|
10、
雪子と出会って三年になろうとしている。彼女の男性遍歴はこうだ。
長く付き合っていた恋人がいた。親が進めた見合い結婚後もしばらく続いていたが別れた。彼女の方が冷めたらしい。一度分かれた相手にはまったく気持ちが向かなくなるという。
その後彼女は、恋人ではなく遊び相手を探した。しかしナンパしてくる男、ネットで出会うような男ではなく、素性のわかる安全な相手でなければならない。
今の屋敷を改築した工務店の社員、隣町の消防署員、酒屋のあととりとなった中学の同級生、きっと他にもいたのだろう。
どうやってそんな関係になったのか僕は聞かなかった。みんな善良な男性で彼女のことが大好きなのだという。
けれども恋人ではないから、メールで世間話をしたり愚痴をこぼしたりして、たまにセックスをする相手に過ぎなかった、と彼女はいう。
学生時代、ファッション誌の表紙になったこともある彼女は大いにモテただろう。今はその美貌に色香が加わっている。ちゃんとしたモデルクラブも、ナンパ師も彼女を放っておかない。
子どもの塾の講師からも成績アップのお祝いにカラオケに行きましょうなどという誘いは絶えないというし、夫の友人の中にも彼女に想いを寄せる男性たちがいるらしい。
もちろんそうだろう。僕には全て納得できる話だ。美人過ぎて敬遠されることはあるだろう。けれどもたいていの男なら彼女に魅力を感じるだろうし、こんな女性に愛される男に嫉妬するだろう。愛がなくても肉体の関係だけでも許されれば幸せと思うべきだといってもいいだろう
彼女が遊ぶ相手は決まっていた。お人よしで低収入の既婚者たちだ。彼らはきっと美貌と財力を備えた彼女に引け目を感じていたに違いない。そんな男性だけを選んで遊んでいたようだ。実に残酷な女性だ。
もちろん彼女の告白も真実かどうか分からない。もちろん今は遊び相手などいないというが真偽のほどは分からない。けれども僕は彼女の愛を疑ったことはない。僕も彼女を愛するようになっていた。
札幌から１時間半くらいの温泉地、人目につかない料亭がある。凝った料理が人気で、宿泊もできるらしい。ドライブにもちょうどいいし食事も美味しいからと彼女は僕を誘った。札幌郊外が少し肌寒くなるころだ。
空港で僕を出迎えパーキングに向かう彼女は、人通りの少ない迂回路を歩きだした。角を曲がると彼女は僕に向き合い、首に腕を回してキスをせがんだ。
強く抱きしめると、いつになく上気しているのが分かる。少し短めのスカートの彼女は片足をからませる。僕はスカートの上から尻をさすり、下から手を滑り込ませると、下着を着けていなかった。
彼女は潤んだ目で僕を見つめ、僕は黙って背後から割れ目に指を入れる。
空港ビルの通路、壁にもたれて性戯にふける姿はいつ誰に見られるかわからない。彼女は地元の人間だから知人に会うかもしれないが、おそらくその緊張感を楽しんでいる。
ズボンの上からペニスが硬直していることを確かめると、
「先生・・・ ここで犯して」
とささやいた彼女は僕を見つめながら腰を押し付けた。
本気なのか戯れなのか。僕が冷静に、
「雪子、ダメだよ、車でしよう」
とささやくと、わざとふくれっつらをした彼女は一呼吸おいてから、
「はい、そうします」
と笑顔で答え、もう一度濃厚なキスをしてから歩きだした。
僕の指は愛液で濡れている。彼女はいつものバーキンからハンカチを取り出してそれを拭き取り手をつなぐ。
ヒールの音を響かせながらゆっくり歩く彼女はいつの間にか淑女に戻っている。
「さっき僕が、ここで犯してやるといったら、どうするつもりだったの？」
「ほんとに？ でも、もし先生がその気なら、お手洗いの個室でお願いしてもよかったのよ」
冗談とも本気ともとれないいい振りに、僕は立ち止まって言い返した。
「それじゃつまらない、やっぱりあそこで立ちバックだろ」
本気でそんなことができないことを知っている彼女は、僕の腕にしがみついて、
「だめよ！ 見られちゃう・・・、でも、次はそれお願いします」
微笑みながらそう答えて歩きだした。
彼女が車のロックを解除する。僕はバッグをトランクに入れ、彼女はイグニッションキーをまわす。それから二人は当然のように後部座席に乗り込む。
いつもよりテンションの高い彼女はキスもせずにベルトをはずし始めた。僕はいつものようにビデオの電源を入れ、録画にしてセンターコンソールの上に置いた。彼女はおざなりなフェラチオをしてからすぐに座位でつながった。
「ああ〜、センセイ… すごく感じちゃう…」
ヌルッと入る。奥に届くと少しだけ痛そうな表情を見せるが、彼女はすでに前戯を終えたような具合になっていた。
大きな円を描くように腰を使い、声をひそめることもなく歓喜の叫びを上げた。
「雪子、そんなに待ってたの？ こうしたかった？」
「うん、もう待ちきれなかった、先生のが欲しくて欲しくて」
「ビチョビチョだよ。オナニーしながら運転したの？ それとも誰かとセックスしてから空港に迎えに来たんじゃないの？」
「いや、そんなことおっしゃって…、 ああ、ああっ、いい、すごくいいです、先生、もっと強くして！！」
彼女は目を閉じてひたすら快楽に身を任せている。僕は彼女の腰つきに合わせてゆっくり突き上げる。今にも果ててしまいそうな気持ちよさだ。
少し落ち着いたというように、腰のグラインドを止めた彼女は上下にゆっくりとペニスをしごくような腰使いに変え、僕の目を見つめてささやいた。
「愛しています」
でも僕は納得しない。
「午前中に男を一人食べてきたような濡れ方だよ」
「先生の言いつけどおり下着を着けずに来たから・・・、先生を想って濡れてしまったの」
「そのかっこうでどこを歩いて来たの？ 短いスカートで下着無しで歩き回って男漁りしてるんだろ？ それとも露出女だということがばれて悪いやつらにまわされちゃった？ 僕を待ってる間にパーキングでレイプされた？ それで濡れ濡れに？ 僕を待てずにそんなことしてたのか、とんだ淫乱女だな！」
僕は彼女の腰をおさえつけ、痛がる部分を突き上げながら彼女を責めた。
「ああっ！ ああっ！！」
痛さに少し顔をゆがめ、こみ上げてくる快感を味わいながら、僕の責め言葉に悲しい表情をする彼女がたまらない。
「先生、・・・わたしがレイプされているとこ、妄想されるんですか？ 誰かに犯されてるとこ、ほんとに見たいの？ たまにそういうメールくださるけど」
「見たくはないよ、でも、妄想だけならそれをおかずに何度も抜いたよ」
「そんな・・・、わたしも妄想だけ、ほんとに妄想の中でなら・・・、複数の男にまわされちゃうの、先生がそれを冷静に見てるの、そして最後は先生に抱いてもらうの、先生はわたしを叱りつけながらすごい勢いでするの、泣いてるわたしの口にも中にも射精して、わたしは先生に赦していただけるまでただただ犯され続けて、わたしもごめんなさいといいながらおねだりして、倒れるまで先生に犯され続けるの…」
こんな話をする彼女に、僕はさらに興奮する。彼女も自分の妄想を言葉にしながら興奮し、荒い息づかいでゆっくり腰を振りながら達しそうになっている。
僕は助手席に置かれたハーフコートの下に、彼女がいつもおもちゃを入れている秘密のバッグが隠してあるのを見つけた。ローターのコードがはみ出している。
「待っている間、ここでオナニーしてたんだろ？ 許したおぼえはないな」
急に恥ずかしそうな顔をした彼女は、
「してません、後で先生にお願いしようとして持ってきただけよ」
と、急に動きを止めて言い訳をする。オナニー姿を自分で撮影して送る彼女が、しかも車中で結合しながらこんなことを恥ずかしがる。
「先生、このまま出して・・・」
安全日だというのは知っていた。彼女は腰を速めようとする。あと少しで僕は射精しそうになっていた。
「ダメだよ、口でしろ」
そういって僕は彼女を払いのけ、髪をつかんで無理やりペニスに顔を押し付けた。
「痛い！先生、待って」
そういう彼女の口に、僕はペニスを押し当てた。
「好物だろ、飲めよ、ティッシュ代わりにこの口を使ってくださいって何度もいっただろ？！」
僕はいつになく乱暴に彼女を扱う。
彼女は喉の奥で悲鳴を上げながら、愛液でヌルヌルになったペニスをしごき、しゃぶりつく。
何度も繰り返してきた空港での戯れだが、僕は彼女がして欲しいと願っている愛撫をせず、腰を突き上げて彼女を窒息させ、髪を掴んでイラマチオをさせた。
いつものような絶品のフェラチオの感動はないが、こうして彼女を犯したい気分だった。
彼女にリードされたことへの反発、そしてちょっとした罰を与えたつもりだ。
彼女はそんな僕の気持ちも分かっている。自分の快感を放棄して、やられる女として最後までつとめた。
僕がうなり声を上げながら射精すると、彼女は口の中にたっぷりの精液を受けとめ、ヒイヒイいいながらそれを飲み込み、いつも以上にペニスをていねいに舐め続けた。
エアコンの風が気持ちいい。僕が着衣を直し始めると彼女も身支度をする。股間と腿の内側を濡らす愛液に、彼女は自分でもあわてている。ハンカチでは無理だ。僕は彼女の秘密のバッグに入っているタオルをとり、拭いた。
「あ、先生、恥ずかしいです、こんなこと」
膝を立てＭ字に開脚した彼女の股間をタオルでぬぐいながら彼女の目を見つめてささやく。
「レディーだと思っていたのに、こんないやらしい女は初めてだよ」
「・・・ごめんなさい」
と彼女は詫びる、叱られた少女のように。
「雪子、愛している」
といってキスをすると、それに応じる彼女は小さく震えていた。
ドライブは快適だった。僕が運転したがフェラチオもタッチも無しだ。
手を握りながら普通の恋人のような会話を交わし、一時間半ほどで目的地に着いた。
それほど古くはないのだろうが、どこか格式ばった演出が施された隠れ家的な料亭だ。
玄関でていねいな出迎えを受けてから案内された部屋は静かで落ち着いた感じだった。
床の間の近くに浴衣やタオルなどが置かれている。旅館に泊まりに来たような錯覚に陥る。
二人とも汗をかいた後だ。すぐに温泉に行く。貸切の露天風呂もあったらしいが、予約できなかったと彼女はくやしがった。
けれどもこんなときは別々にのんびりと過ごすのもいい。少しからだも休めなければ。彼女と一緒ならどうせセックスするに決まっている。
僕が部屋に戻ると食事の用意が始まっていた。しばらくして彼女も戻る。仲居さんがあれこれと世話をしてくれる。豪華な会席料理だ。評判どおり味もいい。
浴衣姿の彼女は一段と美しい。大きな座卓の下で、僕は彼女と足をからませ、遊んでいる。ゆっくりとした食事、おそらく彼女とすごした一番ゆっくりとした時間だったかもしれない。
シャーベットを出し終わると仲居さんはもう来ない。彼女はすぐに僕の隣に来て、浴衣のあわせに手を滑り込ませた。
すでに勃起しかかっているものを確かめてからにっこりと微笑み、少し間をおいて、今度は真剣な表情でキスをせがんだ。
長いキスのあと、今度は僕が彼女を確かめるとそこはすっかり濡れている。
抱きしめたまま仰向けに寝る。彼女は分かっているというように、浴衣のすそを持ち上げ、騎乗位でペニスを迎え入れた。
暖かい愛液に包まれた瞬間、まだ不十分だった状態のペニスが一気に立ち上がる。それに応じて彼女があえぐ。
浴衣のままのセックスはなぜか淫靡だ。
浴衣を脱がせないように、乳房をまさぐり、乳首を弄りながら腰を突き上げる。
廊下からはふすまが二枚あるが、やはり声は出すわけにはいかない。切ないようなあえぎ声が、さらに僕を興奮させる。
ゴムを着けていないので快感が全然違う。それは彼女も同じのようだ。このまま突き進めばほどなく射精してしまうと思ったとき、廊下のふすまを開けながら「お邪魔いたします」という女性の声が聞こえた。
彼女はあわてて立ち上がり、浴衣を直しながら窓辺に行き、ソファーに座って庭を眺め始めた。
あっけにとられた僕がやっとからだを起こしたとき、玄関で出迎えた女将と思しき女性はすでにテーブルの上を片付け、新しいお絞りとお茶を並べていた。
どぎまぎする僕に向かって三つ指をついた和装の女性は、「失礼いたしました、どうぞごゆっくり」
といい残して部屋を出た。
外のふすまが閉まった瞬間、彼女は笑いながら僕にしがみついてきた。
「先生の、オバサンに見られちゃったのね！」
そういって彼女はちょっとふくれてからまた笑った。
浴衣の前はかろうじて合わせたつもりだったが、天を突く肉棒は横から丸見えだった。
「不意をつかれてまったく動けなかったよ」
そう苦笑する僕に彼女は、
「先生、わたしもう一度お湯に入ってきますから女将を呼びますか？」
と意地悪そうに顔をのぞきこむ。
「こっちの片付けもして欲しいとでも言わせたいの？」
僕がそう応じると、
「先生が頼めばきっとしてくれますよ」
といって笑ってから、
「だめです。他の女には見せてもだめ、これはわたしのなの」
と勢いの残ったペニスにしゃぶりつくと、胸をはだけてから再びつながろうとした。
僕はそれを制止し、
「分かった、誰にも見せないよ。でも二人がセックスしているとこなら誰かに見られてもいいだろ？」
といい、窓辺のソファーに腰を掛け、ここでまたがるように彼女を促した。
旅館風の部屋、窓辺は板の間になっていて古風な木枠のガラス戸になっている。透明なガラスからは外の庭園がよく見える。建物の三階、庭は斜面を降る構図だが、見上げれば僕たちの様子は丸見えだろう。
庭を散策する人々、見合いのような一団、池を挟んで十人以上が思い思いにそぞろ歩いている。
彼女は少し戸惑いながら、なるべく顔を見られないようにして騎乗位でつながった。
しばらく黙ってキスを交わし、僕が腰を使うと彼女の口からはとろけるようなあえぎ声が漏れ始める。
「ああ、だめです・・・、こんなこと・・・」
といいながら次第に深まる快楽に抗えない様子だ。
「がまんしないで声出せよ、どうせさっきの女将がみんなに言いふらしているよ」
と僕がいうと、ためらいながら彼女のあえぎ声は次第に大きくなる。
「いやです、こんな・・・、はずかしいです・・・」
ゆっくりとした突き上げに徐々に力を加えていく。
「ああ、あああ！！ すごい、すごいです！！ もうおかしくなりそう・・・」
とうとう自分でも腰を振り始めた彼女の声は部屋中に響き始めた。
浴衣は脱がせないが、少しはだけさせる。乳房が見えそうになると彼女はそれをおさえるようにする。
僕は少しずつその手をどけて、最後は見ず知らずの人々に彼女の裸体を披露した。
見られているか、実は分からなかった。確かめようとすればこちらの顔が見えてしまう。
もちろん彼女の顔が見えないようにからだの向きは考えたが、窓辺で行われている行為は誰の目にも明らかだっただろう。
吸い付くようなヴァギナを堪能し、露出遊びをしながら、最後は床に彼女を寝かせ、舌をからませながら正常位で果てた。
床から腰あたりの高さは曇りガラスになっていたから、シルエットだけを皆さんに披露したことになる。声は、おそらく廊下に筒抜けだったに違いない。
もう一度湯に入り、帰りは彼女が運転した。
彼女は僕の手を握り、行く手を見つめながら、
「うそみたい、とっても幸せです」
と何度もいった。
夕方になっていた。いつものホテルに着くと、僕だけが降りて彼女は帰宅する。
明日の午前中は、ちゃんとベッドの上で彼女を抱ける。安全日にこうして会えるのは初めてだった。
「雪子、今日はとっても楽しかったよ、すてきなところを教えてくれてありがとう」
というメールに、
「喜んでいただけてよかったです、でもあそこには二度と行けなくなりました、お気に入りだったのに」
と返事が来た。
そもそも僕には露出趣味などなかった。見せたいと思ったのは彼女との関係からだ。
空港のパーキングも、ある種の露出プレイだ。羽田では後部座席のドアを開けたままフェラさせたこともある。羽田の空港ビルにホテルができてからは、滑走路側の部屋をとってカーテン全開でスリルを味わった。
こんなこともあった。do not disturbの表示を出し忘れ、僕たちは愛欲の世界に没頭していた。ちょうど騎乗位で彼女が絶叫している最中、ルームクリーニングが繰り返しドアチャイムを鳴らした。
忘我状態の彼女は気付いていない。僕は分かっていたが中断よりあえて無視を選んだ。不在を確信した女性はドアを開け、ＡＶさながらの光景を目の当たりにし、あわてて去って行った。
ドアが閉まる音も彼女には聞こえなかったようだ。あとでそのことを伝えると、教えてくださればもっと興奮したのに、と笑った。
露出プレイとは羞恥心を快感に変えることなのだろう。けれども僕の場合、これだけの女をいいなりにさせていることを自慢したい、見せ付けたいという欲求もあった。美貌も、そして内面も、雪子というすばらしい女性を手に入れたことを、僕は誰かに自慢したかった。
二人だけの秘め事の告白は、僕にとって最後の露出プレイになる。露出の快感と、もちろん雪子との関係を見知らぬ誰かに自慢したいという欲求が、これで少しは満たされる。
たしかに雪子はすばらしい女性だった。けれども全てのことには終わりがある。
もし二人の関係が文字通り仮想恋愛であったなら、あるいは今でも妄想メールを交換していただろう。けれどもそれでは互いの想いをこれほどまでに深め合うことはできなかった。
身体の結びつきのない恋愛はただの妄想であって、もちろんそこには痛みも悲しみもないが、喜びも愛もない。
痛みと悲しみは時が癒してくれる。残るのはきっと究極の快楽の喜びと愛の記憶だ。
記憶の一部を記した僕の告白はこれで終わりだ。あとは心の中にしまっておくことにしよう。
| 