第１９話　開花

　もはや、逆らえるはずもなく、永田さんはフラフラと引き寄せられるように優子さんに近づいていきます。
　きっと、心の中の迷いが、逆に永田さんに焦りを生んだのでしょう。
　淫靡な雰囲気が、そうさせたのかも知れません。短い時間とはいえ、さんざんに、妻の美肉をこすり立てた直後のせいかもしれません。永田さんの怒張は硬さを失っていませんでした。
　しかし、優子さんに近づくなり、その怒張をいきなり挿入してしまったのです。
　その瞬間、確かに、森さんがニヤリとしました。きっと、自分が勝者となり、清美さんのヌードを見られる、あるいは、もっと、と想像したに違いありません。
　森さんにすれば、永田さんの焦りは手に取るようにわかるはずでした。その上、先ほどまでの刺激に、長くは耐えられるはずもないこともよくわかっていたはずです。その永田さんが最初に指名された時点で、永田さんの「負け」を予想したに違いないのです。
　そして、優子さんのことを知っている私にはなおさら、よくわかりました。おそらく、さっきの私との交わりで、まだ濡れているだろうとはいえ、前戯もなしに挿入すれば、万全の体勢を取ったベテランの美肉に勝てるはずもないだろうということが。
「あぁ、良いわ、上手」
　さっき、妻に対して使ったテクニックはどこへやら。単調なまでの腰遣いですが、優子さんは、たまらなくいやらしい声を上げています。
「あ、あ、あ、いいわ、もう少し、もう少しよ、あん、いいわ」
　永田さんの顔に、焦りの色が濃く出ていました。
　早く逝かせて、次に写らなければ、自分の妻を誰かに見られてしまう。それも、会社で普段顔を合わせる先輩達に。その焦りは当然かも知れません。しかし、さっきから、さんざん妻の美肉をこすり立てた怒張が、限界に近づきつつある。
　きっと、そんなところだろうと、永田さんの焦りを、なぜか我がことのように心配しつつも、このまま出してくれれば、妻は、少なくとも永田さんの分が、と、さもしいことを考えている自分がいました。
「あ、あぁ、あ、いいわ、もう少し、あん、もうちょっと、強く。そうよ、もっと奥まで。あう、いいわ。ああ、お願い、もっと、かき回して、いきそう」
　優子さんに言われるがままに、さらに深く、早くと動かしていた永田さんが、突然、飛び退くように離れました。
　怒張が、ギンと上を向いているのが見えました。
　それまで、見えぬながらも、すぐ横から聞こえる声に、尻をモジモジさせていた妻の尻を一気につかむと、永田さんは一気に挿入します。
「あ、あう、あああ」
「あぁ、だめ、だ」
　妻の声が響き渡るなかで、永田さんが断末魔の声を思わず上げながら、思いっきり深く挿入したまま、ヒクヒクと尻を震わせたのです。
「ひぃ、あう、ああ、だめ、あぁ、あうう、だめぇ、なかでなんて…」
　妻が、生涯で３人目の精液を、夫以外には許さぬはずの肉壺の奥深くに受け止めた瞬間でした。熱いほとばしりを胎内奥深くに浴びながら、妻もまた、達していたのが私にはわかりました。
　そんな妻の尻をつかみ締めるようにしながら、永田さんは愉悦の表情のまま、深々と放っていたのです。
　しかし、目を覆われたままの妻の表情は、唇を噛みしめるようにしたまま、決して「イク」と口走るまいという妻の決意が滲みでていた気がしました。
　しかし、これだけ逝きやすい状態になった妻なら、この後、誰にイクと言ってもおかしくはありまえせんでした。もし、もうちょっと、妻の頭が、黒い性の快楽に染まれば、すべてを忘れて、女の心の中まで、自分を逝かせた相手に捧げてしまうのに違いないのです。
　私の脳裏には、あの晩、鏡の向こうで、遠藤氏の言われるがままに身体を、そして人妻の心まで捧げていた姿が蘇っていました。
　おそらくは、さっきの優子さんの説明どおりだとするのなら、私の順番は最後になるはずです。あの、真面目そうな川島さんはともかく、遊び慣れていそうな森さんもいれば、遠藤氏自身も控えているのです。とても、妻が、最後まで我慢できるはずもないと思いながらも、祈らずにはいられなかったのです。
　しかし、この後のことよりも、今、が問題だったのです。
　永田さんが妻の胎内に放出するまで、あっという間の出来事でしたが、私にとっては、やはり衝撃を受けずにいられませんでした。そのショックに呆然としている間に、いつのまにか、森さんが優子さんの尻から挿入していたのでした。
　遠藤氏は、立て続けに指名したのです。
　次は君だよと言わんばかりに、遠藤氏の笑顔は川島さんに向けられていました。

「おっと、そのままでは、奥さんに失礼だよ。きれいにしてもらってからだ」
　さすがに、あっという間と言っていいほどの短時間で優子さんを逝かせた森さんは、そのまま妻に移ろうとして、すぐには妻に移らせてもらえなかったのです。
　秘液でたっぷりと濡れた怒張を優子さんが起き上がって舐め取ります。森さんは、何とも言えず、至福の表情と、我慢の苦悩を交互に浮かべるハメになったのです。
　優子さんの口技は、きれいにすると言うよりは、搾り取ろうとする動きなのですから、耐えるのは大変だったと思います。
いじわるな、甘い洗礼に耐えた森さんが、妻の広げられた脚の間にしゃがみ込みました。「はう！」
　妻がたまらずに、なんとも甘い声を放ちます。
　森さんの太い中指が、妻の美肉に深々と突き立てられたのが見えました。すぐさま、そこに薬指がくわえられます。
　ピチャピチャと湿った音をさせました。　
「あ、あぐっ、あう、あ、そんな、あう、いやあ、あ、あん、あん」
　妻の声が急にせっぱ詰まったものに変わりますが、森さんは、人なつこそうな笑みを浮かべて妻の美肉に突き立てた指を動かし続けています。
　それは掻き出す動作でした。
　おそらくは、永田さんが放出したものを先に掻き出してから、じっくりと楽しもうということだったのでしょうが、それは同時に、隅から隅へ、美肉のヒダ、一枚ずつをかき分けるような強烈な愛撫ともなるのです。
　掻き出す度に、少しずつ、白い液体が妻の尻から流れ出します。森さんの手を伝って、床にポタ、ポタとこぼれるのです。
　それは、永田さんが放ったものだけではなく、妻自身のトロトロとこぼしだした秘液も混ざっているに違いありません。
「あう、ああ、あ、あ、そ、そこ、あう、あふぅ、あ、あ、だめ、あう」
　森さんの指遣いだけで、小刻みに逝っているのがわかります。
　指一つ、いえ、実際には二本ですが、たったそれだけで妻が良いように操られているのを見るのは、私にとって、永劫の長さに感じます。かといって、それが終われば、しゃがみ込む姿勢でも隆とした姿で上を向いたままの怒張が妻に突き立てられるのです。
　そう考えるだけで、息苦しいまでの静寂の中、妻の声だけが聞こえていました。
　ふうと、確かに、ため息のような声がしました。森さんが、おもむろに指を取り出したのです。湯気が出そうなほど、白い液体がまとわりついていました。
　永田さんが放出したものを掻き出した指をすぐさま妻の口元に持って行きます。指先をあてられた唇は、すぐさま開き、舌を絡めるようにして舐め始めるのです。
　目隠しをしても、突きつけられた指がどうなっているのかくらいはわかっているはずですが、まったくためらいは見せません。むしろ、口の中の感触を確かめるような森さんの太い指に、積極的に舌を絡みつかせているように見えました。
『楽しんでるのか？』
　私以外の精液を、それも、自らの胎内にあったものを掻き出した指を舐めている、その表情は、目隠ししているとはいえ、陶酔している様子がはっきりとわかりました。ひょっとすると今まで時折見せていた「被虐に感じる性」、つまりは、マゾ性がとうとう表に現れてしまったのかとも思えます。
　それは、夫以外の男性に恥ずかしい姿を暴き出され、自由に弄ばれ、次々と男のエキスを受け入れなければならなくなったという状況が、妻の中に隠されたいたマゾ性を強く引き出してしまったのかもしれません。
　妻は今、あの真面目な紀美が、何でここまで、と思えるほどに、性の快楽に溺れきっているように見えました。ひょっとして、今、妻の中に私のことが頭にあるかどうか不安になるほどでした。
　私の不安など、少しも知らぬげに、妻の唇は森さんの指を強く吸い込んでいました。まるで、吸えば吸うほど、快楽の種が吸い出されてくるかのように。
　チュポンという、一種間抜けな音を立てて指が引き抜かれます。妻がうろたえたように引き抜かれた指を追い求める仕草をしたのは、無意識なのかもしれません。
「あぁ」
　追い切れぬ指を悲しむかのような、何か、哀切さを帯びた声を短く放ちます。しかし、誰もが、妻に向けた視線が熱くなっていました。次に何が起こるのか、その場にいる全員が知っていたのです。
　大きく広げられた妻の両脚が、森さんの腰が近づくのを知っているかのように、グッと、さらに広がりました。
　妻は、森さんの怒張を、自らの意志で迎え入れたがっている。そんな風に見えたのです。『紀美…』
「あううぅう〜」
　森さんの大きな尻がグッと妻の美肉に突き出された瞬間、聞いたことのない、長く尾を引くような声が響きます。
「奥さん、もう、逝きましたね。でも、懸命に我慢してるんでしょうねえ。逝くって言わないように」
　遠藤氏の囁きも、どこか遠い世界の声のように、耳を素通りします。私にとっては、目の前の光景、それだけが全てでした。
　媚びるように腰の動きを合わせながら、妻の白い手が伸ばされ、まるで、溺れる者が浮き輪をたぐり寄せるように、森さんの身体を招き寄せています。
「あいぅう、あう、あう、あう」
　意味を持った言葉を何一つ思い出せなくなったかのように、妻の口からは立て続けに、言葉にならないうめき声だけがこぼれるのです。
「あう、む、むぐう、ぐっ」
『キスを…』
　妻は、森さんの巨体に押しつぶされるようにキスされていました。いえ、妻自らがキスを望んだのです。
　キスしながら、２人の身体は次第に台の上にずり上がっていきます。その間も、森さんのでかい尻は、動き続け、妻の腕は、森さんの背中に抱きしめるように回されていました。ぐ、ぐ、ぐっと妻の身体に杭を打ち込むように動きながら、今や完全に台の上に２人の身体が乗ってしまいました。
　その２人の姿は、まるで恋人同士のベッドでの行為のようでした。
「ぷはっ、あう、はあう、う、う、う」
　息が苦しくなったのか、妻は大きくあえぎながら、それでいて快楽の淫声を隠せない呼吸を繰り返します。唇を離した森さんは大きな身体を曲げて、妻の微乳に吸い付くのです。
「あ、あん」
　ハアハアと荒い息の合間に出てくるのは、乳首からの鋭い快感を訴えるような甲高い声です。太い指が妻の反対の乳首を器用につまんでいました。
　べったりと、妻の上に乗っていたときよりも、こうやって身体を離して弄られながら下にいる形の方が、森さんにいかにもおもちゃにされていると言った風情になります。
　妻自身も、やはり、森さんの体重がかかるより、こうやっている方が楽なのでしょう。妻の手は台の上に掛けられたシーツをたぐり寄せるようにうごめいています。まるで、その歪んだ手の形は、妻の中でぐちゃぐちゃになっている快感を表現しているようでした。
　これだけの身体です。それを密着させたのですから、もはや、セックスの相手が誰であるのか、妻にはわかるはずです。森さん自身も、隠すつもりもないようでした。
　おそらくは、私だと錯覚させる道よりも、快感を高めて妻に「逝く」と口走らせようという計算でしょう。森さんが妻の耳に口を寄せて何かを囁きました。
「あう、いや、いや」
　初めて妻が言葉らしいことをしゃべりました。それが「いや」とは、いったい何を囁いたのかといぶかる間も、妻は、いやいやと首を振っていました。
「奥さん、ほら、こっちですよ」　
　そういうが早いか、その体勢を入れ替えて、よいしょとばかりに妻を抱えあげたのです。つながったままの動きでした。
「いやあ、だめぇ、恥ずかしい」
　それは、森さんが大きな身体を仰向けにし妻を乗せる形でした。騎乗位というヤツです。
「ほら、奥さん、動いて。もっと、もっと。お、なかなか、上手ですよぉ」
　恥ずかしがりはしても、快楽を渇望するカラダが求めてしまうのでしょう。妻の腰はひとりでに動いていたのです。大きな腹に、両手を添えるようにしながら妻の腰はカクカクと動き、時には、森さんの手に誘導されるように大きくグラインドします。
　子どもが、大きなクマさんの上に乗っている。そんな光景にも見えます。
　ショートヘアで、微乳の妻の身体には、無駄な肉のない少年の背中のような中性的な雰囲気が確かにあります。そのせいで、妻の細くしなやかな身体がカクカクと腰をいやらしく動かしている姿には、とてつもない違和感と、そして色気がありました。
　森さんの怒張が妻の中心を貫くように突き刺さっているせいか、妻の背中は虚空にまっすぐ伸びています。
　それだけに、文字通り、身を仰け反らすような快感に背中が何度もカーブを作る姿がはっきりとわかり、その度に妻が感じている快楽の強さを見せつけられる気がしました。
「ああ、もう、もう、だめ、あう、もう、ああ！お願い、あう」
　おそらく慣れないこの姿勢では、強い快感はあっても、妻が望むような深いオーガズムに達しないのでしょう。ひょっとすると、マゾヒスティックな快楽が強く出た今の妻では、男の上という形そのものが何か意味を持つのかもしれません。
　明らかに、妻は大きく深いオーガズムを望んでいたのです。
　妻の尻たぼが、ヒクヒクヒクと何度も痙攣しました。おそらく、森さんを締めてている美肉は、痙攣するように強い締め付けをもたらしたはずです。
「うああ、おくさん、そんな、急に」
　慌てたように森さんが身体を起こすと、妻の身体を抱えながら、まるでおもちゃの人形を操るように、腰を激しく上下に動かしました。
「あぁ、だめ、あう、あ、あ、あ、だめ、あ、いっ」
　限界の縁にあった妻には、それがスイッチになったに違いありません。大きな身体に頭を埋め込むようにして、森さんにすがりつきながら、妻自身の力で腰がヒクヒクとはねるように動いたのです。
「うぁ、奥さん、で、でる」
　女性が上に乗っていると、その体重が自然にかかり男のモノは思ったよりも奥に届くものです。もはや、とっくに限界になっていた森さんは、妻のオーガズムの締め付けの中で、おそらく、妻の子宮の入り口めがけて、あるいは、その子宮口に先端が入っていたかもしれません。それは、妻の感覚でしかわからないことでした。
　しかし、どこまで深くかわからないほど、妻の奥深くに、再び、私以外のオトコの精があふれるほどの勢いで注ぎ込まれたのだけは確かだったのです。
　　
「ふ〜　あの〜　奥さん、確かに、今、逝くって言いましたよね」
　おそらくは照れ隠しも入っていたかもしれません。私の目に遠慮がちではありましたが、しっかりと、主張します。私のみには「い」までは確かに聞こえましたが、おそらくは森さんとしてもダメもとというつもりもあったのでしょう。
　チラリと見た視線からすると、やはり、永田さんの奥さん、清美さんが頭にあるのに違いありませんでした。
「う〜ん、どうだっただろうなあ。僕の耳には、さいごの、く、っていうのが聞こえなかった気もしたけれど。ね、先生、どうでした？」
　突然話を振られて、とまどいます。目の前では、川島さんが妻にのしかかっていくところで、そっちに気を取られていたのです。
「いや、先生、そっちに夢中でしたか。いえね、今、奥さんが、イクって言ったかどうか何ですが、どうでした？奥さん、たっぷりと感じていたと思います？」
　遠藤氏の話が微妙に後半で変化した気がします。あれ？妻がたっぷり感じたということを聞く必要なんて…
　そのとき、大きく達したばかりの、まだ、ぐったりしているはずの妻の身体に微妙に力が入った気がしたのです。
『うん？どうした？そんなに川島さんのがいいのか？』
「ほら、先生、見てばかりいないで。先生、今、奥さん、感じてた様子はどうです？」
　ヒクヒクっと、川島さんの下になっている妻の手が動いた気がします。
『ひょっとして、こっちの話を？』
　目隠しをしたままの妻の顔からは、表情が読み取れませんが、明らかに、妻は、私たちの会話を聞き、私がどう返事をするか気にしているのに違いありませんでした。
　妻が聞いていると意識した途端に、私の口は勝手に動いていたのです。
「なんだか、妻がこんなにいやらしくなるなんて思いませんでしたよ。こんなに感じてる淫らな妻を見たことがありません」
　妻の腰がヒクリと動きます。
「あぁあ」
　妻のねっとりした声が漏れます。川島さんの腰は意外なほどに単調な、しかし、浅く、深くという基本通りに動いています。
「そうかあ、奥さんは、そんなに感じていたんですね。すっごくいやらしい奥様ですものね、いやあ、うらやましい。うちのももっと、若いときからこうなっていたらと思うと」
　一瞬、緊張する私を横目に、ゆっくりと遠藤氏は優子さんのところへ、そう、ご自分の妻のそばに行って、一気に貫いたのです。
「う〜ん、森君、さっきのは、敢闘賞ものってことで、今度、見学させてもらえるように頼んでみたらどうだ？まあ、どこまで見学させてもらえるかわからないが」
「あぁ」　
　優子さんが、わずかにあえぎ声をこぼします。
「しかし、簡単に見学させてもらえるんですか？なんだか、うちのが許さない気が…」
「な〜に、簡単さ、奥さんの回に見れば、次に見ちゃイケナイなんて言わないだろ。もちろん、そのとき、他のオトコにも見せておかなくては、だがね。そうすりゃ、俺にも他の奥さんを見る権利があるだろって、言えるだろ。どうだ？」
　優子さんに遣う腰は、大きく、激しいものでしたが、口調だけは変わりません。
「そんなあ、そんなことが通る相手では…」
「カミさん達はとっくに、先生には見られながら、お互いにヌードになってるんだ。なに、混浴風呂にでも入るつもりでいけばちょうど良い」
「そんなにうまくいくモンなんですかねえ？」
　いかにも助け船が欲しげに私をのぞき込みます。
「さあ、どうでしょうねえ。ただ」
「ただ？」
「森さんの奥さんが興奮状態になれば、オンナは、そういうときには案外ＯＫしてくれるものかもしれませんよ」
　思ってもいない言葉が私の口からこぼれていました。
「そういうもんですかねえ、でも、うちのみたいに、ああ、おカタイと…」
「でも、奥様も、確かにモデルをなさったときは、ちゃんと濡れてましたけど。普段、真面目な人ほど、そういうときには、激しくなるものなんですよ」
　森さんは奥さんが「濡れた」という言葉に、びっくりするほど、表情を強ばらせたのです。そして、あわてて、照れたような、作り笑顔を浮かべます。
　その大きな身体に、視界を半ば遮られながらも、妻の身体を私は見ようとしていました。
　川島さんの動きは単調ですが、それだけに、妻の性感は派手ではなく、着実に追い上げられているようでした。
　ゆったりとした川島さんの動きを受けながら、妻自信も腰を、大きくゆっくりと動かしています。さっきの森さんから一転して痩せた、その背中を、まるでずっと恋人でいた相手の背中を撫でていたかのように、愛おしげに撫でまわしているのに、私は胸がじりじりと焦がされる気がしました。
「ね、先生、ほんとに、うちのが、あの、その…」
「え？ああ、ええ。遠藤さんの奥様も、川島さんの奥様も、そして、永田さんの奥様だって。みんなみんな、濡れましたよ」
　永田さんが視界の端っこで、表情を硬くした気がします。
「そんな、あの、うちのはどんなもんで、あのぉ、その、それほど、濡れなかったとか」　森さんが粘ります。奥さんがあまり濡れなかった、そんなに感じなかったと言って欲しいのだとひしひしと伝わってきます。
「いえ、森さんの奥さんは、結構すごくて。途中で、拭かなければいけなかったんです。え？あ、いや、誰が拭いたって、まあ、それはいいでしょう」
　すました顔で、わざと曖昧にしてあげたのはイタズラ心と、さっき、さんざんに弄ぶように妻をむさぼった、ささやかな仕返しでした。
　案の定、人の良さそうな表情が、泣きそうに歪みますが、それ以上は何も言いません。
「まあ、奥様だったら、たしかに、私以外の男性がいる中でモデルをしたら、きっと、森さんが他の方の番を見学なさるのもＯＫなさるのではないかと、まあ、保証はできかねますけど」
　まるで、私に、遠藤氏が乗り移ったかのように、すらすらと、芸術家としての魂を打ったセリフが次々と出てきました。
　そして、遠藤氏が乗り移ったかのようなセリフは確実に森さんを、また一歩、遠藤氏の、いえ「私たち」の世界に近づいたのです。
　その証拠に、さっき放ったばかりだというのに、森さんの怒張は、まだ妻の秘液が乾かぬまま、再び、むくりと頭をもたげ、硬くなっていたのです。　
「ああ、う、あうう」
　さっきと違い、まだまだ、余裕がありそうな、それなのに、切なそうな妻の声が響きます。相変わらず、川島さんの単調とも思える動きが続いています。
『それにしても…』
　他のオトコがセックスする顔など、どうでも良いものですが、真面目そうなあの顔のまま、妻の身体に真剣に勝負を挑んでいるような、そんな表情に、妙な感動を覚えたのも事実です。その淡々とした姿には、まるで一つの仕事を着々と果たそうとする職人のような趣があり、妻は着々と追い込まれているように見えます。
「あうぅ、はう、むぐぅ」
　時折、川島さんのキスをむさぼるようにして妻が舌を絡める様子を見ていると、表面の派手な動きがないこととは裏腹に、妻の快感が身体の奥底で進行しているのが手に取るように伝わります。
「あぁ、うあう、い、いい、いいの、あう」
　妻の首筋を舐め、耳を囓る度に、妻の腰がクイクイと面白いように動き、そのまま耳元で何かを囁く度に、妻はカクカクと頷くのです。
　肘で身体を支えながら、しきりに妻の微乳を、乳首を弄るだけではなく、全体をかき集めるような手つきでもみ上げます。そして、絞り上げては、その先端に乗る、やや赤黒く硬くなった乳首を、ジュルジュルとわざと音を立ててすするのです。
　それが規則的な動きで左右交互に数回も繰り返されると、妻はたまらずに、甲高い声で啼くしかありません。
「あん、おおおぅうあう、ひぃ、あ〜ん」
　川島さんの腰の動きには、低い声でうめき、微乳への攻撃には甲高く啼く。妻のカラダは女体という楽器にでもなったように、川島さんの動き次第で違う音色を出し続けます。
　ここまで過敏な反応は、私との時にも、遠藤氏の時にも見たことがありません。
　確かに、川島さんは、淡々とした中にも、年上らしいテクニックを駆使はしていましたが、妻がこんなにおかしくなるほどのものとは思えませんでした。
『紀美、やはり…』
　何人もの男に立て続けに犯される、それも、さんざんに恥ずかしいポーズを見られた後で。その雰囲気が妻を、いつもの妻でなくしているということも確かにあるでしょう。　しかし、それも、あれも含めて、考えられることは、ただ一つでした。
　今日の体験で、妻の何かが変わってしまった。それを妻のどこかが「壊れた」と言うべきなのか、「突き抜けた」というべきなのかはわかりません。
　ただ、眠っていた「マゾ」の資質が、今の妻を支配していることだけは確かだったのです。
　今や、喘ぎ声がかすれるほど喘ぎ続けた妻の腰がクイクイと動き、大きなオーガズムを迎えようとしています。両手が川島さんの背中に回され、しきりにキスを求めるのも、まるで恋人同士のセックスで登りつめる姿のようでした。
　そんな妻の姿に「嫉妬」と言うだけではない感情があるのは確かなのです。
　もちろん、嫉妬はしていますが、それよりもむしろ、妻へのこれまでにないほどの愛しさがこみ上げてきています。川島さんの痩せた身体の下で、押さえ込まれた身体をうねうねと動かす妻の白い裸身を、私はこれ以上ないほど美しいものだと思えます。
　そのとき、もはや、耳になじんだ優子さんの甲高い声が聞こえます。さすがに夫婦と言うべきでしょうか。早くも優子さんが逝ってしまったようです。
「あう！あぁ、だめえ、あうぅダメになるから、あう、ああ！あう！ああ」
　突然、妻のしなやかな両脚が川島さんの尻の上に回されました。まるで、自らの中にもっと招き入れたいと催促するかのように、その脚がぐいぐいと川島さんの腰を締め付けるのです。
「ああ！逝く、逝っちゃうから、あう、お願い、もう、出して！出して、あううぅ、い、いくぅ！」
　川島さんを乗せたまま、妻が強くのけぞります。
「あぅう、あぁ、出てる、奥に、ああ、もっと、ああ、いい、もっとぉ、あうぅうぅぅ」
　語尾にビブラートがかかったのは、妻のカラダ自体が震えていたせいでしょう。全身で、川島さんに抱きついた形のままで硬直して、妻の呼吸がしばし止まります。一種壮絶なオーガズムに見えました。
　私自身も、息をするのも忘れて、他人に注ぎ込まれる精子をおねだりまでする、妻の淫猥な姿に圧倒されるしかありません。
　ああやって抱きついていた以上、自分を抱く相手が私ではないことは妻には歴然としています。
　それでも、なお、妻は相手の「男」を注ぎ込まれることを望み、胎内に受け入れながら最高のオーガズムに達してしまったのです。　
　私は怒張をこれ以上ないくらい硬くしながら、今すぐにでも妻に押し入りたい欲望を抑えるのに必死になる必要があったのです。
　ぐったりした妻の上で、射精直後の男特有のけだるさで、長々と伸びながら、川島さんが、妻にキスをします。まるで、自分の恋人とのセックスの後のようです。
　受け止める妻の意識は、朦朧としているのがわかりました。
　川島さんがノロノロと身体を起こすと、妻は全身から力が抜けきって、息をするのもけだるげでした。
　果たして、遠藤氏が続けたら、妻のカラダが私まで持つのか。それすらも、怪しい気がします。
　白い身体は、すべてを受け止めて、たゆたうような光の中で横たわっていたのです。