Another View 川崎 賢 「あ〜今日はいい汗かいたな〜」 私は清々しい気分で夕暮れ時の空に向かって背伸びした。 「本当に、今日は大変だったね」 私の隣で晴香が微笑みながら頷いた。 「本当に、よく頑張ったな、賢」 一輝も、そうほめてくれた。 「かっこよかったよ、賢」 そして、優一も… 「う…うん…」 優一の真直ぐな瞳に見られて、なぜか私は目を反らす。 （どうしたんだろ、私…） 優一に褒められただけで、心拍数が一気に跳ね上がった。心臓の鼓動が自分に聞こえるぐらい大きな音で早鐘を打ってる。 （まずい…ドキドキする…） 私は気付かれないように隣を歩く優一の顔をそっと見上げる。 （こうしてみると、優一、背が高いな） 昔の優一は私と同じぐらいだったのに、いまじゃ圧倒的なまでに差がひらいてる。 そこで、私はあることに気がついた。 （そうか、私……優一の事、ちゃんと見てなかったんだ……） 自分の思いばかり優一にぶつけて、優一の事を見てこなかった。なのに、それでも優一は私の事を見てくれた。 （優一……） 「ん？どうかした？」 私の心の声が聞こえたかのように優一が私に視線を向けて目が合う。 「え……う、うんん！なんでもない！そう……な…なんでもないの…うん…！」 私は慌てて優一から目を反らす。 優一と話すだけで胸が締まって、息が出来ない。 （どうしたんだろう…私……） ほっぺたが熱くなるのを感じる。きっと、私のほっぺたは真赤になってるんだろう。 胸にそっと手を当てると、やっぱり心臓は早鐘を打ち続けている。 （優一……） もう一度、優一を見ようと視線を向けるが 「あ……」 優一と目が合ってしまうと私は直ぐに目を反らしてしまう。 「ん？」 優一が不思議そうに首を傾げている。 （どうしたんだろう…本当に……） ただ、目を合わせて話すだけなのに、それが出来ない。 （でも……なんだろう…この…変な感じ……） 心臓が激しく早鐘を打ち、胸が締まって息ができない。でも、それがなぜか心地いい。とても、心が温まる不思議な気持ち。 （恋…なのかな……？） もう一度、視線を優一に向ける。 今度は一輝と話していて私に気づかない。 （まただ……） 優一を見ると、やっぱり心臓が早鐘を打つ。 （惚れちゃった…のかな？） 今日の、優一の見せてくれた優しさに。 （でも、ちょっと違うな…） 優一には、ずっと惚れてた。だから、これはきっと （本当に…愛しちゃったみたい……） 「へんな私」 皆に聞こえないように小さな声でそうつぶやくと私は、へへへ、と小さく笑った。 その時だ。 ズキン！！ 「うぅ！！」 急に、内臓に激痛が走った。 「う……また…いつもの……」 あまりの痛みに、片膝をついた。 「賢、どうしたの？」 優一が真っ先に私の側へ寄ってきて、肩を抱いてくれる。 「賢、また、いつもの？」 晴香も、心配して私の顔を覗き込む。 「優一、あのベンチだ」 一輝が、今日、私と優一が一緒にいた公園の中に置いてあるベンチを指差した。 「うん」 優一が、私を簡単に抱き上げる。 「ゆう…いち…」 （ごめんね、また迷惑ばっかりかけて…） 「大丈夫だよ、賢」 そう言って、微笑んでくれる。 （だい…好き……） 優一の胸の中で、私の意識は途絶えた。 Another View end 「賢、なんだか熱っぽいな」 公園のベンチで、賢は腰かける僕の膝を枕に眠っていた。額に手を当ててみると少し熱っぽい。まあ、いつものことだけど。 まだ空は夕暮れで赤く染まっている。 晴香と一輝はどうしても外せない用事があると言って先に帰ったから公園には僕と賢の二人きりだ。 「でも、似てるな、この公園」 初めて賢に会った公園。そして、一輝と晴香と出会った公園。故郷にあるあの小さな公園によく似ている。 「ん…あれ…？」 僕の膝の上で、賢が目を覚ました。 「おはよう、賢」 「あ、優一…。そっか、また私…」 と、起き上がろうとした時だ。 「いた！」 両手でお腹を押さえて蹲る。 「賢、大丈夫？」 僕は賢を抱きしめる。 「うん…平気……」 強がっても体は正直だ。賢の顔はどこか青くて額には冷や汗が出ている。 「優一、先に帰ってて……。少し、休んでから行くから」 その台詞に、僕は思わず吹きだした。 「そういえば、前にもそんなこと言ったね」 「ああ、そういえば」 まだ、賢が男装をしていた頃と同じだった。 「じゃあ、僕がすることは一つしかないね」 僕はあの時と同じように意地悪な笑みを浮かべた。 「あ、で、でも、今日は、きゃぁ！！」 問答無用で賢を抱き上げる。 「じゃあ、今日もこれで帰ろうか？」 すると、賢は顔を真赤にして首を振った。 「だ、だめ！だめ！」 「どうして？」 「だって、まだ明るいし、それに、帰り道は人通りの多い所ばっかりだし…そ…それに…」 「それに？」 僕は意地悪く首を傾げる。 「う…それに……」 賢は真赤になった顔を俯けながら 「スカートが垂れて……ショーツが……」 「え！？」 僕は慌てて両手の位置を確認する。 一方の手は賢の腰の辺りに、もう一方は賢の太もも辺りにある。 「あ、そうか…」 （男装の賢を抱き上げる時はこれでよかったんだ） 制服はズボンだったからどこに手を当てようが関係ない。でも、賢はミニスカだ。太ももを持てば当然スカートが垂れて横から見ればショーツが丸見えだ。 「やだよ…私……」 「そ、そうだね、流石にそれは…」 「優一以外の人に、私のショーツ、見せたくない…」 そう言って、きらきらと輝いている綺麗な瞳を僕に向けてきた。 「え…」 僕は不意に顔が熱くなるのを感じた。 （可愛い） 心拍数が跳ね上がる。 「あ…」 賢も、直ぐに目をそむけてしまった。 「と、とりあえず…」 と僕。 「痛みが引くまで、こうしてる」 僕は賢を抱きかかえたままベンチに座り直す。 賢は、僕の腕の中で小さく頷くと、しばらく話さなかった。 |
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| 2011.3.26掲載 |
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