その女が引っ越してきた当日から、達夫は彼女のことが気にはなっていた。
　その日、達夫がアパートの自分の部屋に戻ってくると、開け放たれた隣室のドアから、セミロングの黒い髪を後ろで結んだ若い女が、スウェットシャツの袖をまくり上げて、キッチンの床の雑巾がけをしているのが見えた。下を向いて力を込めて床をこするたびに、大きめのバストが揺れるのが目を引いた。

　夕方には、その女が達夫の部屋に挨拶にきた。
「隣に引っ越してきました立花といいます。どうぞよろしく」とだけ言って、タオルの入った箱を置いていった。女は正面から見ると、目がぱっちりしている、なかなかの美人だった。次の朝見てみると、女の部屋には「立花」というプレートがかかっていた。

　そして、達夫が彼女を自分の性欲の対象としてはっきり意識するようになったのは、その二、三日後のことなのである。
　千葉市の会社まで朝一番に届けなければならない資料を持って、五時すこし前に部屋を出ると、ちょうど廊下を通りかかったその女と、ドアの前で出くわした。女は達夫よりほんの少し前に、奥の部屋から出てきたのだ。
　まだ引っ越しの荷物が片付かないのか、両手に大きなビニール袋を持って、それをごみ捨て場に出しに行くところらしかった。

　女は達夫を見て、ちょっとドキッとしたようだったが、あわてて「おはようございます」と言うと、小走りに彼の部屋の前を通り過ぎ、階段を下りようとした。しかし、両手のゴミ袋が大きいので、手すりと壁の間に挟まれて階段を下りるのに苦労している。
　達夫もそのあとに続いて階段を下りようとして、女のすぐ後ろに立った。すると、なぜさっき女があわてたのか、その理由が理解できた。女は、白いＴシャツの下に、ブラジャーをつけていないのだ。

　女はそのＴシャツとハーフパンツの姿で寝ていて、そのままの格好でゴミ出しのために部屋を出たらしかった。こんな早い時刻には誰もいないと思っていたら、達夫に出くわしてびっくりしたものと思われる。
　達夫は、階段の下でいったん女を追い抜き、アパート入口で止まって、郵便受けをのぞくふりをして真正面から女を見た。

　女は大きなゴミ袋で両手をふさがれて、胸を隠すことができない。それどころか、かさのある重い荷物を持っているために、胸の突起はことさらはっきりと強調されている。達夫は女の薄手のＴシャツごしに、乳首のありかまではっきりと見てとることができた。

　女はゴミを捨てると、あわてて手で胸を覆って部屋に戻っていったが、達夫はその後ろ姿を見送りながら、自分のズボンの中で肉棒が大きくなるのを押さえるのに苦労した。
　気を静めようと郵便受けに目を戻すと、２０２号室のところには「立花」の紙が貼られ、ナンバー錠というのか、四桁の数字を合わせる形のカギが開け口に取り付けられている。これは、自分に来た手紙を他人に見られないようにするための自衛手段のようだった。

　ただ、達夫にも経験があるのだが、この手のカギは、自分が開ける時の手間を減らすために、一番下の数字しか回さないことが多い。そんなことをふと思い出して試してみると、カギはあっけなく開いてしまった。
　その時には郵便受けには何も入っていなかったが、達夫は「８２４１」というそのカギの数字を、しっかりと頭に刻み付けた。

　その次の日から、達夫は昼の三時頃、女の郵便受けをのぞき、彼女に来ている手紙類のチェックをするのが日課になった。達夫は大学を出てからも定職には就かず、今は自分のアパートでコンピュータのデータ処理をする仕事をしている。だから、時間はいくらでも自由になったので、こんなふうに隣に住む女を観察するには好都合だった。

　数日もたたないうちに、女のプライバシーはかなり明らかになった。
　女の名前は立花香菜子といった。生まれは福島市の郊外で、六年前に大学に入るために上京したらしい。そして、大○女子大の家政学部を出て、昨年までは東京の私立女子高校で講師をやっていて、今年から都立高校の家庭科の教師になった。
　福島から出てきた時に所沢のアパートに入り、そこで今まで暮らしていたが、正式採用になったのをきっかけに、自分が新たに勤めることになった大田区の高校に近い、この南蒲田のアパートに引っ越してきたらしかった。

「何だ。高校の、家庭科の先生か……」
　達夫はそれを知ったことで、女に対する欲情がさらに高まるのを自覚した。達夫は「女教師」とか「看護婦」とかいうタイトルのビデオに手が伸びる方でもあったし、どことなく禁欲的な仕事をしている女の秘密を知るということが、達夫の性欲を強く刺激した。

　達夫は、香菜子が隣に引っ越してから何度も、壁に耳を当てて女の部屋の音を聞き取ろうとした。しかし、その試みはうまくいかなかったし、その理由は達夫にもよく理解できた。というのは、達夫の部屋と女の部屋はちょうど対称形に作られているので、香菜子が多分寝室として使っているのは、達夫の部屋の反対側にある和室に違いなかったからである。ただ、隣室の音を聞くことで、香菜子の生活パターンはかなり明らかになった。

　香菜子はだいたい毎日、七時ごろに起きて、テレビをつけてシャワーを浴びるようだった。そのあと簡単に食事をして、部屋を出るのは七時四十五分ごろ。かなり慌ただしい様子がうかがえた。
　その分、夜はゆっくりしていた。アパートに帰るのは、だいたい七時ごろで、それから自分で食事を作って食べているらしい。その後、洗濯をして風呂に入り、テレビを見たり音楽を聞いたり、時には長電話をしたりして、寝るのはだいたい十二時ごろだった。
　休みの日は昼頃まで寝ていて、それから外出したりすることもあるが、家にいる時は京急蒲田駅近くのスーパーまで買い物に行ったりしている。
　生活は規則正しく、少なくとも男の恋人がいる気配は見えなかった。そんな観察をしながら、達夫は次第に香菜子に夢中になってきた。

　達夫も女を知らないわけではないし、恋人がいた時期もあったのだが、今はセックスをするような特定の相手はいない。だから毎晩のように、自分で自分の肉棒の猛りを静めてから寝るのだが、その時に想像するのは香菜子の裸体と、セックスの時の乱れ方だった。

　香菜子の豊かな乳房は現実のものとしてイメージできたが、セックスの時の乱れ方はまったくの空想だった。達夫の想像の中で、香菜子は「ああっ、だめ……、もう、いっちゃう！」と叫びながら絶頂を迎え、それとともに達夫も、十分にそそり立った肉棒から、白い液体を放出させるのだった。
　毎日そんなことをしていると、自分がまるで香菜子と同棲しているような気にさえなってきた。だいいち、香菜子は達夫のほんの数メートル横で生活しているのだし、達夫がその気になりさえすれば、その距離は一挙に縮められるように思えてならなかった。

　そこで達夫は、女の家に届く宅配便を利用することにした。何日か気をつけていると、すぐに機会は訪れた。水曜日の夕方に宅配の荷物が届いたのだが、まだ香菜子は帰ってはいないようだった。達夫は、自分の部屋から顔を出し、なにげなく配達員に言ってみた。
「ああ、立花さんならもうすぐ帰るから、荷物はうちで預かっていようか？　いつもそうしているんだけど」
　配達員は、「そうですか。じゃあ、すいませんけど」と言って、あっけなく荷物を達夫に預けた。配達員にしても、荷物を持って帰って、また届けたりするのは面倒なことに違いなかった。達夫はその荷物を香菜子が帰ってから部屋に届けることで、接点を持とうとしたのだ。これは予想以上に効果的だった。

　何度かそういうことを繰り返すと、達夫が声をかけなくても、配達員の方から彼に荷物を預けるようになった。香菜子は通販でいろいろとものを買う趣味があるらしく、宅配便は週に一度ぐらいは届いた。達夫はこまめにそれを預かっては、夜のできるだけ早い時間に香菜子の部屋に届けた。
　香菜子は「いつもすみません」と言いながら、達夫に笑顔を向けた。時には一言二言、会話を交わす事もあった。それだけでも、達夫にとってはけっこうな刺激になったのだった。

　そんなある日、朝の十時ごろ達夫がベランダに出て布団を干そうとすると、香菜子の部屋のベランダにも毛布が干してある。
　これも今までに何度も確認したことなのだが、今まで香菜子はベランダには洗濯物を干すことがなかった。若い一人暮らしの女としては、それは当たり前のことなのだろうから、達夫も香菜子の下着が干してあるのを見ることができるとは思っていなかったが、今日は天気がよかったので、いつも使っている毛布を外に干す気になったらしい。
　といっても、毛布ぐらいでは見ても面白くはない。そのまま部屋に戻ろうとして、ふとベランダに面したガラスの引き戸を見ると、その端がちょっとずれているではないか。つまり、香菜子の部屋のベランダにはカギがかかっていないということだった。

　アパートの二階に住んでいると、ベランダのカギには警戒心が薄くなりがちではあるが、それにしても実際にカギが開いているということに気づいた時、達夫はドキッとした。
　達夫の部屋のベランダから、隣のベランダに侵入することはたやすい。しかも、アパートの前はマンションの壁にふさがれて、他人に見とがめられる心配は全くない。ということは、ベランダづたいに香菜子の部屋に入りこめるということではないか。

　達夫は背筋がゾクゾクしてきた。もちろん他人の部屋には入るのは犯罪である。でも、こんなチャンスは二度とない。手のひらに脂汗が出るのを感じながら、達夫は一度部屋に戻った。そして、念のために香菜子の部屋に電話をかけてみた。
　実は、達夫は香菜子の電話番号はずいぶん前からわかっていた。以前、香菜子が友人に出した転居を知らせる葉書が「宛先不明」で戻ってきていて、その中にアパートの電話や携帯の番号が書いてあったからだ。

　電話には誰も出ない。次に香菜子の部屋の玄関まで行ってベルを押してみた。それにも何の反応もない。そこまで確認していよいよ、達夫は香菜子の部屋への侵入を決意した。
　決意さえすれば、実行はたやすかった。自分の部屋のベランダの手すりに立ち、間を仕切る合成樹脂の板を乗り越えると、すぐ香菜子の部屋のベランダだった。達夫はいったん体を低くし、気配を忍ばせてガラスの引き戸を開けた。そして素早く部屋に入り込み、引き戸を閉めて、ホッと溜め息をついた。

　少し落ち着きを取り戻して、達夫がまず気がついたのは女の匂いだった。具体的にどういう匂いとは言えないが、部屋中に若い女の気配のようなものが漂っていた。
　奥の和室には布団が敷きっぱなしになっていて、その上に前に見たのと同じようなＴシャツとハーフパンツが脱ぎ捨てられている。箪笥の引き出しも開けっ放しになっているところを見ると、今日もあわてて着替えをして学校に出かけけて行ったらしい。

　開けっ放しの引き出しには、色とりどりのブラジャーが何枚も詰め込まれていた。達夫は、女がこんなにブラジャーを持っているとは思ってもいなかったので、びっくりした。
　その一つを手に取ってみると、ホックのところに「アンダーバスト70　バスト88」「70Ｄ」というタグがついている。香菜子は、達夫の想像どおりＤカップの豊満なバストの持ち主だったのだ。それを見ただけで達夫は射精してしまいそうな興奮を感じた。

　しかし、部屋に侵入して少したつと、達夫はもう落ち着きを失った。尻がじりじりするような不安がこみあげてきた。「女の部屋に入り込むこんなチャンスは、めったにないじゃないか」とは思いながらも、達夫はもう自分の部屋に引き返すことにした。

　帰りはドアから出ようと玄関に回ると、そこのフックから何本かのカギが下げられている。そして、その中の一本は、達夫にも見覚えのあるものであった。それは部屋のスペアキーとして渡されたものに違いなかった。
　達夫はまた胸がどきどきするのを感じた。つまり、このカギのコピーを作ってしまえば、いつでも好きな時に、香菜子の部屋に入れることになるわけだ。

　達夫は急いでそのカギを持ち出し、いったん自分の部屋に戻った。そして、すぐにバイクに乗り、近くのスーパーに出かけてカギのコピーを作った。カギは十分もたたないうちにできた。達夫は、あわててアパートに引き返して、香菜子の部屋の玄関ベルを鳴らし、不在を確かめてから、そのコピーの方でカギを開けてみた。
　カギは何の問題もなく使えた。それからすぐに本物をもとの場所に戻して、自分の部屋に戻った。夢中でやったことだが、気がついてみると、体中から汗が出ていた。

　次の日、香菜子が出かけてから一時間ほど間をおいて、女の部屋に侵入してみた。今度は念のため薄い手袋をはめて、昨日触った辺りをこすって指紋を消したりもした。
　今日は女の部屋はきちんと片付いていた。達夫は女の本棚から日記形式の手帳を取り出して読んだり、写真の束を眺めたりした。寝室に回ると、今度はパンティが入っている引き出しを探し出して、その一枚を取り出し、匂いを嗅いだりした。自分ながら、昨日よりもだいぶ大胆になっていることに少し驚いた。

　その次の日は土曜で、香菜子は一日中部屋にいた。達夫は、女がいるということで、かえって落ち着かない気分になったが、だからといって何があるわけでもない。退屈な時間を持てあまして男性雑誌を読んでいると、ふと「盗聴器」の広告が目についた。その時、また達夫の頭にひらめくものがあった。
　早速インターネットで調べてみると、いろいろな形の盗聴器が実際に通販で売られていた。達夫はよく考えた上で、コンセント型のものを注文した。

　一週間もたつと、注文の品は届いた。早速、月曜日に香菜子が学校に出かけてから、部屋に侵入して取り付けることにした。部屋の造りは達夫のものと同じだから、取り付け場所は前から決めていた。
　香菜子の部屋の電話は寝室にあるのだが、その電話台の裏にコンセントが隠れている。そのコンセントに盗聴器を取り付け、その上から電話のコンセントを差し込んだ。これで、相手の声は無理としても、女が電話に向かって喋っている内容はすべて筒抜けになるはずだった。
　達夫は香菜子の帰りが待ち遠しかった。七時になって、ようやく香菜子が帰ってきたので、さっそく盗聴器のスイッチを入れると、本当に部屋の中の音が手に取るように聞こえた。かすかにだが、トイレで放尿する水音まで聞こえた。その日から達夫は、女が部屋にいる時は、仕事をしながら盗聴器から聞こえる音に耳を傾けるのが日課になった。

　香菜子は福島の実家とはたまに電話で話をした。また、「エリ」という友達とよく長話をした。その話の中で、香菜子には前に「ケンジ」という恋人がいたらしいこともわかった。ただ、男からの電話と思えるようなものは、全くなかった。
　そして、テレビの深夜番組の、少しきわどい内容の番組を見ているということも知った。また、これはあるいは達夫の思い込みなのかもしれないが、香菜子がオナニーをしている時の声らしきものも聞いたことがある。その時、香菜子は確かに「うっうーん……、はっ、はぁーん……」というような悩ましげな声を出していた。それが聞こえたのは一瞬だったが、達夫は後々まで興奮が冷めなかった。

　達夫はそれまで香菜子に対して、「清楚」というイメージを持ってはいたが、そんなようすを知っても、女のイメージはあまり壊れはしなかった。
　かえって、香菜子が清楚な外見の下に、やはり若い女の肉体を持っていること、そして、それはどんなに清潔そうに見えたとしても、内側には若さゆえのドロドロとした熱い血のうねりがあるのだということを知って、ますます香菜子のことを欲望の対象として意識するようになったのだった。

　その週の金曜日の夜、達夫はいつものよう香菜子の部屋を盗聴しながら仕事をしていたが、その日に限って香菜子はなかなか帰ってこなかった。そういえばたしか一昨日だったか、香菜子が福島の実家に電話をした折に、近々学校の飲み会があるようなことを言っていた。その時はあまり注意して聞いてはいなかったが、あるいは今日がその日なのかもしれない。そう思って待っていたが、十二時をすぎても女が帰る気配はなかった。

「まさか外泊するはずはないが……」と思いはじめた頃になって、ようやくタクシーの止まる音がして、香菜子が帰ってきた。廊下の様子をうかがうと、階段を上る足音は非常にゆっくりで、明らかに普通ではなかった。ドアののぞき窓から見てみると、香菜子は廊下の壁に手をつきながら、よろめくように歩いている。
　もしかしたら、少し飲み過ぎて電車で寝てしまい、京急蒲田駅で降り損ねてタクシーで帰ってきたのかもしれない。かなりの酩酊状態ではあるが、ちよっとはまともな部分もあるらしく、バッグからカギを探し出すと、それでドアを開けて部屋に入り、また内側からカギを閉めたようだった。

　達夫は盗聴器で部屋の様子をうかがった。香菜子は、玄関で時間をかけて靴を脱ぎ、廊下を這うように進んで寝室まで来たらしい。時々、「ん、もう……」とか「はぁー」という声を出しながら、服を脱いでいる音がする。と思ったら、そのまま布団に倒れ込んだらしく、何も聞こえなくなり、じきに「スー、スー」という寝息が聞こえだした。

　達夫は興奮のあまり、自分の肉棒が激しく勃起するのを意識した。香菜子がこんなに酔っている今は、まさに香菜子の部屋に侵入するチャンスではないか。しかし、気づかれたら、警察沙汰になることは逃れられないだろう。達夫はしばらく悩んだ。

　とりあえず、部屋に忍び込むことだけはしてみようと決意したのは、一時間近く盗聴を続け、女が完全に寝たのを確認した後だった。達夫はためしに、香菜子の部屋の電話を一度ならしてみた。香菜子はまったく起きる気配がない。そこで達夫は、いよいよ黒いジャージを着て、靴下も黒いものに履き替え、手袋をして香菜子の部屋に侵入した。ゆっくりと音を立てないようにドアを開け、廊下を寝室へと進むと、女が寝ているのが見えた。

　香菜子は、上半身はＴシャツに着替えたようだが、下はパンティのままで布団にうつぶせになって寝ている。布団の回りには、脱ぎ捨てられた服、ブラウス、パンティーストッキング、ブラジャー、ガードルなどが散乱していた。部屋の電気が付けっ放しなので、達夫はそれをまず消し、闇に自分の目が慣れるのを待った。外からの明かりで、部屋の中は完全な闇というほどではなかった。

　香菜子のようすをうかがうと、ゆったりしたＴシャツのすそがめくれ上がり、クリーム色のパンティにつつまれた尻がはっきり見える。女の下半身は意外にボリュームがあった。パンティが小さいせいもあって、尻がむっちりと布からはみ出している感じだ。
　それを見ていると、達夫はもう我慢ができなくなってきた。

　達夫は、いざという時に女を脅す凶器として、ハサミを持ってきていた。そのハサミで脱ぎ捨てられていたパンティーストッキングの足の先を切り、頭にかぶって顔を隠した。
　次に、香菜子の足の方に移動して、寝ている体の左側から、女のパンティーの腰のところの、細くなっている部分にハサミを入れる。そして、そこをゆっくりと切り離した。左が切れると、今度は右に回ってまた切った。その間、香菜子は少しも動かない。
　パンティの両サイドは完全に切り離された。

　達夫は次に、女のＴシャツの背中の真ん中を、下から上へ切っていった。かなり大きめのＴシャツは切りやすかった。達夫は襟首のところまでハサミを進め、ついにＴシャツの背中を完全に裂いてしまったのだが、香菜子はまだ起きる気配を見せない。

　達夫の予想通り、香菜子はブラジャーをつけていなかった。うつぶせなので、まだ乳房は見えないが、香菜子の白い背中は闇の中でも、陶器のように白くつやつやとして見える。

　達夫は女の枕元に回って、さっきのパンティーストッキングの残りで、女の両手を縛ろうとした。そのため、女の手首を軽く持ってそっと上に引き上げると、女は「ぅうーん」と小さな声を上げて、寝返りを打った。達夫は「はっ」としたが、香菜子は目を覚ましたわけではない。今度はあお向けの姿勢になって、また寝息を立てはじめた。

　見ると、もう両方のサイドを切られたパンティーは体から外れ、薄い陰毛に包まれた香菜子の秘密の部分が剥き出しになっている。

　達夫は、慎重に時間をかけて女の手を縛った。といっても、軽く結んでいるだけなので、それほど自由は奪えていないはずだ。しかし、女が目覚めて「縛られている」ということに気がつけば、心理的な抵抗力を少しは奪えるのではないかと考えた。
　そして最後に、また今度はＴシャツの前の部分の真ん中を、下から上へ切っていった。切るにつれて、香菜子の豊かな乳房があらわになってくる。達夫は、女の肌を傷つけないように慎重に切り進み、ついにＴシャツは完全に二つに切り裂かれた。
　しかし、女の手は縛られているので、Ｔシャツを完全に取り除くことはできない。達夫は少し考えて、今度はＴシャツの両方の袖を縦に切ってしまった。これでもう、香菜子の体を覆うものは完全になくなった。香菜子は全裸になって達夫の前で寝ている。達夫は唾を飲み込みながら、その体を十分に観賞した。

　香菜子の乳房のボリュームは、達夫の予想以上だ。女があお向けに寝ると、普通は乳房が平板に見えがちなのに、香菜子のは少し横に流れながらも、乳首がツンと上を向いていて、全体がたわわな果実のように盛り上がっている。この歳で処女とは思えないが、ピンク色の乳首もそのまわりの乳輪も小さく、男に愛された経験が豊富には見えなかった。

　そして教師という職業柄か、セミロングの髪は真っ黒で、化粧っ気もあまりなく、やや幼く見える。その女がこんな豊かなバストをしているということが、性欲をそそった。

　達夫は、手袋をとり、自分の下半身の衣類も脱いで、女の両足を割って自分の体を入れた。そして、そろそろと右手で乳房をなで始めた。最初はかすかに触る程度だったが、女がなかなか起きないので、次第に大胆になっていった。ついには、片方の乳首を指でこねてみた。香菜子は「うぅーん」という声を立てたが、まだ目は開かない。

　達夫は今度は両手で乳房を揉みはじめたが、そうしているうちに香菜子は、「うぅーん、ケンジ……、だめよ」とはっきり言った。達夫は、香菜子が処女でないことを確信した。もちろん、その方が達夫にとってはなにかと好都合だった。達夫は女の乳首が固くなってきたのを感じた。

　左手でなおも乳首をこねながら、右手を女の陰部に延ばしかけた時、香菜子は「はっ」と我に返ったように、「ケンジ？　えっ？　えっ？」と、何度か、戸惑うような声を出したかと思うと、「誰？　誰なの？」と言いながら体をひねるようにして、達夫から逃れようとした。
　達夫はとっさに、さっきのハサミを握って女の顔に押しつけながら、作り声で「静かにしろ！」と言った。
「声を出すな！　騒ぐと刺すぞ！」
　前から練習していたわけでもないのに、達夫はすらすらとそんなセリフを口にできた。女は「うっ」と言ったきり、それ以上は声も出せないようだった。しきりに唾を飲み込むようにしながら、達夫が突きつけたハサミを見つめている。

「目をつぶれ！　じっとしていろ！」達夫は、また作り声で命令した。女は、はっとしたように一瞬達夫の方を見て、それからあわてて目をつぶった。達夫は、女が自分の言うとおりになるのでホッとしたが、それと同時にまた腹の底から欲情が突き上げてくる。
「おとなしくしていればコンドームを付けて、入れてやる。抵抗すると、このままじかにぶち込んで中で出すぜ！　俺はどっちでもいいんだからな」
　この間、週刊誌で読んだとおりを女に言ったが、女は恐怖のあまり返事もしない。もとより抵抗するような素振りは全くなかった。

　達夫はその様子を確認した上で、自分が脱ぎ捨てたジャージのポケットからコンドームを取り出し、それを急いで装着した。その上で、手を女の陰部に延ばした。香菜子は一瞬体を硬くして、「ひっ……」というような声を出した。

　かまわず、達夫の指は薄い陰毛をかき分け、女の大陰唇を割って侵入する。香菜子の局部はじゅくじゅくに潤んでいるというわけではないが、さっきの胸への愛撫のせいか、十分に男を受け入れられそうな様子だ。

　達夫はそれを確かめると、すぐにクレバスに自分の肉棒を押しつけた。香菜子はまた、「ひっ、ひっ……」という声を出して、体をひねって逃れようとした。
　達夫は、「そんなに暴れると、コンドームが破れるぜ。俺はもちろん、生でもいいんだからな」と言いながら、自分の肉棒を手に持って、香菜子の女の膣の入口にあてがい、ねじ込んだ。
　達夫の肉棒は極限までこわばり、熱をもったようになっているが、香菜子のクレバスの内部もまた熱く、そして意外なほど滑らかに達夫の肉棒を受け入れた。

　香菜子はその瞬間、「はっ、うっ、ひっ、ひいっ……」とうめきながら、体を反らせる。それは、実際には挿入を逃れようとする姿勢なのだろうが、達夫にはまるで女が挿入された快感に反応しているように見えた。

　達夫の興奮は、ひときわ高まった。達夫は膝を前に進め、さらに腰を入れて自分の肉棒に力を込め、女の器の一番奥へと突き入れる。そして、右手で香菜子の乳房をつかんで、乱暴に揉みしだいた。
　女は「ああっ……、やめて、やめてっ」と低く声を上げた。それを聞きながら達夫はさらに腰を使い、女の内部で激しく肉棒を動かした。何度か動かしただけで、もう射精しそうなほどの高ぶりを感じる。男の棒に突かれるたびに、女は「うっ、うっ」と言いながら顎を前後させるが、それがますますセックスの喜びにひたっているように見える。

　とうとう女は、達夫のいつもの妄想と同じように体を震わせながら、
「ああっ、もう、やめて……、もう……だめ」という、切なそうな声を出した。それを聞いて一挙に射精の衝動が強まる。あわてて女の器の一番奥で肉棒の動きを止めたが、間に合わない。肉棒はたちまち爆発し、その先端からは、男の精がどくどくと放出された。

　達夫はいざ射精をしてしまうと、それまでの興奮が一瞬にして去り、また前の不安が戻ってきた。今、達夫がやったことは、確かに『強姦』だ。そう思うと、急に我に返ったように慌てて香菜子から身を離すと、自分のジャージや手袋を引き寄せて身につけ、急いで玄関から外へ逃げ出した。そして一度、大きな音で階段を下りるそぶりをしておいて、すぐに戻り、そっと自分の部屋のドアを開けて室内に滑り込んだ。

　ドアを閉めると、急に今まで張りつめていた気持ちがゆるみ、全身の体の力が抜けたようだった。そして、次の瞬間には体が小刻みに震えだした。「取り返しのつかないことをした」という思いと、「警察に捕まるかもしれない」という不安がわき上がってきた。
　急いで盗聴器で隣の部屋の様子をチェックしてみると、まだ香菜子は布団のあたりでもぞもぞ動いている。両手を縛ったパンティストッキングをはずしているらしい。

　じきに動き出して、這いずるようにしてキッチンの方へ動いた。そして、まず、玄関のカギをかける音がした。
　そうしてから、今度はシャワーを使う音がし始めた。それは、三十分以上も続いた。その音をずっと聞いていると、達夫は次第に落ち着きを取り戻してきた。警察に届けるつもりなら、すぐに電話をするのではないかと思ったからだ。

　その少しの安心感とともに、達夫の体にはさっきの香菜子の肉体の味がよみがえった。あの豊満な胸、薄い陰毛の茂み、そしてその奥にあるクレバスの熱い肉襞。
　たぶん香菜子は今、達夫に揉みしだかれた乳房と、太い肉棒をはめ込まれて奥の奥まで陵辱され尽くした自分の女の器とを、何度も洗っていることだろう。

　そのようすを想像すると、それだけで達夫はまた勃起してきた。そして、香菜子のシャワーの音を聞きながらオナニーを始めた。