第14話　見られて

　アトリエには、なじみ深い名前の人がそろっています。
　遠藤さんに、川島さん、森さん、そして、永田さん。
　緑川さんの姿は見えません。
　そして、妻はといえば、今頃、緊張の面持ちで、廊下にいるはずです。
　身支度はとっくにすませていました。
　もっとも、下着の跡一つ見せぬように、朝から裸のままでしたから、支度といっても、改めてシャワーを浴びるだけのことでした。
　そのシャワーも、朝から、何度浴びていることでしょう。
　妻も緊張していましたが、私自身も、ひょっとしたら、妻以上に緊張していたかもしれませんでした。
　コクリと一つ、出もしない唾を飲み下してから、皆さんを見渡して、厳かな託宣のように口を開きました。
「じゃあ、そろそろ用意は良いですね」
　遠藤さんだけが、にこやかに頷きます。
　他の人たちは、まるでこれから自分が人前で脱ぐみたいに、緊張した面持ちのまま、誰一つ、口を利かず、無言でした。
「じゃあ、山崎さんにお入りいただきましょう」
　遠藤さんと、今日はいない緑川さんには、既にわかってはいることですが、今はまだ、他の方々の前では「山崎さん」が私の妻であることは秘密のままでした。
　ドアを開けると、その陰になるように妻が立っていました。
　泣きそうな顔のまま、まるで捨てられた子犬のような目で私を仰ぎ見ます。
　今なら、まだ、間に合う。
　心の中では、しきりに、止めろと良心が叫んでいましたが、もはや、止めようのないことくらい、私も、そして何よりも妻がわかっていたはずでした。
　開いた扉の内側にむかって、つまりアトリエの方に向かって手を差しのばします。
　その左手の動きに誘われたように、妻が動き出しました。
　催眠にかかっているかのごとく、フラフラとした、そのくせ、迷いの感じられない足取りで歩くのです。
　私の前を通る一瞬だけ、妻と目が合いました。
　唇を動かさぬままに「あなた」と、呼ばれた気がしました。
　ベージュのケープだけを素肌に身にまとっています。
　それを止めているのは、首に巻いたチョーカー。
　ショートカットにしたばかりの妻の、すっきりした首に目立っていました。
　遠藤氏から送られた、その「金のチョーカー」は、ケープ姿の妻に似合っていました。
　ただ、妻にも言っていないことがあります。
　その金色の真ん中にローズレッドのくっきりしたラインが引かれているせいか、ある連想をさせるのです。
　知ってか知らずか、妻は私の目の前をスッと通り過ぎると、少しだけ歩き方がしっかりしたように思えました。
　後ろから見ると薄手のケープの裾は歩く度に翻り、裸足の妻の、白いふくらはぎがチラチラと見え隠れします。
　遠藤さんの横から、皆が囲む前に抜けていきます。
　くるりと身体に巻き付けるように覆っただけですから、その合わせ目は少し身体を動かすと簡単に開くはずでした。
　しかし、半円形に囲むように皆が座る、そのちょうど真ん中、扇の要の位置で立ち止まるまで、腰から上はひらりともしません。
　まるでそれが最後の砦でもあるかのように、内側からしっかりと押さえているのでしょう。そう言えば、ちょうど合わせ目の腰のあたりが微妙にしわが寄っています。
　きっぱりした性格と真面目な性格が表情に出てしまうためでしょうか。
　学生時代にそうだったように、短い髪の妻には、どこからしら、少年の匂いを持った少女のような雰囲気が出ていました。
　その、中性的なイメージを備えた妻の振り向いた顔には、緊張がありありと浮かんでいましたが、その瞳が、ほんの少しだけ潤んでいるように見えます。
　一斉に注がれる皆の食い入るような視線の中で、妻の表情が微妙にゆがみます。
　はたして、それは、泣き出そうとしているのか、それとも、これから始まる羞恥の時間に早くも興奮しているのか、わかりませんでした。
　しかし、もはや、その瞳には迷いの色は消えていました。
　これから、妻は、またモデルを務めるのです。
　決意の表情です。
「じゃあ、皆さんお待たせいたしました。普段、奥様方がどんな絵を、どのように描いているのかを、これからご主人たちにご体験していただきます」
　普段は、スーツ姿であろう遠藤氏の部下たちの背中が一斉に伸びます。
　オンナの裸など珍しくなくても、手を伸ばせば届くところに、ＡＶ女優でも、風俗でもない、素人のオンナがこんな形で脱ぐことなど初めてで、緊張しているのでしょう。
「遠藤さんのたってのお願いということで、お話ししたところ、当教室の生徒である山崎さんが快くお引き受けくださいました」
　遠藤氏が、妻に向かって会釈すると、部下たちが次々とお辞儀をします。
　川島さんは、部下の中で出世頭といわれるだけに、鋭利な刃物のような鋭い目つきを眼鏡の奥で光らせ、硬いお辞儀をします。
　しかし、その眼光には仕事の時には多分見せないはずの男のスケベな欲望をたたえている気がしました。
　森さんは、私よりも、四、五歳は若いはずです。
　身体が大きく、腰掛けたスツールが窮屈そうです。
　大きな身体でちょこんと座った姿に何とも言えない愛嬌があり、誰からも好かれそうな笑顔を持っています。
　そのくせ、髪の毛が既に薄くなっていることとあいまって、切れ者というより、ひどく精力的な熱血漢という印象でした。
　その代わり、嫌みのない好色そうな目で、お辞儀をしながらも、ケープの下の妻の裸体を想像しているようです。
　永田さんは、真面目そうでした。
　私よりも十歳近く若い彼は、縁なしの眼鏡を一度、神経質そうにクイッと持ち上げてから、丁寧にお辞儀を一つします。
　少し、ぎくしゃくした動きに見えたのは、緊張しているせいでしょうか。
　確かに、神経の細そうな表情ですから、慣れぬ環境で仕事を進めると大変なストレスになるのでしょう。
　あぁ、しかし、この人に本来は顔向けできないのです。　
　清美さんとの不思議な愛人関係が作れたのも、永田さんが仕事でうまくいかなかったおかげといっても良いのです。
　ですから、この方には、いくらお詫びしても済まないことなのです。
　しかし、いけないことに、この、私よりも遙かに年下のこの青年に、妻を寝取ったかすかな優越感を感じてしまいそうな、そんな自分が嫌になります。
　その自己嫌悪を振り払うように、私の口は意外な冷静さで妻をうながしていました。
「じゃあ、山崎さん、準備をしてください」
「ハイ」
　そう返事をした妻に一斉に熱い視線が注がれます。
　その視線は、奥様方の視線よりも遠慮がちでしたが、奥様方にはない、いやらしさをたっぷりとはらんだものでした。
　ケープの合わせ目から、にゅうっと手が出ました。
　微かにはだけたケープの間から、白い腰が見え隠れします。
　チョーカーに挟まれたケープの端を外して、少しだけ前を見ました。
　オトコ達の視線に耐えられなかったのでしょう。
　足下に視線を落として、一つ、大きな呼吸をすると、一気にケープを取り去ります。
　あっという間のことでした。
　妻は、見ず知らずのオトコ達の前で、まったく無防備なヌードを晒したのです。
「ほぉ〜」
　誰ともない、ため息のような声が、一斉に漏れました。
　遠藤氏が、立ち上がってそのケープを素早く受け取ります。
　立ちつくす妻に目を奪われていたのは、何も遠藤氏の部下達だけではなく、私も、一時、チョーカー一つではかなげに立ちつくす妻のヌードに見とれてしまったのです。
　目の端で、遠藤氏が動きました。
　それは、軽くたたんだケープを物慣れた手つきで、そばの棚に置いただけのことですが、その前に、そのケープの匂いを嗅ぐ動作をしたのを見逃しません。
　遠藤氏に抱かれたことがあるとはいえ、改めてこうやって妻の匂いを嗅がれてしまうと、ドキリとせずにはいられませんでした。
「さ、じゃあ、早速始めましょう。はじめは座りポーズから、十五分ごとにポーズを変えます。途中休憩を挟んで、後半のポーズは、相談します」
　ろくに私の話は聞いていません。
　それぞれ、性格は違うのでしょうが、三人の目は、惚けたような表情のまま妻にだけ注がれ続けていました。
「さ、山崎さん、こちらのイスに」
　妻の恥ずかしい時間は、始まったばかりでした。
　
　金でできたチョーカーにはローズレッドのラインがくっきりと引かれています。
　白い妻の裸身には、金色がとけ込みます。
　そのせいか、あたかも、赤い首輪をした雌犬、いえ、雌奴隷のように見えてしまうのは、 私のＭ性のなせる故なのでしょうか。

　しかし「赤い首輪」一つで、スツールにスッと背中を伸ばして座る妻のヌードは、見事な美しさでした。
　妻のその姿を見つめながら、遠藤氏がこの後どうするのか、それだけを、おそれ半分、不安半分、そして、ほんのわずかばかりの期待をしている私がいました。
　今回のことは、この間のことがあって、一週間も経たないうちに遠藤氏が持ちかけてきた話です。
「奥さんをモデルにして、部下達に絵を教えてやってくれませんか？」
　おそらくは、何かしら隠微な目的があるに決まっていました。
「奥様方だけの秘密というのも、いつかはばれるものだからね、こうなったら部下にきちんとしたことを教えておかないと」
　しきりに、部下の掌握のためと言い訳しながらも、その深い目は、別の何かを語りかけようとしていたのです。
　いつものことながら遠藤氏に頼まれて断れた試しはありません。
　ウンと言ってから、妻をどうやって説得しようかと途方に暮れた私に、話は意外なほど簡単に進んだのです。
　妻を説得するのは実に簡単でした。
　実のところ、説得すらしていません。
　ただ、遠藤氏の言うとおりの口実を妻に伝えると、一瞬だけ黙り込んだ後、黙って頷いたのです。
「ほ、ほんとうにいいの？」
「あなたが、しろって言うなら…」
　妻は、細かいことを一切聞こうとはしませんでした。
　ただ、その夜のセックスが「あの日」以来の異様な昂ぶりを見せたのが、実は妻の心の中だったのかもしれません。
　美肉の奥深くに私の放ったものを受け入れながら、何度も「愛してる」と叫んだ妻の心に何があったのか。
　ただ、一つだけ、変化がありました。
　妻がピルを飲み始めたことでした。
　なぜと私は聞きません。
　妻も、飲み始めたとは言いませんでした。
　半日ほど妻が出かけたと思った翌日から、毎朝、飲み始めた薬の袋を、隠しもしなかっただけです。
　いえ、むしろ、あの片付け好きの妻が無造作にリビングに薬の袋を出していたのですから、私に見せようとしていたのかもしれません。
　しかし、私たちのどちらからも、その話を正面から言い出せないままでした。
　セックスも、あの異様なまでに、乱れた妻と、それ以来していません。
　もちろん、週末のことを考えただけで、狂おしいほどに猛ってしまう私は、何もなしではいられません。
　妻にのしかかる代わりに、妻の口に放出させてもらっていました。
　その時、妻の微乳にも触ります。
　しかし、敏感な胸をまさぐられ、乳首を転がされて感じ始めた妻が哀願しても、それ以上はけっして触りませんでした。
　ですから、今週の妻は、男に触れ、エキスを何度も飲み下しながらも、オンナの満足が与えられない『飢えた』身体なのです。
　その飢えたオンナが、芸術とは無縁な、スケベな男の視線を浴びながら果たしてどうなってしまうのか。
　妻には貞淑なままでいて欲しいという気持ちで一杯です。男の視線を浴びてどうにかなってしまうような淫乱さを出して欲しくなど無いのです。
　しかし、真面目な妻が、私以外の視線でオカシクなってしまうところを見たら、きっとたまらなくなってしまうに違いありませんでした。
　今、オトコ達の熱い視線の中で、妻の視線は、まっすぐに前を向いていましたが、何も見ていない気がしました。
　背筋を伸ばして、膝を十センチだけ広げた付け根には、こんもりと秘毛が盛り上がっています。もちろん、その下は暗く翳って何も見えません。
　指先まで揃えた両手は、太もももの上に揃えられています。
　まだピンクの名残を残す妻の乳首は、こればかりは早くも、秘めた興奮を示しているかのようにピンと尖っていました。
　うっすらと潤んだ瞳には、ますます、微妙な表情が含まれてきたように感じます。

　私自身がびっくりするほど、時の進み方は早かったのです。
　気がつけば、最初の時間が過ぎていました。
　ふと見渡すと、遠藤氏の部下達の絵は、ろくに完成していません。
　手を動かすよりも、見とれることに一生懸命なように見えました。
　しかし、時間が来れば、次のポーズを決めなければなりません。
「最初のポーズを終わります」
　妻の肩から力が抜けました。
　さすがにホッとしたのでしょう。
　しかし、これで終わったわけではないと知っている妻は、次の指示を静かにそのままの格好で待っていたのです。
　妻は目を合わせようとしませんでした。
　座ったままの妻を、次はどんなポーズにしようかと、始めは考えたのです。
　ただ、やや速い呼吸をするその首には、まるで雌犬の首輪のようなチョーカーだけが、ひどく目立つように感じました。
　その連想だったのかもしれません。
　あるいは、雌奴隷を連想したせいかもしれません。
　何か言いようのない、どす黒いものが私の中に湧き出して、それが次のポーズを思い切ったものにさせたのかもしれません。
　気がついた時には口が動いていたのです。
「じゃあ、イスだけだと、描けるポーズが決まっちゃうものね。こっちにしましょうか」
　出したのは、いつも清美さんとの交渉を持つ、あの例の台でした。
　何も言わずとも、永田さんがサッと立ち上がって私を手伝ってくれます。
　一緒に台を用意しながら、永田さんの顔が見られません。
『あなたの奥さんは、この台の上でいっつも、よがっているのです』
　知られてはならないそんなことを、心の中で叫んでいる私がいました。
　しかし、清美さんのことは棚に上げておいて、妻のことが心配になります。
　そのくせ、これから、妻に羞恥を強いるのも私自身なのです。
　気がついたら、さりげなく、正面から妻を台に登らせていました。

　腰ほどの高さの台に上るために、私に支えられながら妻が片足を持ち上げた瞬間、川島さんが、そっと、背中を丸めて、妻の股間をのぞき込んだのが見えます。
　森さんは、もっと露骨でした。
　なるべく真後ろからのぞき込めるように、上半身を右に倒しこむように伸ばして、見上げるような姿勢を取っています。
　一瞬のことでしたが、確かに、グッと持ち上げた脚の付け根は、向こうから見れば、コーラルピンクの女唇が見えたはずです。
　その証拠に、森さんと川島さんが、目を見合わせて、ニヤリとしたのです。
　それは、スケベ心を共有した者同士の満足感の笑みだったのでしょう。
　対照的に、永田さんは、チラリと見てしまった自分を恥じるかのように、下を向いたまま、しきりに、床に視線を迷わせていました。
「なかなか、皆さんお上手ですからね、横になっただけだとつまらないでしょ」
　台の上で膝立ちになりながら、妻がこちらに向き直りました。
　ごく自然な羞恥の表れでしょう。横座りの姿勢になって、胸を覆い隠します。
「少し変わったポーズに挑戦して良いですか？」
　妻は、ビクッとなった後、相変わらず胸を片手で隠したままでしたが、確かにコクリと頷いたのです。
　その怯えた表情の中に、さっきよりも、媚態が混ざっていた気がしました。
　始めるまでは考えてもいなかったポーズを取らせてしまいたくなったのです。
「山崎さん、猫のポーズをご存じですか」
　ビックリしたような顔をして、反射的に首を横に振ります。もちろん、妻は、ヨガでもよく使うこのポーズを知らないわけはありません。
　しかし、そんなポーズを取れば、どうなるか反射的に思い浮かべ、知らないと言うより、拒否のつもりで首を振ったのです。
　その証拠に、身体を隠すように、さらに身を縮こまらせてしまいました。
　まるで、これから降りかかる災難から身を守ろうとしているような姿でした。
「ああ、ご存じないんですね、でも、簡単ですよ。短い時間だし、ちょっとやってみましょうか」
　猫のポーズ。
　グラビアアイドルの写真集に一枚は混じる、あのポーズです。
　扇情的にやや脚を広げて膝をつけ、そのまま後ろに尻を突き出し、背中をうんと反り返らせて、肘をついて頭を支える。

　そんなポーズをヌードで、しかも、素人の前でさせられる美術モデルさんなど、いやしません。
　それは、もはやポーズでも何でもなく、女性の恥ずかしい場所をオトコ達にさらけ出せという命令と同じでした。
「え〜っと、このポーズの場合、一番難しいのは後ろからなんですよ、どうします？皆さん挑戦なさいますか？」
　こんな時でも、サラリーマンは上司を気にします。
　みんなが一斉に遠藤氏の顔色を窺うのです。
「いつも言っているだろう。困難に挑戦してこそ、成功が嬉しいんだ。ここは、全員で挑戦といこうじゃないか」
　ちょうど、今しも、尻を突き出している方向に遠藤氏が移動してくると、全員があっという間に、塊のようになって、スツールごと移動します。
「じゃ、こっちにお尻を向けますよ。良いですね、山崎さん。みなさん、困難に挑戦する気持ちがあるみたいですから、やりがいありますよね」
　私の顔をチラリと見た後、妻の視線は、自分の尻の方向に固まった男達に向かい、身体が固まってしまいます。
　妻は、このオトコ達の前で、尻を、いえ、恥ずかしい秘唇をこれからさらけ出すのです。
　容赦なく、私が指示を出すと、再び妻の身体が動き始めます。
「さ、両手は奥側についてくださいね。お尻はこっち側ですよ。膝で腰を持ち上げて」
　私の指示は、頭を向こうに置いて、尻をオトコ達に向けて突き出せというものでした。
　つまりは、特出しストリップをさせられているのと同じなのです。
　困惑した、というより、完全に哀願の表情で、もう一度だけ私の目を覗き込んだ妻は、あきらめたように視線を下げると、ゆっくりと身体を反転させたのです。
　後ろを向いた妻の上半身がゆっくりと向こう側に倒れ込んでいきました。
　白く、クリンと丸い尻が、ノロノロと持ち上げられていきます。
　オトコ達の視線が間違いなく、その真ん中にある秘唇に集まっていました。
「さ、もう少し、膝を広げてください。ほら、そのままだと、腰が高すぎますからね、バランスを取って、そう、もっと、広げて。良いですよ、もうちょっとお尻、後ろへ」
　時折、動きが止まっては、その度に、私に余計に恥ずかしいカタチを強制されて、妻のポーズが決まっていきます。
　その時、ため息とも歓声とも付かないわずかな声が誰ともなく上がりました。
　私と遠藤氏だけが見たことのある妻の秘唇が、今や、遠藤氏の部下達のスケベな視線にさらけ出されていました。
　いえ、単に秘所を見られただけなら、奥様方にも見られていますし、健康診断を受ければ、医者にだって診られているはずです。
　今オトコ達に見られているのは、恥ずかしい姿をさらしてしまった秘唇なのです。
　それは、膝を広げて、後ろに突き出された尻の狭間に広がった妻の秘唇が、たっぷりと秘蜜を湛えて、ヌラヌラと光っている姿でした。
　何とも言えない、言葉にならない言葉が男同士で交わされます。
　さりげなく股間を直すのは勃起したものがズボンの中で苦しくないようにするためでしょう。
「さあ、じゃあ、今から、始めますからね。準備は良いですか、山崎さん」
　ヒクリと肩を震わせた後、妻は確かにコクリと頷きます。
　その時不意に遠藤氏が、酷くのんびりした口調で話しかけてきました。
「先生、ただぁ、このままで良いんですかねえ」
「え？」
「いや、あのぉ、モデルさんの状態が、ねぇ」
「状態って…」
「あの、誠に申し上げにくいのですが、私たちは素人ですから、あそこが、ほら、あんなに濡れちゃっていると、ちょっと描きにくいかなあって」
　濡れちゃって、という言葉を聞いた瞬間、確かに妻の尻はヒクヒクと痙攣したように動きます。
「あの、先生、もう描き始めちゃったので、今モデルさんに動かれると困るから、もし良かったら、私がお拭きしましょうか？」
　まだ、誰も、クロッキーペンを動かしてはいませんでした。
　しかし、その期待に満ちた部下の目は、一斉に遠藤氏に注がれ、ウンウンという賞賛と承認の肯きが続きます。
「しかし…」
　あまりの申し出に、困惑する私の生返事に重ねるように遠藤氏の饒舌が始まります。
「できたら、きちんとして、その方が、今回モデルをしてくださってる山崎さんにも良いと思うんですよ。それに、こんな濡れてる秘唇を描かれるのはいやですよねえ」
　妻の尻が、またわずかにヒクリと動きます。
「やっぱり、どうせ拭いてもらうなら、先生の方が良いかな？若い、永田君も良いけど。でも、どうせなら、言い出した私が拭くのも。年の功ってものありますしね」
「あ、あの…」
「そうだ、山崎さんに決めてもらいましょうか。そう、それなら良いですよね。先生。山崎さん、誰を指名しますか？山崎さんの言うとおりにしますけど」
　あまりの展開に妻はとっさに答えることができませんでした。
「じゃあ、こうしましょう。みんな公平に、年の順。私がまず拭きますね？それとも、普段、会っている先生に拭いて欲しいですか？」
　ヒクヒクと尻をわずかに震わせながら、妻は、答えられません。
「じゃ、私で良いですか？先生にします？」
　さすがに、妻にそれを答えさせるのは可哀想になって、私がやりましょうと口を挟もうとした瞬間でした。
　妻が、わずかにこちらに頭を傾がせて、ウンと一つ、わずかに肯いたのです、
「ほう、奥さんは、どうやら私をご指名ですね。そうですよね、奥さん？」
　もう一度、妻は、今度ははっきりと肯きます。
『なんで…』
　妻はしどどに濡れた秘唇を私に拭かれるのではなく、遠藤氏に拭かれることを確かに選んだのです。
　その事実に、嫉妬と怒り、そして、何よりも大きな興奮に、いつの間にか包み込まれていました。
「じゃ、僭越ながら、最初は、私が担当しましょう。さ、みんなは、絵を続けて」
　もちろん、だれも、画板など見ようともしません。
　ススッと妻の尻に近づいていく遠藤氏の動きを、固唾を呑んで見守るだけです。
「う〜ん、さっきから思っていましたけど、きれいなお尻ですよねえ。なあ、そう思うだろ」
　後半は部下に向けた言葉で、部下達は「上司の言葉への忠実さ」以上の熱心さで頷きました。
「じゃあ、拭かせていただきますね」
　いつの間にか取りだしたハンカチを左手に持って、妻の秘唇を遠藤氏が覗き込みます。
　遠藤氏の息が秘唇に届きそうなほど、顔が近づいていました。
「あ…　やめ…はううう！」
　ハンカチ越しの遠藤氏の指が届いた瞬間、妻は懸命に声を抑えたのです。
　しかし、その押さえたはずの声は、それでも、いやらしいオンナの噴き上げた淫声として、静かなアトリエ中に響いてしまいました。
「あんな声」
「あぁ、あれ、すっごいよなぁ」
「すっげぇ、あんな声聞いたら、たまんねぇよ」
　ひそひそ声での会話とも言えないオトコ達の会話は、果たして妻に聞こえているでしょうか。
　聞こえていたとしても、ハンカチ越しに、大勢の目の前で、しどどに濡れそぼった秘唇を嬲られているようなものですから、理解できていたかどうか。
　今や、じっくりと続く遠藤氏の動作を、片手を噛むような仕草で、懸命にこらえていました。
　しかし、声をこらえることはできても、次第次第に、指を恋い慕うように後ろに突き出されてしまう尻に、気づくことはできなかったようでした。
「おい、すごいな、これなら、今すぐ、後ろからやっちゃえそうだよ」
　森さんが、その巨躯に合わない囁き声を出そうとして失敗したその言葉は、意外に大きく聞こえました。
　妻にも、聞こえたはずでした。
　それが引き金になったのかもしれません。
　それとも、偶然に、その時ほんのわずかばかり、遠藤氏の指が奥まで届いたのかもしれません。
　とにかくその瞬間でした。
　妻の背中が、ヒクヒクと震えてしまったのです。
『あ、紀美が逝って…』
　妻が、見ず知らずのオトコ達に秘唇をさらけ出す姿のままで、オーガズムに登りつめた瞬間でした。　
　フルフルと尻を震わした後で、妻の腰がゆっくりと崩れていきました。