| 29．美奈代ー５ 雅也が転向する日は、アッと言う間に来た。 人には知られてはいけない悦びを感じあっていたふたりには、あまりにも辛い別れだった。 それから８年の年月が過ぎた。 美奈代は人並みに男性経験をし、大学生としての日々を送っていた。 （雅也君、あれからどうしてるんだろう・・・・？連絡をくれるって言いながら、何の連絡もくれなかった。何処に引っ越したのかも分からない・・・・） 雅也との幼くも淫らな経験は、美奈代には忘れがたいものだった。 （今思えば、幼く拙いセックスだったけど・・・・） 雅也以外の男とのセックスは、美奈代には今一物足りなかった。 （あまり痛くなかったのは、あの頃の雅也君のが幼かったから・・・・でも、何故か充実していた・・・・） 美奈代は大人の身体になった自分を雅也に見て欲しかった。 大学生になって初めての夏休みに入った日、誰も居ないひとりきりの家で朝を迎え、庭に出た。 （両親は仕事・・・・わたしはひとり・・・・エッ！何？） 庭先に見たことのないモノがあった。 （異次元POST・・・・？あなたの願いを叶えます。願い事を書いて投函してください。過去でも現在でも、あなたの願うままに叶えます・・・・。本当に・・・・？でも、昨日まで無かったわ・・・・もしかして・・・・） 美奈代は信じたかった。 そして部屋に戻り、急いで雅也と会いたいと紙に書き、庭に戻って異次元POSTに投函した。 家の中に戻り窓から確認すると、もうPOSTは消え失せていた。 （本当かも・・・・叶うといいなぁ・・・・） 美奈代は初夏のジメジメした肌が気持ち悪く、シャワーを浴びてスッキリすることにした。 美奈代は汗ばんだ身体を洗い流し、浴室から出た。 ピンポ〜ン！ （エッ！お客さん？） 美奈代は慌てて大き目のＴシャツを素肌に着け、様子を見に行った。 リビングにあるインターホンの玄関映像を確認した。 （誰・・・・？エッ！ま、まさか・・・・ホント！？） 面影は無かったが、それは間違いなく雅也だと思った。 美奈代はドアをそっと開いた。 「雅也君？」 「美奈代・・・・」 美奈代はそのまま雅也を家の中に迎え入れた。 カーテンを全て引いてあるリビングは薄暗かった。 「そこに座って・・・・コーヒー飲む？」 「あぁ・・・・」 美奈代は無言でコーヒーの準備をした。 ミニのワンピースのようなＴシャツだけを着ていることも忘れ、美奈代は頭の中でいろんなことがグルグルと回っていた。 雅也は美奈代の背後に立って肩を軽く掴んだ。 美奈代はピクンと震わせたが、そのままジッとしていた。 「美奈代、キレイになったな」 「バカ、どうして連絡してくれなかったの？」 美奈代は雅也の方に振り向き、大人になった雅也の厚い胸板をドンドンと叩いて言った。 「美奈代・・・・」 雅也は自分の胸を叩いている美奈代を腕を回して包んだ。 「ゴメン・・・・座ってて、今、コーヒー運ぶから」 美奈代は雅也から離れ、コーヒーを運ぶ支度をした。 リビングのソファに座っている雅也にコーヒーを出し、自分もテーブルを挟んで向かいに座った。 「連絡すると・・・・美奈代に会いたくなるから・・・・」 「それは・・・・でも、何も連絡がないと、心配しちゃって・・・・」 「でも、よく分かったな。僕だということが・・・・」 「うん、全然変わっていたけど、見た瞬間、絶対そうだと・・・・雅也君、わたしのこと分かった？」 美奈代は異次元POSTに投函したから・・・・なんて言えず、自分のことに話しを振った。 「あぁ、キレイな大人の女性になったけど、すぐに分かったよ」 「雅也君、かっこよくなったわ！モテルんじゃない？」 「あぁ、まぁな、美奈代もモテルだろ？」 「えぇ、引く手数多よ、うふっ・・・・」 雅也はコーヒーを飲みながら美奈代をジッと見ていた。 「もぉ〜そんなに穴が開くほど見つめないでよ！」 「だって、そのＴシャツの下、裸じゃないのか？」 「エッ！あっ、そうだった。シャワーを浴びてる時にチャイムが・・・・もぉ〜大人になっても相変わらずエッチなのね！」 「そういう格好してると、色っぽ過ぎて襲われるぞ！」 「いいもん！相手が雅也君なら、構わないわ！」 「そんなことを言うと、本気にしちゃうぞ」 「いいゎょ・・・・」 美奈代は小さく答えて俯いた。 雅也は周囲を見渡した。 「どうして今日・・・・？」 「ん？今、両親は大阪の方に居るんだ。僕はどうしても大学、こっちに来たくて・・・・結構、頑張ったんだぜ！合格するのに・・・・美奈代は？」 「わたしはＴ女子大、雅也君は？」 「Ｗ大・・・・それでワンルームでも借りて思い切り気楽にって思ったら、両親の猛反対で、賄い付きの下宿になって、今＊＊＊に・・・・」 「へぇ〜Ｗ大か、頑張ったね！でも下宿は正解だわ！雅也君、ひとり住まいさせたら、生活乱れて大変だったんじゃ・・・・」 「まぁね・・・・だから誰も泊まりに呼べないけど・・・・夏休みになったから、思い切って会いに来たんだ」 「そうだったんだ・・・・丁度、良かったわ！わたしひとりで・・・・」 再び、ふたりの間に沈黙の時間が流れた・・・・。 |
| あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。 |
| 2007.12.12掲載 |
秋水さんの作品群→ |