第１話「真夜中の笑み」


　ふと喉が渇いて一人きりの寝室からダイニングへお水を飲みに行った夜のことです。寝室はエアコンの乾燥が効いているので、すがすがしさすら感じる程でしたが、廊下に出るとじめっとした風が肌に纏わりついて、全身が湿りつきます。
　嫌な感じの空気です。

　外ではすぐ近くの公園の池からカエルの声が煩くて、防音の利いたマンション内まで低く唸るように響いてきます。眠い瞳を擦りながら水を一杯飲み干して、唇についた雫を手の甲で拭っていると、廊下の奥で人の気配を感じました。ふと、別室で寝ているはずの主人を思います。

　最近の彼は仕事が忙しく、疲れて遅く帰ってくることや朝早くから出社することも多いため、Ｈの時以外は別々に眠るようになりました。その方が彼にとっても気兼ねがなくて良いと言うことなので、別室で眠ることに反対はできませんでした。

　そうは言っても、もの寂しさは感じます。結婚してまだ半年、なんとなく回数も減ったような気がしますが、彼も頑張っているのだから仕方ないよね？なんて自分を説得する毎日です。

　自分の寝室に戻る途中、彼の部屋の扉の隙間から細く弱い光が漏れていました。あら、まだ仕事かしら・・。それとも電気をつけたまま寝てしまったのかな？なんの気なしに彼の部屋の前で立ち止まって、中へ入ろうと隙間から中を覗きつつドアノブに手をかけました。でも、そこで指先が凍りました。

　他の夫婦でもこんなことってあるのかしら？よく、高校時代に男子が親に見られたとか、そんな他愛もないことで馬鹿騒ぎしているのはたから見て知っていました。その、アレの最中を見てしまったのです。でも、なんで？私がいるのに・・・。断ったわけでもないのに・・・。

　すぐに立ち去れば良いのに、パソコンに映っている何かを見ながらヘッドフォンをして、せわしなく右手を動かしている彼の姿をいつまでも見つめてしまいました。彼は私に気づくこともなく、２分か３分か、もっと短かったかもしれませんが、すごく長く感じた時間が経過すると、彼はおもむろにそばのティッシュを３枚引き抜いて、股間の辺りにもって行きました。

　そうして、すこし苦しそうな表情で眉間に皺を寄せてビクっと小さく、そしてなんども震えています。あぁ、出したんだ・・・。そんな淡白な感想しか思いつかない程、衝撃を受けました。それから、息を・・と言うよりは、生唾を飲み込むゴクっと言う音が私の喉からなって、自身その音に驚き、私は気を持ち直しました。

　そのまま、どうしようと考える間もなく立ち尽くしていると、彼は口元にいやらしい笑みを浮かべてパソコンをまだ見つめています。あそこがどうなっているのか気になって、もう少しだけ顔を近づけてドアの隙間から覗いてみました。

　彼のごつごつとした逞しい指は、未だにどろどろの粘液・・・白く濁った精液、それに濡れて光ながら、まだ、彼のアレを優しく撫でているのです。真っ赤にただれた先端を痙攣させながら、彼は耐えるような表情でそれを撫で付けていました。

　今、出したばかりなのに、大きなままで・・・。すごく手馴れた感じに指が蠢いて、亀頭から根元までをゆっくりと、撫でているのです。その最中もビクビクと彼の体は反応しながら、もう一度、先端から汁をほんの少しだけ噴出させました。

　そうして全てを出し尽くしてしまったのか、また、指先をティッシュで拭ってはまた、画面に見入るのです。終わったのかな？と一瞬、安堵と残念さ・・・、を感じてしまいました。

　でも、また、そのまま、やっと小さくなり始めた彼のものを握り締めて、彼はまた行為を始めました。

　彼との性生活は健全で、安定しています。彼のＳＥＸはいつもやさしくて、最初に優しく抱きしめてから、私の唇を舌先で愛撫してくれて、それがすごく心地よいです。それから首や耳、胸・脇、時間をかけて私を愉しませてくれます。

　不思議ですが彼はクンニが好きらしくて、いつも彼の唇だけで私は絶頂を迎えてしまいます。それから、ゆっくりと私の回復を待つようにしてから彼はインサートして、ゆっくりと時間をかけて中に出して貰っています。なかなか子供は授かりませんが、それでも彼とのＳＥＸにはすごく満足していました。

　彼の２度目・・・なのかしら？私が覗いた時にはもう始めていた。でも、まさかそんなに何度もなんて・・・。また、彼は右手をせわしなく動かし始めました。心にじわっと熱いものを感じながらも、夫のオナニーにはそれ以上干渉しないで、呆然として静かに寝室に戻りました。でも、彼の横顔が、射精した時の口元の嫌らしい笑みが忘れられません。あんないやらしい顔、私には向けたことがなかった。

　心臓の高鳴りが煩くてなかなか寝付けないまましばらく時間が経ちました。エアコンを強くした冷たい空気のなかで、なんとなく暑くて寝苦しい感じを受けて寝返りをうつと、うちももの奥から響く、水の舐めるような感触に驚きます。やだ。あたし、彼のあの姿で濡れて・・・・。オナニーする気分にはなれませんでした。

　ただ、なんで彼はここに来てくれないのだろうと、パソコンの画面は何を映していたんだろうと、そんな嫉妬というか、焦燥感というか、そんなないまぜな感情に心を奪われてしまいました。

　そうして、どれ位、こんな感情とお腹の底の火照りに胸を苦しめていたのか覚えていませんが、気付けばきちんと眠りについて、翌朝、さわやかな笑顔の彼と朝食をともにしました。何事もなかったかのように・・・。