第13話　邂逅

　私のモノが抜き去られる瞬間、妻の腰は私を追いかけようとしました。
「あなたぁ、いやあ、あう」
　逝ったばかりのはずでしたが、やはり、妻の身体はもう一つ上の快感を求めて、さらに登ろうとしていたのです。　
　しかし、それをどうにかする前にやることがあります。
「ああ！いやあ、あなたあ、だめ、おかしくなっちゃう！」
　私に見られているのを知りながら、啼き声を噴きこぼして、大きく空腰を使います。
　不自由な動きながら、美肉の奥までもさらけ出す、淫らな動きでした。
　ビッショリと濡れそぼった秘液は、怒張だけでなく私の股間を濡らしていました。
　生暖かい妻の中から離れると、濡れた怒張の周りが、わずかな空気の動きで冷たく感じます。
「今、これ、解くからね」
　ヒイヒイと、じれったそうに啼き続ける妻も、そう言われれば、待つしかないと分かったのか、淫らな声を時折漏らし続けながら、耐えていました。
　両手さえ使えば、こんなもの簡単です。
　妻の淫らな色をした声を聞きながら、一分とかからずに剥がし終わりましたが、ふと目を向けて、また、驚かされます。
「おい、何を」
　妻の左手は、激しくクリトリスをさすり、入り口をかき回していたのです。
　つまり、待っている間に漏らした声は、余韻に上げた声ではなく、夫の目前でオナニーをしていた声だったのです。
「あ、ああ、いやあ、見ちゃ。お願い、ご覧にならないで。いやあ」
　恥ずかしがっていても、その手は一瞬たりとも止まりませんでした。
　妻のこんな姿を見るのは初めてでした。
　もちろん、妻も一人のオンナですからオナニーの一つくらいしてもおかしくはありません。
　けれど、どちらかというとセックスには受け身の妻ですから、妻がオナニーをしているなんて考えても見ないことでした。
「あれ、俺の前でオナニーかあ、すっごいなあ、いやらしねぇ」
「あぁ、いやあ、見ないで、あなた、早くきてぇ、だって、苦しいのぉ、我慢してるんだからぁ」
　その手つき、動かし方は、堂に入っていて、これが初めてのこととは思えませんでした。
「いつもしてるの？」
「ああ、いじわるぅ、たまに、ほんとにたまによ、だから、ああ、早くぅ、苦しくて」
「いつしてたの？」
「ああ、あん、もう、いじわるぅ、生理の前とかあ、あう、ホントにたまになの、ね、あなた、お願い」
「俺とするより、気持ちいいんじゃないの」
　ついつい嗜虐心がわいてしまいます。
「ああ、そんなことない、だって、一人だと逝かないもの、ああう、苦しいの、早く」
「逝かないのにしちゃうの？」
「だって、お腹がモヤモヤしてる時、ちょっとだけだもの」
「いつも、こうやって動かすの」
　コクリと、頷く妻が妙にいじらしく感じます、
「じゃあ、このまま、一人でしてみようよ。いつもどおり」
「ああ！いじわる！無理よぉ、いつもは、こんな風にならないもの、ああ、お願い、ねえ、いじわるしないで、ね、何でもするから、お願い、ちょうだい、あなたのを」
　焦れたように腰を使いながら、それでも、指が止まりませんでした。
　ふと思いついて、そのまま腰を進めました。妻の美肉に先端をあてがいます。
　ようやく入れてもらえると安心したのか、妻の指がそっと離れようとします。
「ストップ。そのまま触って」
「ああ、だってぇ」
　そう言いながらも、素直に、妻の指はクリトリスをクルクルと円を描くように触っていました。
「このままだよ」
「ああ、ダメ、ね、お願い、もっと」
「もっと、何？」
「ああん、もう、今日のあなた、すっごくいじわるなんだからあ。もう、言います、言いますってば、だから、ねぇ、あなたあ」
　妻の腰がクイクイと動きますがそれに合わせて、深くならないように慎重にあてがい続けていました。
　そうです。妻が遠藤氏のモノを初めて受け入れることを望んでしまった、あのやり方です。
　目を閉じたまま、わずかに口を開けている妻は、今、どんな思いがよぎっているのでしょうか。
　昨夜、さんざんに焦らされ、そして最後には、欲望に負けてしまった記憶が果たして蘇っているのでしょうか。
　それでも、さすがにあの時は、欲望に負けまいと妻なりに精一杯抵抗していました。
　しかし、今日の相手は私です。
　妻にとっての葛藤は、恥ずかしいと言うことだけでした。
　そんなことは、とっくに踏み越えてしまった妻にとって、胎内の欲望のままにおねだりを口にするのはたやすいことだったのかもしれません。
　あっさりとおねだりを口にしたのは、あっけなさ過ぎるほどでした。
「お願い、あなた、奥まで、深く入れてください、あぁ、お願い、オ○○コの奥まで、あぁ、恥ずかしい、でもぉ、いれて、いれてください、ああ、いやあ」
　自ら口にした卑猥な言葉に、感じてしまったようでした。
　つかの間、指が止まったところを見ると、また、軽い波が来たようです。
「どう、昨日もこうなったの」
　妻の身体が、びくんと確かに震えました。
　指が、わずかに、クリトリスから離れます。
「そのまま触って！」
　ノロノロと指が戻ってきましたが、妻の身体全体に、さっきまでなかった緊張が走っているのがありありと伝わってきます。
「言いたくないなら良いよ、その代わり、昨日みたいに、ずっとこのままだよ。自分から入れてって言うまでね」
「な、なんで…」
　怖々という感じで目を開け、ようやく私と目をあわせます。
　快感に潤んだ瞳の中にあるのは、緊張と、恐怖、そしてさらなる快感を求めて与えられない、じれったさでした。
「いいんだよ。オカシクなっちゃったんだろ」
「え？」
　微妙に妻の身体がうねり始めます。
　ひょっとして、本人も気づかぬままかもしれませんが、妻の腰が私の怒張を迎え入れようとうねうねと懸命に動いていました。
「紀美が、ちゃんと話してくれれば、それでいいんだ。大丈夫。怒ったりしない」
「だって、あなた、それ、あう！」
　瞳の中は不安だらけでしたが、私の怒張がわずかに入ると、快感は、全てをあっさりと乗り越えて、感じてしまうようでした。
「あぁ、いやぁ、だめぇ」」
「僕が望んだことだからね、紀美が、いやらしい女になってくれること」
「ああ、そんなあ、あう」
「ほら、こんな風に遠藤さんのを入れたんだろ」
「あぅ、そんなことぉ、な…」
　すっと抜き去ろうとすると、その気配を感じて、慌てて腰が追いかけてきます。
　ふと目が合いました。
　ほほえみかけると、ちょうど亀頭がすっぽり包まれるだけ入れると、妻はうめくしかありません。
「さ、言ってごらん、本当のこと。もう、わかってるからね、ほら、こんな風にされたんだろ」
　わずかに抜く気配を見せると、もはや、妻は抵抗などできなくなってしまったようでした。
　なによりも、昨日、自分に使われたテクニックをそのまま遣われているのですから、自分がしたことが全てばれてしまったと思っても、不思議はありません。
　まあ、もちろん、妻が思った以上に「知って」いるわけですが…
　さっき、わいせつなおねだりをしてしまったときと同じように、考えてみれば大変なことを、あっさりと認めたことになるのかもしれません。
　妻が目を閉じて、ああと一声うめくと、ごめんなさいと横を向きながらポツリと呟くように、とうとう口にしたのです。
「いいんだよ。だけど、そのかわり、何があったが、ぜーんぶしゃべるんだ。そうしたら、それでいい」
　グッと妻の奥まで一気に貫きます。
「ああ！あなたぁ！」
「その代わり、もし、僕が知っていることと少しでも違ったら」
　ぐいぐいと、腰を遣います。
「その瞬間に、抜いてしまうよ。夫のことを裏切る奥さんとセックスできないからね」
「ああ、ごめんなさい、あなたを裏切ってしまって」
「違う、言ったろ、僕が望んだことだって。でも、それを話してくれないなら…　ウソが一つでも混ざったら、それは裏切りだよ」
　柔らかすぎる美肉が私のモノを柔らかく、それでいて隙間無くぴっちりと包み込んでいます。
　微妙なうごめきだけではなく、入り口付近がケイレンするようにぎゅ、ぎゅと完結的に締め付けてくるのは、果たして妻がわざとしているのでしょうか。
　かつて無いような、妻の美肉のうごめきです。
　そのケイレンのような締め付けが、ようやく納まると、妻がゆっくりと視線を合わせてきます。
「あなたが望んだって、じゃあ」
　妻の目は、潤んでいるくせに、しっかりと見開かれます。
「そう、僕が遠藤さんに頼んだんだ」
　もちろん、それはウソでした。しかし、心の中で私自身が望んでいたというのは事実です。
　そして、言葉には出さなくても、いつの間にか、こうなることを遠藤氏に頼んでいた気もしたのです。
　少なくとも、私には止めるチャンスがいくらでもありました。
　そして、最後まで、いえ、最後は見届けられませんでしたが、少なくとも遠藤氏を受け入れて、信じられないほど淫らな反応をする妻を見守っていたのです。
　言葉に出さない私の信号を、遠藤氏が見事に受け止めてくれた結果と言っても良いのです。
　だとしたら、これは、私が頼んだと言っても、まったくのウソではないはずでした。
「だから、安心して。遠藤さんも、これが夫婦のためになるって言っただろ？」
　まったくのあてずっぽうでしたが、必ず言ったはずだと確信できます。
　そして、それは、妻が、コクリと頷くことで証明されました。
　妻は明らかにホッとしたような表情になってから、それでも、少しだけ不安を残して尋ねます。　
「ああ、ホント？ホントにしゃべったら、許してくれるの？怒らない？」
「もちろん」
「嫌いになったりしない？」
　この瞬間も美肉をかき回され、感じているはずの妻は、いやらしく発情したメスの表情でした。
　そのくせ、その瞳は、どこにも曇りのない澄み切った少女のような光を持っています。
　まるで初恋の少女が恋人に尋ねる表情で、私に嫌われないかとうかがう表情は、なぜだか、私の心に、ファンファーレ入りの歓喜をもたらしました。
　遠藤氏は、私の妻の全てを洗いざらいひっくり返して、妻の全てを支配したのだと、なぜか思っていました。
　しかし、妻の心の全ては、やはり私のものだったのです。
　その瞬間、今まで、考えてもみたことがなかったほど、妻のことが愛おしく感じられました。
　妻と出会って以来、二人が愛し合い、結婚し、これまで作ってきた夫婦の関係。
　この表情だけで、その全てを乗り越え、深く心が通じた気がしたのです。
　今なら、きっと、遠藤氏が妻の尻を抱えている横でも、優子さんのナカで逞しくなってみせる。そんな場違いな思いが浮かんだのが不思議でした。
　しかし、今は、目の前の妻です。
　ただ、さっきまで力みかえって「妻に、昨日以上の快感を」と思いこんでいたのが、なんだか、そう、こだわらなくても良いような気がしてきたのです。
「許すも何もない。僕が望んだことだって言ったろ？でも、遠藤さんに、心を占領されるのは望んでない」
「心なんて。あぁ、何度も、心の中で謝ってたのよ、ごめんなさいって」
「でも、たっぷりと続けてしまった」
「ああ、ごめんなさい、だって、身体がオカシクなっちゃって。なんだか、自分が自分でなくなっちゃってたの」
「オカシクなっちゃった？」
「ああ、だって、じらされて。あなた助けて犯されちゃう、って何度も心の中で思ったのにぃ、ああう」
「あれ、じらされてたんなら、犯される、じゃなくて、早く、じゃないの？」
「いじわるぅ、だって、あんな風にされたら、もう、あなたのこと、思い出して一生懸命我慢したのよ。でもぉ」
「我慢できないほど良かった」
「なんだか、お腹の中が焼けるような、それでいて、ねじれちゃうようなそんな感じで、あそこが」
「あそこ？」
「もう、エッチ、今、あなたがしてるトコ、ここが、熱くなって、苦しくなって、ああ！」
　妻がなにかを振り払うように首を振ります。まるで、あのときのじらされた感触を頭の中から追い出しているようでした。
「もうだめぇ、あんな風にじられたら。あぁ、もう、最後には、入れてもらうことしか考えられなくなっちゃったの、ごめんなさい、エッチな奥さんで、あう、でもぉ」
　妻の腰が、大きくしゃくり上げてきます。
「いいんだよ、淫らな奥さんになって欲しかったんだからね」
「ああ、ごめんなさい、あうぅ、あう！ね、あなた、もう少し」　
「もう少し？」
「ああん、もう！いじわる、いいわよ、それなら淫らになっちゃうから」
　まちきれないとでも言うように、腰が大きくうごめきます。
「お、いいねぇ、で、淫らになるとどうなるの？教室の人たちの旦那さん全員としちゃう？」
　もちろん、そんなことは、奥さん達が許さないでしょうが、現実の妻の身近にいる男性を浮かべさせるには、そのくらいしかありません。
　遠藤氏にもう一度抱かれるかとは、なぜか言えませんでした。
　あるいは「現実」的過ぎるのかもしれません。
「もう、いじわる。そんなことできるわけないもの。でもぉ」
　私の身体をたぐるように引き寄せます。
　正常位のまま、妻が両手を私の首に巻き付きました。
「ん？」
「おねだりくらいはしちゃうんだからぁ、ね、あなた、動いて。奥まで。オ○○コの奥までぇ、ちょうだい」
　耳元で囁くと、妻は大きく腰を遣いました。
「あう！」
「さ、話すんだよ、昨日のこと、このまま、ゆっくりと動くからね」
　コクリと頷いた妻の両手は、私のことを離すまいとするかのように背中をまさぐるように撫で続けます。　
「あのね、最初は、ホントにモデルだけのつもりだったんだけど…」

　妻が、昨夜のことを話し終わるまでに、三度の激しいオーガズムを迎えていました。
　淫らになると妻が宣言したとおり、妻の話は、自分がどれほど感じたのか、私が思っても見ないほど率直でした。
　遠藤氏がどのように動き、どれほど感じたのか、妻自身の言葉で語られると、私の耐える力はこれ以上ないほどもろいものになってしまいます。
　つまりは、二度目のオーガズムの時に、私も思わぬ暴発をしてしまったのです。
　しかし、それでも、妻をまさぐる手は止められませんでした。
　妻の話が続く限り、私も妻を感じさせ、嬌声を引き出していないとオカシクなりそうだったのです。
　そして、私の指使いに、しきりに腰をうねうねと動かしながら話し続ける妻を見ていると、瞬く間に私は回復してしまったのです。
　遠藤氏のことが笑えぬほどの、あきれるような回復力でした。
　なんだか、このまま、妻の話を聞いていると、妻の中に何度でも入れるような不思議な気分になったのです。
　妻が他人に感じさせられて、それを妻自身から聞き出すのは、まさに、媚薬以上の媚薬だったのです。
「どうしたの、あなたったら」
　そうクスリと笑う余裕を取り戻した妻の話が、緑川さんに見つめられながら逝った場面になると、妻の話は最高潮に達していました。
「あぁ、だって、急に来るんだもん。あう、恥ずかしかったぁ、あう、あな、あなた、また、あう、い、いっちゃう！あう！」
　妻の美肉はヒクヒクと絞り上げる動作をしながら、何度もケイレンします。
　何度目のオーガズムか、もはやわからなくなっていましたが、もはや、逝った後も、元に戻ると言うより、もっと、いやらしい身体になっていくようでした。
　ハアハアと息を荒くしながら、私にすがりついてきます。
「あれが、一番恥ずかしかったぁ。同性の目って、危険よぉ」
　何が危険なのかは、分かりませんでしたが、他人に見られながら逝った瞬間、それまで遠藤氏にさんざんに逝かされた快感よりも、さらに上の恍惚が訪れたそうです。
「恥ずかしくても、感じたんだろ？」
　一瞬躊躇してから、それでも、コクリと頷きます。
「あぁ、でも、癖になっちゃったら、困るでしょ？あんな風に見られちゃったら、オカシクなっちゃう」
「それもいいかなあ。露出症の妻かあ」
「莫迦ぁ」
　背中に少しだけ爪が食い込みました。
　私は、もっとエッチになってね、といいながら、腰をゆっくりと、大きく遣います。
「あぁ、だって、それ、あぁ、いい！あう、でもね、その後…」
遠藤氏は、紳士でした。
　昨夜私が飛び出した時点で、妻とのセックスは終了したようなのです。
　妻が目覚めた時には、ガウンを着せられいて、優子さんと、あの豪華なリビングで遅くまで語り合ったというより、話を聞かされたそうです。
「ね、あなた、かい、のこと、お聞きになって？」
「かい？ああ、遠藤さんたちの　会　のことかい？」
　黙ってキスをすると、妻の舌が、思いも寄らぬほどの激しさで絡みついてきました。
　言葉に出さなくても妻にとって、これでわかるはずです。
「ね、あなた、もしかして、入りたい？」
「え？」
「正直に言って」
　妻の目は真剣でした。
「えっと、その…　キミは？」
「もう、ずるい、私が聞いてるの」
「いや、君の気持ちが一番大事だから」
「ね…　でもぉ、…怒らない？」
　妻の表情が、相変わらず発情したまま、そのくせひどく気遣わしげに見上げてきます。
　美肉がぴっちりと怒張を締め付けていますが、入り口の辺りが特にヒクヒクと締め付けます。これは、妻が意図的に動かしているのでしょうか。
　分からぬまま、一番奥の、子宮のプルンとした感触を味わいながら、じっととどまります。
「もちろん。何を怒るっていうの」
「あのね、昨日、遠藤さんに教えられて、入ってみたいって、ちょっと思いました」
　恥ずかしそうに横を向きます。そのくせ、妻の横顔には不安があった気がします。
「へぇ〜、そんなに良かったんだ」
　真面目な妻にそう思わせるほどの快感だったのかと、思わずジェラシーが湧きます。
　大きく、二度、三度と腰を使ってしまいました。
「あう、あん、あぅ、ウソ！あなたったら、今、中ですっごいの、もう、あう、ね、話せなくなっちゃうから、あぁ、そっと、ねぇ、お願い、話を聞いて」
「いやあ、大丈夫、話は聞いてるよ、ちょっと、運動したくてね」
「あん、もう！　焼いてくれたのかと思ったのに」
「あぁ、奥さんが、あんまりいやらしくなっちゃったからね」
「そんなことないです、ってばぁ」
「さあ、どうだかね」
「違うのよ、ホントに、違うの。ね、あのね、遠藤さんの、あの、その…　『あれ』って、とっても良かったのは事実よ。でも、また、したいかと言われたら」
「言われたら」
「何よ、そんな不安そうな顔して」
「いやあ、一晩で、遠藤さんの虜になったのかと」
「もう！違うの。私にとって、あんなセックス、二度とごめんってわけじゃないのは事実だけど、なくっても、いっこうに困らないわ。だって」
　妻の腰がグラインドするように動いて、ただでさえ硬くなっている私のモノが、柔らかな妻のヒダに当たります。
「こんなに感じさせてくれるダンナ様もいるし」
　ニコリと笑います。
「でもね、違うの、そうじゃなくって。ほら、なぜか知らないけど、私が気がついてから、遠藤さんは私に指一本触れなかったんだけど」
　それは、私が帰ったせいだとは言えません。曖昧な顔で頷きます。
「ほら、遠藤さん、まだ、足りなかったらしいの」
「？」
「もう！いじわる。はいはい、淫らになった奥さんは、ちゃんと言いますぅ。あのね、遠藤さんは、もっとセックスしたかったらしいの！　もう！いじわる。これでいい？」
「はいはい」
「私も、目が覚めた後、当然、明日、帰るまでにもう一度くらいすることになるのかなあって」
「ふんふん。期待したんだ」
「う〜ん、期待って言うのとは違うけど、どうなっちゃうんだろって。それに、他の人としたばかりで、あなたにどんな顔して会えばいいのかって思ったんだけどさ」
　チュッと首筋にキスをしてから、ごめんなさいと妻が囁きます。
　そっと、乳首に触れながら、先をうながすと、美肉がまた、うねうねと動きます。
　ああと微かな声を漏らしながら、一瞬、しがみついたのは、また、軽い波が妻を通り抜けたのかもしれません。
　別に、この瞬間に、大きく動いたわけでもありませんから、ひょっとして、遠藤氏とのセックスの何かを思い出して、感じたのかもしれません。
　静かに抱きしめたまま、じっと妻が話を再開するのを待ちました。
「でも、ね、確かに、されてる時、ごめんなさいって思う度に、すっごく…」
「すっごく？」
「か、ん、じ、ま、し、た。いやあ、もう！ごめんなさい！」
　いやと叫びながら、私の背中をかきむしるように両手を動かし続け、広げきった両脚は、私を締め付けてきました。
　いやいや、とひとしきり首を振り続けました。
　私が応じるように深い動きをすると、やっと安心したのか、しがみつくようにしながら、話が続きます。
「ごめんね、淫らな奥さんで。でも、ね、話を戻すけど、覚悟している私がいて、まだ、したい男性がいるのよ。それにさ」
　話辛そうな顔の妻です。
「さっきまで、さんざんにセックスしているのに、なんで、もうしないのかって？」
　コクリと頷きます。
「それは、きっと、紀美の体力の限界を配慮したんじゃないの」
　まさか、飛び出していった私に配慮したんだろうとは言えません。
「そうね、そうかも」
「で、いいから、続けて」
「あのね、で、奥さんは、恥ずかしがってる私に、一生懸命、旦那さん以外とのセックスが夫婦の愛情を深くするって話してくれたの。でも、その間、ずっと、ずっとよ」
「ずっと？」
「聞こえるの、緑川さんの声が」
「独り言？」
「んなわけないでしょ！あの時の声よ。隣の部屋で、してるの。ずっと。すごい声だった」
「キミくらい？」
　混ぜっ返したつもりでしたが、妻は真剣に考える顔をします。
「わからない。自分でも、なんだか、自分じゃなくなってた瞬間がけっこうあるのよ」
「ふむふむ、そんなに良かった」
「もう！ごめんなさいって言ってるのに」
「それはいいから、先を」
　一瞬、唇をとんがらせますが、どうやら妻の話したい核心に近いようでした。
「すっごい声が聞こえてきて。でね、旦那さんがすぐ隣の部屋でしてるわけでしょ。で、私、我慢できなくて聞いちゃったの。いいんですかって、あう、ちょっと」
　妻の微乳をまさぐっている手をそっとどけられてしまいます。邪魔のようでした。
「オイタはちょっと待ってね、しゃべれなくなっちゃう。ね、そうしたら、なんて答えたと思う？」
「平気って」
「私もそう言うと思ったの。そしたら。辛いって。特に、こうやって、しているところが見えない時って、いろいろと想像しちゃうから辛いって。よく見たら手が震えてるの」
　妻の顔は真剣そのものです。
「じゃあ、何でって言ったのよ、そしたら、辛い分だけ後の夫婦生活が嬉しいのって。二人がピッタリと行ってない限り、こんなコトできないのよって言うの」
「うらやましい？だって、僕たちだってこんなに」
「でも、男性って、奥さんが貞淑な方がいいでしょ？女もそうだけど、男の人って、奥さんが他の人とセックスしたりするなんて絶対にダメって感じしない？」
「う〜ん」
　曖昧な顔で返事するしかありません。
「聞いてみたの、旦那さんは、優子さんがすることを認めてるんですかって」
　まあ、事実は、鏡のこちらでは、私が失敗していたのですが、それは言えない約束で、妻に見えないように苦笑するしかありません。
「当然でしょって。その代わり、奥さんが他の人とした後は激しいのよって、笑ってらしたわ。なんだか、あそこが腫れちゃうくらいなんですって」
　それは、あれほどの精力を持っている人間が、優子さん一人に精力を傾けたらと思いましたが、ふと考えます。
　あの年になって、一晩中奥さんとセックスできるのは肉体的な欲望だけではないだろうということを。
　私がそう考えたのを妻は正確に見抜きました。
「わかった？私たち、とってもうまくいってる。私、愛してるわ。あなたを」
　ひとしきり、長いキスを交わします、ねっとりと舌がからみついてきます。コクリコクリと流れ落ちる唾液を妻は、おいしそうに飲み下しています。
　ひょっとして、今なら、あのときの遠藤さんのように、中に放った精子を、同じようにうっとりと舐めてくれるのではと思わせる顔でした。
　美肉は、相変わらず、私を締め付け、また、オーガズムが近いことを告げていました。
　ようやく唇が離れた瞬間、戻しそこなった舌が、チロッと見えたのが、妻の快感の強さと、そして、私に全身で包まれていたいという気持ちを物語っていました。
「でも、あの年になって、一晩中、愛し合えるような、そんな関係でいられるのかなって。今はいいの。でも、将来…　ううん、セックスなんてなくてもいい」
　妻の瞳が真っ直ぐに私を見ました。
「ね、ずっと、私のこと愛してくれる？」
「もちろん」
「だって、おばあちゃんになっちゃうのよ」
「そりゃそうだ。おじいちゃんになったら大変だもんね」
「もう！混ぜっ返さないで。でもね」
「うん？」
「だから、遠藤さんがうらやましかったの。会に入ったら、そうなれるのかなあって。でも、無理だと思ってた。あなたが、許すはずないもの」
「なんで？」
「だって、私、他の人とセックスしちゃうのよ。いいの？」
「良くはないけど、その後がいいんだろ？　それに、もうキミは遠藤さんとしてしまったしね」
「ごめ…」
「ごめんなさいは、もうなし」
　ごめんなさいを最後まで言わせません。そうです、ここまできたら、緑川さんが言っていた、究極の夫婦関係というのを目指すしかないのかもしれません。
「紀美」
「はい」
「ここに、他の男のものを受け入れる。ドロドロになるまで。いっぱい、いっぱい、ね」
　大きく腰を使いました。
　途端に目を閉じて、快感に埋没してしまいますが、懸命に再び目を開けました。
「ああ、は、はい。でも、いいの？奥さんが、他の人としちゃうのよ」
「その代わり、とりあえず、僕は優子さんとしてきちゃうよ」
「ま！優子さんですって。もう、その気になるなんて、あ、さては、最初から狙って…　あう、あうう、あん、うそうそ。ああ、そんな急に、あう」
　首を曲げて妻の乳首に吸い付きます。
　唇で転がすだけで、妻は、もはや声にならない嬌声を上げます。
　左手で微乳をもみながら、腰を大きく使いました。
　今までにないほど、妻のそこに浸っていた怒張は、こすれる度に、背中を電気が貫くような鋭い快感を生み出します。
　それは妻も同じ、いえ、私以上のようでした。
「あう、あなた、あうぅ、溶けちゃう、あなたあ、とけ、あう、もう、お願い、イク、いくぅ！！」
「紀美、愛してる！だから、大丈夫、するんだよ、一杯、いっぱいしてもらうんだ、いいね、僕の目の前で。そして、死ぬまで二人で愛し合おう！」
「あう、あなた、あう、あぁ、来る、来ちゃうぅ、お願い、出して！あう！あなた、愛してる！」
　妻は、大きな波を迎えてしまったようです。
　私を乗せたまま、信じられないほどピーンと反り返った妻の中へ、頭の後ろから神経を抜き取られるような快感に炙られるような射精をしていました。
　今晩、何度目かの射精かも思い出せませんが、妻のぴっちりと締まる美肉をあふれかえらせるほどの精液が、いつまでもいつまでも止まりません。
　美肉の奥の子宮口が、ヒクヒクと精液を飲み込むように動いた気がして、はっと見下ろすと、妻がゆっくりと崩れ落ちていったのでした。