| （前編） けだるい日曜の朝をベッドのなかですごして、少し遅めの朝食を摂った直後、玄関のチャイムが鳴った。 外は大雨。 こんな休日の昼間に、いったい誰だろう。新聞の勧誘かなァ？ いったん廊下に向かいかけて、そこで、自分の恰好にふと気づいて、 「すみません、少し待ってくださる？」 わたしは急いで寝室へと戻り、寝衣がわりのピンクのスリップを脱ぎ捨てた。 パンティだけの裸身にニットワンピを身につけて、玄関へと戻る。 ドアスコープを覗きこむと、そこには、見覚えのある顔。 「え、石橋くん？」 わたしが勤務する中学校の生徒で、生徒会長を務める男の子。 石橋隼人くんが、マンションの廊下に立っている。 わたしは内鍵を外して扉を開けた。 「おはようございます、麻衣ちゃん先生」 「石橋くん、いったい……」 どうしたの？ って言いかけて、わたしはその言葉を呑みこんで、 「やだ、ずぶ濡れじゃないの」 いちおう傘は持ってるみたいだけど、髪の毛も肩もグッショリ。 「タオル持ってくるから、部屋にあがって待ってなさい」 「え？ 大丈夫ですよ、これくらい」 「大丈夫なわけないでしょう」 少し怒った口調でそう言って、わたしは足早に洗面所へと向かった。 バスタオルを持ってリビングに戻り、立ち尽くす隼人くんの頭を有無を言わさずゴシゴシと擦る。 「あの、自分で拭きますから」 「だめよ、背中までビショビショじゃないの」 強引に上半身を裸にさせて、背中も拭いてあげる。隼人くん、ちょっと照れ臭そうな顔。 わたしは、濡れたＴシャツを洗面所の洗濯機に放りこんで、乾燥ボタンを押した。それから台所のポットに火をかけて……あと、彼の着替えもだしてあげないと。 寝室の箪笥からＴシャツを取りだして、隼人くんに手渡した。 「女物だけど我慢してね」 「すみません、先生」 太腿までを覆うロングＴだけど、やっぱり、背の高い隼人くんには少し小さいみたい。 ようやく落ち着いて、リビングのソファに座って、ガラステーブル越しに隼人くんと向きあった。 「急にお邪魔してすみません」 「それはいいけど、いったいどうしたの？」 バスタオルを肩にかけたまま、隼人くんはカップの紅茶を口にはこんだ。 「わざわざ家までくるなんて」 「俺、その……悩みがあるんです」 「悩み？」 「はい」 三年生だから、受験勉強のことかしら。それとも恋の悩みとか。 とにかく、こうして部屋までくるくらいだもの。きっと相当な事情があるのに違いないよね。 「それで、どんな悩みなの？」 けれども隼人くん、視線を横にそらして黙りこんだまま。 なかなか口を開こうとしない。 「遠慮しないでいいのよ、先生でよかったら相談に乗るわ」 本来なら学校で聞けばすむ話なんだろうけど、この状況では仕方がない。 それに、生徒からこうして頼られるのって、正直嬉しい。 ようやくわたしも一人前の教師になったのかなァ……って、少し鼻が高くなる。 「ねえ、石橋くん」 「……俺、だめなんです」 「だめって、何が？」 「だめなんです。俺、もう受験生だってのに」 隼人くんは顔をあげた。 こうして対峙すると、彼、本当に大人びた子だなって思う。 この前エッチした忠司くんにくらべると、全体的に線は細い。そのぶん、子供離れした色気が隼人くんにはある。背も高いし、妙に落ち着いてるし。 忠司くんをスポーツマンタイプの好青年とするなら、この子はホスト系の美形タイプって感じかしら。本当に中学生なの？ って学校でも思うことがある。 でも、今は……隼人くんの顔、なんだかちょっと怖い。 「困るんです、俺。あんなの見せつけられて」 「え、あんなのって」 口を開いた矢先、テーブルの上に置いてあった携帯が鳴った。 「かまいませんよ、出てください」 わたしは携帯を取りあげた。メールが入っている。 見覚えのないアドレスだった。 メールには画像が添付されていて、それを見たわたしは……思わず唖然。 え、嘘……これって……。 夜の公園とおぼしき暗がりのなかで、若い女がベンチに腰かけている。 不自然なくらいに足を開いて座る女の正面には、男の背中があった。角度のために表情はうかがえない。けれども、地面に片膝をついた彼が何を見ているのかはすぐに見当がつく。女の股間だ。ピンクのパンティが写真にもばっちりと映しだされている。 これが単なる痴漢行為じゃないことは明白だった。女が抵抗しているようなそぶりはいっさいないし、スカートの前を隠すことだってしていないのだ。むしろ、自分から見せびらかしている感じさえする。そう誤解されても仕方のない映像だった。 場所が場所なら、このまま淫らな行為がはじまってしまいそうな光景。 そして、そこに映っている非常識な女は……間違いなくわたしだ。 「先生、どうしたんですか」 わたしは、慌てて携帯をテーブルの上に戻した。 「返信しなくてもいいんですか？」 「いいの。ただの間違いメールだから」 「間違いじゃないですよ」 隼人くんは、背中に隠していた腕をわたしの前に突きだした。 手にした携帯の画面に、今さっき見たのと同じ画像が映っている。 「え？ それ」 「いそいで撮影したわりには綺麗に撮れてるでしょ」 「石橋くん……あなた、まさか」 あのとき写真を撮った男の子、彼だったの？ 「やっぱり先生だったんですね、これ」 「やめて、そんなの。はやくしまって」 「先生なんですね？」 確かに不鮮明な画像ではあるけど、知ってる人が見たら容易にわたしだと気づくはずだった。 「普段は真面目な教師って感じなのに、意外とスケベなんですね、麻衣ちゃん先生」 嘲りの目でわたしを見据えてくる。教師を前にした子供の目じゃない。 なんなの、この子。いったい何を考えてるの？ 「俺も見てみたいなあ」 「え」 「写真と同じ恰好をしてくれ、ってことですよ」 「石橋くん、あなた、何を言ってるの？」 まずい、声が震えてる。 「……わたしは教師なのよ、あなたの先生なのよ」 「ええ、知ってますよ。中学校で英語を教える美人の先生。そして学校の外では、男に平気で股を見せびらかす淫乱な女だ」 「な、なんてことを……」 そんなの、子供が口にしていい台詞じゃない。女の教師に言っていい台詞じゃない。 わたしは奇妙な肌寒さを覚えた。部屋の温度が急速にさがってきている気がする。でも、窓は少しも開いてなどいない。室内は完全な密室状態だ。その密室に、若い男の子とふたりっきりでいる。 「ご両親に報告するわよ」 「なら、俺も先生の画像をほかのやつに送信します」 「え」 「まずは安藤と長谷川かな。あいつら、先生のことオカズにしてるらしいから」 「ば、ばかなことを言わないで！」 「それとも教頭先生がいいですか？ いつも麻衣ちゃん先生の身体をジロジロ眺めてますもんね、あのエロ教頭」 わたしに強い目で睨まれても、隼人くんはてんで涼しい顔。 「あなた、わたしをどうしたいの？」 「言ったじゃないですか、写真と同じポーズが見たいって」 「そ、そんなの……」 「どうせならパンティも脱いでほしいなあ」 わたしは、ニットワンピの裾を両手で押さえた。 「パンティを脱いで、テーブルの上に置いてください。先生」 「石橋くん、自分が何を言ってるのかわかってるの？」 「先生を俺のものにしたいんですよ」 「ものだなんて……」 「やらないなら、今すぐ画像を送信します」 「ま、待って」 隼人くんの指が携帯のボタンにかかって、わたしは、つい腰を浮かせてしまう。 「ねえ石橋くん、お願いだからもう帰って。このことは誰にも言わないから」 「俺が帰って困るのは先生のほうでしょう？」 「あなた、真面目な生徒なのに、生徒会長なのに」 「不良じゃないけど、男ですよ」 「そうだけど、でも」 「そんなことよりさ、先生、はやくパンティ脱いでくれよ」 少し苛立った口調でせかしてくる。 わたしはパニック状態に陥った。教え子の少年に、つい数年前まで小学生だった子供に、下着を脱げと命令されている。ばかげたことだった。悪い冗談だと思いたい。でも、彼の視線や口調に冗談めいた色などなかった。 こんなとき、先輩教師ならどう対処するのだろう。いくら生意気といっても、度がすぎた悪ふざけでも、相手はまだ十四、五歳の子供だ。 なんとかできるはず。ううん、なんとかしなくちゃならない。大人として、教師として彼を咎めなくてはならない。わかってる。頭ではそんなことわかってる。なのに、そんな思考を無視して身体は動いてしまった。 恐怖と混乱のために左右の手が動いて、スカートのなかに潜りこんだ。 「さあ、はやく」 隼人くんに顎を揺らして指図されて、わたしは、パンティを腰から引きおろした。 今日の下着は、アダルトっぽい黒色。 教え子の少年が見ている前で、腿から膝へとそれを引きおろし、足首から抜いた。 頭のなかは真っ白。自分が何をしているのかさえ把握できてない。 「こっちに渡せよ」 わたしが躊躇していると、隼人くんは手を伸ばして黒い布地を奪い取った。 「すげえじゃん、エロ教師にお似合いのパンティだ」 「だめ、かえしてッ」 「匂いも最高だしさあ」 赤面するわたしの前で、顔を寄せて鼻を鳴らしたり、布地をひろげたりする。 「お願い、やめて。そんなことしないで」 「まだ何もしてないぜ。それとも、別のことで苛めてほしいってわけか？」 「ち、違う」 隼人くん、すっかり高圧的な口調になってる。態度が激変してる。 でも、それはわたしも同じ。 「なら、新しい命令だ。先生、足を開いてスカートを捲ってくれよ」 「でも」 「やれよォ！」 ビクッて肩を震わせて、わたしはソファに座りなおした。 パンティを脱いだとたん、気丈に振る舞うことができなくなってきてる。 彼の命令に従わなければならない、って気持ちになってる。 「足を開いてオマ×コ見せろよ」 「そんなの……子供が口にしていい言葉じゃありません」 「いまさら教師ぶるなよ、見せたがり女のくせに」 「ひ、ひどい……」 彼の言葉がグサリッて心に刺さる。 「見せるのがいやなら、俺が裸にしてやろうか？」 わたしは首を横に振る。だけど、膝はノロノロと左右に開いた。 外側から室内の冷えた空気が、内側からは甘い熱がアソコに伝わってくる。 「もっと開けよ」 怨嗟の目で彼を睨んでから、わたしは、さらに足をひろげた。 公園で忠司くんに見せたときよりも大胆な、見てほしいの、入れてほしいの、ってせがんでるみたいな恰好。 すぐにスカートも捲るよう指示されて、わたしは、ニットの裾を両手で掴んだ。 「ねえ、本当にこれ以上は」 口先だけで抗って、それから、お尻を少し浮かせ気味にして、 「ああン……」 嘆きながら、スカートを腰まで引きあげた。 「へえ……」 隼人くんの喉が、ゴクリッ、て低く鳴った。 視線がわたしの一点に突き刺さる。 女の教師が、男子生徒に決して見せてはいけない部分を……アソコを見られてる。 「先生、それ」 いったん腰を浮かせかけて、けれども、またすぐにソファに座りなおして、隼人くん、ズボンのポケットにわたしのパンティを押しこんだ。 「……ま、いいか。鑑賞するのはあとまわしだ。それよりもさ、先生、ほかのやつも見せてくれよ」 「ほかのって……」 「オナるんだよ。股をひろげた女が男に見せるものといったら、それしかないだろ」 「え、オナる？」 「自分でいじくれってことさ」 わたしは自分の耳を疑った。 それって、まさか……じ、自慰のこと？ 「先生がどんなふうにオナるのか、見たいんだよ」 「やめて、ばかなこと言わないでッ」 だって……そんなの、恋人にだって見せたことないのに。 「やれよ。でないとネットに画像をばらまくぜ」 「でも、でもォ」 「先生だってオナニーくらいやったことあるんだろ？」 隼人くん、なんとなく女慣れしてるって感じ。 Ｓっぽいというか、ずる賢いというか……命令がいちいち的確なんだもの。 もちろん、悪い意味で、だけど。 女の弱い部分をことごとく突いてくる。 「ねえ石橋くん。あなた、まさかほかの女性にもこんなこと……」 「先生には関係ないだろ。それよりさ、はやくやってくれよ」 「無理よ、そんなの……できない」 「軽くさわるだけでいいからさ。な、少しだけ」 「でも、だけど」 さんざんに逡巡したあと、わたしは股間に指を潜らせた。 少しだけ、っていう彼の言葉につい心を動かされてしまった。 もちろん、正気なら絶対にしなかっただろうけど。 「そのまま上下に擦ってみろよ」 首を左右に動かして、子供みたいにイヤイヤをする。 でも、指は自然と指示通りに動いてしまう。 だって、へたに拒んだら彼に何をされるかわからないから。 恥ずかしい写真を流布されるかもしれない。学校じゅうに噂がひろまるかもしれない。 暴力だって振るわれるかもしれない。 そうなってもおかしくない状況なんだもの。 だから、従うしかなかった。そうよ、これは仕方のないことなのよ。 たぶん……仕方がないの。 「ンン……ゥ」 アソコの溝を数回ほど上下に擦って、クリトリスを指の腹で丸くこねる。 無意識に、普段と同じさわりかたになってしまう。 目を閉じても、隼人くんの視線が当たっているのがわかる。緊張のために肩が上下する。 「へえ。麻衣ちゃん先生って、いつもそんなふうに指マンしてるんだ」 優しい罵倒を浴びて、わたしはつい行為を止めてしまう。 けれども、またすぐに指が動きはじめる。湿った息がこぼれる。 「先生、オナニーは週に何回してるんだ？」 「そんなの……知らない」 「知らないわけないだろ、ずいぶんと慣れたさわりかたじゃないか」 「ねえ、石橋くん。お願いだから……もうこれ以上は」 「毎日そうやっていじってるんだろう？」 わたしは、髪を左右に振り乱して否定した。 毎日なんてしてない。 たまに……本当にたまに、気まぐれでさわるだけ。せいぜい月に数回くらい。 でも、今はちょっと違う。 わたし……夢中になりはじめてる。 いけないことだっていうのに、生徒の前なのに、感じてる。 今の仕事は好きだけど、やっぱりストレスはある。想像していた以上に激務だし、先輩の男性教師からセクハラまがいのこともされるし、保護者からの重圧だってすごい。 若い女教師というだけで、何かと損をすることが多い……ような気がする。 正直、最近は少し疲れ気味だった。失恋とかもあったし。 でも今は、そんなモヤモヤが溶解していくみたいな感じ。 こういうの、現実逃避っていうのかな。いい意味での自己放棄。全部おまかせします、あなたの言いなりになります。それでわたしも気持ちよくなれるんです……そんな、奇妙な開放感がある。隠れて悪戯をしているみたいな心地よさがある。 「はあ、はあ、ン……ッうう」 強要されたことだっていうのに。教え子に見られているのに。 つらいのに、恥ずかしいはずなのに……不思議と心が軽い。 まるで身体に羽が生えた気分。 こんなの、今までのセックスにはなかった。 ＳＭにハマッちゃう女性の気持ち、今なら少しだけわかる気がする。 「ほうら、だんだん濡れてきた」 「ああン……いやッ」 アソコから、クチュクチュっていやらしい音が聞こえる。 お尻の奥が熱くなって、じっとしていられなくなって、腰がモゾモゾ揺れる。唇が半開きになる。 「いいよな、先生のその唇。エロいことが大好きです、って感じなんだもんなあ」 「いやッ……言わないで」 自分でも気にしていることだから、口にだして言われると悲しくなる。 「普段も色っぽいけどさ、喘ぎ顔のときは特に最高だぜ」 「あン、だめ、見ないで……見ちゃだめなの」 「見せびらかしてるのは先生のほうじゃないかよ」 そんなの……確かに、間違った表現ではないと思うけど。でも。 「生徒の前で股をおっぴろげて、オマ×コをグチュグチュに濡らしてんだぜ、先生」 「それは、あなたが無理やり……」 「そんなにいやなら指を離せばいいじゃないか」 そうだ。確かに彼の言う通りだ。 いやならやめればいいのに、いつでも逃げられるのに。 彼を咎めることだってできるのに、それが教師としての使命のはずなのに。 なのに、それができない。指の動きが、もう自分でも止められない。 気持ちいいことがやめられない。 やっぱりわたし、溺れはじめてる。彼に苛められて悦んでる。 「先生はそういう女なんだよ、こういうのが好きなマゾ教師なんだよ」 「ああッ、違う、そんなの違うゥ……ッ、は、はああン」 とうとうエッチな声までこぼれはじめる。 言葉で苛められて、年下の男の子にひどいことを言われて、アソコが、クリトリスが、ズキズキッて疼いてくる。もれ落ちた愛液がソファの布地にしみを作る。普段とは違う性感に心が負けて、指が動く。 絶頂が、すぐそこまで迫ってくる。 「ひでえな、大洪水じゃないか」 隼人くんがソファから立ちあがって、テーブルの狭い隙間に身体を割りこませてきた。 床に片膝を落として、携帯を構える。 だめ、近寄らないで。撮らないで。 わたしはそう叫んだ。自分では叫んだつもりだった。 でも、実際に口からこぼれたのは意味のない喘ぎだけ。 ううん、違う……そうじゃない。 意味ならある。 隼人くんを、年下の男の子を魅了したくって。拒むふりをしながら彼を誘惑したくって。誘惑しながら、自分自身がもっと興奮したくなって。 そのために必要以上の艶声で喘いで、夢中になってクリを擦って。もう片方の手では、ニットの上から乳房を掴んで。 左右に開いた太腿が、ビクンビクンッていやらしく震える。 「ンッ、ンうゥ！」 カメラのシャッター音をたてつづけに浴びながら、わたしは、強大な絶頂の渦に自ら身を投じた。 |
| あなたのひと言が作者の励みとなり、新たな作品が生まれます。ご感想宜しくお願いします。 |
| 2009.5.2掲載 |
蘭丸さんの作品群→ |