３

「んっ…」
　手の拘束を解かれた未亡人は、自分から僕の体を手で探り始めた。
　やがて、僕が服を着ていない（透明人間だからね）ことを悟ると、固く硬直したそれ（これも実際には透明だ）に触れた。
「お、奥さん…？」
　なんと呼んでいいのか分からず、僕は彼女に声をかけた。しかし、彼女はそんな僕にこう返事をした。
「…わたしのことは、『玲依（レイ）』とお呼びください」
（そんな名前だったのか）
　…と、どうでもいいことを考えていると、突然僕の下半身を、温かい感触が包んだ。なんと、玲依さんが僕を口で咥えたのである。
　もっとも、あくまでも透明であるから、握っていたり咥えていたりする感触があっても、実際には玲依さんがただ口をあけているようにしか見えないだろう。彼女が今目隠しをとられたら、何を思うだろうか。
　彼女の目の前には僕の体はなく、ただ『何かを咥えているような表情』の玲依さんがいるだけである。
　が、そんな想いとは裏腹に、僕のそれは彼女の口の中でどんどんと膨らんでいく。そういえば、彼女は未亡人だ。そして、慈雨ちゃんという子供もいる。
　慣れているとはいわなくても、亡き夫にこんな形の奉仕をしたことぐらいはあったのかもしれない。どこかぎこちないけれども、丁寧で、とても優しい舌と口での愛撫。
　時折、ちゅっ、ちゅっ、と音がするたび、僕の官能が刺激されて背筋に快感が走っていく。
「ん・・っ、ん・・っ」
　どこか清楚で、そのなかに淫らさを感じる表情。僕は、その玲依さんの表情にいつしかのめりこんでいた。
　そして、そのまま彼女の口の中へ放出してしまっていた。
「ああ…っ、んっ、んっ、んっ」
　放出されたものの、すぐには口を離したりはせず、彼女は口の中に精液を溜めて、やがて飲む音が小さく聞こえた。やっと口を離してくれると、彼女の口の端から白いものが垂れてきた。
　どうやら、体の外へ放出された時点で透明ではなくなるらしかった。
「…ああ、久しぶり、この味…この、匂い…」
　恍惚とした美女は、口元を手の甲で拭ったあと、自分からベッドに仰向けに寝た。
「…きて、ください。わたくしを、どうにかしてください…」
　そのセリフを聞いて、僕が断われるわけがない。むしろ、襲い掛かるように彼女の足、そして着物の裾を広げて、再び彼女の雌蘂へと顔を突っ込んでいた。
「あああーーっ！」
　こっちが恥ずかしくなるくらい大きな声を玲依さんが上げた。しかし、僕は彼女の許しを得たことに得意になっていたのか、容赦なく、激しく、舌で責め立てた。
「ああっ、上手です、あなた…」
　拒否されることもなく嘗め回され濡れた雌蘂を見て、僕のそれはまた再び立ち上がっていく（実際に立っているかどうかは見えないものの、感覚的には分かる）。

　我慢できなくなった僕は、未亡人をうつぶせに転がしたあと、四つんばいにする。
　それから、着物をめくりあげてお尻を出してやる。
「…すごく、綺麗です」
　僕は素直に感想を述べた。僕の目の前には、柔らかく、弾力のありそうな見事な白いお尻があった。
「…ああ、あなた…」
（…そうか、僕と、今は亡き夫を重ねているのか）
　慈雨ちゃんは、五年くらい前、と言っていた。四十代前後なら、女性にも性欲があったっておかしくはない。それが五年も絶たれていたらどうなるだろうか。
　僕は、硬直しきったそれで彼女の雌蘂を、後ろから撫で付ける。優しく、優しく。
　愛液とそれが擦れる音が、かすかに耳をついていく。
「あっ、ああっ、か、固い…こんなに固いなんて…」
　挿入する前だというのに、玲依さんは反応してしまっていた。

　何も言わず、僕は彼女のお尻を抱いて、挿入した。
「ああああぁぁっ！」
　すごい声があがった。久方ぶりの挿入だったのだろう。もしかしたら、僕が最初にしたことで、彼女の封じられていた欲望に火がついてしまったのかもしれなかった。
「ああっ！あ、温かい、すごい…」
　僕も、彼女に負けず劣らずの声を上げてしまっていた。さすが未亡人、というべきか、挿入は楽だったものの、それを包む膣が狭く、締め付けも強い。しかし、濡れ方も尋常ではないので、まるで母親の胎内にいるかのように温かいのだ。。
　夢中で腰を動かした。彼女を貪りたかった。玲依さんは、僕の責めに応じて、自分から腰を左右に軽く動かし始めた。
「ああ、あなた、あなた、あなた…っ！」
　恐らく、相当なおしどり夫婦だったのだろう。僕は夫ではないというのに、完全に重ねてられてしまっていた。
　僕はちょっと、亡くなった玲依さんの夫に嫉妬してしまっていた。
　こんなに献身的で、肉感的で清楚な女性を置いて先立ってしまうとは、なんて罰当たりというべきか…今想うと不謹慎極まりないことなのだけれども。
「ああ、ああ、ああぁっ！」
「玲依さん、もう、もうダメだっ！」
　僕は絶頂の声を上げた。早く引き抜かなければ、出てしまう。
「ああ、な、中にっ！わたしの中にきてください！これで終わりなんて嫌です！玲依は嫌です…！」
「玲依っ！」
　僕は、その言葉を聞いて、背中側からのしかかるように彼女を抱きしめた。ついでに、その豊満な乳房もぎゅうう、と思い切りわしづかみにしてやる。
　背中に頬を押し付け、先端にたまったわだかまりを解放する。

「きゃあああぁぁっ！ああっ！熱い、熱い、熱いいいぃぃっ！」
　狂ってしまったような甲高い声を、玲依さんは上げた。僕の先端からは、今までからは考えられないほどの量があふれ出た。その勢いも凄まじく、一瞬で子宮が溢れてしまったかのように、雌蘂から逆流してこぼれ落ちていった。
　僕は、しばらく彼女の中にいた。ここがとても気持ちよかったから。

　やがて僕が彼女の体を脱出すると、玲依さんはのろのろと仰向けになり、僕のほうを見た。
「…やはり、あなたなのですね？」
「は？」
　僕は、思わず首を傾げた。なんのことだろうか？
「五年間も、どうしてわたしをほうっておいたのですか！なぜ、わたしの前にこうして姿を現してくれなかったのですか！わたしは、わたしは、あなたが行方不明と知った時、慈雨と共に自殺まで考えたのですよ！」
「ちょ、ちょっと待って！僕は、あなたの夫じゃなくて…」
「そんなわけがありません！あなたがわたしに言ったセリフ…「一目見たときに頭がおかしくなって」というセリフは…あなたがわたしを口説き落とした時のものではありませんか！」
「なっ！」
　もちろん、僕が彼女の夫だというのなら、願ったりかなったりだ。だが、それは僕がまともな人間だったらば、の話だし、僕は彼女の夫であるわけもない。第一透明人間が夫なんてあるわけがないじゃないか。
「いいえ、あなたはわたしの夫です。でなければ、わたしの体に火照りを与え、ここまでよがらせるなんて不可能です！わたしには分かります！」
　顔に似合わず、なんて強情な人だろうか。
「それに、あなたはいつも、わたしと…その、交わる時は後ろからだったではありませんか…。あのとき、わたしは貴方の前に仰向けに寝たのに、あなたはわざわざそのわたしを四つんばいにしたではありませんか」
「違う！僕は、違う…！そんなわけがない…！」
「いいえ、あなたはわたしの夫です。姿を見せてください！」
　そう言うと彼女はいきなり、自分につけられた目隠しを取り去ろうとした。
（まずい！）
　そう思った僕は、なりふり構わずに廊下に飛び出していた。

（…どういうことだ？彼女の夫は、死んだのではなかったのか？それよりも…）

　玲依さんは、僕と交わることで自分の夫かどうか確かめようとしたらしかった。