その５ プローブ


「さ、検査を続けるからね」
　有無を言わせず、と言うタイミングで、そのまま指が動き始めてくる。
　せっかく収まりかけた快感への波が、すぐにまた、押し寄せてきてしまうのだ。
「うん。こうやって、膣の中を調べて、問題がないか調べるにはね、一つ一つのヒダをこうやって」
「はううう！」
「押して確かめるしかないんだよ。痛がる人が多いけど、なるみちゃんは、すっごっく感じてるんだね。良いよ感じても。悪くない。でも、イクのはダメだよ」
「あ、あう、ぐ、そ、それぇ、あうぅ」
「だって、まじめな医療行為をしてるのに、なるみちゃんが逝っちゃったら、人に誤解されるだろ？なるみちゃんだって、すっごくスケベな女だって思われちゃうし」
「ああん、そ、そん、な、あ、あうう、あう」
　腰がうねうねと動き続けてしまう。おねだりしているみたいだと、自分を振り返る余裕は既にない。
「でも、さ」
「あう！」
　並河は、ぐしょぐしょの部分を、ぐちゅっとかき回しながら、楽しそうに続けた。
「検査ではなくなるけど、なるみちゃんが、して欲しいなら、そう言ってね、いつでも逝かせて上げる、キモチいいよぉ。このまま、ほら、こうやって続けると」
「あうう！そ、そん、あ、あう、あん、あう、そ、それぇ、あ、あ、いやあ！」
　思わず、イヤと言ってしまったのは、あとほんの少しで弾けそうな、その瞬間、またもや指が外されてしまったからだ。
　マスクの下でにやりと笑う並河の顔が、恥ずかしい場所のすぐそばにある。
『ああ、止められない。見られてるのにぃ』
　すぐ目の前で、身体の奥底を見つめている目。
　自分が見られていることを意識しながらも、いや、意識すればするほど、身体の中に、イキそうでイカせてもらえない切なさがこみ上げてくる。
　はしたないと分かってはいても、丸みを帯びた尻がうねうねと動くのを止められない。
『あぁ、どうにかしてぇ』
　大いなる空虚に、成美はオカシクなりそうだ。
「あぁあ、いやあ」
　悲痛な声。
　いまにも、身体に満ちた快楽のマグマを噴出させるその、直前に、またもや「指」がサッと抜き取られてしまったのだ。
　くびれた腰を、はしたなく持ち上げながら、獲物を逃したイソギンチャクさながらに、ヒクリと蠢くのは、真っ赤に充血した成美の美肉だった。
　ピッチリと閉まっていた入り口も、ホンモノを入れて欲しいと言いたげに、指一本が入るだけの大きさではあるが、パックリと広がっている。
　こらえ性のないオトコなら、それを見ただけでも怒張を突き入れたくなるに違いない淫靡な姿になっているのだ。
「くうぅ、ああ、もう、もう、いやああぁ」
　羞恥にまみれながらも、イカせてもらえぬ不満を、はっきりと口にしてしまうのも、もはや無理からぬことだ。
　ギュッと閉じていた目も、パッチリと見開かれてしまっている。
　ただ、普段は優しげで、理知的だった瞳が、今は、快感に潤み、人妻の妖艶な性への渇望を、さ迷う視線に表してしまっていたのだが。
『ようやくか。すっかりメスになったな。』
　貞淑な人妻が、大学時代に袖にしたオトコに、ここまで追い込まれている。
　表情だけ見れば、発情したメスそのものになってしまった成美だが、それも無理からぬことかもしれない。　
　それは実に、５回も繰り返されていた。
　イキかける度に、放り出され、放り出されては、まださめやらぬ快感を、さらにかき立てられ、また、追い上げられる。
　しかし、決して、快楽の頂点は与えられない。
　身体に満たされた「切なさ」に震えたのは、とっくに過ぎて、もはや、まだ見ぬ、弾けるオーガズムへの期待と、それが与えられぬ苦痛だけが、成美のすべてになっている。
『苦しい、助けて、なんとかしてぇ、もう、いやああ、お腹の下がぁ、オカシク……』
　戒められたままの脚を、それでもできる限り広げてしまっているのは、オンナの本能が成美の肉体を乗っ取ってしまっているせいなのだ。
　普段の成美なら、たとえ誰にも見られていなくても、Ｍ字開脚をさらに広げたような、このポーズを、そもそもするはずもない。
　だが、紅潮した顔と、宙にさ迷う視線で、心ここにあらずとなった成美は、美肉を圧倒する肉を、自然に求めてしまっているのだ。
　最近は、ちょっとご無沙汰気味だが、優しい夫は、いつも流れるように、素直で丁寧なセックスをしてくれる。
　だから、オーガズムは開発されきても、ここまでの苦痛をもたらすほど焦らされたことなど一度もない。
　そのくせ、焦らされる度に、再開された快感は、高い場所から始まって、その前よりも、さらに高いオーガズムを期待させてきた。
「さあ、ね、なるみちゃんが、自分望まない限り、ずっと、このままだよ。イカせて上げない。検査はまだまだ続くんだよ。ほら、なるみちゃんどうする？頼んでみる？」
「はうう、あう、あ、だ、だめぇ、い、言えない、いえないのぉ、お、おね、が、いぃ」
　ねっとりとした口調の、「お願い」は、半ば、イカせてくれと頼んでいるようなものなのだが、並河は、ワザと知らんぷりだ。
「さ、続けるよぉ、さっさと検査をしちゃわないとね」
　とっくに検査ではなくなっている。
　いまや、左手でクリトリス、右手は美肉をと、同時に責めてくる動きは、愛撫以外のなにものでもない。
　冷静な時なら、いや、もっと早い段階だったら引き返せたかもしれない。
　だが、こうなってしまうと「患者」の役を降りれば、オトコにイタズラされてるバカなオンナになってしまう。
　それを、成美も無意識のうちに分かっている。
　自分が騙されたんじゃないことを、信じたいなら、恥ずかしい「検査」が終わるのを、じっと待つしかないのだ。
　もちろん、検査の終了は、医者が告げねばならないのだが、並河にはそのつもりなど一切ない。
　終わりのない、そして勝てるはずもない抵抗を、成美は必死の思いでしていた。
　しかし、六度目に、とうとう、成美の理性が壊れた。
　あっという間に、再び追い上げられた成美。
「あああ、あう、い、あ、もう、い、い……」
「ほら、逝かせて欲しいなら、言わないと。ほら、誰にも知られないよ、今なら。ほら、二人の秘密だよ。ほら、ほら、どうする、それとも、また？」
「いや、いやあ、いやあ！」
　めくるめく甘美なオーガズムが、すぐそこにある。
　身体の中にオーガズムへの電流が渦巻いて、限界腺に向かってきた瞬間、また、あの空虚を味わう恐怖が、成美の口を動かしていた。
「あああ、もう、もう、い、いかせてぇ」
「え？何？なるみちゃん、逝かせて欲しいの？」
「ああ、恥ずかしい、いやあ、言わないでぇ」
「ちゃんと確認しないとね。なるみちゃん、これ、検査じゃなくなるけど、いいの？逝かせて欲しい？」
「あ、あう、あ、も、もう、お願い、ね、お願い、いじめないでぇ」
「いじめてないよ。大事なことだからね」
「あん、いやぁ、あう！」
　オーガズムに近い所まで追い上げるときの指遣いは、圧倒的なのだ。
　子宮が沸々と沸騰して、オーガズムの出口を求めて壊れそうな成美。
「ほら、ちゃんと言って、逝かせてって」
　それを、冷静に見抜きながら、生かさず、殺さず、加減しながら、もはや崩壊直前なのを、よく知っている並河だ。
　くびれた腰を大きくうねらせているのを、成美自身も止められない。
「あ、あう、い、い、あああ、い、言えないぃ！」
　身体から、マグマがあふれそうで、あふれられない。
　苦しかった。
「じゃあ、指抜いちゃおうかなあ」
「あ、だめ！やめたらぁ！あああ！お、お願い！」
　それでも、クッと唇を一回かみしめたのは、最後の瞬間まで、貞操を守ろうとした人妻の最後のためらいだったのかもしれない。
　だが、指がわずかに、抜く方向に動いた瞬間、成美の唇は理性を裏切り、勝手に叫んでいたのだ。
「お、ねがい、ああ、い、逝かせてぇ！あああ！」
　ヒクリと、白い尻が持ち上がるように腰が動いていた。
　発情したメスの動きそのものだった。
『けけっ、やった！』
　並河は、その瞬間、大学時代に自分を振ったオンナの崩壊を目にして、心から満足したのだ。
『とうとう、言っちまったな。ほら、逝かせてやる、ダンナ以外に見せたことのないスケベな姿を、見せてみろ！』
　並河の指に自然と力が入った。
「じゃ、逝かせて上げる。なるみちゃんの頼みだものね。ほら、お願いされたとおりにして上げるよ」
　クッと指が少し動いただけで、ビショビショに濡れてしまった美肉は、強烈に締め付けてくる。
『すごい、しまりだな。さぞかし、この中に入れたら……』
　白衣の下で、カチカチになった怒張が包まれる瞬間を想像しながら、並河は、優しげな声を掛けるのだ。
「さ、逝っていいよ。なるみちゃんが頼んだんだから、約束通り、逝かせて上げる。ほら、いいんだよ、どう、これ、どう？」
　自分が手を出せなかったオンナを手に入れた、一度だけキャンパスで会ったことのある成美の夫に勝ち誇る気になっていた。
　クチュ。
　指が少しでも動く度に、完全に本気で感じているオンナの蜜がまとわりついてくる。
『ほら、いけ、派手にな』
　得意満面の顔で、ぐしょぐしょになった美肉の中をかき上げるようにしながら、クリトリスをバイブレーションしたのだ。
　快感に張りつめた身体はひとたまりもなかった。
　子宮の中から、一瞬にして、白いなにかが弾けたのだ。
「い、いくぅう！ああああ！」
　クリンと丸い尻を持ち上げながら、成美の全身を白い奔流が貫いていた。
『なんなのぉ、これぇ、こんなの、知らないぃ、弾けちゃう！』
　それは成美が、夫以外の誰にも見せたことがないオーガズムを、初めて人前でさらしてしまった瞬間だったのだ。
　白い背中がブリッジを作って、強烈なオーガズムにケイレンしたまま、数秒間。
　いくら細身でも、大人の身体だ。
　ぐったりとした成美の身体が診察台に伸びてしまう瞬間、ズンと重みが一気にかかって、わずかに揺れた。
　膜のように指を覆った秘液は、挿入した人差し指と中指どころか、掌全体をビショビショに濡らしているのを、並河は、そばのガーゼで密かに拭った。
『へへへ、オレ達のアイドルだった重森さんが、いかせて、だとさ。けけけ。真面目そうクセに、スケベだったのを、オレみたいなヤツに暴かれて、どんなキモチだよ』
　勝ち誇った並河は、さらに成美の羞恥をあおり、さらには自分の欲望を満たしてやろうとした。
『今なら、嫌とはいえねーよな。何しろ、自分からおねだりしちまったんだからな』
　くくられたままの脚は、大きく目の前に広がっている。
　あの時あこがれたオンナの秘部が、隠しようもなく、抵抗もできない状態で目の前にあるのだ。
　しかも、夫の前以外では、あり得ないはずの激しいオーガズムで、物欲しげにぐしょぐしょのオ○○コは、広がっていた。
『さて、いよいよ、仕上げにかかるとするか』
　黒い笑いをマスクの奥で漏らす並河。
　もちろん、気をやったばかりの成美は、ぐったりと力が入らぬまま、そんなことに気が付くわけがない。
　半ば朦朧としたまま、つかの間の満足感に浸ってしまう成美。
　ようやく与えられたオーガズム。
　すらっと長い手足が、ナイロンベルトで固定されたままヒクヒクと震えている。まだ、体中に残る快感の余韻に、甘いしびれに浸っていた。
　手足に力が、まったく入らないから、快感の残滓に震え、ただ、ぐったりしているしかなったのだ。
『キモチ、良かった……　けど……』
　今、自分が何を言ってしまったのか、いや、何をしてしまったか。
　思い出したくないほど恥ずかしい。
　それなのに、身体が、確かに、満足しきって、伸びてしまっているのが信じられない。
『こんなに恥ずかしかったのに……』
　確かに、信じられないほどの快感を味わってしまった。
　貞淑な人妻としては、自分が求めてしまったことなど、身を縮こまらせて、認めたくないキモチで一杯だった。
　だが、淫らにも、自分の口で「お願い」してしまったのを認めないわけにはいかない。あまりにも切ない虚ろさに、たまらなかったのだ。　
　耐えに耐えて、でも、耐えきれずに求めてしまったオーガズムは、成美の身も心も蕩けさせるほどに、身体を満たしてくれた。
　けだるい快感の残滓に、成美は満足しているはずなのだ。
『あぁ、恥ずかしい。もう、帰りたい。このまま、もう、帰りたい』
　大学時代にソデにした男に「逝かせて」と、おねだりまでしてしまった。惨めな恥ずかしさに、消えられるモノなら、消え去ってしまいたい成美だ。
『えっと、あ、帰って、あの人に、ちゃんとしてもらって……　あれ、あれ？私、今、なにを……』
　弾けてしまった快感も、過ぎれば、そこに不満があるのを、羞恥に混乱した成美の身体は、訴えていた。
　夫にセックスを教え込まれた人妻の身体は、指だけではモノ足りぬものらしい。
　大きく広げたままの股間で、充血した美肉が、ヒクリと震え、逞しいモノに貫かれたいと、しきりに訴えている。
　あまりの羞恥と、さらなる快感への渇望のためだろうか、一瞬の混乱と健忘の成美に、声がかかる。
「ＯＫ。よく我慢したね。じゃ、最後の検査。ちょっと待ってね。あ、それと、恥ずかしいみたいだから、やっぱりカーテンして上げた方が良いみたいだね」
　えっ？と、成美が顔を向けるが早いか、並河の手が、サッと、腹の上にくるカーテンを引いてしまったのだ。
　一瞬のうちに、視界がベージュのカーテンで遮断される。
　最近でこそ、使うことがなくなってきたが、希望する患者には、こうやって、下半身との境に、カーテンを引いて、自分の下半身を見ないようにすることができるのだ。
　そのカーテンが、いきなり引かれたのだ。さらけ出した下半身と、自分を観察する「男」の姿が、成美の視界から消える。
　だが、これこそ、まさに無防備そのものの姿。
「あの、これって」
　カーテンの向こうに、隠せない下半身と並河がいるのだ。
「あ、心配しないで。最後は経膣エコーだから。ほら、これ、こういうプローブを入れて超音波の写真を撮るんだ。これ、二種類使うからね。最初のはこれだよ」
　ひょいっと、カーテンの左から顔を覗かせた並河。
　胸元まできちんとボタンを留めた、さっそうとしたケーシー型白衣は、青年医師の表情そのものだ。
　一瞬、顔を合わせることができなくて、とっさに目を背けてしまったのだが、ほら、これ見て、と言われれば、視線を戻すしかない。
　並河が手にしていたのは、まるで、コード付きの電動歯ブラシのような形だ。一番太い部分の直径でも２センチないだろう。
「それは……」
「うん、これをね、子宮のそばまで入れて、超音波で撮影すると、腹腔越しよりもはっきりと写せるからね」
「そ、それを、私に？」
「心配ないよ。さっきのイキっぷりを見たら、痛みなんてあるはずないし」
「いやん、言わないでぇ」
　イヤイヤと頭を振る。
　さっきのことを思い出すだけでも、身の置き所がないほど恥ずかしいのだ。
　まして、それをおおっぴらに口にされれば、身もだえする恥ずかしさをどうすることもできない。
　その恥ずかしがる顔を見たくて、ワザとやっているのかもしれないと、疑う余裕などは、とてもではないが、持てない。
「じゃ、最初のはすぐだけど、二つ目の方がちょっとかかるからね。リラックスしてて、そのままだよぉ」
「あっ」
　小さな声を漏らしてしまったのは、並河が再び自分の股間に顔を近づけたのを感じ取ったからだ。
　イッてしまったばかりの、ビショビショの秘所を、隠しようもないほど広げたまま、成美は、突き刺さる視線を感じてしまう。
　手が自由なら、両手で顔を覆い、羞恥に耐える姿勢もとれるのだが、その両手が、戒められたままなのを改めて思い知ると、成美は、一層恥ずかしくなってしまうのだ。
　くくられた身体を、あからさまに覗かれる。しかも、恥ずかしい姿をさらした後のだ。
　オンナとして、これ以上の屈辱はないのかもしれないが、否応なく、それに耐えねばならないことに、なぜか、子宮の奥が、キュッと震える思いがする成美だ。
「さ、すぐだよ、ほら、どう？」
　それはあっさり入ってしまったらしい。
　ヌルッとした感触は確かにあったのだが、さっきの指の時は、強烈な刺激があっただけに、無意識に身構えた成美は、完全に拍子抜けしたのだ。
『あれが、もう、私に入ってしまったわけ？』
　違和感なく受け入れてしまっている自分が、逆に怖いほどだった。
　長さも形も電動歯ブラシほどのモノだ。
　別にブラシがついているはずもなく、なめらかな先端は、痛みなどあるはずもない。
　ツッと子宮を押し上げられる感触を、あっという間に感じた。
　ということは、想像以上に滑らかに入ったと言うこと。
　軽々と異物を受け入れてしまっている自分が、そこまで濡れてしまっているかと恥ずかしくなるほどだ。
「ほら、なるみちゃん、横のモニターを見て。それが子宮だよ。良い形だよ。うん、はっきりと映ってるね。このままだよ、ちょっとまっててね」
　いつの間に、自分が名前で呼ばれていたのか、思い出せない。
　だが、さっきイカされてしまったことが、ひょっとしてイタズラされてしまったんじゃないかという疑いは、さすがに、あったのだ。
　だけれど、あの羞恥の時間は、やっぱりイタズラではないと思えるほど、今の並河の態度は淡々とした医者の動きそのものだ。
　イキそうでイカせてもらえなかった、あれは、やはり、並河なりに、医者としてのこだわりなのだろうと、思うしかなかった。
『お医者様ですもの。やっぱり、あんなこと。きっと私がヘンになりすぎたのね』
　相手が医者としてであろうとなかろうと、自分でおねだりして、夫以外の手で、恥ずかしいオーガズムを迎えてしまったのだ。
『私って、ホントは、エッチなのかも。いああ、そんなことない。違う、絶対違うもん。でも、さっき、すっごく感じちゃったし。ああぁ、私きっとエッチだと思われてる』
　動けぬ身体を身もだえさせて、後悔と反省と、そして、エッチだと思われたくないという、切ない思いで、成美は、このまま消え去りたいと願うばかりだ。
『相手はお医者様なんですもの。そんなこと、しかたが……　あぁ……　だけど……』
　いくら自分に言い聞かせてみても、大学時代の知り合い、しかも、自分に言い寄ってきたオトコだというのは、頭から離れるはずがない。
　そのくせ、手足を縛られ、オーガズムに追い上げられたあの瞬間、たまらく甘美な快楽を受け入れてしまった自分がいる。
　自分のことであっても、ここに来る前の自分なら、信じなかったに違いない。
『これじゃ、ＳＭものの、Ｍっ子ちゃんよね』
　ＳＭもののＡＶは見たことがなくても、高校時代、ひそかにＢＬにはまった口だ。
　キチクなメガネの先輩に縛られて、次第に「目覚めて」しまう可愛い後輩、なんてシチュエーションは、珍しくもないのだ。
　成美が「縛られて喜ぶＭちゃん」を自分に重ねてしまうのは、ある意味、自然かもしれない。
　もちろん、自分がＭだなどと、思ったこともない成美だが、一瞬、宙に泳いだ視線のナカで、さっきの甘美なオーガズムを反芻してしまう。
『恥ずかしかったけど。なんか、クセになっちゃったらどうしようって感じよね。あ〜ん、ダメ、思い出しちゃ。これ、私の黒歴史よぉ。もう、思い出しちゃダメぇ』
　そのくせ、ゾクリとした快感が、身体に兆してしまったその時だった。
「ちゃんとモニタ見ててね。こっちのプローブじゃないと、画像はリアルタイムで映らないから。今のうちだよ、よく見て、自分の子宮を。ほら、この上にあるのが卵巣」
「え？あ！は、はい、すみません」
　カーテン越しに、自分の淫らな連想を見抜かれてしまった気がして慌てて目をやると、くっきりと白い影がモニタに映っている。
「ほら、ね、これ、はっきりみえるでしょ？」
「え、ええ。本当に。はっきり、見えます」
「じゃ、ここから連続撮影になるんで、早い動きをじっと見てると酔うからね、ちょっと気をつけて」
「あ、はい」
　いったい何が始まるのかと身構える余裕もなく、画面が激しく揺れ始めた。
　プローブが激しくピストン運動をし始めたのだ。
『あ、ちょ、ちょっと、これ、あたる、あたって、あん、だめぇ』
　たいした太さでもなく、滑らかな形。
　さっきの指のように、ヒダの奥をかき回してくるわけでもないから、入り口以外は、さほど感じるわけもない。
　だが、奥まで入る瞬間、確実に、指がクリトリスに当たるのだ。
『あん、だめ、さ、さっき、イッたばかりなのに……』
　夫なら、一度イッた成美を、立て続けに弄ってくることなどない。イッたばかりの身体では、くすぐったく感じるのだ。
　だが、どうしたことなのか、くすぐったいどころか、鋭い快感が生み出されてくる。
　そして、クリトリスで感じ始めると、滑らかな、その細いものですら、モノ足りぬ、しかし、確実な快感を生み出してくるのだ。
「はっ、うっ、くっ」　
　今度こそ、感じてはならない。
　さっきは、初めてで、訳の分からないうちにどうしようもなくなっていた。
　貞節な人妻が、いくらお医者様相手でも、あの羞恥のオーガズムを、もう一度、見られてしまって良いはずがない。
『絶対に、感じないもん。ダメだもん。絶対……』
　成美は決心したはずなのだが、こみ上げてくる白い電流が止まらない。
　ヒクン、ヒクン、ヒクン。
　クリトリスに当たる度に、電流が生まれる。ナカで滑らかに動く、プローブが、頼りなげな快感を生み出してしまう。
『そんなぁ、こんなの、絶対に、あん、あぁ、だ、だけど、あ、こ、これぇ』
　成美は、驚くべきことに気が付いたのだ。
　イッたばかりの身体は、さっきよりも何倍も敏感で、あきれるほどたやすく、さっき以上の快感を呼び覚ましてしまうことを。
　身体が勝手に、もっと、もっとねだっている。
『あぁん、感じちゃダメなのにぃ。あん、おかしくなりそう、これじゃぁ』
　早くも暴走の予感がしていた。
「はい、じゃあ、今度、奥の方。円運動になるからね」
「は、い」
　いったい何をされるのか。分からなくても、患者は医師のすることを受け入れなくてはならないのが病院なのだ。
　まして、両手も両脚もくくられて、どれほど恥ずかしくても、女性の大事なところを隠せない、今の成美の姿。
　ライトに照らされ、こんなにはっきりと、夫にすら見せたことがない場所を、顔からたった数十センチで見つめられているのだ。
　なぜだか、それを思うと、子宮の奥がキュンとしてしまうなるみだが、そこをプローブの先端がヌルリとかき回す感触が襲ってきた。
　おまけに、一番奥に入れたまま動かしているせいなのか、クリトリスに、クリクリと、ずっと指が当たり始めたのだ。
「ああ、あ、あう、あん、あ、だ、だめ、あうう」
　お湯の沸き始めたケトルの音のように、成美のソプラノの淫らな声が、一気に噴きこぼれてしまう。
　ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ。
　カーテン越しに恥ずかしい音が微かに聞こえる。
　自分がどれだけ濡れているのか、思い知らされる成美。
　だが、そんな淫らになってしまった秘所を、今も、じっとすぐ目の前で見つめられているのかと思うと、さらに子宮が蕩けそうな快感があふれて困惑するしかない。
「あ、あう、あの、ま、まだ……」
「うん。もう少しだよ。ちょっとまってね。連続画像だから、途中で途切れちゃうと困るでしょ」
　今やずっと当たっている指は、リズミカルにクリトリスを撫で回していて、鋭い快感が脳を貫いてくる。
　そのくせ、奥に入ったプローブの丸い先端は、そんな場所に感じる場所があったんだと教えてくるように、頼りなげな快感をかき立ててくる。
　大事に開発されてきた人妻の身体は、指だけでイッたままになることなどほとんどない。当たり前のことだが、すぐに、夫の逞しいモノが、満たしてくれるのだ。
　だが、今は違っている。
　夫とも経験したことのないような派手な快感も、指だけ。
　そして、頼りなげな細い、プローブが生み出す、ものたりない快感。
　感じてしまうのは確かなのだが、灼熱の太陽のような、ひりつく快感を、成美の身体は求めてしまっている。
『いやん、これ、検査なのに。ダメ、私ったら、こんなので。耐えなくっちゃ。耐えるの。ううん、こんなんで感じたりするなんてダメなの！』
　こみ上げてくる快感。
　クリトリスの鋭い快感と、子宮のすぐそばをかき回している、切ないほど、淡い快感。
　二つが、カーテンの向こうで、下半身に合わさって、成美の背中は、快感にのけぞり始める。
『あ、あう、くぅう、だ、めぇ、だめぇ……』
　手が戒められているのが、辛かった。口を塞ぎたいと、成美は強く願ったのだ。
「あ、ああ、あう、はううぅ、あうぅ」
　獣じみた、切ない声が出てしまう。
　ナカをかき回すプローブは細すぎて、物足りない。
　切なさだけが、つまりは、太いモノでとどめを刺して欲しくなる欲求不満をもたらすが、クリトリスをいじり続けられれば、オーガズムから逃れるのは難しいのだ。
　止められない。
　ピンク色をした鋭い電流が、成美の腰から脳に貫いて、弾けそうになっていた。
『あぁ、恥ずかしい、だけど、だ、けどぉ、あ、あぁ、ま、また、これじゃ、あう、また、逝っちゃいそう、あ、う、いっ』
　イクッと、全身が爆ぜそうになった、その瞬間、まるで、狙いしましたように、さっと、下半身に訪れた空虚。
「ああぅ、あぁ」
　口元から噴きこぼれる無念の嗚咽。
　あと、ホンの少しでイケた。
　めくるめくオーガズムを期待した身体は、文句の代わりに、全身が軋むような、不快感の電流を流していた。