小刻みに動いてしまう。 本人の思いとは裏腹に、それは、まるで愛撫の快楽に耐えているとしか思えない、微妙で、淫靡な香りをさせる動きだった。 「さて、奥さん、施術に入りますからね」 一瞬、ずらされたヘッドフォン。 騒音とも思えるヴォリュームが取り払われたその瞬間は、まるで、湖に立ちこめた霧が一陣の風で晴れ渡ったかのように感じる。 その声に、こくりと頷くしかないではないか。 「さてと、まず、うつぶせになってもらいますよ」 ピタリと再び覆うヘッドフォン。 ヘビーメタルの轟音に包まれながら、肩と腰に差し入れられた温かな手の感覚。 その瞬間、手から電流が流れた気がした。 「あん」 小さな声を漏らしていた。 聴覚も、そして回りを感じ取る聴覚をも奪われている成美自身は気がつかない、そのかすかな声は、まぎれもなく、感じたオンナが放つ声そのものだ。 『なんなの、何で、こんな風に、あん、私、感じやすくなってるぅ』 肩も腰も普段の数十倍も感じやすくなっている。 そこに手を当てられたまま、ヒクンと背中を仰け反らしてしまうのだ。 『あ、こ、これは、治療なんだもの。そう、治療よ。先生の言うことを聞いてるだけだもの。ヘンなこと、してるわけじゃないんだから』 感じてしまう自分を否定したいなら、治療だと思って先生の手に従うしかないのだ。 手に促されるままに、女体は、うつぶせになる。 それは、恋人のさらなる愛撫を待ち望んでいるかのような従順な動きだ。 背中のラインは、無駄な肉一つないすっきりとしたラインを描き、腰のくびれからの急カーブで盛り上がる丸みは、女らしさを強調しすぎるほど。 性の味を知っている人妻の吸い付くような肌が、男の目の前に無防備に晒されているのだ。 これを見たら、誰だって、その秘めやかな女の部分に、猛り狂う部分をぶち込みたくなるだろう。 もちろん、松原の股間からは、天をつく勢いで、一角獣の角のごとき怒張が持ち上がっているのだが、成美は気付くはずもない。 ただ、そこから放たれる強烈なオトコの気は、そうとは知らぬままのメスの子宮を、確実に刺激してくる。 強烈にオスが欲しくなっていた。子宮の声が成美の中で強烈に叫んでいる。 あついしぶきがほしい。 美肉を満たして。 身体をかきまして。 成美の中で、もはやそんな声ばかりが響いているのだ。オトコを迎え入れるべき美肉から、トロトロと、メスの秘液が湧き上がってしまうのも、当然なのかもしれない。 『あ、ダメぇ、広げちゃあ、ダメなのぉ、広げちゃったら……』 ともすれば、脚を広げて、男を迎え入れる姿勢をつくってしまいそうな成美だが、懸命に、その締まった両脚を重ね合わせてこらえてはいる。 だが、閉ざしても閉ざしきれぬ美肉のヒダヒダから、またもやトロリと秘液がこぼれるのを、どうすることもできなかった。 トロリと尻の谷間に沿ってこぼれていく瞬間、わずかな身じろぎをしていた。 「あっ」 引きつるような声が漏れたのは、わずかに開いた内ももの間に、いきなり入れられた手を皮膚が感じたから。 ヒクンと身体がのけ反って、脚を閉じようとした理性と、迎え入れたい本能が、瞬時に戦ってしまう。 だが、理性は、既に蕩けている。 なんと言っても、治療である以上、男の手を拒めないのだと、成美は「知っている」のだから。 動かされる前から、ザワザワザワとした感覚が、一瞬のうちに皮膚を伝って全身に広がる。 『いやあ、何ぃ、これ。こんなことって』 自分の身体がとことん淫らになっていた。 たっぷりと愛撫された後のように、全身が敏感になりすぎているのだ。 『あ、あ、だ、だ、めぇ、に、な、るぅ』 頭の芯に、キーンと金属音がして、真っ白になっている。 できることは、わずかに圧迫してくる手に従って、自ら白磁のような太ももを広げることだけだった。 白い脚が、今や肩幅以上に広がっている。 いつの間にか、枕の端を掴んでいた。 何かに耐えるかのように、ギュッと握ってしまうのだ。 「ぅ、っく」 いきなりの感覚。 いよいよ手が動き始めたのだ。 『あ、あん、あう、こ、これぇ、あ、あぁ、おかしくなっちゃう、だめぇ』 背中を貫く、鋭い電流のような快感。 生み出された快感は、小さな泡となって、シュワシュワと体中で一斉に弾けだしてくる。 下半身を、触れられていた。 それは一転して、まるで獲物を追い詰める蛇のような、しなやか動き。 張り詰めた肌が、わずかな摩擦のままで、なで回されてくる。 『んっ、あぅ、なに、これ、あっ』 唇を噛みしめてかろうじてこらえた声。 いきなり高速で動いた手に生み出される、ザワザワとする快感。 膝の内側から、内ももをさかのぼって、きわどいところをカーブして、尻の丸みを撫でてから背中へ。 手のひら全体に、微妙な振動を加えながら、さっ、さっ、さっと、素早く、何度も何度も繰り返されてくる。 そのたびに、少しずつ大きくなる快感の泡が、プチ、ピチ、プチ、ピチ、ピチ、パチンと弾けていく。 『あ、あん、あん、あ、こ、あ、これぇ、へんに、なっちゃい…… そうな…… ああああ！だめ、それ、それだけは、だめっ！』 突然うろたえたのは、オーガズムの気配が急速に膨らんできたから。 熱い塊が子宮にふくれあがって、今にも破裂してしまう、そんな、甘やかな驚きに、恐れを感じた、ちょうど、その時だった。 突然、轟音が止んだ。 『え？』 耳が麻痺しかかっているところに、急な静寂。 一瞬のうちに、耳が集中してしまう。 『いったい、なんなの？』 成美の戸惑いなどお構いなしに、静かな、風のような笛の音が聞こえてきた。 『オカリナ？』 聞き覚えのあるその音は、オカリナ、それもごくごく小さなものを、山か林の中で吹いているような、自然な広がりを持った音色だった。 轟音に疲労した鼓膜は、一瞬、音を探ってしまうが、一度耳に入ってきてしまうと、そのさわやかな音色に集中してしまう自分がいるのだ。 一瞬、身体に弾けかけた快楽すら忘れた気がした。 『不思議な音色。なんか、さわやかで、身体に染み通ってくるみたいな音。え？』 その時、オカリナの音色の向こう側に、かすかに声が聞こえてきたのだ。 『この低音って、先生の声？』 間違いなく、松原の、低音のよく響く声だった。 かすかに聞こえたその声は、同じ言葉を繰り返している。 「感じて良いんだよ。感じて。自然のままに。流れに任せて。自然の流れは気の流れ。我慢すれば滞る。感じて、感じて、感じて、自然に任せて、感じる、感じる、感じる」 『この声って、先生の声？え、感じていいって、あぁ、これ、分かっちゃってるってコト？あん、恥ずかしいぃ』 治療のはずなのに。 しかも、これは録音された声だ。ということは、こうなる前から、成美が感じてしまうことを予想していたと言うことなのだろうか？ 『ああ、私、こんなに、感じちゃうって、わかってらしたの？』 そんなに淫らに見えたのだろうかと、恥ずかしいと感じずにはいられない。 『でも、感じるのは自然だって…… あん、どうしたら、でも、そんな……』 戸惑いを乗り越えて、我が身を振り返れば、オーガズムへの猛烈な焦燥感をかき立てられて、理性が負けてしまいそうな自分がそこにいるのだ。 『ううん、私、オカシクなっちゃってる、もう、どうしたら、あぁあん』 強烈な身体の欲求は、すでに理性がねじ伏せられたのも同然だった。 強烈なオーガズムを味わいたいと、子宮が叫んでいるのだ。 ダメと思いたい成美だが、繰り返し、繰り返し、低音で松原の声が囁いてくる。 「感じるのは自然なこと。自然に任せて、もっと感じて。オトコから流れる気を、女が受け止め、女から生まれた気をオトコに流して。最高に感じていいんだよ」 甘美な言葉が繰り返されている。 「治したいなら、気の流れ。止めてはいけない。自然に任せる。オトコの気を受け止めて、そのまま感じるのが一番。そのまま感じて、感じて、感じて、感じて」 『自然だって。これ？ 感じるのが？ 感じちゃうのが自然なことなら、わたし……』 「オトコの気を受け止めて。女は快感を受け止めるのが、自然なんだよ、感じて、感じて、感じて」 低く、響く声は、次第に言葉を強めながら「感じる、感じる、感じる」とだけ繰り返されている。 いつの間にか、成美の皮膚を這い回る手の動きは止まっているが、感じる、感じると繰り返す響きが、なぜか子宮に響いている。 次第に、トロリと身体全体が溶けていくような気がしてくるのだ。 『あ〜ん、何ぃ、これ、スゴイ、あ、だめ、あ、え？え？これって……』 視覚も、聴覚も閉ざされた成美だからこそ、快感に乱された脳髄にすら届いた敏感な嗅覚だったのかもしれない。 『え？このニオイ ……これって、男の人のニオイ？』 怒張には独特のニオイがある。 硬く屹立したときは特に、それがはっきりと感じられる。 いくら、経験が少なくても、それは人妻だ。ましてこれだけ発情した状態なら、オスの欲望の匂いには子宮が反応してしまうのだ。 『似てるっ』 それは凜と張り詰めてそそり立つ怒張から出る匂いだった。 夫の匂い。 江川のニオイ。 思わず知らず、硬くそそり立つ怒張が頭に浮かんでいる。 それが夫のモノであるのか、あの江川のモノであるのか、成美自身にも分からない。 だが、頭に浮かんでしまった怒張は、目で見た形ではなく、受け入れた、あの、圧倒的な快楽の記憶として、成美の頭を占領したのだ。 『あぁ、でも、違う』 似ていた。しかし微妙に異なるニオイが、すぐそばにある。 『先生、大きくしてるの？』 そう思った瞬間、ゾクリと、甘やかな電流が子宮を貫いてしまった。 『あんっ、もし…… 入って、きちゃったら……』 拒む、と言う考えが浮かばない自分に愕然とする成美だ。 それどころではない。すぐそばにある、勃起したオトコを受け入れたくて受け入れたくて、仕方がない成美が、そこにいたのだ。 成美の胸の内に起こった感情は、自分でも驚くしかなかった。 『え？うそっ、私ったら、これ、欲しくなってる？』 そばに、逞しいオトコがあるのが、たまらなく嬉しい気持ちになっていた。 そう、オトコのモノが放つ気配を感じたメスは、貞操の危機よりも何よりも「うれしさ」を覚えてしまったのだろう。 それとも、くりかえし「受け入れる」と囁かれた言葉が、成美の心黒くにしみこんで、催眠をもたらしたせいなのか。 いつの間にか、成美は、心も体も、そばにある怒張を受け入れたくてたまらなくなっている。 そんな自分の心があることに驚くのも成美自身だ。 『違うのよ、これ、治療だもの。きっと何か、理由があるのよ。違う。私、他の人のアレをだなんて、そんなことがあるはず……』 だが、オスのニオイを嗅いでしまった成美の身体は、奥から、どんどん蜜を溢れさせている。 何よりも、すぐそばに、勃起したオスがあるのだ。 それは、先生が成美の身体に興奮している、つまりは、成美の身体を求めているのだと、心に浮かんでしまうのは当たり前だった。 『あぁ、でもぉ…… 先生だって、大ききしちゃってる。入れたいって思っていらっしゃる？ ああぁ、違う、違うの、これ、治療…… だけど、先生、大きくしてる…… 治療のはずだった。 『もし、これが治療じゃないなら……』 そんなことがあるはずない。 だが、もしこれが治療でないならば、成美は男の愛撫に身を任せてしまっていることになる。 いや、欲望の眼差しに、身体の奥底まで見られてしまったと言うことだ。 『違う、これ、治療だもん、治療よぉ』 これが治療とはかけ離れたモノだったら、という一抹の不安。だが、ここまで来れば、それだけは認めたくないという心が、成美の心を縛っていた。 『あぁ、だめ、これ、感じちゃう、ううん、違う、感じてないもの。エッチなコトしてるんじゃないもの。でも、感じるのが自然って』 成美は、知らず知らずに、美肉をキュッと引き締めてしまう。 『あぁ、このままじゃ、私、オカシクなっちゃうかも。 ああ、私、イキたくなってるぅ、私ったら…… あぁ、だめなのにぃ』 成美が認めようと認めまいと、布団上のすらりとした人妻の身体には、快感の泡だけが一斉に弾けていた。 もはや成美は自分の「メスの心」に驚く余裕もない。 『んっ、ん、んっ、声だけは、我慢しないと、エッチだって思われちゃう。あぁ、だけど、オカシクなって…… もう、イキたいのに…… ん？あれ、この感触って……』 腰に、温かいモノが触れたのだ。 『こ、これ？まさか？あ、違う…… ひ、膝、ヒザよね そうよ、膝よ。私ったら何を誤解しちゃって』 それが先生の膝なのだと思いあたる直前に、怒張を押し当てられたのかと思った瞬間が確かにあった。 その瞬間、ヒクリと女芯が収縮して、今までよりも濃い、ねっとりとした蜜を、トローリとこぼしていたことに、成美自身は気がつかない。 ただ、くっつけられた膝頭は、男の身体が裸の自分にくっつけられているのだと思わせるには十分な熱を持っている。 おまけに、見えぬままでも、かすかな空気の動き、伝わる熱で、先生がかがみ込んでいるのだと成美は気が付いている。 『あああ、なんなの、これぇ』 身体に満ちてきた快感に、ヒクリ、ヒクリと腰を蠢かしてしまう自分が、どのように相手に見られてしまうのか。 視覚が奪われている分だけ、そこには、被虐の香りのついた快感があるのを感じている成美だ。 何も言われぬままに、尻をわずかに持ち上げてしまっていた。 バックからオトコの怒張を望むメスのポーズだ。 『あん、こんなカッコ、しちゃだめなのにぃ』 後ろから見れば、恥ずかしい場所までも、丸見えのはずだった。だが、尻をもちあげて、ヒクヒクと蠢かしてしまうのは、止められなかった。 『だめえ、こんなふうに、なっちゃうなんて、あ〜ん、とめてぇ、いやぁ』 ウソだった。 イヤだと思ってないって、知っている。 『どうにかしてぇ、あぁ、そんなこと、思っちゃいけないんだけどぉ、あぁ、どうしよっ、苦しいんだもん、このままだと、私……』 こみ上げてくる、甘やかな切なさ。 子宮の奥が、トロトロと煮詰められていくように、快楽が身体の奥に濃くなっている。 一度生まれた快感は、ふくれあがり、オーガズムの弾ける快感まで成美を許してくれはしない。 自分を止めようとしても止められなかった。 『あ〜 このままだと、私、また、どうにかなっちゃうかも……』 かも、と言う言葉を浮かべている成美だが、既に、身体にあふれ出ようとする快感は、どうしようもないほどの圧力で弾けようとしているのを知っていた。 ヒクリと腰を持ち上げてしまう。 ねっとりとした秘液にまみれた美肉は、生き物のようにクチュリとわずかに口を開けるのだ。 秘部が、そんな猥褻な表情をしていることなど気づきもしない。既に両脚を閉じることすら忘れかけているのだ。 成美の快楽は、今にも暴走しようとしていた。 消えかけている理性の炎は、暴風のような快楽の圧力に、今にも消えそうなのだ。 『あぁ、イカせてぇ、だぁ、ダメ、そんなこと、考えちゃ、あぁ、だめぇ、ダメなのにぃ、あぁ、だけど、だけど、ホンのちょっと、１回、１回イケば落ち着くかも……』 成美の唇が開きかけたのは、自分の意志とは無関係だったのかもしれない。 「い……」 イカせて、と唇が開きかけた、まさに、その瞬間、フッと、ヘッドフォンが持ち上げられた。 「え？」 「さあ、本格的にキモチヨクするよ〜 ご主人いないから、安心して。感じたまま、声を出して大丈夫だからね」 一瞬の声。 「え？え？え？」 ヘッドフォンが閉ざされる。 オカリナが響いている。 草原のさわやかな風を連想するオカリナの音。 だが、取り残された成美には、ドロドロに溜まり込んだ快感のマグマが開放されるオーガズムばかりが、予感されていた。 |
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| 2013.2.9掲載 |
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