第12話　羽根

　白い裸身が横たわっています。
　微乳が、静かに上下していました。
　そっと抱き上げて運んでいる間、妻は一度、ううと、うめいただけです。それほど、妻の意識は深く沈んでいるのでしょう。
　単に寝ているだけとも見えましたが、さっき、信じられないほどの頂点に達した後、急速に全身の力が抜けていく姿は、眠り込んだと見るにはあまりにも急激でした。
　こういうのを、失神というのでしょうか。
　昨日、遠藤氏の部屋で見た、あのシーン。
　緑川さんに見下ろされたまま逝ってしまった、あの時とまったく同じかも知れません。
　今度は、私が、両手をイスに縛りつけたままの妻を後ろから貫いて失神させたのです。
　私がいささか慌てて、イスから両手を解いている間も、意識がないまま、荒い呼吸を繰り返していました。
　呼びかけても反応しません。
　今は、こうしてゆったりとベッドの上で横になり、寝息と見まがうばかりの安楽な表情で緩やかに呼吸していました。
　私は、と言えば、妻の胎内深くに、昨夜以来、たまりにたまっていたものを放って、いくらか落ち着いた気がしました。
　しかし、この程度では、妻が取り返せないのではないかという思いが、心のどこかでこみ上げています。
　それは「恐れ」の色をしていました。
　さっき、自分でも思いも寄らぬことを口走ってしまいました。
　昨日のこと。
　遠藤氏とのことを知っていると言ったのは、まだ、マシでした。
　妻の反応次第では、優子さんからのメールで「そう勘ぐっただけ」というカタチにしても良いのです。
　しかし、何で、そんなことを言ったのか、自分でも分からないのですが、確かに、遠藤氏とセックスしろと、そして、それを見せろと叫んでしまいました。
　そんなバカな。
　さんざんに、昨夜、切ない思いと挫折感、そして、いらだちの中で過ごしたのです。
　もう一度、遠藤氏とのセックスを妻にさせるなんて。
　果たして、本当に、自分がそれを望んでいるのでしょうか。
　あの蕩けるような快感の中で、妻に命じてしまったこと。
　自分で自分のことが分からなくなっていました。
　こうやって横たわる妻の白い身体を見ると、二度と他人に触れさせたくなんてありません。
　昨日のように、遠藤氏に妻がオンナ奴隷同然の扱いを受けるところを、見たくは…　
　いえ、違います。
　見たくないのは、妻が、遠藤氏の言われるがまま、望むがままの姿になろうとする所でした。

　それは、夫として、妻の心を独占できなくなったと感じるせいなのかもしれません。
　あるいは、結婚以来、幾度もセックスしてきたはずの妻を、たった一夜で簡単に変えてしまった遠藤氏への嫉妬なのかもしれません。
　妻がわずかに身じろぎをしました。
　ひょっとして、そろそろ目覚めるのかもしれません。
　あんな風に失神しても、これだけ簡単に回復するなら、昨日は…
　また、悪夢のように、妻が遠藤氏の言われるがままに、何でも受け入れて言ってしまうシーンが、フラッシュバックします。
『負けてたまるか』
　ふと、サイドボードにあるガムテープを思い出しました。
『これなら』
　ガムテープの、ビ、ビっとしなう音をさせながら、妻の手首をくるぶしの所で固定してしまいます。
　ちょうど、Ｍ字開脚というのでしょうか。あのカタチです。
　自分の手で持たせる代わりに、外側から伸ばした手をガムテープでぐるぐる巻きにしてしまうと、意識のないままの妻の両脚は、仰向けのまま大きく広がってしまいました。
　脚をいくぶん抱えるカタチになったので、息が苦しくなったせいでしょう。
　少しだけ、意識が戻りつつあるように身じろぎし始めたように感じます。
『急がなくちゃ。おっと、動けないようにするなら…　でも、首はまずいしなあ』
　妻の上半身が動けないように、ベッドにくくりつけようと思いましたが、首をくくりつけるのはさすがにちょっと怖すぎます。
　かといって、腹の部分では、ガムテープで押さえられるのか、自信がありません。
　戻りつつある妻の意識に焦りながら、ためすがめつ白い裸体を見ていると、ふと、細く浮き出た鎖骨が目に付きました。
『ここなら、動けない』

　大急ぎで、ベッドの脚に、クルクルと端を巻き付け、一気に、二の腕から、鎖骨の上を通って反対の脚まで、ガムテープを貼り付けます。
　ビ、ビっと接着剤の剥がれる音がする中で、とうとう、反対の脚にガムテープを固定し終わった時でした。
「あ、あれ、あの」
「ああ、起きたの？」
「あ、あなた」
　私の声を聞いて、不安そうな妻の声が、いくぶん和らぎます。
「え、あの、ねえ、あなた、これ、動けない」
「良いんだよ。もう一回するからね」　
「あなた、もう、疲れたの、ねえ、お願い、とって、ねえ、あなた」
　人間というのは、寝そべった状態から、反動を使わずに起き上がろうとすると、大の男でも指一本で起き上がれないものなのです。
　まして、肩口から、ぐるっとガムテープで固定されれば、女性の腹筋で起き上がることなど絶対にできません。
　妻にできる唯一のことは、ガムテープがべりべりと横にずれる痛みを我慢して、横を向くことだけです。
　しかし、相当の痛みを覚悟したとしても、そもそも鎖骨の上を固定してしまえば肩も動かせないのですから、最初の反動のつけようがありません。
　つまり、妻は、Ｍ字開脚のカタチのままで、ベッドに貼り付けられているのも同然でした。
　まるで、標本箱にピンで留められた蝶のように。
　もっとも、標本箱の蝶は羽を広げて留められていますが、妻は、羽根の代わりに両膝をグッと広げています。
　その中心では、まだ、濡れそぼったものが乾かぬままの秘所が、ピンクの中身をわずかに見せた状態だったのです。
「あなた、いくら何でもひどいわ。こんなこと」
　いくぶん、妻の声が固くなっていました。いえ、いくぶんと言うより、半ば怒っています。
「じゃあ、何にもなしで、昨日のことをちゃんとしゃべってくれるのかい？」
「いったい、何のことなの」
　オンナというのは、分からないものです。あの、真面目で、カタイはずの妻ですら、一つもひるむことなく、しらを切るのです。　
　女という生き物は、男を騙すことには、ひょっとして天性の才能があるのでしょうか。
　昨日、自分の目で見ていなければ、この瞳を見たら、妻を信じていたかもしれません。
「へぇ、そうなんだ。紀美も、僕に嘘をつけるようになったんだね」
「嘘なんて。やめてよ。ヘンよ。今日のあなた」
「そりゃ、ヘンになっても当然だろ。心当たりがないなんて言わせないよ」
　あくまでも強気な私の言葉に何事かを悟ったのでしょう。妻の顔にわずかな動揺が走ります。
「昨日っていっても、あの、だって、あの、あなたにも言ったと思うけど、遠藤さんの所に。だって、緑川さんも一緒よ」
　確かに、この言葉には、ウソはありません。ただ、一番重要な部分を言っていないだけです。
「へぇ〜、で、何もなかったと」
「だから、遠藤さんのお宅に伺ったんだってば。もちろん、奥さんと一緒よ」
「一緒なら、何もないと」
「緑川さんだって、一緒だったもの」
「で、三人でレズってたってわけか」
「レズなんてしてないわ、ひどい」
「ふ〜ん、ね、紀美、僕は怒っているわけじゃないんだ。むしろ、キミの勇気を褒めたいくらいだ」
　妻には、いささかの恐怖と、不信、そして、不安が渦巻き始めているようです。
「でもね、夫には、奥さんが何をしてきたのか知る権利があるんじゃないかなあ」
「ねえ、じゃあ、話すから、これ、外して」
「ダメダメ。紀美が良い子で話してくれるまで、外せないよ。もし、良い子じゃなかったら、ほら、こうしてあげる」
「きゃ！やめて！」
　私の手には、一本の羽根がありました。
　学生がオーストラリア土産にくれた、持ち手をつけたガチョウの羽根です。
　クロッキー用の羽根箒にでも、というつもりだったのでしょうが、やはり、道具は、お気に入りのものしかつかえません。
　引き出しの中で、ガムテープの横に、まるで、今日の出番を待っていたかのようにちょこんとおいてあったのです。
「いや！、あなた、ダメ、くすぐったいの」
　懸命に頭を振り、顎を引きつける動作をしますが、逃げられるはずもありません。
　その白い羽根の先で、首筋、耳、そして、脇腹を、ほら、ほら、ほらとくすぐっていくと、妻の顔がたちまち上気して、呼吸すら苦しそうになります。
　引きつるように動くお腹の真ん中にあるヘソが可愛らしくて、そこもくすぐると、不自由な身体を懸命にくねらせて、やめてと哀願しました。
　妻はくすぐったがり屋なのです。
「さあ、良い子で話す気になったかなあ」
　ゆったりと、胸の谷間の辺りをなぞりながら、いえ、妻の微乳では谷間というより、扇状地のようなものでしたが、とにかく、乳房の間をゆったりと掃きながら尋ねます。
「さ、言ってごらん、何があったのか」
「卑怯よ。こんなことして」
「ふ〜ん、夫がいない間に、いやらしいことをするのは卑怯じゃないんだあ」
　首をちょこちょこっとくすぐりながら、いつの間にかひどく楽しそうな顔をしている自分に気がつきます。
「あ、いやあ、ごめんなさい、言います。全部言うから、やめて。許して！」
「そうそう、さ、全部話して。おっと、途中でウソをついたら、今度は、こっちもかなあ」
　サッと、妻の秘所の数センチ脇を羽先でかすめます。
「あう！」
　妻の反応が過敏であるのは思った通りでしたが、妻の声には、私の期待とは違い、多分に淫靡なものが含まれていました。
　確かに楽しんでいたのは私ですが、思わぬほどのオンナの反応にいささかぎょっとしたのも事実でした。
　しかし、それには気づかないふりをして、妻の話をうながします。
「さ、もう話せるね。昨日、どんなことをしたのか」
「あぁ、ごめんなさい。あなたに黙ってて。遠藤さんの旦那さんに頼まれて、モデルをして…」
「ヌードを見せに行ったのかあ。相手は素人だろ？」
　スッと白い太ももを羽根先で撫で上げながら尋ねます。
「ああ、ごめんなさい。でも、最初はそんなつもりなんてなかったの。しかたなかったの。ホントよ、信じて、あなた！」
　妻の叫びには、くすぐられるのを恐れて、と言うより、信じて欲しいという祈りが込められている気がしました。

　まさか、それから三十分以上も、羽根を遣うことになるとは思いませんでした。
　どうあっても、妻は、遠藤氏とのセックスを認めないのです。
　妻の意地っ張りな性格が出たのか、はたまた、それを認めると私との関係が壊れると思っているのか。
　おそらく、その両方なのでしょう。
　妻から見て、私の様子は、一見楽しげに見えているはずです。
　まあ、もちろん、本当に楽しいのですけれど、こんな様子を妻から見れば、まさか、セックスシーンそのものを見られているとは思わないはずです。
　だから、遠藤氏の家に行って、何かがあったけど、それは、ヌードを遠藤氏に見せてしまいました、ごめんなさい、というシナリオをとっさに書いたとしてもわかります。
　しかし、自分の意志で遠藤氏とセックスしたことを、他ならぬ妻自身の口で、どうしても語らせたかったのです。
　それは多分に私のずるさだったかもしれません。
　見ていたと言えば、私も共犯者になってしまうかもしれないからです。
　そうなって、「夫に助けてもらえなかったヒロイン」を演じられてはたまりません。
　それだけではありません。
　妻がそれを自らで認めない限り、遠藤氏の呪縛から妻が離れられない気がしたのです。
　つまるところ、他のオトコとの肉の交わりは許すことができました。
　むしろ、見たことがないほどの妻の淫乱な姿をもう一度見てみたいというどす黒い欲望も確かに私の心の中に存在していました。
　アトリエでの交わりの間、しきりに緑川さんささやかれた「究極の夫婦の愛というのも、実は、嫉妬が無いと生まれない」というのも、ほんの少しだけわかる気がしました。
　しかし、妻が遠藤氏との交わりを話せないということは、いつまでも、昨日の交わりを心に秘めることになります。
　それは、とりもなおさず、心に鍵のかかる場所を持つことでした。
　生涯のパートナーである妻の心の中に、一人の男が住み着くことは許せませんでした。
『オンナってね、もちろん、無理矢理ではダメだけど、肉体が交わると、どうしても、相手に恋をしてしまうのよ』
　放出した直後、緑川さんにそう囁かれました。
『そりゃそうよね、なんと言っても相手の命のモトを受け入れるんだから』
『でも、それなら、何で旦那さんは、これを許すの？　今、こうしてるの、ご主人知ってるんだろ？』
『そうね、今頃、先生とどんなセックスしてるか、カリカリしてるはずよ。特に、私が他の人のを飲むとすっごく焼き餅焼くんだから』
　にっこりとした笑顔の中には、私への好意もあるでしょうが、むしろ、旦那さんののろけ話をしているかのような、ちょっと照れた笑いありました。
　それが、あのときの私には、どうしても理解できませんでした。
『で、ね、一人だからいけないの。一人とだけではなくて、何人もってわけ。そうなれば、夫婦の関係だけは特別で、後は恋というより、夫婦の嫉妬の元ネタってなるわけ』
『じゃあ、緑川さんは…』
『ほんとはね、先生じゃなくて、清美さんが狙いだったの』
『おまけってわけ？』
『出会いのチャンスはどこにでもあるってことかしら。まあ、今回、先生の教室に一緒に入った奥さんたちはみんな「会」に入って欲しいらしいんだけど』
『会？』
『ふふふ。先生ったら、先に清美さんをとっちゃうんだからから。もう、ずるい』
『会って』
『でも、わかるわぁ、遠藤さんの言ってたこと。先生は確かに私たちの仲間だってこと』『いったい、会って何なんだ』
『今に、わかる。いい？先生』
　とぷっと私のモノを一度頬張って、ねっとりとした舌遣いで舐め上げてから、潤んだ目で見上げます。
『チャンスは一度しかないの、奥さんの性格からすると。逃がしちゃダメよ、そうすれば、きっと先生の人生が素敵になるわ』
　緑川さんは、それからいくら聞いてもとぼけるばかりでした。
　ただ、妻が大勢の男たちと交われば、信じられないほどの快感を感じるようになるはずだと囁かれながら舐められると、あっという間に大きくなってしまいました。
　射精したばかりなのに再び、緑川さんに挑んでしまうのに時間はかかりませんでした。
　短いながらも、思わぬほど密度の濃い射精を注ぎ込む時に、緑川さんは、オーガズムを告げる声の合間に、確かに「信じて」と何度も囁いたのです。
　信じる。
　何を信じればいいのか。
　そして、緑川さんが言うチャンスというのは今なのではないか。
　緑川さんの言葉を信じようとしていたのかもしれません。
　いえ、それよりも、これよりも、遠藤氏の呪縛を解きたい一心だったのかもしれません。
　ただ、今、この瞬間、妻に裏切られた「悲しみ」だけは、少しもなかったのが不思議でした。　　　
　だから、こうやって、遊び感覚で妻を問い詰められるのかもしれません。
　さっきの射精と、ガムテープで動けぬようにしたことで、これほど自分の心に余裕を取り戻せたのが不思議でした。
　確かに、妻の身体を支配している感覚が、それを支えているのかもしれません。
　悲鳴に近い声を、何度も引き出しながら、こうやってくすぐり続けています。
　長くくすぐると、感覚を次第に鈍磨させます。そうならないように、全身のあらゆる所をくすぐる羽目になってしまいました。
　驚いたのは、くるぶしにのばされて固定された二の腕の内側は、意外なほどに効果的なことでした。
　脇腹はくすぐったがっても、腋そのものは、くすぐったがると言うより、感じやすいといったことが発見でした。
　妻の意外な性感帯です。
「そうか、どうしても、言わないんだね」
「あぁ、あなた、もう許して、誤解なの。本当よ、あう、きゃう！」
　ハアハアとあえぐような呼吸をしながら、妻はねっとりと汗をかいていました。どうやら、くすぐられることであちこちの筋肉が収縮して暑くなっているのでしょう。
　羽根も、汗をじっとりと吸い込んでいるようで、だんだんと、その微妙な摩擦感が弱まっている気がします。
　どうしたものかと、首筋をくすぐる羽根を引いたときに、それは起きました。
「はうぅ！」
　甘い声をあげて妻が身体をのけぞらせます。
　はっとして、妻の目を見ると、いやあと恥ずかしそうに首を横に曲げてしまいました。
　どうやら微乳の先端に、羽根が当たったようです。
「お楽しみは最後に」とばかりに、慎重に避けていた場所でしたが、一度も触られていない乳首は、触られるのを待ち望んでいるかのごとく、ピンとたっていました。
　羽根を横にして、ということは、羽根の広い部分が当たるようにして持つと、その表面で慎重に乳首の先端を撫で回すと、妻は、何か、底が抜けたような声を出します。
「はふう、はう、あふう、ああ、あなたぁ、はあううう」
　横を向いていた妻は、いつのまにか、真上に向けて首をのけぞらせて、もだえます。
　見たことがないほど余裕のない反応でした。
　性感の神経というものがあるものなら、それむき出しにして、ザリザリとなでつけたらこうなるのかと思ってしまいます。
　男の悪い癖だと思います。
　胸を、それも乳首を触って反応されると、つい気を取られて、限度が無くなってしまうのです。
　サラサラと、羽根を持つ角度を変え、上下、左右と、次々と方向を変えながら、左の乳首をいじめ続けてしまいました。
「はふ、はう、ああ、おぉう、ふう、あ、あな、た…」 　
　息も絶え絶えに、妻が何かを言おうとします。
　なんだい、と意地悪く返事しながら、ふと、触っていない方の、右の乳首をさっと、一撫でした瞬間でした。
「あ、あ、あ、あ、ひぃい」
　総身を振るわせて、というのは、このことを言うのでしょうか。
　一瞬、身体を硬くした直後に、肩のあたりからブルブルと振動が始まり、すぐに全身が力みかえるように震えたと思うと、妻の身体から力が抜けてしまいました。
　どうやら、逝ってしまったようです。
　乳首の、それも、ほんの十数秒、戯れのように撫でただけなのに、突然のオーガズムでした。
　女性の部分を触らられずに逝った妻を見たのは、初めてでした。いえ、妻だけではなく、そんなことが実際にあるものかと思っていたのですが。
　ハアハアと荒い息がいつまでも止まりません。
　力がぬけて、手と固定されている膝は広がりきっていました。
　私は、ベッドの上がり、その広げた膝の間にしゃがみ込むと、ごく自然に、妻の秘所に目をやります。
「おい、これ、すごいぞ」
　妻の秘所は、いつのまにか、真っ赤に充血し、うねうねとうごめきながら、ねっとりとした秘液を満たして、後孔の方にまでこぼれていました。
　目の前で、腰がうねり続けています。
　いつの間にか、妻は、力を抜ききって、脚を開くに任せていたのです。
　脚が開ききっているため、両腕は、むしろ、ゆったりと肘も曲げる余裕があります。
　そのかわり、両脚の真ん中が、ひっぱられ、秘唇が広がってしまいます。
　充血した美肉が、軟体動物のようにうごめいているのが見えました。
「あぁ、いやあ」
　私が見つめているのを感じたのでしょう。恥ずかしそうな言葉を口にしながら、そのくせ、広げきった両脚は閉じようと動くことはありませんでした。
「なんだ、これ」
「あうう！あ、はう！」
　左の薬指をそっと表面に走らせただけで、妻はのけぞります。あるいは、軽く達してしまったかもしれません。
「感じてたんだ」
「あう、だって、ああん、もう、意地悪ぅ。だって、こんなに長く」
「あれ？僕は愛撫してたんじゃなくて、お仕置きしてたんだよ」
「ねえ、もう許して、あう　…く、苦しいの」
　苦しいといった時は、妻の秘唇が、ヒクンとなったことを見逃しません。
「あれ？苦しいってのは、息が苦しいんじゃないよね」
　ッともう一度表面をなで上げます。
「きゃう！あうう！ああ！お願い、意地悪しないで」
「どうして欲しいの」
　決して、中に指を走らせないように、そっとそっと表面だけをなで続けながら、さあ、どうしようか、と意地悪な表情で尋ねたのは、多分にじらそうと思ったからです。
　本来的には恥ずかしがり屋の妻は、こんな明るいところで、女性自身をあからさまにした格好のまま、入れてと、そう簡単に言えないはずでした。
「あう、お願い、あなた、もう、入れて、欲しいの、あなたが」
　あっさりと、そうねだると、腰がグッとじれったそうに左右に動きます。
　どうやら、思わぬほど妻は差し迫っていたようでした。
「お願い、あなた。ちょうだい、ね、あなたぁ」
　一度言葉にすると歯止めが無くなってしまうのでしょう。しきりに、腰をうごめかしながら、おねだりの言葉が止まりません。
　実は、くすぐられる合間に見せる、妻の微妙な色っぽい声のトーンに、私のものはいつしか再び硬直していたのです。
　思いもよらぬ、崩壊したような妻のおねだりの仕方に、我を忘れてしまいました。
　今の目的も忘れて、そのままの私をズブリと妻に埋め込んだのです。
「ああ！あう！いっ！」
　入った瞬間、それだけで、私を包み込んだ美肉が、とどろくようにケイレンして締め付けてきます。
　私を少しでもしっかりと抱え込みたがっているかのように、妻の膝がしきりに私を挟みつけようとします。
「あう、あなた、ね、お願い。もう、解いてください、お願い。このままだと、ああう、あなたに、あなたに、あぁ、お願いよ」
　どうやら、妻は、私にしっかりと抱きつきたい様子でした。
　腰を激しく動かしながら、片手でガムテープをはがそうとしますが、もちろん、そううまくいきません。　
「ああぅ、お願い、あう、あな、あう、たぁ」
　しきりに、のけぞらせた頭を振り立て、腰そのものをグイ、グイッと動かしながら、じれたような声で、啼くのです。
「よし、それなら、さ、このまま」
「え？きゃう、あなた、それ、いやあ」
　妻の身体を抱え込んで、埋め込んだ私をそのままに、膝に乗せてしまいます。
　対面座位とでも言うべきかもしれませんが、妻の両手とくるぶしが固定されているため、まるで、座ったカタチの熊さんのお人形を抱え込んだような形になります。
　それであっても、妻の腰は不自由ながら、動き続けていました。
　自分が上になることは、あまり妻の好みではありません。
　自分から快感をむさぼるようで恥ずかしいのでしょう。
　妻が言うには、やはり、男性に動いてもらった方が安心できるんだそうですが、今の妻にとっては、それどころではなく、一刻もじっとしていられないようでした。
　両手両脚を投げ出すように、男の上に座り込んで、そのまま強引に腰を動かすのですから、恥じらいも何もあったものではありません。
　必死になって、腰を振り続けています。
　一方で、私は、そんな妻の必死な姿に、なぜか、心の余裕が大きくなっていました。
　右手で、ガムテープをじっくりと剥がしながら、左手で、時に微乳をまさぐり、時に尻たぼをタプタプと動かして妻の甘い啼き声を誘発します。
　ふと思いついて、つながっている場所に指を進めると、びっしょりと濡らした秘液が、幹を伝って、私の腿にまでこぼれていました。
　じっくりと言っても、ガムテープを剥がす程度のことにかかる時間も限度があります。
　左手が自由になると、待ちかねたように、ぎゅっとしがみついてきました。
「ああ、あなた、あう、また、あう、ああ、また、あ、き、きちゃうぅ。お願い、こっちも、早くぅ」
　自由になった左手で、首にぎゅっとしがみつきながら、妻は必死の形相でした。
　もどかしげに腰を使いながら、しがみつくようにキスを求めます。
　さすがに、妻と舌を絡めながら左手を動かすというのは上手くいきません。
「あぁ、あなた、あう、あな、あなたあ」
　何度も軽い波が妻の中を通り抜けているのが分かりました。
　それでも、もどかしげに腰を動かし、絡めた舌は、私の唾液をねだるように、誘うような動きを繰り返します。
　しかし、どうしても、剥がせません。思い切って指先で断ち切れないものかとやってみましたが、クルクルと巻き付けて何重にもなっているため不可能です。
　自分でやったことながら、何でこれほど厳重にしてしまったのかと、後悔しても遅すぎます。
「ああ、お願い、あなたあ、あうう、動いてぇ」
　悲痛な声でした。
　おそらく、噴火直前のマグマが胎内にドロドロとうごめいているのでしょう。その上、慣れぬ体位と不自由に戒められて、自ら、どう動いて良いのか分からないのでしょう。
　それも、片手と片脚がくっつけられている不自由な身体でした。
　片手だけと言うことでバランスが取れないのか、さっきよりも一層動きがぎこちなくなった気がします。
　これならいっそのこと、一度中断しても、剥がしてやった方が良いのかもしれません。
　頭の中で、そのタイミングを計りながら、妻の腰を抱えると、グイグイっと回すように動かします。
「あ、あ、あ、あう、それぇ、あうぅん」
　軽い頂点が近づいている気がしました。
　よしとばかりに、身体を少し持ち上げ、一気に腰だけを使った上下運動を加えます。
「あう、ああ！あなた、あう、い、いっちゃう！」
　ピンと背中が仰け反って、妻の中で、また、オーガズムの波が駆け上りました。
　硬直した身体を抱きしめながら、津波が通り抜けるのを待ちます。
　その間も、妻のナカは、とどろく音が聞こえるかのごとく、ヒクンヒクンと誘う動きで締め付け続けてきました。
「よし、もっと、だよ、いいね。昨日より、感じさせてやるからな。まだ、感じるだろ」
「ああ、もう、だってぇ、あぁ」
　クナクナと首を振るのは、昨日のことを認めたと言うより、もっと、続けて欲しいというサインでしょう。
　しかし、一度、波が通り抜けたこのタイミングなら良いはずです。　
　決断した私は、一気に抜き去ると、妻の身体を抱えて、ベッドにそのまま仰向けにしたのです。
　まだまだ、妻の身体から快感を搾り取れるはずでした。