ふたりのために

その３０　欲しい

　いつの間に、そうなったのだろう。
　リラックス、と言う言葉を連呼する低い声と、いかにも軽いノリの笑顔がミスマッチで、思わず吹き出してしまった頃からかもしれない。
　笑い声の奥に潜むのは、子宮からこぼれてくる、熱い潤みだったのかもしれない。
『あぁ、なに、これ？オカシクなっちゃう』
　腰を中心に、熱を帯びた手が皮膚をかき立てていた。
　尻の膨らみを外側に柔らかに撫でられれば、ゾクゾクとした快感が、秘唇につながり、背中を撫で上げられれば、くすぐったさの一歩向こう側のザワザワした快感が子宮を振るわせるのだ。
「んっ、んっ」
　腰のカーブから脇に撫で上げられると、今度は自然に美肉をギュッと締め付けてしまう。その動きそのものが、どうしようもないほど強い快感を生むのだが、同時に、それは、美肉に何も入れてもらえぬオンナの無念な焦燥感をも、増幅させてしまうのだ。
「あぁ、ああ、あああ」
　つまり、成美は、うつぶせになったまま、ピン、ピン、ピンと火花が弾け続けているくせに、絶対に満たしてもらえぬ快感地獄を味わうことになっていたのだ。
　うつぶせの乳首が、ピーンと硬くなっている。
　時折、キュッと先端がシーツにこすれると、それだけでもたまらぬ快感が背中を突き抜けてしまう。
『ダメよ。先生が見ていらっしゃるのに』
　それに……
　この姿を夫に見られるのだと、常に頭の端に浮かんでしまう。
　そのくせ、身体の奥に、ピン、ピンと弾ける火花に身体が反応してしまう。
　反射的に身体がヒクンと仰け反って、無意識に乳首をこすりつけてしまうその動きも、尻を撫でらて、こらえようもなく呻きを漏らす姿も、夫に全部見られてしまうのだ。
『ダメ、感じたら。あの人が見るんだもの』
　そのくせ、この姿を見て欲しいという思いが、なぜかふつふつと沸き出して、霧が掛かったような頭が、時にワザと尻を振るわしてしまったりする。
『んっ、だめっ、あああ』
　そういう瞬間は、なぜか、子宮ではなく頭の後ろ側から蕩けるような快感を生み出してしまうのだ。
　そして、闇の奥にはっきりと見えているイメージが、成美の子宮を揺さぶる。
　硬く天を突いている先生の怒張だ。
　いつの間にか、そればかりが浮かんでいた。
　いや、違う。
　切ない焦燥感の美肉に、それがグッと侵入してくるイメージだ。
　もはや我慢できなかった。
　何度も弾けそうになりながらも、弾けさせてくれない快感に、抗議するように先生の気配に向かって手を伸ばしたのだ。
　手を伸ばした瞬間、とっさに何をしようとしていたのか自分でも分からなかった。
　だが、実は、成美の中のオンナは何をしたかったのか、最初から知っていたのかもしれない。
『あっ！これっ、硬い』
　怒張を握っていた。
　たおやかな手がニギニギと愛おしげに握りしめては、わずかに扱き、指先が確かめる得酔うにカリをたどる。
　そんな動きが自然だった。
『ああ、これ、これ、もし入ってきちゃったら……』
　身体の奥が戦慄している。
　入ってはダメなのだ。
　夫以外とのセックスなど、考えてもいけないのに。
　けれども、思えば思うほど、秘唇がわなないて、両脚が広がっていってしまう。
『入れて欲しいなんて、思っちゃ、ダメなんだから』
　懸命に自分に言い聞かせてみても、オンナの中心を、怒濤の勢いで満たされたがっているのを認めないわけにはいかない。
　子宮が熱を持って、要求している。
　満たされるマンゾクを全身が望んでいるのだ。
　だが、先生は何一つ焦っていないのが分かる。
　硬く屹立した怒張を成美の好きなようにさせながら、信じられないほど繊細に動くぶっとい指が、成美の背中も、腰も、尻も這い回っている。
　ふつふつと何かが子宮の中で燃えたぎっていた。
『なんなの、これぇ……　オカシクなるぅ』
　切ない思いが、思わず尻をキュッと持ち上げさせては、クナッと落ちる。
　それは、ささやかな動きではあっても、まるで怒張をおねだりしているような動き。
　理性が身体をコントロールできなくなってきた成美に、太い声が命じてくる。
「さ、お尻を上げて」
　逆らうことなど思いも寄らない。
　どんなハレンチなポーズでも、成美は言われるがままにしてしまう自分なんだと、思い知らされている。
　膝で支えながら高々と尻を掲げていた。
　腹の部分を、グッと落としているから、後ろから見れば、犯してもらうために美肉を差し出しているような格好だ。
『私、恥ずかしいカッコしちゃってるぅ』
　自分がどんなに恥ずかしい格好なのか、目の奥に真っ白な光が破裂している。
　そのくせ、その恥ずかしいポーズが、快感を予告しているかのように、成美の中に棲む「オンナ」が、その姿勢を崩させてはくれないのだ。
　そんな風に全てを露骨に差し出しながらも、左手は先生の怒張から離すことはできなかった。
　ドクドクと手の中で脈打つ度に、何かが身体に流れ込んでくる気がしていた。
「よぉし。こっちの気の流れは、だいぶ良い。どうです？腰の方は、痛みはないでしょ？」
「あっ、は、はい。おかげさまでっ、あっ、くっ」
　サラサラと尻の丸みを撫で回されると、トクンと秘所から恥ずかしい液体をこぼしてしまう。
『あぁ、これじゃ、まるで発情したメスよ、こんなんじゃ』
　そんな表現をどこで覚えたのか。
　だが、成美は自分がそんな風にふしだらになっているのだと思ってしまえば、いっそう、強烈な快感が沸き出してしまうのだ。
　尻をウネウネと動かしていた。
「どうします？」
「え？」
「腰の方は、これでだいたい良いようですから、これで終わります？」
　一瞬、ピタッと身体を硬くしてしまう。
『ウソっ、ここで、やめちゃうの？』
　このまま、ここで止めろというのだろうか？
「あぁあ、あああ」
　それは、甘やかだけれども、失望のため息。
　どれだけ恥ずかしくても、嗚咽じみたその声を止めることはできなかった。
　めくるめく白く弾ける快楽の予告だけ。
　恥ずかしくも切ない寸止めなのだ。
　焦燥に駆られた唇から、思わず知らず、不満の嗚咽が漏れるのも当然だろう。
　そんな子宮の悲鳴を知っているかのように、先生の言葉が続いた。
「それとも、せっかくだし、後は、子宮の方の治療も、続けます？」
「あぁ、それは……」
　続けて、と叫びたい。
　だが、枕元のカメラ。
　この瞬間を夫も見ているのだ。
『叫んじゃダメ』
　少なくとも「貞淑な妻なら、このままやめてもらうべき」なのだと、成美の良心は告げている。
　そのくせ、怒張を握るたおやかな手は、知らないうちに、男におもねるように扱くスピードを、一気に増してしまっている。
　怒張の先端からヌルヌルとわき出てくる透明な粘液を指に絡ませ、根元から先端まで、まるで恋人の怒張に尽くすかのように、柔らかな指先が、動いていた。
「そうですよね。恥ずかしいですものね。でも、せっかく始めたのなら、子宮の気の乱れを治した方が、後々のためにも。恥ずかしいのは一時ですから」
　誘い水。
　甘美な言葉だった。
　そして、サラサラと尻を撫でられながら、やめてと言えないのだと、思い知っている。
　このまま、放り出されてしまえば、どうなるのか。
　怒張の熱が掌から流れ込んでいる。
『これ。この熱くて……　大きいのを……　私、欲しくなってる』
　このままでは「入れて」と叫んでしまうに決まっていた。
　今この瞬間ですら、本当は先生にのしかかって欲しがっている自分がいるのだ。
　身体を硬くして、その衝動に耐えるしかなかった。
「どうします？お二人の赤ちゃん、欲しいですよね？」
「あん！」
　その瞬間の猛烈な快感。
　さっきまでの続きなのだと言いたげに、いかにも無造作に先生の分厚い手が尻の谷間を滑り降りてきたのだ。
　その指は、恥ずかしい後ろの孔をサッと撫でながら、浅く美唇をかき分けて、クリトリスまでもサッと弾いていってしまった。
　あまりに突然のこと。
　強くて、甘くて、そのくせ、サッと消えてしまう淡雪のようなオーガズム。
　声すら出す暇もなく、サッと身体から消えてしまう絶頂感だった。
　ヒクンとしなやかにのけぞりながらも、その瞬間には、抜けてしまったオーガズムが、もう一度欲しくて悲鳴を上げていた。
　身体を仰け反らして、切ないオーガズムに震える成美を意に介さぬように、淡々と低い声が命じてくる。
「さあ、仰向けになりましょうか」
　抱きしめるようにされながら、ゆっくり仰向けなる。
　怒張を手放した瞬間、とっても大切なモノを喪った気がしたのが自分でも不思議だ。
『このまま？』
　ひょっとして、このままのしかかってくるのではないかという想像に、恐怖の色は全くない。甘美な快楽の予感に縁取られているだけだ。
「奥さん。とりあえず、落ち着きました？」
　淫靡な声だ。
　声なき声で「今、奥さん、イッただろ」と言われている気がした。
「あぁ、ごめんなさい」
「謝る必要はない。人間はね、ちゃんと必要な治療を知っているんだよ。もし、必要ないなら、奥さんは、イッたりしないね？ほら、必要なんだ。続けような？」
　続けて欲しい。
　心から、この快楽が欲しかった。
　もし、やめると言われたら、成美はすがりついてしまっただろう。
　言葉も出ない成美だが、全身が続けて欲しいと叫んでいるのも同じだ。わずかに脚が広がってしまうのは、その証拠なのだ。
「よし、よし。ね、せっかくここまで恥ずかしいのを我慢したんだ。ちゃんと治そうね」
「は、い……」
　お腹に先生の重ねられた両手が当てられる。
　その瞬間、思わず「お願いします」と言葉にしていた。
　そこからは、また愛撫に耐えねばならなかった。
　す、す、す。
　ヘソと秘唇のちょうど真ん中を中心にして、小さな円を描くように動く手。
　身体の奥からこみ上げてくる、ムズムズとした「何か」は、ピンク色の光をまとって、快楽の予兆となっている。
　何がそうさせたのか分からないのだが、成美は、その光包まれながら先生の怒張を握りしめたくなっていた。
　いや、本当は、ゾワゾワと騒ぐ子宮が熱い怒張を受け入れたかったのかもしれない。だが、そんな恥ずかしいコトを言えるはずがない。
　熱い怒張が顔の横にある。
　見なくとも、全身が、それを知っていた。
　ヒクン！
　グッと広げた太ももを、ビキニラインに沿ってサササッと指先が撫で上げて来た瞬間、身体を突き抜けた衝動に白い身体がケイレンしてしまった。
　まるで、その衝撃波に突き動かされでもしたように、左手を伸ばしてしまった。
『あ、熱い、これ、あぁ、どうしよ、もう、欲しくなってる、ワタシ、これを』
　握りしめている、硬く張りつめた怒張。
　既に、先端からトロトロとにじみ出るものに、その手はヌルヌルだ。
　だが、そこには一切の拒否感が生まれない。
　むしろ楽しんでいた。
　そんな自分に、唖然となるしかなかった。
　掌の中のモノは、慣れ親しんできた夫とは全く違っていた。
　一回り太いそのカリの部分に指がかかっている。
　掌に伝わる熱を感じると、そのまま、それが己の身体深くに沈められることを想像してしまうのだ。
　指先は、その感触を楽しむように、熱さを愛でるように、その大きさを喜ぶように、動き続けている。
　先端ににじむヌルヌルは掌をも浸していたが、ヌルヌルとすればするほど快感が大きくなっていく。
　嬉しかった……
　自分の手が、先生に快感を伝えているのかと思うと、それすら自分の快感になってしまうように、もっと気持ちよくさせたくなる。
　愛しい夫の怒張にする以上の熱心さで、白く華奢な左手が動いていた。
　その間も、先生の温かい手がペッタンコの白いお腹の上を撫でて、ザワザワとした焦燥感を子宮の中で沸騰させてくる。
『ああ、欲しくなってるどうしよ。これ、あぁん、ヌルヌルしてる、これぇ、これが、私の中にはいっちゃったら。あぁ、ダメ、おねだりしちゃいそう、そんなの、ダメ』
　オトコの分泌したモノで指先がヌルヌルしてくると、なおさら、それが胎内で動き回ることを連想させてくる。
『ダメ、おねだりなんてしちゃ、いけないんだから』
　白い貌が拒否するかのように振られる。
『だけどぉ、これ、入れちゃったら、あぁ、ダメ、絶対、あぁ、でも、あん、もう耐えられない、あん、ダメ、ダメェ、おねだりしちゃ』
　もはやハシタナイおねだりを我慢することにばかりとらわれている。
「じゃ、ここから、しっかり行きますからね」
　低い声に、子宮がザワザワと音を立てて身震いしているのを感じてしまう。
『しっかりって……　そんな、今だって、スゴイのに。あぁ、これから、この手がこのまま……　ああん、どうなっちゃうの、私』
　茂みに触れぬか触れぬの場所にあるその手が、身体の奥に伸ばされることを想像してしまうと、それだけで頭のどこかが弾けそうだ。
『ああ、ダメ、オカシクなっちゃう』
　その瞬間、その想像だけで、成美の背中をオーガズムの電流が駆け上ってしまったのだ。
『ああぁ、私、これ、欲しいんだ。そんなのダメなのにぃ』
　ダメだと自分に言い聞かせているクセに、グッと怒張を締め付けていた手は、指先をカリに遣わせながら、ゆっくりと扱き続けてしまう。
　怒張への愛撫を楽しむ淫婦の動きだ。
「あん！」
　いきなり乳首が直撃された。
　頭と子宮で、白い火花がスパークしてしまう。
「あん、あん、あん、あん、あ、あぁん」
　左右の乳首が交互に、指先でかすめるように弾かれていた。
　身体がクッとのけぞってしまう。
「あ、あ、あう、あん、あん、あん」
　小鳥のさえずるような甲高い声だ。
　カメラで撮られているのに。夫がその姿を見ることを知っているのに。
　まったく、抑えられない。
　快感に全てを支配されていた。
「あ、ぐぅ、あぁ、あああ」
　手が、美肉に伸びてくる。
　快感の予感が、頭の奥で白く弾け出す。
「あ、あっ、あぁあ、あう、あ、はうう！」
　一気に急上昇する快感が、さっきよりも数段激しいオーガズムになって弾けてしまう。
　下がらない。
　弾けた快感が、そのまま次の火種になるみたいで、オーガズムの頂点に到達したのに、もっともっと、快感が上昇していくのだ。
　もは宿帳を掴んでいる余裕はない。
　両手は、シーツを握りしめながら、快感の爆発に耐えることしかできなかった。
「さ、ともかく一度、天国を見ようね。ほら、まただよ、ほら、良いよ、奥さん」
「ああっ、あっ、ああ、あ、だ、め、あ、い、っくう！」
　苦しいほどの快感。
　怒濤のように動く手が快感を下がらせてくれない。
『ああぁ、息ができないのに、あ、あ、あ、また、あう、いく、あう！』
　乳房が絞り上げられ、乳首が弾かれ、差し入れられた指は、深いところに届いている。
　両脚は、膝が軽く曲がった状態で、１２０度の角度で広がっていました。
「あ、くう、あう、あ、また、あう！あああ！」
　激しい頂点が４回は、あったはず。
　嵐のようなオーガズムを迎えた後、先生の手がようやく、ゆったりとなったお陰で、ようやく力が抜けた。
　しかし、休むゆとりは与えられない。
　快感の余熱が、まだ全身を震わせているのに、先生の低い声は容赦なく宣言するのだ。
「ほら、じゃあ、少しずつ、陽の気を入れますよ」
　気配が近づいていた。
『ああぁ、これを』
　言われなくても「何」をするべきなのか、成美には分かる。
　そっと唇を広げると、そこに熱い熱気が近づいてくるのだ。
　それが到達する前に、待ちきれなくなって、舌を差しのばしてしまう。
『あぁあ、美味しい？ヘン？美味しいんだもん、これ』
　夫には感じたことのない、奇妙な快楽が、硬く張りつめた亀頭をなめ回す動きを積極的にさせていた。
「そう、いいよ。陽の気を受け入れる。これは治療なんだからね。ちゃんと受け入れるんだ」
　先生が何を言っているのか聞こえない。だけど、これでいいのだ。頭の片隅に、これを見ている夫の顔がある。
　それなのに、成美は自分の行為を止められない。
　いや、むしろ積極的に、ハレンチな行動を見せたくなっているのかもしれない。
　身体の奥から溢れてくる、黒い何かが、成美を支配しようとしていた。
　　　　　

あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。

2014.2.1掲載

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