４　夢魔覚醒

「この男を知りませんか？」
　ほかに方法がなかったのはよくわかっている。しかし、もっと効率的なやり方はないだろうか。『見た目的』に探偵には見えない活発そうな少女は、依頼者の近隣に住む住人に写真を見せながら歩くという、ある意味途方もない作業を行っていた。
　彼女が受けた依頼は、『自分を強姦した犯人を捜してほしい』というものだった。警察沙汰にできない気持ちはわかるのだが、だからといってそんなことを探偵に依頼できるものだろうか？
　『彼女』はずっとそれが疑問だった。

　依頼者は、薄暗くなった空の下を歩いていたとき、突然物陰から飛び出してきた男に頭を殴られて昏倒、廃屋に運び込まれて陵辱された、というのである。
『今でもそのときの記憶は、わたしの頭の中に焼きついています』
　依頼者の声はそういった。本来なら切羽詰った様子であるべきなのかもしれないが、依頼者の女性はそうではなかった。
　悲痛な声を出すでもなく、涙ながらに話すわけでもない。どこか淡々と、ときにうれしそうにそれを話すのだ。

　妙なのはそれだけではなかった。女性は犯人の写真を探偵に提供した。だが…。
『実は…今の話は、わたしの前世の話なんです』
　依頼者が探偵に継げた話はそこで終わった。つまり、写真の男は、『前世の自分を犯した犯人の今の姿』だというのだ。

（われながらバカバカしい依頼を受けたものね。前世の人間なんて、知っているわけないじゃない）
　探偵…冴は、少し後悔しはじめていた。
（でも、これはわたしが受けた依頼、真夜には負けていられるものですか！）

「でも、いくら『念写』で顔がわかったとはいえ、なんで前世で自分を犯した犯人なんて捜そうとするのかしら？」
　写真の男をまじまじと見つめながら、冴は考えをめぐらせていた。確かに、自分が犯されれば犯人を憎むだろう。
　しかし、それが前世の話ならば所詮今は他人だ。顔や素性、そして強姦の事実がわかっていたとしても、今を生きる自分に被害があったわけではない。また、問い詰めたところで犯人が前世のことを覚えているわけもまったくない。
　『頭がおかしい』と捉えられるのがむしろ普通といえるだろう。

　峰岸冴は、数年前に真夜と脩平が出会った事件に巻き込まれた形で、その後氷室探偵事務所の一員となっていた。
　所長の氷室裕と妻彼方の間に子供ができたため、現在は脩平が所長代理としてリーダーとなっている。
　そのため、どんな依頼もとりあえず脩平を通さなければならないのが一応のしきたりだった。
　だが、冴は脩平が不在のときに舞い込んだ依頼を独自に受けて調べていた。なんとなく自分向けだと思ったからである。
「割といい男といえばいい男ね。脩平君には負けるけど」
　さて、脩平には真夜という妻があるが、冴は冴で脩平に恋慕している。高校時代冴は脩平に告白し、断れたこともある。
　しかし、奇しくも彼ら三人は『特別な存在』であった。
　あれから五年近くが経過したものの、彼ら三人の外見（プラス氷室彼方の外見）はあのころのままなんら変わっていないのだ。

「なんにせよ、何か裏があるような気がするのよね、この依頼…脩平君、なんて思うかしら」

　いったい、どうしたことだろう。確かに、真夜さんを相手に欲情し、襲い掛かったのは僕だったはずだ。
　しかし、僕が彼女の体から自分自身を引き抜き、白濁をかけまわしたとたん、真夜さんの様子が突然変わった。
『ふふふ…見かけによらず、激しいのね、あなた。…嫌いじゃないわ』
　様子が変わったというよりは、雰囲気が変わったととるべきだったのかもしれない。目の前の真夜さんは、一言僕に言うと、何を思ったか、射精が終わった僕のものをいきなり口に含んでしまった。
「うあっ」
　僕は情けない声を上げたと思う。が、それもすぐに暖かな快感に包まれていく。
『…ほら、もうこんなに。ここはどうかしら？』
　先端、側面、根元、目の前の真夜さんは、艶やかな瞳で、僕を上目遣いに見つめる。その口にはしっかりと僕のものがくわえ込まれていた。僕は夢でも見ているのだろうか。
「あ、真夜さん、出る！」
　数分ともたずに、僕は彼女の口の中にぶちまけていた。真夜さんはそれに驚くこともなく、ものを口に含んだまま舌で丁寧に舐めとっていく。
『ふふ…っ、若いのね。さっき出したばかりなのに、まだこんなに』
　僕のものはまだ立ち上がっていた。

（あれ？真夜さん、髪、赤い…？）
　絶え間なく与え続けられる快感に朦朧としながら、僕は真夜さんのさらなる異変に気づいていた。
　ついさきほどまで清楚な黒髪だったはずが、いつの間にか燃える情熱を表すかのような赤に染まっていたのだ。
『…一滴も出なくなるまで搾り取ってあげる。わたしの中の『わたし』の貞操を奪った罰をあげる…』
　真夜さんは、いったい何を言いたかったのだろうか？ここで冷静でいられたならば、僕は逃げていたのかもしれない。
　だが、それが男の性なのか、僕はさらなる快感を彼女に求めていた。

　やがて、二つの胸が僕のものを包み込んだ。
「ま、真夜さんっ」
　彼女の膨らみの谷間は、うっすらと汗ばんでいて暖かく、柔らかかった。両側から締め付けられ、僕ははさまれただけで放出しそうになっていた。
『ほら、こうするともっと気持ちいいでしょう？』
　乳房の間から飛び出した先端を、真夜さんの舌が捉える。それだけは飽き足りないとばかりに、口に含み音を立てて吸い始めた。
　淫猥ながらもどこか荘厳な雰囲気がある光景だっただろう。

　今度の僕は彼女の顔に向かって振りまいていた。

『まだよ、まだ眠っちゃだめ』
　快感に息を荒らげる僕にそういって、白濁に顔をぬらした真夜さんが足を大きく広げて僕の上に馬乗りになる。
　いやでもその秘所が見せ付けられる。そこはもう、湧き上がる泉のように溢れていた。
『ほら、もう一度中に入れさせてあげる』
　再び立ち上がった僕のものをやさしく手で包み、真夜さんが自ら秘所にあててくる。
『あ…入って…くる…ぅ』
　入れながら自分でも気持ちいいのか、真夜さんが始めて喜悦の声を出した。が、僕はそれだけで終わってしまった。
『あぁっ、は、早すぎるわ…！』
「だ、だめだ真夜さん、真夜さんの中すごい…」
　何度も何度も射精したはずなのに、入れたばかりのはずなのに、僕のものは凄まじい量の精液を、真夜さんの中に吐き出していた。

『ほら…わたしを、ぐちゃぐちゃにして…ね…？』
　僕はもう、彼女のとりこになっていたのかもしれない。このままどうなってしまってもいい、と思っていたのかもしれない。
　ただ単に、目の前で仰向けに寝そべり、大きく足を広げ、先ほど吐き出されたばかりの僕の精液が溢れる秘所が欲しかった。
　僕は、無理やり襲い掛かるようにして、真夜さんの体に挑みかかっていた。

『ああっ！せっかちね…はじめはやさしくしないと、あなたがもたないわよ？』
　半ばやけになっていたのかもしれない。とにかく、こんな女性は今までにいなかった。
『あっ、あっ、あっ！すごい、すごいわ…！！』
　僕は激しく腰を打ちつけ、真夜さんの胸を揉みしだき、射精しながらなおも腰を動かし続けていた…。

　陽光がまぶしかった。…どうやら朝が来たようだ。
　僕はようやく布団から身を起こすと、窓の外を見た。晴れている。
（夢だったのか…それにしても、すごい夢を見たもんだ。僕が真夜さんを襲った後、真夜さんに襲われる夢を見るなんてなぁ）
　やけにリアルでなまめかしい夢だなぁ、と思ったものの、二晩連続して（幽霊同士とはいえ）あんな声を聞かされたのだからある意味仕方がないことなのかもしれなかった。
（だけど、真夜さんには…なにか秘密めいたものを感じる気がする…）
　僕の脳裏には、夢であるはずの、赤い髪を揺らす真夜さんの姿が残っていた。