その７　代わりに


　大学時代にソデにした男に、じっと見つめられながら、イッてしまう。
　そんなこと、あって良いはずがない。
　昨日までの成美なら、そんなこと考えることさえ、おぞましいことだろう。
『あ、でも、あ、もう、限界、だって検査のためですもの、ああぁ、だって、お医者様なら、しかたがないの、あぁ、だけど、恥ずかしい……　けどぉ、あぁ、もう、だめぇ』
　検査のためなら仕方ないではないかと、言い訳している自分がいる。
　どんなに恥ずかしいことであっても、医者にされることなら、仕方ないと。
　それなら、どんなに恥ずかしくても、イクのは仕方ないではないか。
　成美の理性は、既に、女の本能に押さえ込まれていた、
　それこそ、ずっと中途半端なまま、焦らしに焦らされて、悲鳴を上げている子宮が訴える「飢え」。
　子宮も美肉も、オーガズムの瞬間を恋しがっていた。
　もはや、入り口の、ホンの浅い部分だけを、いつまでも、ヌラヌラとされていることに耐えられないのだ。
　かといって、イカせて欲しいと、口にできるほど開き直ることもできない。
『だめっ。絶対にダメ、そんな恥ずかしいこと言えない。あぁ、あ、だけど、あぁ……』
　成美は、ボブカットの髪を、左右に振り立て、最後の最後まで、貞淑な人妻でいようとしていたのだ。
　その時、カーテンの向こうから、さっきまでとは違ったトーンの声が、聞こえてきた。「ね、何か、欲しそうだよね。感じてる？このまま、これ入れたら、またまた、イッちゃうんじゃない？」
「いやぁ！そんなことぉ、そんなこと、ないぃ、あっ、あああぁ」
　恥ずかしい心を見透かされた気がして、必死で否定する成美。
「だけど、ほら」
「あう！だめぇ！ああぁあ！」
　メリッと音がしそうな気がした。
　さっきまでの入り口だけの動きから、たった数センチだが、奥に来たのだ。
　ヒクンと反応した、しなやかな背中の内側を、脳に向けて、白い津波が駆け抜けていった。
　ハアハアハア。
　ほんのわずかな動きで、軽くイッてしまったのだ。
　白い身体のあちこちがケイレンしている。
「ねえ、ほら。このままだと、プローブでイキまくった女になっちゃうじゃん」
「いやあ！いや、いや、いや、言っちゃイヤ、言わないでぇ」
「いいけどね。ね、でも、さ、昔のよしみってヤツでさ」
「あ、う、な、なに？」
　つかの間、味わった、ホンの少しだけ入ってきた満足感を、あっという間に引き抜かれて、人妻のねっとりした動きで、腰をうねらせる成美。
「あのさ、良かったら、プローブでイクより、ホンモノでイッた方が良くない？」
「え？え？え？どういうこと？」
「あのさ、オレも普段、患者さん見てるけど、なるみちゃんほど、エッチになったのを見るのは初めてなんだよね」
「うそっ、うそっ、そんな、言わないで！ウソなんだからぁ」
「だって、こんな風になってる。分かるだろ？」
「あうう、あああ！」
　クリトリスが、クルクルと撫で回された。
「こんなに感じてるのなら、ホンモノの男が欲しくなるだろ？どう、これ？」
「あうぅ！」
「ほら、こっち。これ、いいだろ？」
「ああん、それ、だって、それ、プローブとかいうんでしょ？」
「ふんふん、へへへ、分かっているくせに」
「え？え？」
「ほら、どう？」
　浅くめり込んできた。
「あうう！」
「まさか、人妻が、ホンモノを分からないわけないよね」
「そんな！ね、違うわよね、ね、違う、違うって……」
「なあに、ほら、一度、ここまでは入ってるんだしさ」
「あぁあん！だめ！いれちゃ！だめ！あぁあ！いやぁ！」
　懸命に拒否しているはずなのに、全身に力が入らない。
　理性は、腰を逃がそうとしても、くっ付いた大きなモノから、身体が離れることを拒否しているのだ。
「あん！」
　それどころか、クチュッと音を立ててこすり上げられると、快感の声を抑えられない。
「たったこれだけだよ、ほら、もっと欲しくならない？」
「いやあ、あう、あ、あう、あ、だめ」
　わずかに入ってきたモノが、抜き差しすると、成美の意思を無視して、勝手に身体が感じてしまうのだ。
「じゃ、さ、こうしよ。一度、グッと入れて上げるから、それでイヤなら、そこでやめるってのは？」
「ああ、いや、ダメ、入れちゃぁ、ああん！」
　グッと、さっきまで入っていた場所よりも、ホンの少しだけ侵入が深くなったのだ。　女体は、敏感にそれを悟って、感じてしまう。
　並河のモノは、ごく普通の大きさ。
　だが、飢えて、ヌルヌルになった女体に、亀頭は完全に没入していた。
　その圧迫感は、成美の理性を吹き飛ばしてしまう。
「あぁ、だめぇ」
「大丈夫。ほら、このまま、ちょっと、奥に入るだけだからね」
「いやあ、だめ、そんなことしたら」
「感じちゃう？」
「違うのぉ、いじわるぅ、いやあ！」
「だけど、嫌がっているのに、なんで、腰が動いているの？」
「そんな、動いてなんて、動かしてないもん」
「ちゃんと自分の身体を見つめないとね、ね、どう？一度だけ、奥に入れても？」
「だめ、そんなことしちゃ」
「だけど、もう、ほら入っているも同然だし、ね、これ、一度奥まで入れて、イヤだったらすぐ抜くよ」
「そんなこと」
　奥まで入れたら、セックスになってしまうではないか。
　とっさに、そう思った成美だが、既に、先端の亀頭部分だけとは言え、入ってしまっているのを、無意識のうちに考えないようにしているのだ。
　セックスとは、男のモノが、どれだけ入ってしまうことなのか。
　考えようによってはもう、セックスの最中だといえるのではないか。
　いや、客観的にさえなれれば、今の状態はセックスしているのだと、成美だって思うはずだ。
「ね、だって。あぁん、いや、だめぇ。それ以上は、それ以上は入っては、だめ！」
「え？ダメなの？ほら、ほら、こんな風に、入っちゃってるのに？」
　美肉に包まれた亀頭を、わざと、微妙にピストンしてみせると、ホンのわずかだが、腰がしゃくり上げるように動き始めている。
　もはや、成美の美肉は、並河を受け入れたも同然だった。
「ああん、いやあ、あう、あ、あん、あ、あん」
　ほんのわずかな、ピストン運動だというのに、こらえようのない快感に翻弄されて声もガマンできないのだ。
　グッと、美肉を押しのける気配。
『ダメ、入っちゃう！』
　戒められた身体をとっさに引こうとしたのだが、逆に、身体が勝手にグッと広がってしまう。
『うそっ！』
　信じられなかった。
　身体が、勝手に怒張を受け入れようとしている。
「ああうう！」
「ほうら、半分だよ。どう？ほら、いいでしょ、ほら、ほら、ほら」
「あん、あん、あん、あん、だ、だめぇ、あう、あん」
「ね？ほら、一度で良いからさ、奥まで入れさせてよ」
「だめ、そんなこと、だめぇ！ああああ！」
　少しだけ深く入れる度に、白い腰が震え、カーテンの向こうでイッてしまう成美。
　もはや、ここまでくれば、抵抗などできるはずもない。
「ね、ここまできたら、全部でも、同じだろ？ほら、ね？」
「あん！だめ！入れちゃ！あうう、あん！まって、あううぅ、お、お願い！」
「だけど、ほら、もう、やってるのと同じじゃん、ね？」
「ああぁ違うう！」
　腰をうねらせてはいるが、半ば埋め込まれた怒張を引き抜く動きにはならなかった。
『ＯＫ。どうやら、完全に落ちたな』
　成美は、嫌がってない。
　すくなくとも、快感に負けた今なら、拒否することなどできない。
　こうなれば、子宮に届けとばかりに、一気に決めることだって簡単だ。
『そんなんじゃ、面白くないからね。チ○ボを奥まで入れてと叫ばせてやるからよ』　
　そのためにこそ、たっぷりと準備したのだ。
　自分をかつてソデにした女を犯すだけでは、飽き足らず、羞恥の極致の中で、本当は淫乱だった本性を見せつけてやりたかった。
『さて、カーテンを開けて、イヤらしくなった顔を拝ませてもらおうか』
　並河が、カーテンに手を伸ばすと、少しだけ深く入った怒張に、また、成美がのけぞった。
「あううう、あう！」
　今にも犯される人妻にあるまじく、またもや、オーガズムにのけぞったのだ。
　深く入る度に、その快感も深くなり、たとえ、他人のオトコを入れられているのだと思っても、人妻の身に、そのオーガズムは、強烈になって当然なのだ。
　ヒクンヒクンと怒張を締め付ける動きに並河は、一瞬だけ、迷った。
『とりあえず、一番奥まで、味わって、その後、たっぷりと遊ぶか？なあに、どうせ不妊治療に来るぐらいだ、このまま出しちまっても……』
　人妻の胎内深くに出す。
　ふとその魅力を思いついてしまった並河は、瞬間的に決断した。
『よし、このまま、一発やってから』
　腰にグッと力を込めようとした、その時だった。
　診療台の横についている内線が、鳴った
「え？」
　観念した女体。
　金属音がするほど硬直した怒張を、このまま、ほんのわずかに突き出すだけ。
　かつて、自分を寄せ付けなかった女の秘奥を、ズブリと犯す瞬間だったのだ。
　タイミングがタイミングだけに、その電話の衝撃は大きい。
　とっさに、腰を引いてしまった。
　一瞬、動けぬほど驚いている。
「あっ、くっ」
　目の前の、ヌルヌルの女芯が、不満げに、ヒクリと閉まって、腰がうねうねと動いているが、それどころではない。
『何で、こっちが鳴るんだ！』
　デスクの電話ではない。
　検査台についた方だ。
　ずばり、この内線に掛けてくるなら、並河が診察室の机ではなく「今、診療台にいる」と知ってのことになる。
『相手は？』
　とっさに、父親を思い浮かべ、まさか、と思う。
『バレた？』
　喉から入れた手に心臓を捕まれてしまったように、キュッと身を縮こまらせた並河は、とっさに身体を捻って電話を取った。
「おい。彼女をウチに連れ込むのは良いが、お前の部屋の方にしろ。そういうことをヤルんなら、その手のホテルに行け」
「え？」
「もし、ナースにでも見られたら、クランケ相手と誤解されて、あっという間に、みんな辞めてしまうぞ。それともウチをつぶしたいのか？」
　静かな父親の声には怒りがみなぎっていた。
　どうやら、遅くまで戻らない息子の様子を見に来たのだろう。さすがに、患者相手に不埒をしているとは思わなかったのか、あるいは思いたくなかったのか。
　いや、おそらくは、クランケ、つまり患者相手の「おいた」と知って怒りをぶつけているに違いない。
　並河の父親も、決して、その辺り聖人君子というわけでもないし、息子にもうるさく言ってきたことなどないのだ。
　高校時代、深夜に息子の部屋から女の子が出てこようと、成績が落ちない限り何も言われたことがなかったくらいだ。
　それなのに、この怒りをみなぎらせた静かな声は、息子が医者としての犯罪を犯してしまったと知ってのことからだろう。
　とはいえ、息子を犯罪者扱いするよりも、それなりに無難に収めた方が良いに決まっていた。
　そこで、ともかくも、跡継ぎの不良行為をたしなめるために、内線を掛けたのは、騒ぎを最低限に抑えたい父親の、精一杯の怒りの表現ではある。
「ちゃんとマルく、納められるな？」
「は、はい！」
　既に縮こまってしまった怒張の先端から、ツッと透明な滴が垂れるのもかまわず、ビクンと直立する並河だ。
「よし。それができたら、後で話を聞こう。全力を尽くせよ。もめ事はごめんだ」
　最後まで静かな声のまま、ガチャリと切れてしまった。
　その受話器を見つめて、並河は蒼白になる。　
『親父にバレた』
　さすがの並河も、自分のやっていることがヤバ過ぎるのを思い知らずにはいられない。
　ついさっきまで、みなぎるモノにあふれていた怒張は、あっという間に、見るも無惨なほど縮こまり、毛の間にうずくまるひな鳥のようになってしまった。
「あ、えっと、あ〜」
　覚悟を決めたはずの女体が、ヒクリと腰を蠢かしている。
　だが、今の並河は、もはやそれどころではなかったのだ。
　なんと言い訳すれば良いのか途方に暮れながら、何とか丸め込む方法ばかりを考えていた。