第二話


　えっと、では女性の条件としては、煙草を吸わないこと。酒を飲むこと。髪型にはこだわらない。
　性格はすっきりした感じですね？甘ったるい女性が嫌い・・・と。
　体付きは細身か中位までで、顔は・・・特にないけれど、釣り目が好き。
　外人さんは？ＯＫですか。お、珍しいですね、白も黒も黄色もＯＫですか。
　でも、外人さんはいないんですよね。ハハハ。
　人妻は？駄目・・と。
　ええっと、年齢が２５歳から４０歳位まで・・・少し年上がお好み、と。
　月に１〜２回会って酒と食事とセλ彼女は震えて、それから自分でバスローブの腰紐に手を伸ばした。
　ちょっと指先に躊躇しながらバスローブを脱ぐと、彼女の全身は真っ白だった。
　毛が生えていない・・・。全身。

「脱毛したんだ。でも、好きだよ。こういうの・・・。」嘘をつく。
「いえ、その、そういう体質なんです・・・。ごめんなさい。」

　僕は、ちょっと面白くなった。正直言って霞には性欲を刺激される。
　だが、愛してはいない。だからこそ、性欲に歯止めがかからない。
　決めた。貪ろう。とことんまで・・・。

　無言で彼女をベッドへ運び、驚く霞を無視して、胸に吸い付いた。
　肩を窄めてビクリと感じた霞を押し倒すと抵抗などする様子すらない。
　覆いかぶさりながら彼女のさまを観察するも第一印象がさらに強くなるだけだった。
　薄い。何もかもが薄い。
　骨が軋むかの様に細く、皮膚が透けてしまうかのように白くて、緑の血管がうっすらと走るのが見える。
　肉などついているのかどうかもわからないほどに薄い。
　そこにピンクの襞が縦に割れて咲いている。

　胸の肉は緩やかに溢れているけれど、それだって手に余ることはない。
　先端の蕾も薄いピンクで、処女のようだ。
　Ｍ女か・・・、しかし、実際はＭなのではなく、マグロってことだ。
　気持ち良ければ何をされても良い。僕は霞をどうすれば良いのだろうか・・・。
　貪ると決めた指先が一瞬迷って彼女の胸をやさしく撫でる。
　判断に迷いが出て、じっと見つめていると、彼女は恥ずかしそうに身を捩った。

　瞳を潤ませながら、小声で何かを呟いた。
　小さすぎる声は大気を震わせて僕の耳元まで届くまでもなく、彼女の薄い唇の中でかき消される。
「なんだい？」
「やっぱり、私なんかじゃ・・・、駄目ですか。」

　やっとわかった。
　彼女は仕事に逃げていたのだ。
　将来を約束した男を男の全てと思い。そして、裏切られて、自分は女として堕ちこぼれたと・・。
　だから、それを認めたくない一心に仕事に没頭した。
　そうか。プライドが高いがために、傷付きすぎて耐えられなくなったのか。

　それなら合点がいく。
　確かに薄幸そうな雰囲気に肉欲的ではない体だが、男を勃たせて魅了するには充分な不思議さがある。
　そして、自信のない女が一律に持つ雰囲気を取り除けば、それなりに見れるではないか。
　僕はその負の力に魅了されているのだが、彼女は生まれ変われる。
　いや、だが、生まれ変わったとして、その彼女はこんなにも僕をそそるのか・・・。

「あぁ、安心して。君をどう料理しようか迷ってたんだ。死ぬほど楽しみたいからね。」
「はい。お願いします。」

　どうすれば彼女を楽しみ、彼女の女性としての誇りを取り戻させないか。
　これが僕の第一命題になった。

　Ｍ女か・・・。約束の男はさておき、他の男は彼女をどう扱ってきたのだろう。
　彼女のプライドは折れたままなのだから、彼女を女性として再生するようなことはしなかったはずだ。
　僕は大好きな小説家のつまらない言葉を思い出した。
「男は小さな神になれる。女は何度でも生まれ変われる。」
　男は女を生まれ変わらせることが出来る。でも、今のこの女が僕は欲しい。
　なれば心の折れた彼女に生まれ変わってなど貰っては困るのだ。

「霞。君はこれまでどんな男にどういう風に抱かれたんだい？」
　一瞬、霞の目が怯える。
　良い男に出会ったはずがない。僕は知っている。この言葉が酷なことであることなど百も承知だ。
　だからこそ、僕は知っておかないといけない。
　僕もそのような低俗な男になろうとしているのだから。
　あぁ、僕はこの女にまいっているようだ。性欲より支配欲が増してしまっているじゃないか。

「言ってごらん。始めての姦淫は？」
「姦淫・・・そんな。はい。最初の男性は優しい人でした。」
「どういう風に淫らな関係に至ったんだい？」
「そ、そんな淫らなとか、してません。」
「へぇ、こういうことはしなかった？」

　乳首を指先で弾き、もう片方を口に含む。
　彼女が肩を窄めて小さく鳴き声をあげる。

「ねぇ、どう？彼は乳首を吸わなかったのかい？」
「吸いました・・・。でも、こんな・・・。」
「それから？ねぇ、彼は乳首を吸った後、どうした？」
「お願いします。そんな苛めないで下さい。私、昔のことを話すのはあまり好きじゃ・・。」
「そっか、Ｍ女のくせに逆らうんだ・・・。しょうがないな。」

　ステレオタイプに彼女の体を嬲り始める。
　乳首を吸い、割れ目をなぞり、濡れて溢れるまでじっくりと。
　そろそろ、と言うところで僕は言葉を一言だけ。

「霞。君の処女はどういう風に破られたんだい？」
「も、もぅ。その話は・・・。」
「いいよ。じゃ、挿れるね。思い出してごらん。初めてのセックスを。」

　瞳を閉じて、今の快楽に身を委ねようと霞は努力しているけれど、やはり思い出してしまうようだ。
　僕はゆっくりと彼女の中を往復して、恐らく彼女が経験してきたような激しいことはしない。
　ほら、思い出させてあげる。君のプライドがじわじわと磨耗して堪え切れずに折れるまでの過程をね。

　それでも彼女の体は快楽に震えていた。
　彼女が最初に言ったように本当に感じ安いようだ・・・。
　僕は激しくしたいのを我慢して、溢れる蜜を滴らせながら肉棒を引き抜く。

「あ・・・。」
「もっと欲しいの？」
「は、はい。それに虎之助さんもまだ・・。」
「君を裏切った男は激しかった？」
「・・・。酷い。私はその話が嫌い・・。ぁ・・・。」

　再び滾々と湧き出る泉の中に熱い滾りを沈め、今度は少しだけ彼女の内側を擦り上げるように前後する。
　楽しい。あぁ、僕はサディストだったのかもしれない。彼女を精神的に追い詰めるのが楽しい。
　彼女があまりに簡単にコントロールできるのが楽しい。
　小さな脂肪を二つ載せた細い体が軋んで、房がふわふわと揺れる。
　そのまま彼女の薄くまっさらな割れ目に指をやってクリトリスを剥きあげてやる。
　そろそろ、彼女は限界らしい。
　でも、わけがわからなくなるというだけに、快楽には貪欲に反応する様が美しいじゃないか。
　微かに苦しげな細い声を漏らす様が最高に淫靡で、なぜ、彼女を過去の男が捨てたのか理解できなかった。

　そうだ、僕はこの女を痛めつけないといけないのだった。
　肉欲が昂ぶり、普段なら止めようのない獣欲を押し殺し、再び肉棒を抜き出す。
　それこそ、蜜が滴る程だった。見ると彼女の股座は、尻まで薫り高い蜜に濡れてテラテラと輝いていた。

　彼女の様子を眺め、意識がすっきりとしたところで、耳元に囁く。
「この出会い系に登録したあと、何人にだかれたんだい？」
「・・・、と、止めないで下さい。こんな中途半端じゃ・・。」
「いいから、教えてくれたらちゃんとしてあげるよ。」
「４人です。お願い。」

　再び肉の交合を再開するも、冷たい気持ちが沸いていた。
　４人がこの女を捨てたのか？それともこの女が４人を捨てたのか？
　僕は迷いながらも腰を突き出して、彼女に約束の快楽を与えた。
　こんな気持ちではイクはずもなく、僕は彼女を狂わせてから、吐き出すものも吐き出せない肉棒を引き抜いた。

　僕はまったく満足できていなかった。
　絶頂の後、そのまま眠りに落ちた女を抱きしめながら、彼女の過去に思いをめぐらす。
　わからない。なぜこの女はまともな男に出会えなかったのか。

　偶然なんて言葉には興味がなかった。恋愛なんてものに偶然はありえない。
　自分でおびき寄せて、自分からはまるものだからだ。
　女の立場ならばどう見えるのか？釣った魚と言う程だから、餌を垂らす男の様はさぞ滑稽だろう。
　それでもわざわざ釣られてみるのはやはり人の欲か？

　女も男を誘い捕らえる。
　それは食虫花の様であったり、カマキリのように隠れていきなりと言うこともある。
　男もそのことを知っていて罠にかかるのだが、その様を滑稽などではなく可愛いものだと感じて飛び込む。
　なれば、女も・・・。いや、わからん。


　悩みながらも仕事と性交に疲れた体に眠気が染み渡り、僕も性交が生む鼻腔をふやかす薫りの中で眠りについた。