６．真弓ー３


　照明室で初体験し損なった真弓と高樹・・・・、その後、高樹は進学準備でクラブ活動には顔を見せず、ふたりは心を残して離れ離れとなった。

　あれから18年・・・・、記憶の片隅に閉じ込めていた想い出が蘇った。
（ふふっ・・・・あれから18年も経ったんだわ・・・・。あの時は、何も分からずに無我夢中で・・・・、セックスなんて耳知識しか無くて・・・・多分、高樹さんも・・・・）
　同窓会の葉書を手に、若かった心残りの日を思い出していた。

　夕方、夕食の買い物に出かけた真弓は、その帰り道、見かけないモノを目にした。
（何？これって・・・・POST？）
　昨日までは何も無かった道路の端に、真弓はPOSTを見つけた。
（うん？・・・・・・・・、エッ！ウソぉ〜そんなこと・・・・）
　〒マークの下に書かれていた文章に、真弓は首を傾げた。
『あなたの心に残る気掛かりな経験、実現しませんか？ その時の次元に戻る・今の次元で実現する、どちらかを選択して投函してください。必ず、実現できます！』
　真弓は思い出したばかりの高樹のことを考えた。
（同窓会に行けば高樹さんに会える・・・・でも、お互いに既婚者・・・・お互いに変わってるはず・・・・）
　34歳の真弓には、18年も前の出来事は、自分の半生以上も前だった。
（お互いに子供だった・・・・高樹さんには触れられたくないことかも？）
　真弓は家に戻って『今の次元で実現』とメモ用紙に書き、99％期待せずに投函した。
　真弓にしてみれば、過去の自分への決別の気持ちだった。
　そうしなければ、高樹には会えないと思ったのだ。

　同窓会の当日・・・・。
　高校の時のあの日と同じ日だった。
（偶然だわ・・・・）
　真弓は朝から手際よく家事をこなし、早めに買い物も済ませた。
　夫が帰宅する前に夕食の支度を済ませていた。
「じゃあ、同窓会に行ってきます。初めての同窓会だから、少し遅くなるかも・・・・」
「あぁ、いいよ。明日は休みだから、ゆっくり楽しんでおいで」
「えぇ、じゃあ・・・・」
　子供の面倒を夫に頼み、真弓は同窓会場に向かった。

　会場は駅の近くのホテルだった。
　久し振りに会う部員や先輩たちを思い出しながら、真弓は出かける前にシャワーを浴びて髪や化粧を整えた。
（すっかりオバサンになっちゃった！）
　皆もそうだろうとは思いながらも、少しでも若くキレイに見えるようにと思ったのだ。
　アイボリーの薄手のソフトパンツの上に白いブラウスを着けた。
（オッパイはそんなに弛んでないと思うけど・・・・お尻も少し横に張った気はするけど、まだまだアップしてる！オナカは・・・・・・・・・・・・）
　洗面室で自分の裸体を鏡に映し、少しはホッとし着ていく上下を決めた。

　ブラウスの上に着ていた薄手のジャケットを脱いでホテルに入った。
（あれ？案内が出ていない・・・・）
　真弓は同窓会の会場案内を探した。
「真弓君？」
「エッ！あ、ハイ・・・・た、高樹さん？」
「そう、そんなに分からないほど変わった？」
　薄手のサマースーツに身を包んだ高樹が声を掛けてきた。
「い、いえ！」
　真弓はすっかりビジネスマンの雰囲気になった高樹に驚いていた。
（素敵になったわ！あの頃も人気はあったけど子供だったから・・・・）
　大学まで演劇をしていたと聞いていたが、その後の高樹のことは真弓の耳には入っていなかった。
「真弓さんは変わっていないな・・・・イヤ、あの頃よりもっと魅力的な大人の女性になって・・・・」
　高樹は真弓の全身を見渡した。
「エッ、とんでもありません！あれから18年ですよ。高樹さんの方こそ、素敵になられて・・・・演劇は？」
「演劇は大学までで・・・・今は普通のビジネスマン。ここじゃ、何だから、向こうで」
　高樹はホテルのロビーのソファに真弓を連れていった。

　向かい合って座ったふたりには、時間の壁は感じられなかった。
「不思議だわ・・・・もっと違和感があると思ったわ」
「そうだね、僕もここに来るまで不安で・・・・でも、こうして会っていると、そんなものは何処かに消えて・・・・」
「えぇ、ホントに・・・・ところで、他の部員の方々は？」
　真弓は周囲を見渡し、他の部員たちを探していた。
「ゴメン・・・・僕は君に謝らなくては・・・・」
「エッ？」
「実は・・・・同窓会の葉書、真弓さんにしか出していないんだ」
「エッ！それって・・・・どうして？」
「僕は36歳、丁度、高校３年の時のダブルスコアの年齢になって・・・・ふと思い出したんだ、あの日のことを・・・・丁度、18年前の今日、この時刻の時のことを・・・・」
　真弓はドキッとした。
（わたしと同じことを・・・・これって、何かの縁？エッ！もしかして、あのPOST・・・・あれって、本当だったの？）
　真弓は投函したPOSTを思い出し、益々、胸が高鳴った。
「それで・・・・どうしても真弓、君にもう一度だけ会いたくなって・・・・それでウソの同窓会で呼び出したんだ」
「・・・・・・・・・・・・」
　真弓は高樹から少し視線を反らして黙っていた・・・・。