４．非望

　栗屋敷の財力は安定を極めていた。
　梨山は毎年、栗屋敷に蓄財を与え、沙耶香は何の不自由なく日々を過ごし、嫁入り修業に勤めていた。
　沙耶香が二十歳の春、淫らな栗屋敷では、成るべくして成る事件が起きた。
　あってはならぬ事件。
　そお、沙耶香が妊娠したのである。
　隆治は慌てたが、堕胎させなかった。
　急きょ、婿養子を取る話を進めたのである。
　沙耶香の美貌は、その美しさに色香を加えて、更に魅力を増していた。
　婿養子の相手は、すぐに隣町の元庄屋の次男と決まり、翌月には盛大な式が行われた。　新郎は、新城高志という生真面目な男、２１才。
　初夜を向かえる沙耶香には、何の不安もなかった。
　隆治との関わりで、女としての勉めは十分知らされていた。
　昔ほど処女を求められている時代ではなかったが、しおらしく装い、それらしく務めなければならなかった。
・
　列車に揺られ、ようやくたどり着いた清よらかな水の流れる、川の辺の温泉旅館。
　浴衣姿で夜具の上に寝そべった高志の気は昂ぶっていた。
　養子とはいえ、夢かと疑うほどの美人と将来安泰の蓄財を手にしたのである。
　落ち着いている方が不思議である。
「沙耶香」
　夫らしく呼び捨てにする高志。
　鏡の前で、寝化粧に忙しい沙耶香が振り向く。
　濡れ髪の妖気漂う色気に、戸惑いすら感じる高志。
「さあ、こっちへ」
　誘いをかける高志。
「もうちょと待って」
　慣れた面持ちの沙耶香は、恥らうように抗う。
（日が暮れたばかり、夜は永いのに）
　焦れた高志は、夜具を抜け出し沙耶香の手を引いた。
　高志には、沙耶香の華奢な手にすら昂ぶりを感じる。
　沙耶香は高志に身体を任せて横になる。
　高志にしても女は初めてではなかったが、完全に自由にすることを許された相手は初めてだった。
　色町で買った女を相手にしても、「相手はプロだ」という意識は拭えない。
　恋愛による情交は経験がなかったのである。
　高志は沙耶香を自由に扱った。
　浴衣の紐を解き、白い肌を何はばかることなく見詰め、優雅にゆれる乳房に触れ、柔らかい唇を吸い上げた。
　足の付根に茂る繊毛に手を触れ、心地よくなくても秘密の園を実感した。
　繊毛の奥の熱い粘膜に触れると身震いを感じるほど昂ぶり結婚を意識した。
「あぁ、沙耶香」
　歓喜して、唇で沙耶香の全身を愛撫にした。

　沙耶香は高志に全てを委ねていた。
　高志のウブとも思える仕草にも淫欲の情を昂ぶらせたが、手を動かす事も抑制し、天井の柄を眺めていた。
　高志の唇が、沙耶香の唇を吸い上げるが、舌は絡めてこなかった。
　高志の奇麗な手が、花園の肉芽を意識無くスッと触れる。
「あっ」
　喘ぎ声をあげても、高志には肉芽への意識がなく手はよそに行く。
　沙耶香は、そんな擦れ違いにも、焦れた感じで身悶える。
「あぁ〜」
　唇が乳首を吸い続ける。
「あっ・・・・あっ・・・・あっ」
　縦筋を舐め上げる舌。

　沙耶香の花園に潤みを見た高志。
　光輝くほどに、めいっぱい強張った男の分身を押し付けていく。
　ヌルッと埋没する。
「はあぁ」
　沙耶香の待ちに待った喘ぎ。
「きもちいい〜」
　沙耶香の耳元で囁く高志。
　犬の交尾のように慌ただしい腰振りをする高志。
　女を絶頂に追いやる嬉しさなど知らず、ただ放出へと一直線に腰を振る。
「うっ、うぐっ」
　放出のうめきを上げて艶事を終わらせた高志。

　沙耶香にとって自身の満足できない艶事、背徳の罪をさらに深くする予兆はここに生まれていた。

５．非断

　高志は以前の仕事は止めて、梨山を手伝っていた。
　山の仕事は、高志にとって重労働であったが十分納得して赴いた。
　単調な栗屋敷の生活が続いていた。
　沙耶香との情交は週１程度に気まぐれに行われたが、時間は午後１０時と一定していた。
　何も、打ち合わせされた訳ではないが、生真面目な高志の几帳面さが出ていた。
　週１の男本位で女にとってつまらない情交、熟れた沙耶香は身体を持て余し、欲情が蓄積するばかり。
　大きな栗屋敷のこと、夫婦それぞれに寝室は与えられ、その場所もイビキが聞こえないほどに離れている。
　沙耶香と隆治にとって１１時以降の夜に、以前と変わらない淫猥な時間とすることに永い日々を必要としなかった。
　挙式から３ヶ月を過ぎたころ、沙耶香の欲情は限界を迎えていた。
　お腹の子の事は、４ヶ月を過ぎ安定期、心配していなかった。
　眠りは浅く、卑猥な夢で目が醒める日々。
　瞼にちらつく隆治の頼もしい男根。
　沙耶香の身体を何度も絶頂に追いやり淫汁を解き放させてくれる一物。
　沙耶香の股間は疼き、昼夜無く薄絹を汚した。
「あぁ〜」
　明るい昼間でも、ぼんやり一人になると喘ぎが漏れた。
　真の男を渇望する身体、沙耶香の欲望は垣根を越えて大きくなっていた。
　夜の１１時。
　夜具を抜け出す沙耶香。
　沙耶香の足は、隆治の寝室を目指し止める者はいなかった。
　スルスルと襖を開ける沙耶香。
「お、沙耶香」
　読み物をしていた隆治。
「おとうさま」
　潤んだ瞳で、しな垂れかかる沙耶香。
「襖を閉めて来い」
　非情な声の隆治。
　襖を閉じて振り向く沙耶香。
「どうした、早く脱いで、寝ろ」
　抗う様子もなく、帯を解く。
　淫欲に塗れた沙耶香、衣擦れまでが嫌らしく身体を刺激する。
「あぁっ」
　白い腕を袖から抜きながら身悶える。
「どうして欲しいんだ、えっ」
「・・・・」
「何しに来たんだ、言わないか・・・言わないとこのまま返すぞ」
「あっ、いや〜ん、・抱いて・・抱いてください」
「ハハハ、そうか、それなら見せてみろ、○○○○全開にして」
「あっ」
　立っていられなくなったように、身体を崩してしまう沙耶香。
「どうした、こっちに座れ」
　吸い寄せられるように夜具に向かう。
「そうだ、横になれ、・見知らぬ男に汚された○○○○はこれか」
「あっ、こんなの、いやっ」
　隆治の手は沙耶香の脛を押し開き、大股開きに押し付ける。
「あぁぁ〜〜」
「なんだ、もう欲しいのか、えっ・・それなら準備出来てるか自分で診ろ」
「・・・・」
「手を持って来い」
　細く白い指が、肉壺の穴をこじ開ける。
「あっ、あぁっ」
「どうだ、出来そうか、えっ」
「・・・・」
「言わんと解らんぞ、沙耶香、ほれ」
「あっ、だ、だいじょうぶ、です〜〜」
　ぬめった指を引き抜く。
「ほおぅ〜、わしも診てみるか」
　二本の厳つい指をブスリと突き込む隆治。
「あっ、あっ、いやっ、指じゃいやっ」
　腰を引き隆治の指を抜き取ると、身体を起こし隆治の股ぐらに食らいついて行く沙耶香。
「なんだ、指はどうダメなんだ」
　それには、答えず淫婦のように怒り立つ肉棒を咥え吸う沙耶香。
「答えろ、指はどうなんだ」
　顔をあげた沙耶香。
「指じゃ、と、届かないのぉ〜〜、・・もお〜いやっ」
　自分の言葉に興奮し、潤んだ瞳で訴えると、再び頬張る。
「高志が居るじゃないか、えっ、そうだろ」
「・・・・」
「どうした、沙耶香」
「だめなの、さやか、間に合わないの」
　悲しい目をする沙耶香。
「何が間に合わんのだ、えっ、指ぐらい短いのか」
「あぁっ、そうじゃなくて、早過ぎるのぉ〜」
「ハハハ、そんな事か、１０年もすれば長持ちするぞぉ」
　チュパ、チュパ
「１０年もぉ、あぁ〜ん、待てない・・今、ほしいのぉ〜」
　隆治の強張りを離し、仰向けに寝ると、大きく股を開く沙耶香。
「おおっ、お願いしないか、ほれ、言ってみろ」
「あぁ〜、もおだめぇ、入れてぇ〜、頼もしいオチ○チ○、入・れ・てぇ〜〜」
　思わず腰をヒクつかせる沙耶香。
　隆治は濡れそぼる沙耶香の蜜壷に強張りを充満した。
　隆治のライドは時間を忘れて続き、沙耶香を何度も天国へ送り込む。
　夜具のシーツには、大きな地図ができ、沙耶香の肉壺は赤く爛れ腫れぼったく充血し、嫌らしくふくれている。
　獣のような喘ぎで身もだえ、何度も身体を強張らせて昇天した沙耶香。
・
　翌朝の朝食に立つ高志は、妙に艶ぽく明るい沙耶香の姿を観て、顔をほころばせていた。

６．疑い

　沙耶香は可愛い女の子を産んだ、香織である。
　母子ともに元気で何の心配もない出産だった。
　この時、栗屋敷の秘密をしらない高志は、手放しで喜んだ。
・
　どんなに几帳面な人間でも、死ぬまで同じ行動を取るはずも無く、栗屋敷にも、その時はやって来た。
　隆治と沙耶香の情交の頻度は増し、二人にとってあたりまえの事となっていた。
　だからといって、公にしたり、証拠を残すような事は無かったが、沙耶香のもとに高志がいつも１０時に訪れるというのは錯覚だった。
　その日、高志は欲情し昂ぶっていた、「今日はやるぞ」と思い仕事に出た。
　一日の仕事を終え、風呂、夕食を済ませて時間を待った。
　いつものように１０時を迎えようとしたとき、さあ、という高志は、お腹の便痛を感じた。
　所要を済ませたトイレの中、萎えた息子が不安になり、しごいてみる。
　大きくならない。
　どうした事かと、自室にこもり、沙耶香の部屋へ行くのを断念していた。
　ところが、１時間を過ぎたころ、高志の息子は力をみなぎらせて来たのである。
　単にリラックスできただけの事。
　おもむろに、沙耶香の部屋を目指す高志。
　襖を開けると夜具は乱れているが、沙耶香の姿が無い。
　高志は、不信がることもなく、トイレにでも出ているのかと待つことにした。
　１時間待っても帰らない。
　さらに１時間待ったが帰らない。
　さすがに不信になった高志だが、その日は自室に戻った。
・
　翌日から高志には、新しい仕事が出来た、沙耶香の監視である。
　夜１１時を過ぎると、沙耶香の部屋を覗く事にした。
　２週間も続けると周期まで解る。
　沙耶香の不在は１日おきにやって来た。
　高志は１１時前に沙耶香の部屋を監視した、周期は解っている。
　部屋を出る沙耶香の姿を追う高志。
　目線で追うが足は動かさない。
　この時、高志にはある思いがよぎった。
（そんなはずはないだろう）
　翌々日、高志は、義父、隆治の部屋の隣に潜んだ。
　暗闇で時計が読めないが、１１時を過ぎた頃だろう。
　義父の部屋から、沙耶香の声が聞こえてくる。
　会話の中身は聞き取れない。（聞きたくもない）
　５分も過ぎただろうか。
　衣擦れの音、女の喘ぎ声、確かに聞こえる。
　暗闇の中で狼狽する高志、瞳は潤んでいた。

　義父と沙耶香の情事に間違いない事を確信した。
　翌日の夜、沙耶香を問い詰める高志。
　うなだれる沙耶香は、否定する事も無く事象は確定した。
　情交をやめるよう促す高志。
　沙耶香は高志の意思を受け自粛した。
　その後も高志の監視は、続いていた。
　高志と沙耶香の情交は、続いてはいたが頻度が下がった。
　出産をおえてからの沙耶香は、以前より貪欲な淫乱さをみせていた。
　深い所で感じる快感が、何倍、何十倍にとレベルアップした。
　渇望は更に大きく膨らむことになる。
　３ヶ月が過ぎた頃、高志は部屋から出る沙耶香を再び見てしまう。

　栗屋敷の秘密は無くならなかった。
　高志は悩み、ノイローゼ状態が続いていた。
　そんな、１年が過ぎた頃、沙耶香は、高志の眠る読経の前にいた。
　栗屋敷の奥にある土蔵の中で、首を吊った高志を発見したのは、繁造だった。
　状況から警察も動いたが、自殺ということで解決した。
　遺書も残されていなかった。
　死んだ高志の気持ちは解らない、しかし義父と沙耶香の事以外、栗屋敷には何の問題も無かったのである。
　高志の死で、沙耶香は長い喪に服した。
　栗屋敷は、子育てが中心となり、正常な屋敷となっているかに見えていた。