その６ もう一つの


　はあ、はあ、はあ。
　荒い息が収まらない。腰だけが、無念を表すように、ゆっくりとした動きでうねりを見せていた。
『あぁ、もう、ちょっとだったのに、あと、ホンのちょっと、あぁ、だけど、これで……　もう……』
　泣きたいほどのうつろさに身もだえ、そして、ホンの少しだけ残っていた理性が、羞恥を迎えずにすんだ安堵を浮かべている。
　とはいえ、与えられなかったオーガズムを求めて、身体は勝手に、腰をうねらせてしまっているが。
『両手が動かないようになってて、良かったかも』
　強烈な「飢え」が子宮をとらえ、油断したら、自分の指をそこに当ててしまいそうな気分になっているのを、成美の理性が恥じていた。
　そこに、冷静な医師の声が、被さってくる。
「じゃ、次のプローブは、強い超音波を使ってさらに精細に写すからね。こっちの画像は、リアルタイムで見れないから、なるみちゃんは、そのまま天井でも見てて」
『天井？』
　気が付かなかった。
　そこには、ギリシャ神話の数々のモチーフと、星々と星座が描かれていた。
「わ、すごい」
「へへへ。ね、それ、わりと患者様に好評なんだよ。そのまま、リラックスしててね。こっちは太いから。リラックスしてくれた方が良いよ」
　お腹の上で引かれたカーテンの向こう側で何をしているのか、成美にはよく分からないが、声のする位置からすれば、並河は立ち上がっているらしい。
　恥ずかしい場所のすぐそばから、顔が遠ざかったのに、少しホッとしてしまう成美だ。
「ＯＫ。ちょっと、位置を調整するからね」
　カーテンから顔だけ覗かせた並河は、白衣の上がはだけて、仕立ての良いＹシャツと落ち着いたアーガイル地のネクタイが見えている。
『あ、こういうネクタイ、高いのよねぇ、あ、そんなこと考えてる場合じゃないわね』
　とっさに、夫にプレゼントしたことのあるネクタイと比較して、値段を考えてしまう主婦の発想に、自分でも微苦笑してしまう。
「じゃ、動きま〜す」
　小さなモータ音とともに、数センチ。
　さっきよりも、よほど、近くに立っているのか、カーテンの向こう側の下半身に、ほんのりと並河の体温を感じた気がした。
「じゃ、プローブをくっつけるね。さっきよりも太いから、少しずつ慣らすからね」
「あ、は、はい」
　太い、といわれて、なんとなく夫のモノを浮かべてしまった成美は、慌てて、自分の妄想を打ち消さなくてはならなかった。　
『でも、さっきよりも、太かったら……』
　あの細いプローブを思い出している。
　２センチほどのプローブを受け入れて、恥ずかしくても、物足りない快感を味わってしまっている。
　太いと言っても、どれほどか分からないが、あんなに細いモノでオカシクなってしまったのだ。
『神様……　どうか、私の身体がエッチになりませんように』
　さっきよりも太いモノを入れられて、自分がどうなってしまうか不安になるのも当然だった。
　一方、そんな緊張も、白い太ももがヒクリとするから、並河には、お見通しだ。
『へっ、太いものを入れるとなると、期待するワケか？思ったよりスケベなんだな、なるみちゃん』
　にやりと笑った並河の白衣が、大きくはだけていた。
　カーテンで、成美の視界を遮ってある。
　ズボンもブリーフも膝まで下ろした並河の腹は、一日中座りっぱなしで、このところ脂肪がつき始めているが、そのヘソに届きそうな角度で、怒張がそそり立っていた。
　夫しか知らない、楚々とした女芯が、物欲しげに濡れそぼって、すぐ目の前に広がっているのだ。
　もちろん、診療台の高さを微調整して「自分の高さ」にしてある。　
　ちょうど怒張の高さに合わせた台で、脚を広げきって、さらけ出された秘所。
　見るからにしまりの良さそうな美肉の入り口が、怒張を入れてと言わんばかりに、ヌルヌルとした液体にまみれている。
　指一本分だけ、口の開いているその場所に、このまま、腰を突き出すだけで、簡単に怒張を埋めることができるのだ。
『けけけ。さあてと、でも、タダでは入れないからね。自分からおねだりさせてみせるからね、なるみちゃん。たっぷりと、スケベっぷりをみせてもらおうじゃん』
　カーテンに隠れて、もはや表情を取り繕う必要も亡くなった並河は、もはや、ニヤニヤした、好色な笑みが浮かんでしまうのを隠さない。
　なんといっても「生け贄」は、大学時代に狙って落とせなかった唯一のオンナ。
　その美肉を、いよいよ味わえるのだ。
　はやっている開業医の一人息子として、なんでも思いのままになるように育てられた並河だ。
　初めての挫折を味合わせてくれた女が、自分の思いのままになるこのチャンスに、頭に血が上ってしまうのも当然だったかもしれない。
　もちろん、これが犯罪だという意識もなければ、もし万が一、成美が訴えれば、どのようなことになるのか、なんてことは思い浮かばない。
　エゴばかり発達した男に良くあるように、こういうときは、自分にとって都合の良い結果しか思い浮かばないモノなのだ。
　今の並河の目に浮かぶのは、自分のモノに屈服して、オーガズムにのけぞり、やがて自分の女になる成美の裸身だ。
『大丈夫だ。なんていっても、こんなことを表沙汰にしたら、恥をかくのは、なるみちゃんだもんな。いや、あんまり、感じて、オレの女になりたがるかもよ』
　ついさっき、自分から「逝かせて」と言わせたのが自信の裏付けになっていた。
『お？待ちきれないのか？』
　ヌルヌルにあふれた入り口が、指一本入れるほどの口を開けて、そこが、まるで男を求めるようにヒクリと蠢いたのを見逃さない。
　事実は、じっと見つめられる視線を、恥ずかしい部分で感じ取った成美は、恥ずかしさがこみ上げて、なぜかヒクリとさせてしまったのだが。
　カーテンの向こうの気配が、何か変わった気がして、成美の何かが、チリチリと危険信号を発しているのだが、そもそも、こんな姿自体が、羞恥の極みなのだ。
　これから始まる「検査」で、恥ずかしい姿にならないことだけを、身をすくめるようにして案じるので精一杯なのだ。
「はい、じゃあ、くっつけまーす。大丈夫。さっきより、表面は柔らかいからね」
　言葉が終わらないうちに、成美は、秘部にグニュリとした圧迫感を感じた。
「っく」
　ビックリした。
　それは、あまりに、夫のモノが入ってくる瞬間に似ていた。
　入ってくると言っても、ホンの入り口までなのだが、その感触は、夫との、あの時とあまりに似ていたのだ。
『これ、あれみたいな大きさなの？』
　とっさに夫のモノを思い浮かべて、慌てて、それを打ち消さなくてはならない。
　もし、思い浮かべてしまえば、夜の営みの時のように、身体にわき起こる快感が、そのまま一気に来そうな気がしたのだ。
『あっ、だけど、これ、あ、ちょ、ちょっと、あ、これ、ま、待って、動かさないで』
　身をよじるようにして、こらえねばならなかった。
　さっきイッたばかりの身体に、まるで夫のモノのような存在を、こうやってヌルリと押しつけられてしまえば、感じるのも当然なのだ。
　押しつけられたプローブは、まるで夫が焦らしてくるときのように、ぐにゅ、ぐにゅっと入り口辺りをかき回してくる。
「あっ、あ、ああ、あう」
　声が漏れてしまった。
　強烈な快感の予兆。
「これ、ちょっと大きいから、だんだん、馴染ませていくからね。もし、じれったくなったら言ってね」
「は、はい、つっ、ん、んん、んっ」
　唇をかみしめてこらえるが、鼻から、声が漏れてしまう。
『あん、いやん、これ、す、ご、い。あん、濡れちゃってるぅ、わたしってば……』
　腰が動いてしまった。
　検査なのに「じれったくなる」とは、どういうことなのか。成美は、そんなことを考える余裕もない。
　自分がいかに濡れてしまっているのか、羞恥に打ちのめされてしまう。
　それなのに、こうやって浅くかき回されているだけで、わき上がってきてしまう快感が、成美を染めてしまうのだ。
　おまけに、馴染ませるからと言いつつ、その太い「プローブ」は、成美のクリトリスにまで、くねくねと押しつけられてしまう。
『あ、だめ、あぁ、なに、こ、これぇ、へんになったら、だめよぉ、こんなので、ヘンになっちゃったら』
　なんでクリトリスまで、と思う余裕などない。
　野太い快感の合間に、キューンと、鋭い快感。
　そのくせ、奥まで、ズブリと貫いてこない、物足りなさ。
「はう、あ、くぅう」
　さっきのプローブなど、比較にならなかった。
　グッと押しつけられた圧倒的な存在感は、まるで、ホンモノを押しつけられている感じなのだ。
　時折、グッと入り口に浅く侵入してくる瞬間など、まるで犯されているみたいな感じさえしてしまう。
　子宮を圧倒する快感が生まれている。
　こらえきれない。
　女の本能が、オトコを受け入れる快感を、むさぼってしまうのだ。
『あん、なんなの、これぇ、まるで、本当に、あん、ダメ、ヘンなこと考えちゃ、そんなこと、あるはずが……』
　悩乱した成美の想像は、もちろん当たっている。
　並河は、腰を使って、生け贄の秘所を楽しんでいた。
　グッと戒められて広げられた白い両脚は、妨げるものがないように、あり得ないほど角度を広げているから、並河が近づいても、皮膚は触れあわない。
　グッと突き出した怒張が、上を向きすぎないように押さえねばならなかった。
　押さえつけたまま、腰の動きだけで、既に、にじみ出した透明な滴を、成美の濡れきった美肉に、なすりつけるように動かしているのだ。
「あう、は、う、く、ああぁ」
「苦しいでしょ？はっ、でも、少しの辛抱だよ、よいしょっと、うん、ローションなしで十分いける。なるみちゃんが濡れてるからね」
「あん、いやぁ、おっしゃらないで」
　もはや、濡れてないと言い張ることもできないほど濡れていた。だが、改めて口にされると、恥ずかしさがこみ上げてしまうのだ。
「う〜ん、こんなに濡れるんだもん。気持ち良いみたいだね」
「うそ、うそよぉ」
「ま、少しガマンだよ。だんだんと慣らすからね」
　優しげな声を出しているつもりでも、激しい興奮で、言葉の合間に、荒い呼吸が挟まっているのだが、成美には、気が付く余裕もないらしい。
　クチュ、クチュッとかき回すだけで、まるで、もっと奥へと誘うように、腰が動き始めているのだ。
　もちろん、成美には、そんなつもりはないのだが、理性を圧倒し始めた快感をこらえるのに精一杯で、身体の動きまでかまっていられないのだ。
『あん、あぁ、これ、なんか、あぁ、これ、だんだん、入ってくるぅ』
　プローブを受け入れているつもりの成美。
　事実は、並河が本当に浅く侵入しているのだが、カーテンの向こうで何をしているか見ることができないのだ。
「はぅ、ぅくっ、あ、あ、あん」
　小さな声が漏れている。
　グニュッとかき分けられた瞬間、重厚な快感が子宮を貫いた。
　さっきまでとは全く質の違う快感が腰に響いてしまうのだ。
　まさに、ホンモノの快感だと言っていい。
「まだまだね、これ、じっくりいきますので、少しガマンしてくださいね」
　亀頭を半ばまで、ピッチリとした肉に包まれる快感を味わいながら、並河は、じっくりと責め続ける余裕がある。
「え、あっ、あん、あ、は、はいぃ、いっ」
　成美にとっては、たまったモノではなかった。
　無機質な医療器具ならば、あるいは、感じなかったかもしれないが、そうとは知らぬこととは言え、怒張を挿入されかけているのだ。
　夫とのセックスで開発されてきた人妻が、感じないわけはなかった。
「あうっ、くうぅ、あう、あん、ああぁあ」
　中途半端な侵入は、逆に官能を強く刺激してしまった。
　腰をヒクリと突き上げて、迎え入れたくなる衝動を何とか抑え込みながら、成美の唇から、快感の嗚咽が止まらなくなってしまったのだ。
「くぅう、あう、あぁ、だ、だめぇ、あっ、あん、そ、そんな」
　自分が何を口走ってしまっているのか、意識する余裕などなくなっていた。
　身体が欲しがっている。
　いや、成美のオンナそのものが、それを欲しがっていた。
　美肉に侵入しかけている圧倒的な存在を、全身が震え出すほどの切なさで、受け入れたがっていた。
　だが、人妻の予感だろうか。
　あるいは、これ以上恥ずかしさをさらしたくない、成美の理性のなせるワザだろうか。
　理性が赤信号を発していた。
『ダメ、何か、これ、入れちゃダメな気がするけどぉ、ああぁ、これ、このまま、あぁ、欲しくなっちゃってる、ダメ、違うのよ、だって、検査なんですものぉ』
　検査のはずなのだが、成美の頭に浮かぶのは、寝室での夫との秘め事。
　今にも夫が入ってくる瞬間に、それはあまりにも似すぎているのだ。
　いや、焦らしに焦らされているのは、夫にもされたことのない「プレイ」に等しい。
　今も、クチュ、クチュッと、浅く入れては出し、次の瞬間には、グッと圧迫し、入り口で微妙な動きをされている。
『あ〜ん、こんな風にされちゃったら、欲しくなっちゃうよ〜』
　検査のはずなのに、セックスそのものの予感。
　それを感じているせいか、このまま、これを入れてはいけないと注意信号が点滅しているのだが、検査を受けないわけにはいかないと、成美は思わざるを得ない。
　おまけに、オンナの本能は、圧倒的な存在感に、全てを委ねてしまいたいという欲望で、成美の頭をいっぱいにしてしまうのだ。
　逃げようとしても、戒められている身。逃げようもない。いや、医者の検査から逃げ出すなんて、患者のして良いことではない。
　ピンク色のモヤがかかった成美の理性は、いくつもの言葉が浮かんでは、モヤの彼方に消え、再び、互いに絡み合っては浮かび上がって、何が何だかわからない。
　どうしていいのか、いや、どうするべきなのか分からなくなっていた。
　悩乱する成美に、考える暇も与えず、入り口で微妙な出入りをし、グッとクリを圧迫してから、さらに、微妙に浅く侵入してくる。
　どれも全て、きわどい快感を、成美の子宮に響かせてくるのだ。
　クリトリスだけでは、あるいは、指だけではあり得ない、響くような快感。
　男の逞しいモノに、美肉を蹂躙される悦びを知ってしまった人妻だけに、その、重低音で響いてくるような快感の予兆に逆らうことなど、難しいのだ。
　人妻の子宮は、美肉を、グッと押し広げ、深く突いてくる怒張の、もっと、もっと深い快感を求めてしまうから、入り口だけでは、ひどく頼りない感じもするのだ。
『あん、こんなになっちゃってる……　恥ずかしいのにぃ』
　どれほど濡れてしまったのか。
　クチュ、クチュッと湿った音がカーテン越しに聞こえているのは、ひどく、恥ずかしかった。
『あん、これ、ああぁ、だめ、もっとって言いたくなっちゃう。このまま、奥まで入れられちゃったら。きっと……　あぁだめ、そんなこと、ない、だめ、いや、そんなこと』
　入れて欲しいという言葉を、慌てて打ち消す成美だ。
　医者に検査されて、恥ずかしい反応を示すことなど、あってはならない。まして、その医者は、大学時代に知っている相手。
　これ以上恥ずかしい反応を示してはならないのだ。
　いや、淫らにも感じてしまったあげく、医療器具を「入れて欲しい」だなどと思ってしまうことなど、あって良いはずがないのだ。
　グッと押し広げてくる。
　じれったくなるほどの、慎重さ。
　グッと押し広げ、わずかに侵入してくる瞬間、ついつい、成美は、そのまま身体がかき分けられてしまう快感の予感を覚える。
　だが、ゴクリとつばを飲み込み、奥まで貫かれる衝撃を予感する瞬間、それは、引いてしまうのだ。
　もはや、じれったさは、限界に達している。
『ああぁ、いっそ、もう、はやく、入れてぇ』
　この太いプローブを入れられてしまえば、自分がどうなってしまうのか、成美には見えている気がしている。
　またもや、女の羞恥の頂点を迎えてしまう。
　それをじっくりと見られてしまうのに。
　だが、それがわかっていても、身体は、勝手に快楽の頂点を要求していたのだ。