その４ 内診

「あああ。あう。はうう」
　唇から、甘い声が漏れていた。
　身体の中にあふれる、甘やかであっても切ない快感が、成美をじっとさせてくれなかった。
　ついさっき、左の胸をもみ上げられた瞬間、感じた、オーガズムのような電流。
　成美が知っている、どんなオーガズムとも違う電流だった。
　パチンと弾けたのは、オーガズムと同じだが、決して、悦びの満足感は与えてくれない、後を引く弾け方は、オーガズムと違う気がする。
　はしたない感情が快感を要求していた。
　子宮の奥が、いや、夫に挿入されるべき美肉が、強烈な快感を無意識のうちに欲しがっているのかもしれない。
「もっと欲しい」と身体が訴えてくるのを、成美は理性で懸命に抑えるしかなかった。
　だが、全力を尽くしても、快楽にあふれてくる声を抑えることはできないのだ。
「あ、あ、あう、は、あの、あ、ま、ま、あああん！あう、ま、だ？」
「え？やっぱり、感じてるんだ？」
「違うのぉ、あっ、あう、い、たい……からぁ、あうう、あん！」
　何かを喋ろうとする度に、乳首が違う形で弄られてしまう。まるで、恥ずかしい声のスイッチを押されているように、押さえることができないのだ。
　もちろん、わざとだ。
　抵抗しようとする成美の気持ちを、少しずつ奪いながら、抵抗しようのないほど、追い詰めていこうとしている。
　両手をふさがれたまま、じっくりと自由に胸を弄られて、快感をこらえられるオンナなど、そうはいない。
　おまけに、セックスを知っている人妻の身体だ。
　たっぷりとダンナとのセックスをすり込まれた身体は、無意識のうちに、男のモノで、満足する形を自動的に期待してしまうものだ。
　クッと、脚をこすり合わせるようにしては、自然と力が抜け、脚が広がってしまう。
　もちろん、膝と足首で拘束されている脚は、淫らに広がる形にはならずにすむ。
　その分だけ、いつの間にか安心しきった成美の脚が、いつのまにか、ベルト一杯に広がる形になるのは当然だったかもしれない。
　無絵の快感と戦うのに精一杯の成美にとって、並河の片手がボタンを操作したのに気づくことなどできるはずもなかった。
　鈍いモーター音は、自動的に、プリセットされた内診の形、すなわち、秘部をさらけ出し隠しようもない姿勢へと、動く音だった。
　気が付いたときには、完全に仰向けになった身体から、両脚が刻一刻と無理矢理広げられてしまっていた。
「あああ、いや、あ、いやああ」
　成美は慌てた。取り乱したと言っていい。
『ああ、これがあるの、すっかり忘れてた。だめ。このままじゃ、絶対に、だめ』
「いや、いや、いやあ！」
　バンザイのカタチのままの腕も、広げた形で持ち上げられてしまった脚にも、力が入らない。
　しなやかなナイロンベルトは、マジックテープで止まっているだけのはずなのに、ピクリとも持ち上げられなかった。
　身体ごと揺すって、拒否するしかないのだ。
『ともかく、このままだけは、ダメ！』
　人妻として、いや、オンナとして、さっきからの「診察」で、自分の身体が恥ずかしい反応をしてしまっているのをしられてはならないのだ。
「大丈夫。次は、って言っただろ？」
「いやいや、あぁ、だめぇ」
「ほらほら、内診するだけだからね、乳がんは、とりあえず大丈夫そうだし」
「あう！あぁ、ダメ、お願い。あぁああ！」
　取り乱した成美を、面白がるように、コリコリと乳首を転がしてくる。　　
　何で、まだ、触るのかと、文句の一つも言えるはずが、生み出される快感と、脚が刻々と広げられてしまう衝撃が、抗議の言葉を塞いでしまった。
　何よりも、今、オンナの場所をのぞき込まれるのは、絶対にダメなのだ。
「お、お願い、ちょっと、あの、あうう、い、いったん、ああう、あ、お、お願い、その前にぃ、お、お手洗いにぃ、あう、あん、ちょっとでいいからぁ」
トイレに行きたいのではない。
　このまま、秘部を見られては困るのだ。
「トイレ？大丈夫。気のせいだよ。さっきエコーで見たら、まだ尿はたまってないからね。それに、少しくらいならこのまま漏らしちゃっても良いし」
　努めて、医師の冷静な優しさを装いながら、成美の困惑と悩乱を楽しんですらいる。
『あぁ、だって、私、ヘンになっちゃってるから、今、見られたら……』
　恥ずかしがり屋の成美だって、いや、恥ずかしがり屋の人妻だからこそ、自分の身体が濡れてしまっていることくらい、分かる。
　だが、自分が感じてしまったのを認めるわけにはいかないのだ。
「感じてない」
　たとえ、バレてしまっても、そう主張し続けるしかないではないか。
　エッチな人が感じることがあると、あらかじめ言われていたせいもある。言われてなくたって、夫以外に触られて、感じる姿を人に見られるわけにはいかないのだ。
「だめぇえ！」　
「大丈夫、濡れちゃったことは、秘密にするからね、いいんだよ、エッチな人だとたまにこうなるから」
『いやあ！わかっちゃってるぅ』
　もちろん、これだけの明るさの中で、しかも、脚をばっちりと広げているのだ。のぞき込むまでもない。
　両脚をこすり合わせるようにしていた分だけ、白く張りつめた太ももの方まで濡らしてしまっていた。
「いやあああ、違うもん、違うぅ」　
「でも、ほら、これ」
「ああう！」
　指がヌルリと大陰唇の外側を撫で上げてきたのだ。
　敏感な胸を、じっくりと弄ばれ、焦らされた人妻の身体が、その刺激に耐えられるわけがなかった。
　手足を戒められた白い身体は、検査台の黒いシートの上で、ブリッジを作り出す。
　またもや、さっきのピンクの電流が身体を貫いたのだ。
　満たされぬ身体をさらに飢えさせるような、今までに知らなかったオーガズムなのだと、思わざるを得ない。
「う〜ん、なるみちゃんが、こんなエッチな身体とは思わなかったけど。大丈夫、誰にも言わないからね。それに、ほら、今、他の人が戻ってきたら困るだろ？」
「え？ど、どういうこと……」
「だって、こんな風にビショビショになってるのを、オレ以外の人間が見たら、なるみちゃん、すっごくスケベなオンナだって、誤解されちゃうだろ？」
「いや、いや、それはいやあ」
「だろう？嫌でしょ？だから、さっさと検査を済ませちゃおうね。続けても？」
「ああ、いやあ、見られたら、お願い、見ないでぇ」
　いやいやと、頭を振る成美の拒否が弱々しい。
　それを、にやりと見つめる並河。
　身体に籠もってしまった快楽のうずきと、恥ずかしすぎる羞恥が、既に成美から冷静な判断力を奪ってしまったのを確かめるかのようだ。
「ほら、安心して。誰も来ないから。その方が良いだろ？ここだけの秘密。大丈夫、おれに任せて。ちゃんと検査するからね」
　そう言いながらも、すっかりビショビショの入り口を指でヌルヌルとたどる。それは、医師の動きでは、既になかった。
「検査しないとね。少しの我慢だよぉ、さ、検査しようか？」
　指先に触れている美肉が、ヒクンと蠢いて、物欲しげに腰が動き始めていた。
　並河は、肉食獣の笑顔を浮かべながら、ワザと、大きな動作で、成美の股間をのぞき込むそぶりを見せつける。
「ああ、いやあ、み、みないでぇ」
　弱々しい拒絶に、くなくなと頭が揺れる。
「じゃあ、もっと大勢呼ぶ？親父や、他の看護に囲まれて、こうやって？じっくりみられちゃうよ！」
「あう！」
　成美の濡らした秘液でヌルヌルの指が、サッと、クリトリスをかすめたのだ。
　その瞬間、美肉が、ヒクンと震えたのを並河が見逃すわけがない。
「どうする？大勢に見られながら？それとも、このまま？どうする？大勢に見られるんだよ、こんなとエッチなところ」
「ひっ！」
　声にならない声に、成美は白い身体を硬直させてしまう。
　またもや、クリトリスをかすめた指に、子宮の奥が、震える快感をこらえるわけがなかった。
「ね、このままなら、ほら、オレだけが黙っていれば誰にも分からない。それとも、みんなに見られた方が良い？」
「ああぁ、いやあ、見られたら、見られたら……」
「ね、じゃあ、このままでいいね？オレだけの秘密にするからね」
　白いモヤがかかったような成美の意識に、看護師達や、並河の父親、嫌、誰とも知らない大勢に、囲まれている姿が浮かんでいた。
『そんなこと、耐えられない』
　恥ずかしさと、恥ずかしいのに、検査の指にもだえてしまう自分を、他人に見られてはならない、それだけが頭に浮かんでいた。
「ね、他の人を呼ばない方が良いだろ？見られたくないよね？」
「あぁ、あぅ、いやあ」
　ねっとりした声を噴きこぼしながらも、成美はとうとう頷いてしまたのだ。
『こんなところを、他の人に見られたら』
　総毛立つ思いで、想像するしかない。
　並河の父親に、他の看護師。
　特に、こうなってしまうと、女の目の方が怖い。
『軽蔑されちゃったら。並河君になら、もう見られちゃってるけど……』
　そう。
　検査とは言え、羞恥の奥底をかき回され、味わってはならぬ快感におかしくなってしまった自分。
　恥ずかしい部分があからさまに濡れそぼっているのは、成美が恥ずかしくも淫らに感じてしまった「証拠」なのだ。
　こんな時、女同士の方が、視線が冷たいのをよく知っている。
　特に、成美は、その恵まれた容貌ゆえに学生時代から男達からチヤホヤされがちだった。
　決して、それを鼻に掛けたりしてなかったのだが、オンナのねたみは恐ろしい。
　何かことがあれば、男達とは比べものにならない敵意を呼ぶことがあるのだと身にしみている。
　こうなってしまえば、看護師達がどんな目で見てくるか、考えただけでも恐ろしい。
　それに、もう、これ以上、違う人に、恥ずかしい部分を見られたくないということばかり頭に浮かんでしまう。理屈を越えた、素朴な感情なのかもしれない。
「あぅ、あぁ、あ、あぁ」
　声がガマンできない。
　快感から逃れようのない自分の身体を、どうにもコントロールできなかった。
　ヌルヌルと蠢く指は、弁解しようもなく、自分が濡らしてしまったせいなのだ。
「オレだけが黙っていたら」
　催眠のように繰り返す並河の言葉に逃げ込むしかなくなっていたのかもしれない。
　成美は、とうとう、並河に見られることを承諾していた。
『そうよ、お医者様ですもの。見られても、しかたない、ううん。そもそも、見ていただきに来たんだし』
　考えてみれば、本来、医者がそこを見るのは当たり前のことだという考えが、追い詰められた成美には、すがるように思い起こされていた。
　拒絶したり、頷いたりするのは、既に、成美が普通の「患者」からはみ出てしまったことを半ば自覚しているせいなのかもしれない。
『私は、患者なんだもん』
　患者だから医者に見られるのは、当たり前。
　そう自分に言い聞かせていれば、恥ずかしい今の自分を、どうにか許せる言い訳になる。
　だが、自らに、そう言い聞かせれば、言い聞かせるだけ、この後「何があっても」自分が承諾したからだと、思うしかなくなっていくことに、まだ気が付いていなかった。
　もちろん、並河は、ここまで、できすぎなくらいに計算通りに行ったことに満足しながらも、手を休めるつもりもない。
「ＯＫ。じゃあ、二人だけの秘密。検査を続けて上げるね。じゃあ、安心して。いくら感じちゃっても良いよ。オレだけの秘密にして上げるからね」
「あ、みちゃ！」
　サッと、イスを動かした並河は、広げられた股間に向き合いながら、すごい、と小さくつぶやいた。
　もちろん成美に聞こえるのは、計算しているつぶやきだ。
「いやあ、見ないでぇ」
「大丈夫、大丈夫。たっぷりと感じて良いよ。ほら、クリちゃんもこうなってるし」
「え？あぁああ！」
　丸い尻が、クンと持ち上がったって、ヒクヒクとしたのは、軽いオーガズムが、股弾けたせいだろう。
『くくく。クリで逝ったか。でも、まだ、完全には逝かせて上げないよ、もっともっと欲しくさせて上げるかね〜　ほら、どうだこれ』
「あううう！」
　ピンク色の包皮に隠されたクリトリスを軽くタッピングすると、またもや、軽くオーガズムが通過していくのを楽しげに見つめる並河。
『やっぱ、強烈だよな、ここ』
　診察では、クリトリスを触ることなどあり得ない。敏感なこの場所を不用意に触れてしまうと、女性は必要以上に羞恥を感じる結果になり、後で訴えられかねないのだ。
　だから、慎重に避ける。
　しかし、今は、堂々と触ることで、無理矢理、その場所を触る権利を認めさせてしまったのだ。
「あ、いやぁ、感じてなんてな……　ああああ！」
　しかし、悲鳴のような淫声を止められない。
　恥ずかしくて求められない、淫らに震える女体。
　眼前の光景は、並河をもってしても、圧倒的に淫靡なモノだった。
　ぐっしょりと濡れそぼつ蜜は、小さめ大陰唇の外側にあふれ、飾り毛を蜜にまみれて外側の皮膚に貼り付けている。
　隠しようもないほど広げられた陰唇は、人妻の複雑だが楚々とした入り口の中心まで見せつけている。
『すげっ。よっぽど若くて、経験が浅くないと、指一本分くらいは空くもんだけど』
　包み込まれた怒張の、締め付け具合を想像させるように、ピッチリとしているのだ。
『くぅ〜　早く入れてぇ〜　待ってろ。自分から、腰を振って、ねだらせてヤッからな』
　粘つく視線は、さらに、その下。
　くすんだすみれ色のその場所も、男の視線から逃れられない。
『ふん、疵一つない。ヘモなしはいいが、ダンナ、この場所、使ってねーな』
　ヘモとは、痔のことをいう。２０代の女性でも以外に痔もちは多く、肛門科にいくよりも、なんだかんだと理由をつけて、婦人科に来ることはけっこうあるのだ。
　そして、切れ痔のウチの少なからぬ理由が、尻孔を男に使われているせいなのだというのは、常識だった。
　最近は少しずつ、そういう患者が増えているのだ。
　だが、成美のその場所は、きれいなカタチのままだったのだ。
『だけど、そっちは後、後。まずは、たっぷりと。へへへ、おっ広げたあんよで、せいぜいよがれよぉ』
　そうやって、男として、人妻の秘部をじっくりと楽しんでいる間、成美は、その視線が突き刺さってくるように感じていたのだ。
　いや、感じていたのではない。
　ふつふつと子宮の奥が煮えたぎるように、レーザービームの視線に、熱せられていたと言っても良い。
『ああ、見られてるのにぃ』
　なぜか、ふわりとした空気の動きを感じた。
　固く閉じていた目を、一瞬だけ開けて、チラッと見てしまったのだ。
　誰にも見せてはならぬその場所の、すぐそばに顔があった。
　ふわりとした空気は、マスク越しに、息がかかったのだと分かった瞬間、ズキーンとした衝撃が子宮を貫いてしまったのだ。　
　それは紛れもなく「オトコ」の目。
　その目は、かつて、無理矢理頼まれて出てしまった、成美の黒歴史。「ミスキャン」の最終審査で水着になったときに感じた、あの欲望の目つきだ。
　審査員のはずの大学の先生達も、最前列で、望遠カメラを操る男達も、水着越しに、裸を見通そうと血走った欲望の目で見つめてきた。
　男達の欲望を、初めて思い知ったあの時の目。
　今、その目を、秘部から１５センチで浴びせられているのだ。
『全部、見られてる』
　戦慄が走る。
　夫にすら、こんなにあからさまに見られたことのない場所。医者だからこそ、見せているはずのその場所を、欲望の目が間近に見ている。
「いやあぁ」
　微かに声を漏らした瞬間、自分が、身体の奥から、またトロリと恥ずかしい液体をこぼしそうになっているのを知って、慌ててそこを締め付ける。
『いやああ！だめぇ、こぼしちゃ、だめぇ』
　心の悲鳴とは裏腹に、次の瞬間、そこからトロリとこぼれたものが、尻の方に流れるのを感じて、これ以上ないほどの羞恥に、目の前が真っ暗になりそうだ。
「おお、これなら、ローションなしで良いね」
「あうぅ、え、あの、な、なにを」
「いや、ほら、ローション。さっき、アレルギーがあるからって言ってたじゃん」
「あううう、あ、いやあ、うあううっ」
　まるでこぼれた蜜を、成美に突きつけて、さらに恥ずかしくさせるかのように、こぼれたヌルヌルを指に絡め、大陰唇をヌルヌルとなでてきたのだ。
　自分が濡らしてしまった恥ずかしさと、恥ずかしい場所を撫で回される快感に、成美は、顔を覆おうとして、両手が動かせないことを、改めて気づかされるのだ。
　この明るいライトの下で、感じてしまった恥ずかしさを覆う方法も、残されていないのだと思い知らされてしまったのだ。
「ね、これなら、ローションなしでも十分、診察できるよ」
「あ、ぐっ、あう、あぁうあう」
　拘束された不自由な腰を突き上げるように浮かしてしまった。　
　ヌルヌルになった人差し指を、今度はクリトリスを避けながら、浅く、ぐちゃぐちゃとかき回してくる。
　クチュ、クチュと音が出るたびに、成美はいたたまれなくなる。
　自分が、それだけ濡らしてしまっているのだと言われているようだった。
「じゃ、診察するね」
　これが診察でなければ、いったい何なのか。
　成美の秘部は、既に、ぐちゃぐちゃに濡れそぼち、指は我が物顔でかき回して、鈍いけれども、力強い快感で、成美の身体を支配しようとしているのだ。
「あ、ぐ、ぐ、あぐ、だ、だめぇ、あ、だ、だ、ああああ！」
何百人の女性の秘部を知っているその指が、成美の濡れそぼったそこに侵入してきた瞬間だった。
「すっかり感じてるね」
「あ、あ、そ、そんな、あぅう」
　成美の反応をうかがいつつも、きちんと子宮口を確かめるのも忘れない。医師としての最低限はしておかないと後が困ることをちゃんと分かっている。
　一方で、子宮口をヌラヌラと確かめる動きは、成美の快感をかき立てることにもなる。　普通の診察なら、痛みすら感じることもある行為であっても、ひとたび感じてしまった人妻の体にとって、子宮口の刺激は、この上ない快感をもたらすのだ。
「ごめんね、子宮口を確かめてるからね。ちょっと奥に入れてるよ」
「え？あん、だめぇ、ああああ！」
　人差し指と中指をそろえて入れたまま、親指がクリトリスに当たって、器用に撫で回してくるのだ。　
「あっ、くうう、はう、あ、くっ、あん、あぁ、そこぉ、ね、それ、あたって……」
　さすがに、クリトリスを刺激するなど医者のすることではない。
　ためらいながらも、急速に上ってくる強い快感におびえて、密やかに抗議してはみるのだが、身体を満たしてしまう快感が、それを邪魔する。
　口を塞げない成美の切なげな声と、秘めやかな、くちゅ、くちゅという湿った音が、診察室に響いていた。
　もちろん、並河は、「そんなことは気が付かない」と言いたげに、うん、うん、ともっともらしくつぶやきながら、触診を続けている。
　だが、しっかりと親指がクリトリスをクニクニと刺激しながら、成美がこらえきれず、腰を蠢かしているのを冷静に見ながら、左手は、茂みの上を何度も押さえている。
　これは、腹の上から子宮や卵巣を確かめる正規の動きでもあるが、違っているのは、サラサラと指先で撫で回して移動することだろう。
　指でかき回す、ダイレクトな刺激が、さらに効果を上げてくれるのを、並河は知っているのだ。
「あ、あうう、あ、だ、だめ、に、あうう、あ、あう」
　クリトリスを弄られながら、膣を直接かき回される。　
　さっきまでとは違って、それは、直接の愛撫そのものだ。
　急速に、腰が蕩けてオーガズムの予感が、子宮を満たしてくる。
『ああだめぇ、恥ずかしいのに、これじゃ、逝っちゃう、このままだと。ああ、もうやめて、ガマンできなくなくなっちゃいそう』
　いくら恥ずかしがり屋の貞節な人妻であっても、それは同時に、夫に開発された女体を持っていると言うことだ。
　恥ずかしい場所を我が物顔で探ってくる指は、細いけれども、確実に、快感を掘り起こしてくる。
「あ、あ、だ、う、あ、い、い」
　信じられないことだが、ナカの指が、急速に振動して、感じたこともない快感が子宮を貫いてきたのだ。
　ＡＶなどで言う「手マン」そのものだが、そんなことを、自分がされているなどと、成美は考えることもできない。　
　そこにあるのは、羞恥と、羞恥を吹き飛ばしてしまうような、暴風のような快感だけだった。
『あ、きちゃう、きちゃう、ああ、あ、だめ、きちゃうぅ』
　オーガズムの予兆から、一気に、快感が流れ出してくると、もはや流れを止めることなど子宮が許さない。
　腰がうねうねと動いてしまっても、もはや、それを意識することもできないのだ。
『あ、も、もう少しで、逝っちゃう……　恥ずかしいのに、我慢が……　あぁ、ダメよ、こんなことで、恥ずかしくて……　あ、だけど、だめに、なっ、ちゃう……』　
　それでも最後の瞬間の、ホンの直前まで、成美も抵抗しようとしたのだ。
　だが、今まで知らないほどの快感の塊が、子宮からグンと身体を突き上げて、最後の抵抗は崩壊してしまった。
「だ、だ、あ、い、い……　く……」
　恥ずかしさを忘れた腰が、グンと突き上げるように持ち上がり、指をさらに深く飲み込もうとした。
　灼熱のオーガズムが、グンと突き抜けてくる予感に、成美は恥じらいを忘れ、身体を預けたのだ。
　その瞬間だった。
「え？あ。いやあああ」
　襲ったのは空虚だった。
　さっきまで、猛烈な速さでバイブレーションしていた指が、一気に引き抜かれてしまったのだ。
　子宮に痛みを感じた気がした。
「あ、くっ、あ、く……」
　ハアハアと息ばかりが荒い。
　あとほんのちょっとで逝く。
　その瞬間、見事に肩すかしを食らった女体は、快感の反動で、全身に不快と物足りなさと、快感への切望が大きく、大きく渦巻いてしまう。
「あっ、く、あ……」
　ハアハアと荒い息の合間に、オアズケを食った女体の不満が、成美の意志を裏切って、ため息のような声を出している。
『あと、ちょっとだったのに……』
　本当なら、夫以外のオトコにイカされずにすんだことを安堵するべきなのだが、素直な気持ちとして「あとちょっとだったのに」という不満を思わずにいられない成美だ。
「う〜ん。ごめんね、これ、検査だからさ、あのまま、なるみちゃんをイカせてあげても良いんだけど、医師としてね。ちょっと。でも、成美ちゃんが頼むなら、別だよ」
　いけしゃあしゃあと、逝きたいなら、ちゃんと頼めと言っているのだ。
「ね、医者がさ、ほら、何か、エッチなこと無理矢理したって言われたらまずいだろ？だから、検査は検査ね。なるみちゃんが感じても良いけど。イクのはまずいんだ」
　体中にこみ上げる切なさが、並河の言葉を、飲み込ませてくれない。
　ただ、成美にとっては、自分がしてと言わない限り、逝かせてもらえないのだと漠然と思い浮かんだだけだった。
『どう、なっちゃう、の、わたし……』
　子宮が悲鳴を上げていた。
　ホッとしているのは確かなのだが、逝かせてと魂が叫んでいるのも事実なのだ。
　そこに突然、指が差し込まれた。
「あう！」
「と言うわけで、検査を続けるからね」
　その瞬間、成美のどこかで、何かが、そう、オンナとして、とても大切な何かが音を立てて壊れる気がした。