８　　大願成就？

「脩平君の知っている人だったの！？」
『出口恭介』という名前を聞いた冴が、驚きのあまりに声を裏返らせた。
「ああ。…だが、こいつは強姦なんかとは縁が遠いヤツだぜ？見かけはいい加減かもしれないが、筋を通すところは通すし、ハメをはずすことはあっても、悪いことは悪いこととわきまえているヤツだ。悪いように見えるが、根っからの善人だよ」
　脩平がそう説明するのへ、
「ああ、なるほど、類は友を呼ぶってヤツよね、それって？」
　と茶化す。このあたりは脩平も同類といえるだろう。
「どういう意味だよ、それは」
「そのまんまの意味よね。…長いこと一緒に暮らしてるのに、わたしにはぜんぜん手を出してくれないし」
「お前なぁ…」
　冴の言い方に、脩平が頭を掻いた。今ここには真夜はいない。そして、冴は脩平に惚れている。だが、脩平は冴に一切手を出さない。
それは、脩平が『真夜に悪い』と思っているからでもあるし、脩平にその気がない、という意味でもある。
　冴のほうから言い寄ることも多いものの、『真夜が一番と思っている状況で冴を抱くのは、逆に冴にとって屈辱以外のなんでもないだろう』という理由で、脩平は冴に触れようとしないのだ。
「…だけど、わたしから手を出すのは、ＯＫだよね？」
　脩平の背中に、冴の頬が押し付けられる。外の寒い空気に冷やされた彼女の体が、それだけで温められる気がする。
「…『結婚した』とか、『脩平君が真夜を愛してる』ことは分かってるし、真夜だって、脩平君をすごく愛しているのも分かる」
　脩平は特に拒むでもなく、冴の言葉を黙って聞いていた。冴はそのままの体勢で、脩平に語りかける。
「でも、わたしの思いだって、真夜には絶対に負けていないんだから。…だから、『初めて』は、脩平君に奪ってほしいの。
　『ガルヴァス』も『ガライ』も関係なく、『冴』と『脩平』であってほしいの」
　脩平が何もいわず、冴の話を聞いていたのは、ひょっとすると彼女の思いをその背中で受け止めていたからなのかもしれない。
　しかし、冴がそんなことに気づくはずもなく、その手がゆっくりと脩平の胸に回る。
「…真夜がいる日は、絶対に無理だから、今日を記念日にしていいでしょ？わたしの、処女喪失記念日」
　つとめて明るく言ったものの、冴のほうは体も声も震えていた。以前に真夜と脩平の行為を覗き見したことはあるものの、そのときとはまるで立場が違う。いや、まだ承諾すらしてもらっていないのだ。

　しかし、冴はもう手を動かしていた。ある種の決意でもあった。高校時代に告白し、ふられたこともあったものの、その想いは続いていた。
　あれから数年、奇妙な縁もあって一緒に暮らしているものの、一緒にいれば当然のように、脩平への想いは膨らんでいく。
　やがて脩平は真夜という『恋敵』と結婚してしまい、自分と脩平の間には真夜という越えられない壁ができてしまった。

（ごめんね、真夜、もう、しないから、今日だけ許して…）
　真夜だけがいない日というのは、何も今日だけのことではなかった。今まで何度も、今日のような機会があった。
　しかし、自分から脩平に手を出さなかったのは、真夜に怒られるのが怖かったわけではない。

　友人として、真夜という親友を裏切りたくなかったからである。

「…わたしじゃ、勃たないかな…？」
「そんなことはないさ。俺だって、男だからな」
　冴の問いに、はじめて脩平が答えた。事実、先ほどから背中に胸を押し付けられている影響で、脩平の体は敏感に反応していた。
　真夜がいない、という非日常のせいなのか、それとも、冴と二人きりという、一種背徳的な状況だからなのか。
「…うれしい。もっと、勃てて…」
　冴の手が、背中側から脩平のズボンへと伸びる。ズボンの上から脩平をなでるように刺激する。

「…冴、今日だけ、だからな？」
「分かってる。…だから、生きている中で最高の『今日だけ』にしたいの」
　承諾の言葉を受け取り、冴の右手はようやく脩平のズボンの中へと埋没していく。
「…こんなに、硬くなるんだ…」
　感心したのか、驚いたのか自分自身にもよくわからなかった。右手に握られた、硬さと柔らかさを併せ持つような感触が、冴を興奮へと導いていた。
「無理しなくていいんだぞ？」
　脩平が言った。相手は初めてなのを、彼もよくわかっている。もっとも、それは自分が冴に手を出さなかったせいなのだが。
「ううん。脩平君のを触ってるの、握ってるのがうれしい」
　握ったままゆっくりと動かし、その硬さを確かめる。
「…見ていい？」
「あまり見てくれのいいもんじゃないぞ？」
　冴の積極的な質問に、脩平が返す。
「大丈夫だよ。別に、怖がったりしないよ」
　そういいつつ、冴はゆっくりと脩平の前に回る。
「…こうなってるんだね」
　もう一度、今度は前から脩平のものを手で支え、上下にゆっくり動かす。硬く勃ちあがって血走った、脩平自身。
　ずっと、冴が求めていたものが、目の前にあった。
「…どうしよう、わたし、濡れてきた…」
「お前なぁ…聞いているこっちが恥ずかしくなるような台詞を真顔で言うなよ」
「だって、ほら…」
　冴の左手が、スカートをたくし上げる。薄いピンク色の下着が、ほのかに湿っているのが脩平にもよくわかった。
「脩平君、わたしの中、くれる…？」
　そう言いながら脩平の前に立ち、自ら下着を下ろしてしまう冴。行動は積極的ながらも、冴の声も指も震えていた。
　脩平はそれがよくわかったため、すぐにうなずかず、両腕を使って彼女を抱きしめていた。
「あっ…」
　冴からため息が漏れた。いつもは小うるさく思えるほどににぎやかな冴ではあるが、このときだけは脩平も、冴のことを『女』と認識せざるを得なかった。

　冴の体を抱きしめたままゆっくりとベッドへと導き、痛みを与えないように仰向けに寝かせる。
「…脩平君、来て…」
　冴の息が乱れていた。疲れたからではない。『女』として発情しているのだ。今まで拒まれてきた相手が、自分を受け入れようとしているのだから、
　それは仕方がなかった。冴にとっては、待ち焦がれていた瞬間なのだ。

　しかし、脩平はスカートを脱がさずに、その中へと手を差し込んだ。
「ふぁっ…」
　瞬間、冴は頓狂な声を上げていた。今までに触れられたことのない場所へ訪れた、突如の感触。
「確かに、濡れてるな」
　落ち着いた声で脩平が言う。荒っぽい口調とは裏腹に、脩平の手の動きは優しい。
「うあっ、だっ、だめ…」
　秘所の上を指が這い回る感触に、冴は快感の声を上げずにいられなかった。
「ほら、入れるぞ…」
　十分に濡らした、と判断した脩平は、その奥へと人差し指をゆっくり突き入れる。
「ひっ」
　異物を受け入れた経験が一切ない冴の膣は、指一本をも拒むように、それを締め付けていた。しかし、脩平の指は冴の体の抵抗をものともせず、膣壁をめくり、まさぐる。
「…いやぁ、わたし、すごい、感じてて、いやらしい音立ててる…っ」
　自分の状況が信じられないのか、冴が大きく頭を振った。

「冴、入れてもいいか？」
　初めての女性に『入れて』といわせたくなかったのか、冴の状況を考えたのか、そういったのは脩平だった。
「来て！わたしの中に、来てぇ！」
　激しい指の愛撫に刺激された冴は、いつもよりも数段しおらしくなっていた。いや、より『女の部分』を際立たせていた、というべきかもしれない。
　冴の返答を聞いた脩平は、冴の脚をさらに開き、それでもスカートはめくりあげずに、冴の秘所へとものを当てた。
「うあっ」
　声を上げたのは冴だった。
「…こ、これを入れるの？真夜にも、こうしてるの？」
「ああ。…真夜にも、こうしてる」
　脩平の声を聞いた冴の体が震えた。ひょっとしたら、自分の体に挿入されている様子を想像してより興奮したのかもしれない。
　事実、冴の秘所に当てられた脩平のものの先端は、とめどなくあふれ出る冴の愛液で暖められ続けていた。
「…あっ、か、かたい…あ、ひぁ、いぁ…」
　ぐっ、ぐっ、とやや強引に膣を押し広げてくる痛みに、冴が悲鳴を上げた。
『痛い』と声を上げているつもりなのに、声が声になっていかないのだ。
「やめるか?冴。無理はしなくていいんだぞ？冴の気持ちは…俺だって、よくわかってるつもりだ」
「…して」
　挿入を中断した脩平が冴に尋ねるのへ、彼女は強い口調で返した。
「最後までして…わたしを…わたしを汚して。脩平君じゃなきゃ、いやなの…」
「…分かったよ。胸、見るからな」
　すぐに入れるのは無理だ、と判断した脩平は、冴を押し倒して先端だけ挿入したその体勢のまま、シャツを上へめくり上げた。
　下着に包まれた冴の胸が姿を現す。
　脩平も、真夜以外の女性の裸を見るのは初めてだった。いつもは小うるさく男勝りなところもある冴だけに、脩平のほうも、『友人』と意識するところはあっても、『女性』という意識のしかたはあまりしなかったのは否めない。しかし、ここにいる冴は、その体を見ても、真夜と同じ女なのだ。
「やだ、脩平君、大きくしないでぇ！」
　知らぬ間に興奮していたのか、冴の中でものが肥大していた。それに驚いた冴が、激痛を訴えて悲鳴を上げる。

　苦痛を和らげるために、真夜よりは小ぶりな乳房を手に包む。それから、指で少し硬くなった乳首を刺激してやる。
「ひぁっ」
　小さな声とともに、冴の膣がしまるのを、脩平は敏感に感じ取っていた。訴えられる痛みとは裏腹に溢れる愛液の感触が心地よい。
「だ、だめぇ、乳首、だめぇ…」
　少しずつ、腰の動きを早くしていく。どうやら、ようやく痛みから解放されたようだった。
「冴、どうだ？まだ痛いか？」
「え？…あ・・・痛くない、ううん、気持ちいい…」
　はっ、としたように冴が言った。それから、恥ずかしそうに顔を背けた。今まで激痛のあまり意識する余裕がなかったものの、自分と脩平がスカートの中でどうなっているか考えて、気恥ずかしくなったのである。
　もちろん、冴にとってはそれは望ましいことだったし、今こうなっていることは、天に昇るほどうれしいのだが。

「あっ、やっ、すごい、よぉ」
「どんどん乱れてきてるな…」
　いったん快感に変わってしまうと、もう冴の声は止まらなかった。その声は真夜よりも激しく、熱くも思えた。
「そんなこと言わないで…ねぇ、真夜とくらべて、どう？わたしの中、どう？」
「そっちこそ、そんなことを聞くなよ」
　冴の台詞を聞きつつ、脩平は彼女の体を抱きしめていた。強く引き寄せるように抱きしめながら、腰を深く、激しく、早く突き入れていく。
「あーーっ！」
　冴が自ら脚を大きく広げ、手を脩平の背中に食い込ませる。動きにくい体勢だというのに、冴が自分から腰を動かす。
「い、いっちゃ…わたし、初めてなのに、イッちゃ…あっ…！」
「冴、で、出る！俺も、もう出るッ！！」
「いいわッ！わたしでイって！わたしをイかせてぇッ！」

　冴の叫び声とともに、どくん、と脩平のものが波打った。冴の体は脩平によって抱きすくめられ、膣奥への射精を拒むことは許されていなかった。
　しかし、冴のほうはそんな様子も見せず、ただただ歓喜の声とともに、脩平の射精を受け入れていく。
「ああっ、熱いの！熱いのが、たくさん、出てるぅッ！」
　絶頂に達している中で射精され、冴はもういちど体を大きく震わせた。
「すごいっ、わたし、射精でもう一度イッてるの…ぉっ！！」
　脩平の大量の精液を浴びつつも、冴の腰はまだ激しく前後に動かされていた…。