7月31日 月曜日 「ん〜。もう朝か」 僕は目覚し時計のアラームで目を覚まして体を起こす。 （まずい、体中が筋肉痛だ） 体の節々が悲鳴に近いものを上げている。 「ん、朝〜」 隣で賢も目を覚ます。 「おはよう、賢」 「うん、おはよ〜」 寝ぼけ気味に賢は目を擦りながら体を起こす。 「ん〜いい朝だね〜」 いつも通り背伸びして体を解した。 （やっぱり、筋肉痛なんてないよね） 剣道で鍛えてきたんだから当然と言えば当然だ。 「優一」 「ん？」 賢に呼ばれて横を見ると、賢が唇を重ねてきた。 「ん！」 突然の事で少しだけ同様する。 それに （そうか、僕らはまだ裸だったな） 賢も僕も真裸だ。唇を重ねてきた賢の乳房が口の位置を変える度に揺れている。 「んー」 賢がキスをしながら上目遣いで僕を見てくる。 そして唇を離すと 「どこを見てるのよ？」 「あ、ごめん。その…あまりにも綺麗だったから」 僕はそう言って賢の乳首を指差す。 「な、なに言ってるのよ！変態！」 賢は顔を赤くして、両手で乳房を隠そうとするが、大きすぎて両手ごときでは隠せない。 「変態って…」 「変態だから変態な…ん…」 卑怯からも知れないけど、今度は僕が賢の唇を唇で塞いだ。 （賢…好きだよ…） それからは、いつも通りの僕らの朝がやってきた。 そしてやってきた昼休み、今日の屋上には僕、賢、晴香、一輝の四人が円を作って昼食を採る。 「あ〜もうすぐ期末試験か〜」 晴香が憂鬱そうに背伸びする。 （そういえばそうだな） 期末テストは再来週の月曜日から木曜日の計四日間にわたって行われる。いくらスポーツに力を入れる学園とはいえ、テストを受ける者に例外はない。部活も、いつからは知らないが休みになるらしい。 「あれ、今日からだっけ、部活休みなの？」 と賢。 「ああ、そうだ。今日からは全ての部活が休みになり、生徒達は勉強に勤しむことになる」 一輝が答えると、晴香はまたしても憂鬱そうに唸った。 「あ〜、やだな〜。部活ばっかやってたから勉強なんて全然わからないよ〜」 「同じく」 賢が隣で同意した。 「ま、自業自得だな」 一輝は気にする様子もなく食事を口に運ぶが、頬にはちゃんと「同じく」と書かれている。 「もう、こうなったらどうとでもなれだ！ねぇ！今日、帰りにカラオケ行こう！」 「おい、晴香。お前は自分の状況をわかってるのか？」 「当たり前ですよ、一輝さん。要は赤点を少数に抑えればいいんですよね？」 開き直ったように晴香が笑う。 「はぁ〜。しょうがないな」 一輝は諦めたように同意。 「私も行こう」 賢もテストを諦めたように同意。 「じゃあ、みんなが行くなら僕も」 僕は皆が行くから同意した。 「よし！じゃあ、今日の放課後、みんなでカラオケだ！！」 晴香が拳を天に突き上げた。 （これぐらい熱意を持って勉強すればいいのに） 僕は心の中でひっそりとそう思った。 そしてやってきた放課後の事。 「女の子には身支度があるの！男は先に行って準備すること！おわかり？」 晴香はそうとだけ言葉を残すと嫌がる賢を自室へ引きずり込み扉を閉めた。 「さあ賢ちゃん！お姉さんが賢のナイスボディーを満遍なく発揮して、あ、げ、る?」 「な、何よ！?って！や！な、なんで脱がすの！や、やめて！！やぁ！！優一！！助けて！！」 「こら！！抵抗しないで！！ほらほら！！こんな大人しいブラとショーツは却下です！！紐にしなさい！！紐に！！」 後は賢の悲鳴と、どたばたという物音が続いた。 「行くか、優一」 肩にぽん、と手を置かれる僕。 「うん、そうだね」 僕は賢にごめん、と頭を下げて先にカラオケへと向かった。 それから僕と一輝はカラオケボックスで二人を待っていた。 「なぁ、優一」 一輝がメニューを眺めながら話しかけてきた。 「なに、一輝？」 「調子はどうだ？」 「え？」 「うまくいってるかって話しだよ」 そう言ってニヤニヤとして僕を見てくる。 「い、いってるよ」 「そうか。それはよかった」 「それだけ？」 「ああ、それだけだ」 それから一輝はメニューに目を戻す。 （なんなんだろう？） 晴香の悪い癖でもうつったのかな、と僕は思った。 それから待つこと一時間。 がちゃん！！ と勢いよく僕らがいるボックスの扉が開かれた。 「お待たせ〜」 最初に入ってきたのは晴香だ。 「晴香…お前…」 晴香の格好を見て、一輝が絶句する。 晴香はマイクロデニムにブーツを履いて大胆に太ももを露出させ、青い袖なしブラウスを胸の真下までめくり上げて裾を脇で結んで白い腹部を露出させ、黒いリボンを締め、髪をポニーテールにしていた。 （やっぱり晴香はスタイルいいな） 晴香は体格が白人に近く、むき出しにされた腹部は、細いというより筋肉質でとても綺麗に引き締まっている。太股もどちらかと言えば筋肉が主流で、大人の女の色気というより、スポーティーな色気を漂わせている。 「お前は…なんていう格好でここまできたんだ…」 一輝は恥ずかしい、と言わんばかりに手の平を額に当てる。 「いいじゃん！私にだって、こういう格好をしたい時だってあるんだから！」 「はぁ〜」 ため息をつく一輝を横目に 「あの、賢は？」 「え？」 晴香は目を丸くする。 「あ！賢のやつ！少し待ってて！！」 と言ってからわずか三秒後 「はい！お待ち！」 勢いよくやってきた晴香の手には賢の物と思われる手が握られている。 「さ、こっちに来て」 そう言って手を引っ張るのだが、持ち主は一向に部屋に入ろうとしない。 「ほら！！こっちだって！！」 晴香が今度は本腰を入れて引っ張り出す。 「や、やだ！！こんな格好、優一に見られたくない！」 声は賢のものだ。 「何言ってんのよ！！はら、きなさい！！」 「い、いやだ！！恥ずかしい！！」 しかし、晴香の腕力には敵わなかったようでずるずると部屋に引きずり込まれてくる。 そして、ついに僕の目に賢の姿が飛び込んできた。 「え…賢…？」 僕は目の前の光景に絶句する。 赤と黒のチェックのミニスカートに、白と黒の縞模様のニーソックス、スカートの上からオシャレ用の黒革のベルト、肩までむき出しになっている真赤なブラウスは、裾を捲りあげて胸の直ぐ下で結び腹部を露出させ、黒いネクタイを締め、巨大な赤いリボンが賢の髪を束ねていた。 目の前にいる賢は、少し悪魔が掛りで、西洋に出てくるお人形のようだ。 「ゆ…優一…」 首まで真赤になって賢は恥ずかしがる。 「か…」 「え？」 「可愛い！！」 今の賢は、僕が今まで見てきた賢の中で一番かわいかった。しかも （ストライクだ！！） 「可愛い！！賢、可愛いよ！！」 僕は我慢できずに賢を抱きしめると子猫を可愛がるように頭を撫でたり頬擦りをしたりした。 「ゆ、優一！！きゃ！！くすぐったいよ！！」 でも、賢は抵抗しなかった。抵抗することなく僕に身をゆだね続けた。 （本当に、可愛いよ、賢） 賢はもう、正真正銘の女の子だった。女の子として、可愛い服を着て、綺麗になろうとする。そんなごく当たり前の事が嬉しくて、僕は賢を可愛がり続けた。 Another View 川崎 賢 「あ〜楽しかったな」 カラオケからの帰り道、私の隣で優一が満足そうにほほ笑んだ。 「私も楽しかったな」 （視線が痛かったけど…） こんな格好をしてるからだと私にはわかってる。道ですれ違う人達みんなが私と晴香を凝視してた。それに （この格好…ちょっとスウスウする…） お腹が剥き出しになってるから、クーラーが効いてたカラオケボックスの中でお腹を冷やした。 でも （優一が喜んでくれたからいいや） 優一が可愛いと褒めてくれた。頭を撫でてくれた。頬擦りをしてくれた。その事が、私の中の恥ずかしさを中和してくれた。 「でもさ、やっぱり晴香って歌うの上手だったよね」 「うん、結構上手だった」 晴香の声はとても綺麗で、聞いてる側も心地よかった。 「でも、僕は駄目だったな」 「うん」 （優一、とっても音痴だったね） 音程もめちゃくちゃだったし、何よりもリズム感がなかった。聞いてるこっちも恥ずかしくて目をそむけたくなったぐらいに。 「一輝は普通だったね」 「うん」 （上手でもないし、下手でもない） よくわからないのが一輝だった。 「賢、全然声が出てなかったね」 「え…う、うん。ちょっと…緊張して……」 （全部、晴香のせいだもん……） 私が歌う時だけ、いつも優一とペアにするから。あまりにも優一が近かったから、心臓の早鐘が止まらなかった。 （もう…本当に…） 昨日から、ずっとこんな感じが続いてる。優一が傍にいるだけで、胸が締まって、息が出来ない。心臓も早鐘を打って一向に静かになる気配がない。それに （ほっぺが熱いな…） そっと自分の頬に触れてみるとやっぱり熱を帯びてる。 「どうしたの、賢？」 「え、ええ！！あ…そ…その！ちょ、ちょっと熱いなって！！」 「え？大丈夫？」 優一が心配そうに私を見つめてくる。 （あ…どうしよう…） 優一の瞳に私がうつってるのが見える。 （心臓が…） 余計に早鐘を打ち始める。 「ちょっといい？」 優一は私の額に自分の額をくっつけてきた。 「ひゃぅぅ…」 （優一が…ち、近い…） 優一の唇が目の前にある。 （まずい…顔から火が出そう…） キスシーンなんて想像したから。 でも （キス…したい…） その気持ちはある。 「ちょっと熱いかも」 「え…あ…」 優一がなんて言ったのか聞こえない。ただ私の目は優一の唇を向いてる。 （最近の私、やっぱり変だな） 思わず心の中でクスリと笑った。 （本当に…女の子みたい…） 女なのだから当たり前だけど、でも、私にとってはこの想いが特別だった。 「ん〜なんだか熱が上がってきてるような…」 額をくっ付けあいながら、優一が呟いた。 （いいんだよね…私、女の子で？） だから、していいよね、優一？ 私はそっと背伸びする。 「家に帰ったら、一回熱を―ん…」 私は自分の唇を優一の唇に重ねた。 （大好き、優一） キスの最中、私の耳に、私の心臓の鼓動が入ってきた。とても早くて、激しい鼓動。とても緊張してるのがばればれになってしまうぐらい大きな音。それを隠したくて、胸の上に二つの手で作った拳を置いたけど、優一が私を抱きしめてくれたから、その拳から私の鼓動が優一に伝わっちゃった。 「ん〜、やっぱりこの服はな〜」 家に帰ると、私は直ぐに着替えて、晴香から渡された服を押入れにしまいこんだ。 「流石に…恥ずかしい……」 優一が喜んでくれた事は私も嬉しかった。でも、流石に人目が気になってしょうがない。でも優一が望めば、私は喜んで着るつもり。でも、それまでは押入れで眠っててもらう事にした。 |
| あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。 |
| 2011.4.9掲載 |
平凡な男さんの作品集→ |