（２）

　私は２階へと上がり、自分のパソコンが置いてある部屋にいました。２階には部屋が４つあります。まず私たち夫婦の寝室と夫の書斎です。そしていずれ子供が生まれた時のためにと、６畳ほどの洋室が２つあります。１つは物置に使って、空いたもう１つの部屋を私の書斎とでも言うか、プライベートルームとして使用しているのです。

　私はＰＣデスクの椅子へと腰を下ろし、明美から教えて貰ったサイトへと恐る恐るアクセスしてみました。そこには２０人ほどの入室者を示す男性の名前と待機メッセージが書き込まれていました。メッセージの内容はと言えば、普段では耳にする事もないような卑猥極まりない物でした。

【人妻さん、オ○ンコグチョグチョにして入ってきな…】

【欲求不満の奥さん。僕と一緒にＨなことしよう！】

【ＳＭに興味のある人妻さん。今から会えない？】

【旦那のチンポじゃ満足できない貴女。僕が嫌と言うほど感じさせてあげます。】

【今オナニー中だよ。奥さんも一緒に愉しまない？】

　目を覆いたくなるような、卑猥な言葉の数々でした。
（……な、何なの？…こ、これは…）
　そこに書かれてあるメッセージは、世間知らずな私の思考では殆んど理解不能なものでした。

【奴隷調教されてみたい変態人妻さん。まずはチャットで調教されてみない？】

【この世の物とは思えないほどの快楽を教えてあげます。肉便器のオ○ンコ奴隷になりなさい。】

（…なッ…い、嫌ッ！）
　あまりの卑猥な表現に耐えられず、私はすぐにそのサイトを閉じてしまいました。
（一体何？…今のサイトは？…明美ったら、こんなとこ紹介して…からかってるのかしら？）
　そんな事を思いながらも、いつの間にか心臓の鼓動がドキドキドキドキと高鳴っていることに気付いたのです。
「アアッ…」
　自然と吐息が漏れました。待機メッセージの内容を思い出すだけで、何か得体の知れない感覚が身体の奥底から湧き上がってくるようでした。私はそんな感覚に困惑しながらも、それを振り払うようにブルブルと頭を振り、とにかく気を紛らせようと部屋の掃除をする事にしたのです。

　元々綺麗に片付いている部屋でしたので、あまり掃除をしなければいけないところもありませんでしたが、私は普段ではおざなりになりがちな部屋の隅にまで掃除機をかけました。まるで何かから逃れるように、掃除に没頭しようと思ったのです。
　それでもやはり、気が付けば先ほどのサイトのメッセージを思い出している自分がいるのです。
――オ○ンコ・グチョグチョ・ＳＭ・チンポ・オナニー・奴隷・調教・変態・肉便器…
　メッセージに書かれた卑猥極まりない言葉の数々が私の頭の中で反復され、グルグルと渦を巻くように膨れ上がるのです。いくら世間知らずな私でも、その言葉の意味くらいは理解できました。厭らしく、下品で、普通の人間ならば到底使う事はないであろう言葉の数々。しかしその言葉の持つ淫靡な響きが、私の胸をキュッと締め付け、どうしようもなく高鳴らせてしまうのも事実でした。
　そして私は、その魔力に引き付けられるかのようにして、再びパソコンの前に腰を下ろしてしまっていたのです。

【昼間っからこんなとこ覗いてる奥さん。あんたもかなりの変態だね？】

　最初に書かれてあるメッセージに、私はドキリとしました。まるで自分が名指しで言われているような錯覚を覚えたからです。
（そ、そんな…変態だなんて…わ、私は…ただ…明美に言われて…仕方なく…）
　自分を懸命に弁護しようとする私がいました。それでも私はそのサイトを閉じる事は出来ませんでした。他のメッセージも読んでみたいと言う衝動に駆られていたのです。

【僕のチンポもうビンビンのカチカチです。厭らしい奥さんのマ○コに突っ込みたい！】

【もうオ○ンコグチョグチョなんだろ？ドロドロに滴らせてるんだろ？早く入ってきな…】

【奥さんの肉体を快楽漬けにしてあげます。怖がらずにおいで！45歳・Ｓ男】

【虐められたい人妻さん募集！恥ずかしい事いっぱいしてあげるよ！】

　厳悪感を覚えるほどの下品で卑猥な言葉の数々でした。そしてそのメッセージ全てが、自分に向けれれているとの錯覚に陥ってしまうのです。
（こんなのって…本当にこんなのを望んでる女の人が居るの？…し、信じられないわ…）
　そう思いながらも、私はそこに書かれてあるメッセージから目が離せないでいました。そして先程も感じた何やら得体の知れない感覚が、再び身体の奥底から湧き上がってきたのです。
「はッ…あああッ…」
　背筋を這い上がるようなゾクゾクとした感覚に、私は思わず吐息を漏らしていました。
（ああッ…何だか変な感じだわ…何？…何なの？…この身体の疼きは？）
　自分でも訳が判りませんでした。その時の私は、まだその感覚が快楽であると言う事には気付いていなかったのです。そして私は何かに執り憑かれたように、卑猥極まりないメッセージを更に読み進めていったのです。

【厭らしい書き込みを見て感じちゃってるんでしょ？正直に言ってみな？身体が疼いちゃってるってね？】

　私はそのメッセージにドキリとしてしまいました。「書き込みを見て身体を疼かせている」と言う言葉が、まるで自分の事を言い当てられているみたいだったからです。そしてそのメッセージに「感じちゃってる…」と言う言葉を見つけた時に、私の身体にツーンと言うような感覚の快美感が走り抜けたのでした。
（え？…な、何？）
　確かに自覚した快美な感覚に、私は困惑してしまいました。
（わ、私…感じ…ちゃってる？）
　そう自覚すればするほど身体に感じる疼きはどんどん強まり、波紋のような快美感を全身に広げていくのです。
（こ、こんな卑猥で下品な言葉なんかで…私が感じてるとでも言うの？…そんなの…有り得ないことだわ…な、何かの間違いよ…）
　心ではそう思いながらも、肉体は確実に快美感を感じていました。そして私の視線は厭らしいメッセージを次々と追い駆けるのを止めることができないのです。

【エロ妻さんいらっしゃ〜い！チンポコチコチに勃起させて待ってま〜す！】

【真面目な振りして実は淫乱な奥さん。欲望を解放してごらん？】

【奥さんのドロドロのオ○ンコ舐め回したい！…僕のビンビンのチンポも咥えさせてあげるよ！】

【清楚で美人の人妻さん。俺があんたの本性を曝け出してやるよ。遠慮しないで入ってきな】

【これ見て興奮してるメス豚！お前だよ、お前！…タップリ虐めてやるから入ってきな！】

　次々に飛び込んでくる卑猥なメッセージに、私の性感は確実に刺激され昂ぶっていきました。知らず知らずのうちに唇は開かれ、甘い吐息を零していたと思います。今まで経験した事がないほど、私は厭らしい気持ちになっていました。身震いするほどに肉体を昂ぶらせてしまっていたのです。
「あッ…ああッ…凄い…」
　私が思わず漏らしたこの言葉を今でもよく覚えています。なぜならば私は自分の漏らしたこの言葉で、正気に返る事ができたのですから。
「えッ？…あッ…な、何を言ってるの？」
　私は自分の発した言葉に真っ赤になりなりながら、己を恥じました。そして震える手でディスプレイの電源を切ったのです。

　それでも私の唇からは「はあ…はあッ…」と言う熱い吐息が零れていました。昂ぶった肉体は熱く火照り、快美な疼きに全身を震わせているのです。
（ああッ…どうしたって言うの？…わ、私ったら…）
　私は肉体の疼きに戸惑いながらもすぐには身体を動かす事ができずに、電源が切れて暗くなったディスプレイを見つめ続けていました。何も映っていない筈の画面ですが、私の目には先程の厭らしいメッセージの文字がはっきりと残像として焼き付いているのです。
「はあぁッ…」
　自分でも自覚できるほどの甘い吐息が、益々私を厭らしい気分にしていきます。暗い画面の奥底では欲望と言う名の魔物が、まるで手招きでもするように私を誘惑している姿が見えるようでした。
――チンポコチコチ・勃起・淫乱・ドロドロのオ○ンコ・本性を曝け出してやる・これ見て興奮してるメス豚！お前だよ、お前！
　頭の中で繰り返される卑猥な言葉は、まるで私を蔑んでいるようでした。暗い画面の中から不特定多数の男達が、卑猥な視線で私を見詰めながら罵倒しているようでした。
「あああッ…そ、そんなこと…言わないでぇッ…」
　私は思わずそう口にしていました。聞こえる筈の無い声が、その時の私にははっきりと聞こえていたのです。
――タップリ虐めてやるから入ってきな！
　その言葉が悪魔の囁きのように私の頭の中に響き渡りました。胸の鼓動がドクン…ドクン…ドクン…と高鳴り、血液が逆流するような感覚が私の全身を貫いたのです。
（あと…少しだけ…ほんのちょっとだけ…覗いても…）
　甘美な誘惑に、私の理性は引きずり込まれていくようでした。
（別に…いけないことじゃないんだし…ただ、見るだけよ…）
　私は自分に言い聞かせるように言うと、ゆっくりとディスプレイのスイッチを押したのです。

【これ見て興奮してるメス豚！お前だよ、お前！…タップリ虐めてやるから入ってきな！】

「ああッ…」
　再びディスプレイに現れたそのメッセージに、私の心臓はキュンッと締め付けられるようでした。ゾクゾクとした感覚が背筋を疼かせ、自然と吐息が零れ落ちました。そしてその先のメッセージを読むために震える指先でマウスを操作し、画面をスクロールさせるのです。

【発情中のマゾ奥さん。死ぬほどイカせてあげるから今すぐおいで！】

【もうチンポの先からカウパー出てます！厭らしい人妻さん、早くどうにかして！】

【真っ昼間から発情しちゃってる変態妻！欲求不満なんだろ？僕が本当の快楽を教えてあげちゃうよ！】

　ディスプレイに表示される卑猥なメッセージを見ながら、私は無意識のうちにスカートの下の太腿を擦り合わせていました。しかしその時はまだ、自分の下半身が熱く疼き始めている事に気付いてはいませんでした。
「ああッ…い、厭らしい…」
　私は知らず知らずのうちに身体を身悶えさせながらそう呟いていました。
――厭らしいのはお前だろ？卑猥な文字だけで発情しやがって…
　誰かが私の中で囁き掛けてきました。実際にはそんな事は有り得ないのですが、ディスプレイの向こうに居る誰かが、私に囁いているように思えたのです。
「あッ、ああッ…そんなッ…」
　身体の芯がキュ〜ッと引き攣るような感覚でした。身体の奥底から何とも言えない疼きがジクジクと溢れ出すようでした。私の身体はブルブルッと震え、お尻の肉を椅子へと押し付けていました。そして擦り合わせていた太腿を、ギュッと音が聞こえるくらいにきつく閉じ合わせていたのです。
「…ッッウゥンッ…」
　私は鼻に掛かったような甘い吐息を漏らしていました。ゾクゾクとした疼きに身を捩りながら、全身に広がる悦楽を噛み締めていました。
　

【オ○ンコムズムズさせてるんだろ？グチャグチャに掻き回してやるから早く入って来い！】

【奥さんのオ○ンコ見たいな〜。どうなってるの？もう濡れてる？…だったら来なさい。僕が満足させてあげます！】

「…えッ？…あッ…そ、そんなこと…」
　更に続くメッセージに、私はいつの間にか声に出して返答していました。
――だったら自分で確かめてみろ？お前のオ○ンコはどうなってる？
　またどこかで囁くような闇の声でした。それと同時に私の下腹部の内側は、キュ〜ンッ…と握り締められるような衝撃に見舞われたのでした。
「ひッ…あッ…はあぁッ…」
　その瞬間、私は椅子に腰掛けたまま背筋を反り返らせていました。下腹部から背筋を伝って、脳天に突き抜けるような快楽が走り抜けたのです。
　私は一時の間、仰け反らせた身体をワナワナと震わせていました。瞼をキュッと閉じ、総身を捩りながら、全身に感じる快楽を味わっていたのです。
　椅子の上で成熟したヒップがクネクネと動いていました。きつく閉じ合わされた太腿をモジモジと擦り合わせていました。そしてその時です、ショーツの内側にクチュリ…とした湿り気を感じ取ったのです。
「…えッ？…な、何？」
　私は、きつく閉じ合わせていた太腿を緩めていました。太腿の肉と肉とが離れる瞬間、又してもクチュリ…と言う粘り気のある液体が跳ねるような音が聞こえました。
「ああッ…そ、そんな…わ、私…濡らしてる…」
　スカートの下に隠されたままの下半身でしたが、見ずとも、触らずとも、ショーツの内側に厭らしい体液が滲んでいることはすぐに理解できました。冷やりとした湿り気を帯びたショーツが、私の股間にベッタリと張り付いていたのです。
――どうした奥さん？やっぱり濡らしてたのか？
　また、声が聞こえました。そんな事はある筈ないのですが、ディスプレイの向こうから誰かが囁き掛けているような錯覚に陥っていたのです。
「いやッ！」
　私は咄嗟に下腹部を隠すようにスカートを押えながら、ディスプレイへと視線を向けていました。

【オ○ンコムズムズさせてるんだろ？グチャグチャに掻き回してやるから早く入って来い！】

【奥さんのオ○ンコ見たいな〜。どうなってるの？もう濡れてる？…だったら来なさい。僕が満足させてあげます！】

　私は顔を真っ赤に紅潮させながら、そのメッセージを見詰めていました。
――オ○ンコムズムズさせてるんだろ？・奥さんのオ○ンコ見たいな〜。もう濡れてる？
　ディスプレイの向こうから囁き掛けるような言葉が、私の頭の中で反復するように繰り返され、欲情を煽り立てます。そして私は「…はい…濡らして…います…」と呟いているのでした。

　その瞬間からだったのかも知れません、私の内なる性癖が徐々に曝け出され始めたのは。そして少しずつ、確実に、私の理性は剥がれ落ち始めていたのです。

　私は全身を包み込むような悦楽に身を委ねたまま、ディスプレイに表示されるメッセージを読み進めていました。このサイトを覗き見する罪悪感は未だに残っていましたが、その罪悪感すらゾクゾクするような刺激に感じていたのです。そしてあろう事か、私の心の中には更なる好奇心が芽生え初めていました。

【今僕はコチコチに勃起したチンポを扱いています！厭らしい人妻さん、良かったら入室して下さい。一緒にオナニーでもしませんか？】

【ドロドロのオ○ンコを持て余してるそこの奥さん！僕が慰めてあげます！早く来なさい！】

【奥さん、俺があんたの濡れ塗れたオ○ンコを満足させてやるよ。タップリと感じさせてやるからズベコベ言わず入って来な】

――入室して下さい・早く来なさい！・ズベコベ言わず入って来な…
　チャットルームへの入室を促す言葉が、溢れ出した私の欲情をチクチクと刺激しました。どんな人達なのだろう？どんな会話をするのだろう？と言う思いが芽生えたのです。もし入室したら、どんな事をされるのだろう？もっと恥ずかしい言葉を言われるのだろうか？卑猥な言葉で私を責めるのだろうか？もし入室したら…
　私の頭の中は厭らしい想像で一杯になっていました。メッセージの横にある『入室』を示す小さなアイコンが、私に手招きをしているように見えました。
（これをクリックすれば…）
　しかし、私は頭をブルブルと振っていました。
（だ、駄目よ…そんな事考えちゃ…ここでもう…止めなくちゃ…）
　私はマウスから指を離しました。でもその指先は行く先を失ったかのように、どこにも落ち着くことができず、マウスの少し上でフルフルと震えているのです。
――本当に止めちゃうのか？もっと気持ちいいことがこの先にはあるのにな？
　またディスプレイの中から囁きが聞こえました。
「あッ…ああッ…そ、そんなッ…」
　そう言いながらも、ゾクゾクとした疼きが私の背筋を駆け登ります。
――あんたの知らない世界がこの中にはあるんだぜ？あんたの知らない快楽がな…
「いやッ…そんなッ…い、言わないでッ…」
――本当は興味深々なんだろ？もっと気持ち良くなりたいんだろ？
「あああッ…そんな事ッ…あ、ありません…」
　私はディスプレイからの囁きに、ブルブルと首を振って答えていました。でもそれは、傍から見れば一人の女が自問自答を繰り返している姿にしか見えなかったと思います。そして宙を彷徨っていた私の指先は、いつの間にか再びマウスの上へと置かれていたのです。
――ほら、入室しちゃえよ？嫌ならすぐに退出すりゃあいいじゃねえか？
「あッ…あああッ…」
――身体が火照ってどうしようもないんだろ？誰かに虐めて貰いたいんだろ？
「あああッ…そんな…こと…な、ないッ…」
――じゃあ、ずっとこのままでいいんだな？ずっと欲求不満のままでいいんだな？
「ああッ…いやッ…そんなの…いやッ…」
　闇からの声との会話に私は遂に屈してしまいました。正確に言うならば、自分自身との会話の中で遂に理性が性欲に負けた瞬間だったのでしょう。
　私は蕩けたような眼差しでディスプレイを眺めながら、ズラリと表示されている『入室』のアイコンの１つにカーソルを合わせて、クリックをしてしまったのです。

（つづく）