「ふぅっ」
　恭平は溜息をついた。
　折りたたみの携帯電話の背面ディスプレイには１４：４７と表示されている。
　あと一時間も経てば先生がやって来る。
　先生とはいっても、恭平の通う高校の先生ではない、今年の春から月曜日と木曜日の週二回来てもらっている家庭教師のことだ。

　先生と初めて出遭ったときは驚いた。
　世間では一流といわれている大学生と聞いていたから、どうせ、勉強が趣味なお硬い人がくると思ってた。
　でも、その予想は全く違った。
　女！　しかも、堅物なんてとんでもない！

　さらさらとした茶色の髪にくりっとした大きな瞳、整った鼻筋、ピンクのルージュに彩られた薄い唇、ぷっくらと膨らんだ二つの乳房、括れた腰のライン、プリッとしたお尻に、締まった足首。
　週刊誌を飾るグラビアモデルといっても通用するほどの美貌とボディ、まさに、恭平の理想だった。
　初日の授業を思い出す。大変だった。
　こんな大人の女性と二人きりになったことはないうえに、未だ童貞だ。甘い香水の香りを吸い込むだけで、肉竿がむくむくと頭を持ち上がる。二時間の授業、先生の教えなど上の空。先生に勃起していることを隠さなければと、硬い肉竿を鎮めることだけに意識を集中させた。
　そして、闘いが終わり、先生が帰ったあと、まだほんのりと匂う香水の香りと椅子のぬくもりを感じながら激しく肉竿を扱きあげた。
　その日から、恭平の自慰のお相手は先生になった。

　そして、今から二週間前に、母から帰省の話が出た。
　もちろん、恭平も誘われたが、受験生であることを理由に断った。
　だが、それは詭弁にすぎない。本当の理由は先生と家の中で二人きりになれるからだ。もしかすると、ずっと妄想していた先生とのセックスを現実にできるかも知れないとの卑猥な考えが浮かんだ。

　悪友たちは皆、セックスを体験済みで、『昨日は中に出した』、『口の中に果てた』、『顔にぶっかけた』など生々しいことをいう。どんな感じなのかと訊けば、膣の中に口の中、ともかく、オナニーとは比べ物にならないほど気持ちがいいという。
　どんな感触、快感があるのか？　早く、したい！　未知の膣の中にこの熱くたぎる肉竿をぶち込んみたい！　彼らと同じ土俵に立ちたい！　先生とセックスしたい！　童貞とおさらばできる最大のチャンスだ！

　恭平はその思いを遂げるためその夜から計画を練った。
　燃え上がった欲情のパワーは凄まじかった。湯水のごとくイヤラシイ考えが浮かんできた。
　そして、それが本当にできるのかと考えた。
　まず、レイプは無理だ。そういう願望はあるし、興奮もする。だが、それは妄想の世界だけ、目の前で必死に抵抗されたら、恭平の性格では怯んでしまう。非情になることはできない。だから、この考えは始めに消した。
　では、正攻法、つまり、セックスをしたい、させてほしいと正直にいったらどうだろう？
　こういうシチュエーションが自慰の中で最も多かった。もちろん、想像の中だから、全てが恭平の望むままに進む。
　だが、実際はどうだろう？　
　いきなり、『セックスさせてください』なんていわれたら、先生はどう思うだろう？
　冷静に考えてみると、これは危険だ。
　受け入れてくれる可能性もあるかもしれないが、もし、断られたとき、その後のことを考えると最悪だ。きっと、その後、お互いに気まずくなるだろう。いや、家庭教師を辞めてしまうかもしれない。
　これも難しい。
　先生のことが好きなのか？　
　ズキンっと胸が躍った。
　思えば、先生のことを欲望の対象としては見ていたけれど、恋愛の相手とは思ったことがない。
　心臓がドキドキする。
　この感覚、恋のものだ。
　先生に恋している。だから、先生を思いながら自慰にふけっていたのかもしれない。だから、彼女と別れたのかもしれない。
『好きです。付き合ってください』
　と思いを伝えようか？
　でも、あれだけの美貌の持ち主だ。きっと、いや、絶対、彼氏はいる。
　だから、交際するのは無理だろう。

　ならば、どんな方法で？　と頭が混乱していたときに、何気なく繋げたアダルトサイトのアダルトグッズという広告が目にとまった。
　薬、睡眠薬、興奮剤などが頭に浮かぶ。
　早速、そのバナーをクリックしてアダルトショップを覗いた。
　バイブレーター、ローターなどたくさんのものが売っている。いずれ、そんな道具も使ってみたいとは思うが、なにしろ、セックスしたことがないのだ、まずは童貞を捨てることが先決だ。
　媚薬とかかれた文字をクリックした。
　女性をその気にさせる薬、やっぱりあった。
　飲み物に数滴混ぜるだけで、女性の目が潤む。
　欲しい……。
　だが、一万円近い値段だ。小遣いは、一月一万円、携帯電話代金で月六千円、残るお金は四千円。かなり、厳しい値段だ。
　他のものも見たが、四千円以下となると、塗り薬、膣に直接塗ると、感度が増すというものがほんとんどだ。
　やっぱり、数滴で、というものが欲しい。
　その時、悪友の一人が話していたことを思い出した。
　そいつの話では、デート代に困った時に、親に参考書を買うといいそのお金を用意するといっていた。
　その話を訊いたとき、『ひでぇ、やつだなぁ』と非難した。本当にそう思った。
　だが、このチャンスを逃したら、きっと、同じ状況は訪れないだろう。
　心は痛むが、仕方が無い。
　先生とどうしてもやりたい。
　そうして、母に嘘をつきもらったお金と小遣いをあわせて、代引きでその媚薬を手に入れた。
　
「あぁ、せんせい……」
　そんな先生がもう少しで来る。いつも以上に心がざわつく。
　その媚薬が手元にある。この液体を休憩時間に出す飲み物の中へ数滴混ぜて先生に出す。先生は疑いなくいつものように飲むだろう。
　時間が経ち、媚薬の効果があらわれてエッチなことがしたくなり瞳を潤ませる。
　我慢できなくて、誘惑してくる。
　そして、そのまま……。
　
　そんなことを想像していると、肉竿が硬く膨らみ下着を持ちあげた。自然と右手は硬いところに触れていた。
（どうしようか……）
　恭平はこのまま肉竿を扱き欲情の汁を放とうかどうか迷った。
　というのは、これからのことを期待して一昨日から自慰を我慢しているからだ。
　ここまで我慢したのだ。放つときは先生の膣の中にしたい。もちろん、そのまま出すことは妊娠の可能性があるということは知っているから、正確にはコンドームの中ということになる。
「だめだっ、だめだっ！　勿体ない」
　恭平は自分に言い聞かせ、この悶々とした気分を雲散させようと、枕もとにある単語帳を開いた。
（aisle）
「エー、アイ、エス、エル、イー。アイル……」
　一枚、二枚と開いていったが、集中できない。直ぐに淫靡な状態へ引き戻される。
「ぐぅっ、だめだぁっ、我慢できないよぉ」
　若さ満ち溢れる肉竿が、早く精液を出してくれというがごとく、下着の中でピクッピクッと跳ねている。
　もう、限界だった。右手は目先の快楽への誘惑に負け短パンの上から肉竿を揉んでいる。
　もし、こんな状態で先生を向かい入れたら冷静に事を進めることができないかもしれない。いきなり先生に襲いかかってしまうかもしれない。
　それほど興奮している。
　やはり、一度抜いていたほうがよさそうだ。
　と、恭平は理由付け、短パンと下着を脱いだ。
　跳ねるように飛び出した肉竿の亀頭部は割れ目から滲みでた先走りの汁で濡れ光っている。
　精液でベッドを汚さぬように、テッシュペーパーを用意し、しっかりと肉竿を握り力強くストロークした。
　扱きはじめると、どんどん先走り液が滲んでくる。その透明な液体が手の中に入り、滑りをよくし、肉竿を扱く手の動きが速くなる。
　クチュ、クチュ。
「はぁぁ、せ、せんせい、せんせい、くっ、いくぅっ！」
　扱きはじめて、僅かな時間だった。手の中で肉竿はズキンと脈打ち、亀頭の割れ目からズビュッという音をたて精子が放たれた。

　
　ビンポーン、ピンポーン。
（あぁ、誰だよ！　煩いな！）
　ピンポーン。
（あっ、やべっ、先生だっ！）
　再びチャイムが鳴り恭平は慌てて起き上がった。
　昨夜、興奮してほとんど寝ていなかったので、快感に浸ったままつい寝入ってしまったようだ。しかも、うなだれた肉竿を丸出しのままだ。また、勢いよく放たれた精子は広げたテッシュペーパーの上だけでなくベッドカバーまで飛び散っている。
「恭平くーん」
　階下から先生の声がする。
　恭平は焦った。
「はぁーい、ちょっと待ってください！」　
　といいながら、急いでベッドから降り、床に落とした下着とトランクを身につける。
「あがるよぉ」
　再び、先生の声がし、素早くテッシュを丸めゴミ箱へ投げ込んだ。
　ギシッ、ギシッと階段を上る音がする。
　ベッドカバーの精子をテッシュで拭き取る余裕が無い。ベッドの上には雑誌がある。すかさずそれを手にとって、精液の固まりの上においたとほぼ同時にドアが開いた。

「こんにちはぁ」
「……こんちはぁ」
　声が裏返った。見られたくないものを隠すことはできたが、動揺は隠せない。
「くすっ、どうしたの？　変な声だして」
「いや……、ちょっと……」
「なぁに、ちょっとって？」
「ごめんなさい。今、起きたばかりで……頭がボーッとしてて」
「ふぅーん、寝てたんだぁ。余裕だね」
「……いぇ、別に」
「あっ、そうそう。これっ、休憩時間にと思って持ってきたんだけど、冷蔵庫にいれてきてくれるかな？」
　恭平は先生から、有名な洋菓子屋のロゴの入った小箱を受け取った。
「それと……、何か飲み物頂戴。もぉ、暑くって喉がからからなのよ」
　いつもならば、母が用意する飲み物だが、今日は恭平が持ってこなければならない。ちらりとベッドを見た。もし、雑誌をずらされたらと気にはなるが、それよりも、一旦この場から離れたかった。まだ動揺していることもあり、一度気分を落ち着けたい。そして、手には生臭い性器の匂いが残っている。それも消したい。
「うん、わかった」
　恭平は部屋からでて、階段を駆け下りた。

（どうたのかな？　なんか、今日の恭平君いつもと違うなぁ……）
　季子は椅子に腰掛けて、今日のプリントを机に置きながら首を傾けた。
（もしかして、あの子、何か変なこと考えてたりして……）
　恭平が自分に対し、興味を抱いているということは前から感じていた。また、時折、オスのイヤラシイ視線を感じることもあった。まぁ、年頃の男の子だから、仕方が無いのだろうと思っていた。
（もしかして、あの子、童貞かな？）
　そんなことがふと脳裏によぎった。
（まさかね？　まぁ、顔もイケテル方だし、前に付き合っているオンナの子がいるっていってたから、きっと、経験してるよね。んっ！？　なんで、こんなことを考えているんだろう？　やだぁ、わたし欲求不満？）
　思えば、最後にセックスしたのがＧＷのあの日だ。もちろん、彼氏とだった。しかし、あることが発覚しＧＷが明けて直に別れが訪れた。
　それ以来、快楽の頂点を知ったこの肉体が疼いたときは火照ったところを指で鎮めている。そんな日々がつづいてた。
（馬鹿、なんてこと想像しているんだろう。彼は生徒だよ）
　軽く握った拳で頭をこつんと叩いたとき恭平が戻ってきた。

つづく