第15話　ルビコン

「大丈夫ですよ。ちょっと刺激が強かったようですね。何しろ、素人の方ですから。慣れないと、こんなことはよくあるんです。ちょっと休憩しましょうね」
　平静を装ったつもりでしたが、私の言葉は震えていたかもしれません。
『ばれてしまうぞ、落ち着け』
　懸命に自分に言い聞かせましたが声がうわずってしまいます。
　しかし、妻のすぐ脇に立って見回すと、誰も私を気にするものなどいません。
　部下達は、全員が顔を紅潮させています。
　それはそうでしょう。
　全員が妻帯している以上、女が逝ってしまうことなど、見たことがあるに決まっています。
　あの姿を見れば、ここで初めて出会った「ごく普通」の人妻が、自分たちの目の前で逝ってしまったのは明快でした。
　部下達は、今日のモデルをするのが、自分の妻と同じ絵画教室に通っている「生徒」であると思っています。
　つきあいで仕方なくと聞かされている自分たちの妻と違い、今日のモデルの「山崎さん」は、自らの意志で絵を学びに来ている人妻なのです。
　ごくごく一般的な人にとって、絵を学ぶというのはどこか、文化的な、今風に言うとハイソな幻想を抱きがちなものです。
　ですから、今起こった出来事。
　つまり、絵を習っているような、どこかしら真面目そうな奥さんが上司の指戯で逝ってしまったシーンに、興奮してしまうのはよくわかります。
　一方で、その目に、どこかしら別の光が宿っている気がしました。単に、普通の人妻が目の前で逝ってしまったエロスをみる目というのと、違っている気がするのです。
　そうです。
　今日は「たまたま」自分の知らない奥さんだったけれど、それが、他の人だったらどうだったんだろう。
　あるいは「これが自分の妻だった」と想像しているような気がしました。
　遠藤氏は、部下達向けて、さも、してやったりという表情をして見せたあと、私に視線を合わせてきます。
　そこには、何とも言えない物言いが込められている気がしました。
『本当に、私たち仲間に入るのか？入ったら、こんなものではすまないよ』
　そう言われているような気がしたのです。
　遠藤氏の目から視線を落として、一歩、妻に近づきます。
　その気配に気がついたのか、わずかに顔を上げて目を向けました。
　尻を突き上げる姿勢は崩していましたが、その視線は、意外にしっかりしています。
　あるいは、オーガズムそのものは、まだ本格的ではなく、人前で逝ってしまったというショックが、妻の身体から力を抜き去ってしまったのかもしれません。
　ドキリとしました。
　こちらを向いた妻の目から、ツッと涙がこぼれたのです。
　ひょっとして、妻にとんでもないことを強いてしまったのじゃないか、胸の奥が締め付けられる、そのくせ何か甘さを伴った痛みがありました。
「嫌なら、やめる？」
　妻の涙をそっと、指で拭き取りながら、こっそりと尋ねます。
　もう、ここまでしたのだから、やめてもいいだろう、本気でそう思っていました。
　妻がオトコの視線に感じるだけならともかく、今のように、見つめられたまま、嬲られるように辱められる姿に胸が痛んだのは事実なのです。
　このまま続けば、妻にとって、これ以上に恥ずかしい行為が次々と行われるのは目に見えています。
　私の趣味のために妻にこれ以上の無理をさせるのは、可哀想だと思ったのです。
　しかし、辞めるかと問うと、意外にも、妻の首は横に振られました。
「え？」
「このまま」
　そして、私にだけ見える唇の動きで、ア、イ、シ、テ、ルと言ってから「見てて」と囁いたのです。
「良いの？」
　妻は、力がまだ入らない身体で、首だけをグッと起こすと「続けます」と今度ははっきりと宣言したのです。
その声が聞こえたのでしょう。
「やった」
「次は、俺ね、俺」　
「川島さん、俺にもちゃんとまわしてくださいよ」
「任せとけ。問題は、永田にまわせるかだよな」
「そんなひどいッスよ、俺のテクを知らないから」
「ほら、永田も、そんなしゃちほこばってないで。く、相変わらず、クソ真面目だよなあ」
「ちゃんとおまえまで回してやるからな」
　妻の気持ちを無視して、森さんと川島さんが、男のスケベ心を全開にして囁き合っていました。
　その声が、妻に聞こえたのかどうかはわかりません。
　聞こえたはずですが、妻は一切反応しませんでした。
　ただ、かすかに唇をかみしめたのは、これ以上恥ずかしい姿を見せまいという決意だったのでしょうか。
　あるいは、ひょっとすると…
　私に見守られながら、自分がどこまで行ってしまうのか、その果てを確かめようと決意をしたのではないかと、今更のように、私は不安になるしかありませんでした。
　同時にそれは、幾ばくかの期待をはらんでいたのも事実でした。
　賽は投げられたのです。
　無邪気に、囁き合うオトコ達の期待を乗せて、私は、再開を宣言するしかありませんでした。

「先生、このあたり、難しいですねえ。腰の線がすっごく色っぽいのに、いやあ、全く恥ずかしいです。絵なんて高校時代以来ですからねぇ」
　森さんが、しきりに腰の線を消しては描き、描いては消しています。
　先ほどのポーズは、やはりまだ無理ですねと言った時の森さんの表情は、わかりやすすぎるほどにショボンとしていましたが、もちろん、口には出しませんでした。
　結局、横を向いて寝そべる姿勢になっています。
　右を上にした姿勢で横になり、立てた左腕で頭を持ち上げ、慎み深く、ごく自然な形で右足をやや、前に落とすと、妻の秘毛が半ば隠れてしまいます。
　右腕は、いささか苦しそうですが後ろに垂らしています。
　こうしないと、妻の小さな胸が腕の陰になってしまうためですが、こうして腕を後ろにすると、なにやら胸だけを誇張するかのようなポーズにも見えました。
　金のチョーカーを見せつけるように、やや、首を後ろに仰け反らした姿勢は、大事なところを隠しつつも、全てを見せたがる、隠微な人妻がそこにいるような気がします。
「そりゃ、そうさ。私だって同じようなものでね」
　遠藤氏は、そう言いながらも、手堅く、意外な器用さでデッサンを進めています。
「しかし、この線を描くのは本当に大変ですよ」
「それだったら、直接確かめさせてもらったらどう？ね？先生。素人には素人なりの工夫をさせてくださいよ」
「直接？」
「ええ、少しだけ、モデルさんの身体の線を確かめさせてもらえればいいと思うんですよ。ね、山崎さん」
「え？あ、は、はい？」
　突然、話を振られて、妻はどぎまぎしたのか、曖昧な返事をしてしまいます。
「ほら、先生、モデルさんもいいと、そうおっしゃってるわけですから、直接、手で、カーブを確かめてもいいですよね」
「しかし、そんなことを言っても…」
「先生、モデルさんも良いと、ねぇ」
　再び、強引に振られると、妻は一瞬だけ私と目を合わせます。
　その時に私の目が、妻にはどう見えたのでしょうか。
　妻は、何かを尋ねたそうな表情をした後で、静かに目を伏せたのです。
「良いですよね、確かめさせてもらっても。ね、山崎さん」
　静かな、それでいて、強い言葉で念を押されると、妻は黙って頷いてしまったのです。
　私は痺れたように身体が動かなくなってしまいます。
「じゃ、先生、そういうことで、確かめても？」
「…ま、あの、モデルさんが、良いというのなら、でも、少しだけですよ。他の人もデッサン中ですからね」
「じゃあ、交代で確かめればお相子ということですよ。そうだよなあ。こりゃいい。みんなが、これでちゃんと描ける。そうだな、君たち」
　言わずもがなのことを口走ると、遠藤氏は、言葉尻をとらえて部下達に語りかけます。
　もちろん、部下達に反対もあるはずもありません。
　私とのやりとりを固唾をのんで聞いていたであろう森さんも、満面の笑みを浮かべます。
　笑みの中には、芸術的な喜びのかけらも見られず、望外の好機を得たオトコとしてのいやらしさがたっぷりと浮かんでいました。
「はいはい、ぜひ、お願いします」
　森さんに一瞬遅れて、とまどったような声で川島さんが声をあげます。
　永田さんはお願いしますとだけ小さく返事をしたのです。
「じゃ、先生、よろしいですか？」
　私には、もはや黙ってうなずくしかありませんでした。
「よし、森君、さっそく、お願いしなさい」
「は、ハイ、じゃ、お願いします」
　既に腰を浮かせていた森さんが、大きな背中を小さく丸めて妻に近づいていきました。
「じゃあ、よろしくお願います」
「あ、は、はい」
　巨体を前にして、妻の身体がひどくちいちゃく見えました。
　その大きな体が妻の目の前でかがみ込んだのです。
　そっと、その厚い手が、妻の腰に差しのばされます。
「ヒッ」
　わずかに、その瞬間、妻のあごが下がった気がしました。
　意外な器用さで、そっと、そっと、妻の腰にぶ厚い手が這い回っています。
　それは、ラインを確かめると言うよりは完全にオトコの触り方でした。
　感触を楽しみつつ、オンナの反応を引き出そうといういやらしさに満ちあふれた「確かめ」です。
　両手で腰を挟むように、静かに、下から上に、下から上へと、森さんの手が、撫で上げていました。
　妻の表情を見ると、最初は、少し怖そうな表情でしたが、何度も何度も、ぶ厚い手が撫で上げているうちに、微妙な変化をしたのです。
　キッと結んでいたはずの唇が、いつの間にかわずかに開いていました。
　同時に、己を見つめようとぱっちりと見開かれていたはずの眼は、森さんの手が動き回る度に、意志に逆らうように、閉じよう、閉じようとしていました。
　もはや、これは、紛うことなく、オトコに愛撫を受けているときの表情でした。

　私の位置からはよく見えませんでしたが、そのぶっとい指先は、妻の尻のくぼみに意外な器用さで、消えては、そっと撫で上げてきます。
『あ、あの位置だと…』
　妻の頭側から見ていたので気づくのが遅れたのです。
　ああやって大きな体で妻にかがみ込むと、右足を前に出して、身体をやや曲げている尻を後ろから、もろにのぞき込む形になります。
　つまり、森さんだけには、今、この瞬間も、妻の後孔も見えているでしょうし、飾り下を丹念に処理してある妻の秘唇も十分に見えているはずです。
　そこにめがけて、指先が潜りこんでは、尻の丸みに沿って、前に撫であげ、妻の反応を確かめるようにしてまた指を送り込む。
　妻が一切抗議しないのを良いことに、その右手は、脇腹から撫で上げ、気がつけば、腕の付け根の方にまで近づいていったのです。
　左手の先は、次第次第に、谷間に消えている時間が長くなっている気がしました。
「あぁ！」
「おっと、失礼」
　妻のなまめかしい声が漏れます。
　森さんの紳士的な言葉とは裏腹に、妻の身体から滑って妻の小さな胸の先端をかすめたのは、明らかにわざとでした。
　しかし、妻は、目を閉じたまま、いえ、わずかな声を出してしまった瞬間に動いた身体を恥じらうような様子で、身体を硬くします。
　その姿には一切の抗議も、嫌がるそぶりもありませんでした。
　さんざんに、身体を撫で回されれば、それも、大きな体に似合わない巧みさを持った太い指でさんざんに撫で回された妻は、感じてしまっても当然です。
　それでも、やはり人前で感じる姿を見せるのは恥ずかしいのでしょう、ただひたすら、身体を縮めて、降りかかる嵐をやり過ごそうとしている小鳥のような仕草でした。
　もし、妻が、これ以上感じたくないと思って身を縮めたのなら、まったく計算違いをしています。
　オトコの与える愛撫に黙って耐えようとする女体ほど、オトコの嗜虐心をあおり立てるものはないのです。
　まさしく、今、目の前の人妻に、オトコの欲望を全開させて、森さんの手が、素早く動き始めました。
　もはや、間違ってというそぶりも消えて、上になっている妻の右脇腹を撫で上げ、二回に一回は、確実に乳首をささっと撫で、そして、腰に戻っていきます。
　懸命に、唇をかみしめる妻も、その瞬間は、息を詰めるように、わずかな声を漏らさずにはいられません。
　その右手に気を取られていた私の耳に、ほんのかすかな「ぴちゃ」というしめった音が聞こえました。
　後ろ手にしていたはずの妻の右手が口に当てられるのが間に合わず、妻の口から、あぁ、とはっきりと湿った声が漏れたのです。
　森さんの手が、妻の後ろ側に深く潜り込んで、何かを探るような動きをしているのが見えました。
『指を入れて…　止めなきゃ』
　とっさに、やめろと叫ぼうとする一瞬のことでした。
「森君。そろそろだな」
　私の限界を見切っていたかのように、遠藤氏は、森さんに声をかけたのです。
「え？あ、えっと、あの、は、はい」
　ビクッとしたように、森さんの動きが一瞬で止まります。
「川島君と交代だよ」
「は、…はい」
「あうぅ」
　渋々と遠藤氏の声に引き下がり際に、森さんは、おそらくは、妻の美肉の感触を楽しんだであろう指を、動かしながら引き抜いたのに違いありません。
　妻の湿った声が、アトリエに響きました。
　もはや、芸術のためどころの話ではないことを、いくら素人とはいえ、おそらく全員が気がついていました。
　だからこそ、川島さんは、ハンカチをポケットから出しながら妻に近づいたのです。
「先生、どうやら、森君のオイタで、モデルさんが…」
「どうか…」
　自分でも思わぬうわずった声が出てしまい『したのか？』という後半を飲み込んでいました。
　もちろん、ビジネスの世界で出世頭ともなれば、場の空気も読めれば、押しも遠藤さん並に強いのでしょう。
「じゃあ、先生、もう一度、モデルさんを拭いて差し上げることにします。いいですよね、山崎さん」
「え、あ、ぇぇ、あ…」
　森さんの手を逃れてホッとしている妻の目が、狼狽して見開かれます。
　私の視線を探す暇もないほどでした。
「さ、山崎さん、ちょっと、休憩でいいでしょ、さ、楽にして。ちゃんと拭きますからね」
　休憩なら、お前が拭く必要もないだろうと心の中では叫んでいましたが、妻は、その川島さんが目の前に立っても、黙って見上げるだけだったのです。
「さ、そうですね、このままでもいいですけど、ちょっと、右足を、こう」
　横になった妻の右足は上側になっています。　
　その右足の膝を折り曲げて、前に垂らしていた右手で抱え込ませます。
　妻の右手は素直に従って、自分の右足をぐっと持ち上げるように抱え込んだのです。
　その目はじっと閉じられて、この後、我が身に起こることを全て受け入れようとしている慈母のような表情に見えます。
　あるいは、抗うこと全てをあきらめた、売り払われてきた雌奴隷の表情だったのかもしれません。
　妻の心境はどうあれ、今、川島さんの前には、右足を抱え込む形にしたため露出してしまった秘所がよく見えていました。　　
「ああ、森君、こんなにしちゃって」
　もちろん、それは、普段は自分の部下である森さんをからかう言葉だったのでしょう。
　しかし、同時にそれは、妻が、森さんの指にどれほど恥ずかしい反応を示してしまったか、皆の前でさらけ出してしまう言葉でした。
「あぁ、いやあ」
　妻は、今まで肘を突いて支えていた頭を、ガタンと離して、左手の肘から先で眼のあたりを隠してしまいます。
　しかし、その仕草は、嫌がっていると言うようにはみえませんでした。
　言葉でなぶられて感じてしまったことを懸命に隠そうとしている、そんな仕草に見えたのです。
　川島さんが、にわかにこちらを振り返ります。
『いいですね』
　その自信にあふれた眼は、尋ねると言うより、これからすることを見ていてくれとも言いたげな光を放っていました。
　気を呑まれると言うのは、このことでしょう。
　これを許せば、妻が、また、これだけのオトコの目の前で恥をかいてしまう、逝かされてしまうのだとわかっていました。
　そう思うと、頭の中が焼き切れそうになっているのにもかかわらず、私は、自分の動きが制御できません。
　ダメだと頭の中が絶叫しながら、それでも、おそらく顔色も変えないで、コクリと、お墨付きを与えるように頷いてしまっていたのです。
「いやあ、山崎さん、お美しいですねえ」
　振り向きざま、川島さんの口と手がフルに動き始めます。
「う〜ん、ここもしっかりとしてるし」
「あぅ」
　どうやら、いきなり秘所を捉えたようでした。
「こうやって感じやすいと、ホント、オトコはうれしいですよぉ」
「あぁ、ダメ」
　ぴちゃぴちゃと湿った音が連続で響きます。
「大丈夫ですよ。しっかりと拭きますからね。もう、たっぷりと拭いちゃいますから、奥さんは、そのまま楽にしてください」
「はぅ、あぁ、は、はい」
　楽にして、という言葉に健気に返事をしようとしている妻の唇は、早くも閉じることができなくなっていました。　
「う〜ん、奥さん、ずいぶん濡れてますね」
「あぅ、いや」
「いやあ、こんなに濡れる奥さんは、ほんと男の夢ですよ。しかもこんなにきれいだし。身体のラインだって」
「ああ！」
　川島さんの、指先まできっちりとそろえた右手が、脇腹にあてられます。
　わずかに、腰がヒクリと動くと、その動きを関知したかのように、そのまま妻の小さなふくらみを撫で上げ、あげくは乳首までも、ササッと撫でまわすのです。
　その巧みないやらしい動きに、妻はもはや我慢できない様子で、絶えず、小さい声を漏らしています。
　その声は早くも淫声と言える響きになっていました。
「いやあ、美しいですねえ。こんなに普段から濡れるんですか」
「あぁ、だめ…」
「ほら、こんなになってる。腰のラインきれいですね、でも、すっごく感じやすいんだ。奥さん、こんなにきれいなのに」
「あぁ、だめぇ」
「胸だって。きれいで、敏感だし。いっつもこんなに感じるのかな。それとも、こんな風に見られちゃうと？」
「あぁ…　いやあ、あう、許して」
　おそらく、川島さんは、妻の被虐の性癖を正確に見抜いていたのでしょう。

　巧みに、あちこちを褒めながらも、なおかつ、羞恥をあおり立てる言葉を重ねます。
　まるで、妻が否応なく感じてしまっていることを、何度も何度も心に刻みつけようとしているようです。
　その度に、妻は、自分がどれほど恥ずかしいことをされているのか思い出してしまうようです。

　左手は、もはや、ハンカチを落として、指が直接秘所を弄りまわしているのでしょう。
　濡れた秘唇と指が、直に肉が触れ合う音が響きます。
　その時でした。
「う〜ん。なんだか暑いなあ」
　遠藤氏の、場違いなほどのんびりした声に、皆が振り向きました。
　妻すら、ハッとしたように遠藤氏を見たのです。もちろん、その目は、メスの顔にふさわしく、しっとりと潤んでいましたが。
「女性の方がエアコンに弱いですからなあ。モデルさんのことを考えると、まあ、仕方がないが、こう暑くちゃ集中できやしない」
　突然、ポロシャツの裾に手をかけました。
「先生、申し訳ないが、無礼講ということで、今は、モデルさんが第一ですからね」
　そう言うが早いが、ブランドもののポロシャツをあっさりと脱ぎ捨てたのです。
　あの、妻の身体に君臨した、痩せた背中が見えます。
　さすがに、年齢から来るシワが隠せませんが、痩せたその身体を目の前にすると、なぜか不思議な迫力があったのも事実です。
　その迫力が、私を一瞬のうちに金縛りにしたのです。
　もちろん、遠藤氏の目の前には、この身体にさんざんに快感を絞り出された妻がいることも、私の中では大きかったということもあります。
　しかし、それ以上に、遠藤氏が脱いだ以上、次に起きることが、明確になりすぎるほどはっきりと、映像のカタチで浮かんでいました。
「よし、君たちも、脱ごう。どうせ、男同士だ、脱いだからと言ってどうということもない。おっと、山崎さんはいち早く脱いでいらっしゃる。これなら話が早いと言うもの」
　冗談めかしてはいても、上司が、目の前でいち早く服を脱ぎ捨てていては、部下達は争って脱ぐしかありません。
　妻の目の前の川島氏も、一瞬照れたように肩をすくめ、森さんは、その大きな身体をゆするように脱ぎ捨てていきます。
　今この瞬間、遠藤氏の部下達にとって、服を脱ぐことなど何ほどの抵抗があるというのでしょう。
「そうそう、いつもみんなで温泉に行くのと同じだ」
　ハッとしたように、永田さんが、動きを止めました。
　いえ、動きといえば、既にトランクス一枚だけになって、それを下ろすに下ろせないという風情でモジモジしていたのです。
「温泉だよ。いつもの通りだ」
　妻は、その濡れた目に、いささか怪訝な光を浮かべます。　
『温泉？　温泉…　ああ、温泉かぁ』
　わかりました。
　このメンバーは、おそらく、何度も温泉に一緒に出かけているのでしょう。
　もちろん、世間をよく知らない妻にとっては、温泉といえば、お風呂だから脱ぐ場所だとでも思っているはずです。
　だから、遠藤氏が、今さらのようにどうして「温泉」と強調するのか、わからないはずでした。
　しかし、男同士が温泉にでかければ、そして、遠藤氏を始めとして、けっして修道士のように潔白とは言えないメンバーである以上、オトコの遊びは必然でしょう。
　つまりは、永田さんに、最後の下着を安心して脱げと言うことだったのでしょう。
　自分のスケベさを隠そうともしない森さんは、既に、身体と垂直になった怒張を見せびらかすようにニヤニヤと立っていました。　
　その永田さんも、遠藤氏の言葉に励まされるように最後の一枚を脱ぎ捨てました。
　川島さんは、とっくに脱ぎ捨てて、再び妻の身体に向かっています。
「あ、あの…」
　さすがに、妻も裸のオトコ四人に囲まれ、いえ、それどころか、すぐ目の前で、やや細身ながらも、しっかりと硬く屹立したオトコを見せつけられているのです。
　戸惑うのも当然でした。
「大丈夫ですよ、奥さん。奥さんだけ恥ずかしい格好をさせるのなんですからね。ほら、オトコって、バカでしょ。奥さんのきれいな身体を見て、ほら、こんなになってる」
　川島さんが、腰を突き出すようにすると、妻は、わずかに顔を引きながらも、その目はしっかりと、突き出されたモノを見つめたままでした。
「あれ？奥さん、なんだか、さっきより」
「あ！だめ！おっしゃらないで！」
「だって、ほら、こんなに」
「あぁ、あうう」
　川島さんの怒張を見つめていた目が、閉じられ、横向きの姿のまま、首だけが大きくのけぞったのです。　
「奥さん。ほら、さっき拭いたはずなのに」
「イヤ、イヤ、イヤ、おっしゃらないで」
　妻の狼狽が本気であった証拠に、とっさに、右手を離して、わが身に伸びる川島さんの腕をとらえます。
「ビショビショですよ。急に、こんなに濡らしちゃうなんて」
「あぁ、いやあ、ウソ、ウソなのぉ」
　両手で顔を覆ってしまいました。
　どうやら、オトコ達が目の前で服を脱ぎ、怒張を見せつけられて、妻のオンナが反応してしまったと言うことでしょう。
「ほら、奥さん、好きなら、いいんですよ、ほら、触って」
　顔を覆った右手は、川島さんの手で、引き離されてしまいます。
「いやあ」
　残った左手で顔を隠すのに一生懸命だったせいでしょうか。それとも、妻の心の中に、そうしたいという気持ちがあったのでしょうか。
　誘導された右手は、あっさりと、生涯で三本目の怒張をそっと、しかし、しっかりと握っていたのです。
「いいですよ。ほら、こっちもこうなってますからね、奥さんも良いんですよ、おあいこ、さ、楽になっちゃいましょうか」
　もはや、モデルという役割は、どこかに吹っ飛んで、妻は、川島さんに逝かされるのが役目のようになっていました。
　なぜなら、右手を離したはずの脚は伸ばされ、いつしか、川島さんの手で妻は仰向けになってしまっていたのです。
　もちろん、その両脚は、秘唇に動く指をいささかも邪魔することなく広がっていました。
　小さな妻の胸にも、川島さんの手は伸ばされています。
「ああ！だめ！あう！ああん！」
　左手が、もはや何もはばかることもなく大きく遣われ、右手が乳首を摘むごとに、耐えかねるような、悲鳴のような淫声が響きます。
「さ、先生も」
　いつの間にか、遠藤氏が、後ろに近寄って耳元で囁いてきます。
　妻の淫らな声が、絶え間なく響いています。
　自分でも、どうしようもないほど、ぎくしゃくとした動きですが、いつのまにか、全てを脱ぎ捨てていました。

　全てを脱ぎ捨てた瞬間、既にカチンと音がしそうなほど硬くなった怒張が、私の理性を飛ばしてしまいました。
　目の前の川島さんを引きずり剥がして、このまま妻のナカにぶち込んでしまおう、そう思って一歩踏み出した瞬間でした。
「あ、あ、あぁ、だめ、あう、あぁ！い、いく！　いくぅ〜」
　間に合わなかったのです。

　裸のオトコ達に囲まれながら、妻は、無防備に脚を広げて、再びオーガズムを見せてしまったのです。
　私と遠藤氏、そして、川島さん。
　妻が三人目のオトコにオーガズムを与えられた瞬間でした。
　背中が浮き上がるほど、ブリッジを作った後で、妻の身体から力が抜けていきました。
　全身から力が抜けていくのがわかります。
　不思議と、川島さんの怒張を握る右手から力が抜けたのは、一番最後だったのは、いったいなぜなのかと胸に雲がかかります。
「いささか変形ですけどね」
　振り向くと、遠藤氏が深い光を湛えた目で、見据えていました。
「入会の儀式を始めます。よろしいですか？」
『入会の　ぎしき…』
「よろしいか？もう、引き返せませんよ」
　その瞬間、力なく横たわったままの妻の顔を見てしまいました。
『紀美…』

　心の声が響いたのでしょうか、その瞬間、妻が、ゆっくりと目を開け、私の目をしっかりと見たのです。
　大勢の前で、これ以上ないほど恥ずかしいオーガズムを迎えた妻の目は、いささかも汚れていません。
　そして、何よりも私への愛情が満々と湛えられた瞳をしていたのです。
　私は、その目を見つめたまま、大きく頷いてしまったのです。