第４話 視線

　突然私の大学に現れた紳士は、普段なら、威厳に満ちた、重厚な雰囲気を持っているはずなのですが、私の前で小さくなっていました。
「困ります」
「そこをなんとか」
　何度目の押し問答でしょう。
　多分、会社では下げたこともないであろう頭を、私のような二流の絵描きに、ぺこぺこと下げています。
　自分の願いを叶えるためならプライドなど簡単に捨てられるという、したたかさの裏返しでしょう。
　さすがに、出世する人は違います。
　しかし、それとこれは別の問題です。
「いくらおっしゃられても、絵を描くわけでもない方を、それもこっそりと覗かせるなんてことは、ちょっと。モデルをやってくださる方にも申し訳ないですから」
「いえ、違うんです。私は、女房が絵を描く姿を見たいだけでして」
　白々しいウソを平気で言えるのですから、たいしたものです。
　私の前にいる紳士。遠藤雄三氏は、奥さんから聞いてしまったのです。
　そのあたりに、どのような心理があったのかは分かりませんが、遠藤さんは、部下の奥さん達が次々とヌードモデルをすることになったと夫に告げたらしいのです。
　人妻というだけでなく、それが部下の奥さんだということが心の琴線に触れたのか、今日になって、旦那さんが、どうしても「見学したい」と言ってきたのです。
　平日の真っ昼間に、大学に現れたのですから、その入れ込み様は、すごいものでした。
　突然、遠藤氏は名案を思いついたかのような笑顔を浮かべます。
「そうだ」
「は？」
「うちの宣伝部が、景気も回復したことだし、少々てこ入れをしたいと申しておりまして」
「はあ」
「今年は、集中して、美術関係の新人を採りたいなどと申しているんですよ」
「はあ。それは、なかなか」
　景気回復しても、美大の学生はつぶしが利きませせん。しかも、不必要なまでに「個性的」な学生が多いので、就職模様は、土砂降りです。
　私も大学人の一人として、学生の就職には敏感にならざるを得ません。
「時に、先生にご推薦いただけるような、優秀な学生さんは、いらっしゃいませんか」
『さすが』
　見事でした。
　こちらの事情などお見通し。こうでなければ、超一流企業で人事担当の重役などできないのでしょう。
　数少ない私の担当する学生が、このままでは、就職先がないという事態に追い込まれていることなど、調べ尽くされているに違いありません。
　美大でも、芸術的な力より、しょせんは政治力がものをいいます。
　学生が就職できなければ、私の立場は悪くなります。逆に、遠藤氏の会社とのパイプを持てば、早晩、私に、助教授への声が掛かるのは明白です。
「もちろん、当社以外にも系列は広いもので、デザインに限らず、いろいろな人材を捜しているものでして」
　にこやかな顔で、甘い、毒の果実を突きつけているのです。
　ゼミの学生の困った顔が頭にちらつく以上、それを食べるしか道はありませんでした。
　それに、清美さんの番は前回で終わってます。勝手ですが、身体をあわせた清美さんの身体を見られるのはたまりませんが、森さんなら、男としての心は痛みません。
　頭に、肉感的な森さんのボディラインが浮かびます。
　深く息を吸って、ため息を一回落とし込んでから、遠藤氏と視線を合わせます。
「まあ、学生のことはさておき、遠藤さんが絵をお描きになりたいというなら話は違いますが…、い、一回か二回なら」
　にわかに喜色を浮かべます。
「そう、そうなんですよ、先生。よくぞご理解いただけました。私も、女房に隠れて少々絵心など、ね、あ、それと費用ならいくらもこちらで」
　よくぞ、しゃあしゃあと、舌先から出てくるものです。
「絵を描きたいという方を拒むわけには生きませんね。ただ、みなさんにご了解を、それに場所をどうしましょうか」
「確か、アトリエを見渡す窓があると家内が言っておりましたが」
　そこまで知っていることに、驚くと言うより執念のようなものを感じて怖くなります。
「まあ。狭い部屋ですけど」
「そこのガラスを入れ替えられませんか」
「は？」
「マジックミラーですよ。もちろん、工事の手配もこちらで。な〜に、仕事で使っている内装屋が一時間でできると」
　やることなすことが、能率的すぎます。おそらく、私が断るなど夢にも思っていなかったに違いありません。
　二流の絵描きなど自在に操れるという自信だろうというのは、うがった考えでしょうか。
「そこまでおっしゃるなら」
「ありがとう。ありがとうございます。もちろんご迷惑はおかけしませんから」
　私の手を握り、跪かんばかりの勢いです。
「先生、さすが、家内が、惚れ込んでるという先生だけあります。どうぞ、これからも、ここでご縁があったと言うことで」
　ガッチリとした握手を交わしながら、遠藤氏の目が輝いていました。
　かくして、アトリエを見下ろす中二階の窓ガラスが翌日には取り替えられました。
　明るいアトリエからは黒いガラスにしか見えませんが、中からアトリエは手に取るようによく見えます。
　森さんが明日やって来ます。
　芸術家の良心が痛みました。しかし、考えてみれば、清美さんとのことで、とっくに悪魔に売り渡していたのかもしれません。

　覚悟を決めてきたようですが、さすがにいざとなると恥ずかしさが先に立つようです。
　確か、今年三十になったばかりの森さんは、名前を彩子といいますが、妻より一つ下です。
　そう、妻と言えば、この間の、清美さんの二回目から、結婚前の「山崎」の名前で本当に顔を出したのですが、森さんはことに妻が気になるようです。
　まあ、女性にとっては同性の目も気になるでしょうが、同年代だと、それはライバル心のようなものに自然となるのでしょう。
　ちらりと妻の方を見てから、軽くウェーブした明るい栗色のロングヘアに、しきりに手をやってから、おずおずとイスに座ります。
　膝に手を載せて座った最初のポーズを決めると、後は案外度胸が据わったのか、表情からも次第に硬さが取れてきた気がします。この間の清美さんが終始緊張していたのとは大違いです。
　考えてみると子ども生んだことがあるのは、この人と岸川さんだけのはずです。やはり、母は強しなのでしょうか。
　おっと、緑川さんは謎ではあります。あの人は一切、自分のことどころか世間話さえもめったにしていません。
　森さんは、さすがに子育てをしただけあって、胸はやや垂れていますが、張りは決して失っていません。
　乳首も、いかにも吸いやすそうな形をしていて、揉みながら乳首をしゃぶったらどんなに乱れてくれるのだろうと思わせてくれます。
　清美さんのピンク色が抜けていない初々しさとはまた違って、ややくすんだ茶色になっているのが、人妻の積み重ねたセックスを伺わせてくれます。
　前回に引き続いて、芸術家とはかけ離れた心境で、そのくせ、真面目な顔でモチーフのとらえ方を指示しているのですから、我ながら妙な気がします。
　妻はと見れば、どうやら、同じ世代のヌードを見るという機会など無かったせいでしょう。描くよりも、見とれているといった方がいいくらいです。
　今回は、モデルさんの負担を考えて、ワンポーズ十五分の基本デッサンの練習ですから、けっこう忙しいのです。
　それに、こういうデッサンはスピードも要求される上に、全体像と細部をきちんと調和させた仕上げを要求されるので、学生でもけっこう苦手とすることが多いのです。
　だのに、皆さん、思い思いのペースで好きなようにやっています。
　いえ、妻は一つだけやっていることがありました。
　思い出したように、胸の輪郭をなぞっては、消しているのです。
　もちろん、それはそれで良いのですが、なぜ、胸にこだわるのか。やはり、同年代の女性相手だと自分のコンプレックスが出てしまうものかもしれません。
　確かに、森さんの胸は、年齢なりに少々垂れてはいましたが、手に余るほどの大きさです。たぶん清美さん以上でしょう。
　緑川さんは、淡々と描いています。
『それにしても、この人、どこかで見かけたんだけどなあ』
　最初にあったときからそう思っているのですが思い出せません。職業柄、他人の顔を覚えるのは得意なだけに、思い出せないのはしゃくに障ります。
　まあ、他人のそら似で誰かにイメージを重ねているだけかもしれないと思うしかありません。
　それにしても、森さんの胸。
　大きさだけなら服の上からでも想像できたのですが、小さめの乳輪といい、重量感といい、そして、乳首の形と質感といい見事な美しさでした。
「先生、森さんの胸、お見事としか言いようがないですわね」
　小さな声で、遠藤さんが話しかけてきますが、静かなアトリエでは、十分に他の人たちにも伝わっています。
「ねえ、先生、次のポーズは、こんなに素敵な胸をきちんと描けるポーズにしてくださらないと」
　さっきより小さな声で耳打ちする遠藤さんの声に耳を近づけてしまいます。
　その声には、なぜか、甘やかなものが含まれている上に、耳に届く甘い香りが、私の背中をぞくっとさせるのです。
　とっくに五十になったはずの遠藤さんの吐息のような囁きは、甘い誘惑に満ちていました。
「先生がポーズをつけてくださるかしら。そうね、腕組みして、胸を支えるような形がいいわ」
　片手を私の腕にもたせかけるようにしながら、ますます、小さな声で囁くので、今度はとても他の人には聞こえないはずです。
　ふと、上の窓から見ている遠藤さんの旦那さんの目が気になりました。まるで、恋人に睦言を囁いているように見えないでしょうか？
　もし、遠藤さんが遠藤さんの姿を…　おっと、自分でも、使い分けが面倒になってしまいます。
　心の中では、旦那さんを「遠藤氏」と呼び、奥さんを「優子さん」という名前で呼ぶことに決めてしまいます。　

　遠藤氏が、優子さんの姿を見たとしたら、何事かの甘い囁きを私にしたのではないかと見えたのではないかとヒヤリとしました。
「先生、ポーズつけるときに、弾力も確かめていただいた方がよろしくてよ。私たちのためですから。代表して、ね」
　なまめかしい仕草で腕を撫でながら、囁く言葉は、妖艶な魅力と、悪魔の誘惑を持っています。
『弾力を確かめる？私たちのため？』
　まさか、モデルさんの胸を触ったりすることなどあり得ないことです。一方で、妻の目さえごまかせば、堂々と触れるというあまやかな誘惑の囁き。
　優子さんは、それが「私たちのため」と言ってるのです。
　どういう意味かは分かりませんが、少なくとも、触っても咎められることはないということでしょう。
　年齢を考えたら、まさか、優子さんの囁きは、こんなに私がくらくらするとは思っても見なかったのですが、それほど、小悪魔の魅力十分だったのです。
　こんな誘惑するような囁きを、夫以外にするなんて、果たして良いのでしょうか。
　もちろん、その姿を遠藤さんが見ていることを優子さんは知りません。
　まさか、いきなり、怒って出てくることはないでしょうが、後で、誤解を解かなくてはなどと思った瞬間タイマーが鳴ります。
「ハイ、お疲れ様。じゃあ、次のポーズいきます」
　息継ぎをするホンの一瞬だけ、迷いましたが、優子さんの妖しげな吐息に鼻腔を刺激された、私は口だけが意志と無関係に動いていました。
「えっと、森さん、次は、その手を胸の下で組んでください」
「え？あの、こうですか」
　予想通り、胸を押さえるように組んだのです。
「えっと、あの、ほら、こうして」
「先生のおっしゃること、おわかりになるのかしら」
　いかにもイライラしたという風情の表情を載せた声が、森さんに言うとも無く聞こえてきます。もちろん、優子さんの漏らした声です。
　とたんに、森さんが、焦った表情になるのです。もし、この声が優子さんの計算なら、私が触るための格好の援護射撃でした。
　ジェスチャーを交えながら、巧みにコースを計算しながら森さんに近づきます。
　そうです。
　妻の目の前を直進するように進めば、私の正面は身体に隠れているはずです。
「こうですよ」
　やや大げさな身振りを近づきながらするのは、後ろの妻に向けての演技です。
「そうです、そうです、そう、そうやってくださいね」
　素早く私の両手は、森さんの腕の下から、つきたての餅もかくやと思うような、ねっとりした柔らかさの乳房をすっと、掴みだしたのです。
「こうですよ」
「はい」
　ごく当然の顔をしながらなので、森さんは、ハイとしか言えませんでした。
「さ、このまま」
「すみません」
　私の手には、ねっとりした重量感のある乳房の感触がずっしりと残っています。
　手が離れ際に、確かに、乳首にも触っていました。
　学生時代はそれなりに女の子とも付き合いましたが、結婚以来、浮気などしたこともありません。それなのに、この間、清美さんの胸に触って以来、また、人妻の胸に触れてしまったのです。
「はい、このまま、ちょっと角度をこちらへ」
　胸を触るだけと思われないように、肩をちょっと動かして、さっきとは身体の向きを微妙に変えます。
「さ、じゃあ、このまま、動かないでくださいね。ハイ、次のポーズ。行きまーす」
　タイマーをセットする私に、優子さんは微妙な表情を送り込んできます。ドキドキしている私には、妻の表情を伺う余裕はありませんでした。
　その後も、優子さんに囁かれるまま、ポーズを変える度に、あのねっとりとした豊かな胸に触れてしまいました。
　森さんは、何も言いませんでした。

　ただ、胸に密やかに触る度に、ぱっちりと広がった睫毛の目が、次第に潤んできたのは確かでした。
　四度目にポーズを変えた時など、森さん自身がわずかに身体を傾けて、胸をこすりつけてきた気がしたのは、決して気のせいではありません。
　困惑した私と目があった森さんは、にっこりと笑って見せたのです。そこには、何か秘密を共有しているもの同士の親しみが込められていた気がしました。

「ほんとにぃ、エッチなんだから」
　ぷーっと頬を膨らませて、ベッドに飛び込んできました。本気ではないけど、文句を言いたいときの妻のちょっとすねたときの表情でした。
「なんだよ、急に」
「触ったでしょ。森さんに」
「おいおい、ポーズを素人モデルにつけるなら、ある程度はそうなるだろ」
「ううん、絶対、エッチだったに決まってるわ」　　
「なんだよ、見てないの？」
「だって、あなたの陰になってたから。のぞき込むのもヘンでしょ」
「見てないで、何でそんなことを」
「目よ」
「目？」
「あなたったら、ポーズを変える度に、だんだんエッチな目になってきたもの」
「おいおい」
「第一、あんな風に胸ばっかり強調するポーズなんておかしいわ」
「あれは、ゆ、遠藤さんのリクエストなの」
「それよ。な〜によ、あの態度、しなだれかかっちゃってさ。この間もそうだったけど」
「おいおい、焼いてるのか？」
「もう、私が見てなかったきっと、もっとエッチな顔になってたに決まってる」
「そんなことあるものか」
「最後の方なんて見ていられなかったわよ。あの人、絶対、あなたに気があるもの」
「この間のモデルの、清美さんも、あなたを見る目が全然違ってたわ」
「そうかなあ」
「ほっといたら、メールでも送って来ちゃうんじゃない」
「十歳も離れてるんだよ」
「あら、そのわりに、視線がお熱かったわよ」
　なんだか、少し雲行きが怪しくなってきました。やや剣呑です。
「で、遠藤さんの態度、気になったの？」
　さりげなく、話を戻します。こっちなら、いくら攻められても大丈夫でしょう。
「だって、キスしそうなくらい近寄っちゃってさ。いったい何をささやいてるのよ」
「自分の気の済むポーズを俺を使って取らせたいから内緒話になるんだよ。それだけのことだろ」
「なによ、あなたったら、こ〜んな、鼻を伸ばしちゃってさ」
　それを言うなら、鼻の下だろと心の中でつっこみを入れながら、そんなことないよと妻を抱きしめます。
　要するに、どうやら前回と今日のレッスンで焼き餅を焼いているのでしょう。やはり、主婦は男性をおだててくれますし、まして「先生」などと言う立場だと、本当にちやほやしてくれるのです。
　妻の目から見れば面白くないに決まっていました。
「あのね、お金をいただいている以上、商売なんだから、愛想の一つも必要なの」
「あら、いつから、芸術家から商売人になったのよ」
「へいへい。誰かさんが、教室を開くように言ったときからですよ」
「私が悪いって言うの？」
「違うよ。要は、中途半端はダメってこと。やる以上は全力じゃないとね。芸術家の良心は売らないけど、愛想くらいは売る。いつも本気なのは知ってるだろ」
　妻にべったりとしたキスをしながら、とっくに良心を売り払っていた自分が少々後ろめたかったのですが、妻の、あの声が蘇ります。
『モデルと絵描きの恋なんて珍しくもない』
　そう妻は言っていたのです。
　そう、恋。大人の恋を少々しているだけだから。
『妻のことも愛してるしね』
　そう思ってしまえば楽でした。
　第一、あれ以来、妻とのセックスがすっごくうまくいっているのです。
　もごもご言っているのを無視して、たっぷりとキスをしてしまえば、妻はおとなしくなってしまいます。
　実はさっきだって、なんだかんだ言いながら、妻の両手はシャツの下に潜り込んで、私の背中に回されていたのです。さりげないおねだりでした。
「またなの、あなたったら。このところ、なんだか新婚みたいね」
　自分から、誘うそぶりをしておいて、もちろん、妻はそんなことを認めず、挑発に乗った私のキスを受け止めて余裕の表情です。
　幸せそうな顔でした。
「ああん、あなたったら、そんないきなり」
「とっくに準備できてるみたいだけど」
「ああん、エッチぃ」
　妻のそこは、このところ特に濡れやすくなっています。長いキスをしただけで、すでに中はしっとりとしていました。
「あなたったらあ。もう、元気なんだから」
　妻の指が、ズボン越しに私のものをとらえます。妻のねっとりとした声に、十分に硬くなっています。
「きっと、森さんの胸、見たせいね。すごかったもの」
「おいおい、関係ないよ。モデルさんを見て興奮するかどうかなんて、君が一番知っているだろ」
「そうだけど」
「それに」
「あん！」
「この敏感なエッチなおっぱい、大好きだよ」
「あう、うう、あうぅ」
　パジャマの上から、手のひらのくぼみで転がすように乳首をなで回すと、それだけで妻は乱れてしまうようになっています。ますますビンカンでした。
「それより、さ、この間の復習だよ」
　そう催促すると、素直に、私のズボンを脱がし始めます。
「あ、元気」
　妻の優しい指が私のものを優しく包み込むと、しきりに唇を舐めながら、その口を私のものに近づけてくるのです。
　新婚の時は、頼み込むとやってくれたのですが、妻はフェラチオが苦手だったようでした。いつしか、慣れた夫婦のセックスの定番から抜けて、フェラをしてもらうこともなくなっていたのです。
　それなのに、この間、思いついて頼んだら、あれほど嫌がっていたはずなのに、あっさりとしてくれたのです。
　私も驚きましたが、妻自身も、なぜ急にやる気になったのか不思議だったようです。
　ともあれ、何年ぶりかで味わった妻の舌の感触は、これほど上手だったのかと思わせるものでした。
「浮気でもしたんじゃないの」
「もう、怒るわよ」
「だって、こんなに上手だったっけ」
「久しぶりにしてみたら、前みたいに嫌じゃなかったから。一生懸命になれたのかも」
　そういうわけで、この間の『復習』で、私のものに一生懸命舌を這わせ、唇で挟み込んできます。

「胸も感じやすいけど、やっぱり入ったときの方が良いみたいだね」
「あなたったら、森さんの胸、そんなに気に入ったの」
　妻にとって、それほどコンプレックスなのでしょうか。
「おいおい、僕が好きなのは君の胸だけだよ」
「お上手ね。だって、あんなに大きいし、形もホントはあなた好みでしょ」
　さすがに、妻は私の好みをよく知っています。
「そんなことないよ。ま、形が良いのは認めるけど」
「あうう、でも、ダメよ、相手にも旦那さんがいるんだし」
「おやあ、いなければいいの？」
「ダメだけど。旦那さんがいる人は絶対ダメ。あなただって私が浮気したら嫌でしょ」
「う〜ん、浮気は嫌だけど」
「ね」
　ほら見なさい、と言う表情です。私の背中に回された手が優しくなで回してきます。
「承知の上なら」
「なによそれ」
　妻の中が、ヒクンとなった気がしました。
「僕が承知の上で、君がしたいなら、いいかも」
　もちろん、妻がそんなことをしたいと思うわけがありません。
「なんで、そういうことを言うのよ。ああん」
　妻のそこが、今度ははっきりとヒクンとしました。
「だって、キミのエッチな顔が見たいもの」
「いやん、だって、あぁ、違う人に見られちゃうのよ」
「見られるだけじゃないよ」
「ああぁ、いやあ」
　ヒクヒクと中が震えます。ぬかるみが急に増したように感じます。
　ゆっくりと抽送を再開しました。
「あ、あ、あなた、あう、いいわ」
　このところ、妻が感じてくる度に、あのシュチエーションを吹き込んでいます。
「ね、キミの番の時、旦那さん達も呼ぼうよ」
「いやあ、恥ずかしい、あう、だめ、そんなの」
　言葉だけのつもりでした。もちろん、ヌードはあの二人、森川さんと岸川さんの番が終われば、それで終わりです。
　緑川さんや、なにより島津さん自身が自分の番を承知するはずはないからです。
　まあ、万が一、緑川さんが承知しても、妻の番の時だけ、理由をつけて遠藤さんを呼ばなければ良いだけでした。
　しかし、今日、森さんは自分でも知らないうちに、夫の上司にその全てを見られていたのです。
　さりげなく胸に触れていった時の森さんの目が妖しくなったのがふと頭をかすめます。
　だから、ふと、妻を責めるだけの言葉に、私自身も、反応してしまったのです。
「あう、あなた、どうしたの？あう、すっごい、ああん、今日、なんか、大きくて」
　そうなのです。頭の中で妻のカラダが遠藤さんにじっと見られている所を想像すると、思わず、腹の下の方が苦しいくらい反応してしまうのです。
「キミがエッチだからだよ。どう、見られて、感じてるみたいだね」
　妻が十分以上に感じているのがわかります。
「あん、だってあなたが、すごいんだもの」
「じゃあ、動かないから、言ってみて」
「あうん、いじわる」
　私が急に動くのをやめると苦しそうな表情です。
「さ、見てって言って。旦那さん達が並んでるところを想像して」
　次々と、妻が恥ずかしがるシュチエーションを耳に唇をかぶせて囁くと、それだけで、妻の肉体がヒクンヒクンと反応してきます。
「芸術のためだもの、その手で、紀美の身体を確かめて貰おうね」
「あう、だめぇ。いやあ、うぅぅ。あなた、だめって言ってぇ。さわっちゃあ、だめぇ」
『紀美が感じてる』
「さ、僕が良いって言ってるからね。たっぷりと触られてエッチして良いんだよ」
「いやいや、あなただけ」
「だって、キミの身体、すっごく反応してる。感じるでしょ」
「感じるけど、他の人はヤなの。あなたが良いの」
「本当に見られたら、もっとすごくなる？他の人の指がこうなって、触ってきて」
　妻の乳首を捻りながら、一つ、二つと腰を動かします。間もなく、妻は達してしまいそうでした。
「ほら、触られてるよ」
　もちろん、妻は、それを否定しながら、さらに、可愛く反応するだろうと思って何気なく言ったことなのです。ところが、違っていました。
「ああ、いや、いやなの、だけど、あう、本当にされちゃったら、あう、あぁ、だめ！」

　妻が、ビクンビクンと美肉を締め付けて、達してしまったのが分かります。そのくせ、妻の内部は、さらに私を求めるように、柔らかい肉ヒダが強烈に締め付けます。
「他の人に見られて感じちゃいそう？」
　さらに腰を動かしながら、妻に囁くと、コクリと、確かに頷いたのです。
「よし、ほら、触ってって言ってごらん。言わないと」
「ああ、だめぇ」
　いつものように、言わないと抜いてしまうよ、と焦らし、根負けした妻に恥ずかしい言葉を言わせようとすると、もはや、妻は、抜かれる気配だけでダメでした。
「あうう、いいの、もう、抜かないで、あう、言うから、言いますから。あん！あなたあ」
「ほら、じゃあ、このまま、ほら、早く言ってごらん」
「あう。みんなで見て、紀美の恥ずかしいオ○○コをご覧になって。あぁ！自由に触って」
「ほら、他の人のオチ○チ○欲しいだろ」
「いや、あなただけ！それだけはダメ」
「感じちゃうだろ。他の人のオチ○チ○入れたら」
「あう、感じちゃいそう、あぁ、だから、ダメなの、あなた、あなたので」
「だめだめ、今抜いたら、誰のでも良いんだろ」
「だって苦しくて」
「ほら、誰でも良いから入れてって言うんだよ」
　思い切って抜き去ると、ヌチャっと湿った音がします。怒張に白っぽい妻の粘液がへばりついています。かつて無いほど妻が感じている証拠でした。
「あぁん、いやあ！お願い、逝きそうなの、あなたいじわるしないで」
「ほら、ちゃんとおねだりしたら、誰かが入れてくれるよ」
　ピタピタと入り口に怒張をあてると、もはや、妻の慎みは完全に吹き飛んでいました。
「ああ、恥ずかしい、でも、もう、我慢が、あう、ど、どなたか、あう！お願い。入れて、あうう、入れてください」
「どこに」
「ああん、そんな、いじめないで」
「ちゃんと言わないと」
「もう、いじわる、あう、でももうだめ、あう、どなたか紀美のオ○○コに入れてください。ああう、うっくっ、ああ！」
　そう言った瞬間、妻は確かに、達していました。私のモノを入れる前に、他のオトコを求めるセリフを言いながら、自分の言葉だけで逝ってしまったのです。
「ほら、奥さん、こっちのオチ○チ○で、逝かせてやるよ」
　声色を使いながら、妻の中に埋め込みます。その声は意図せずに遠藤さんの声を意識しいたのが不思議でした。
「あう！いい！あうぅ、また、また逝っちゃいそうなの、あうう」
「ほら、奥さん逝って良いよ。旦那さんの前で、ほら、このオチ○チ○で、逝け、逝くんだ」　
「あぁ、ダメ、ダメ、あう、お願い、もう、あう、逝っちゃうから。あう、お願い一緒に。来て、あう、お願いよぉ」
　がくがくと身体全体をケイレンさせるように妻が達してしまいます。その激しさに私も、思わず放ってしまいました。
「あう、あぁ、出してるの、あう、いいの、あう逝っちゃうぅ、あう、他の人なのに」
　放出の快楽の中でドキリとしました。
「逝く！」
　と叫んだ最後の言葉は頭に入りませんでした。
　妻は確かに、他の人なのに、と言ったのです。
　私以外の誰かを想像しながら、男の精を受け止めていたのです。それも、かつて無いほど激しくオーガズムを感じながら。
　スケベ心から、妻の羞恥心をかき立てる言葉責めをしたのは確かに私でした。
　しかし、私は、開けてはならないパンドラの箱を開けてしまったのかもしれません。
　激しいオーガズムに、妻はそのまま、幸せそうに眠り込んでいます。
　その寝顔ていると、消しても、消しても、アトリエの窓から覗く遠藤さんの姿が、頭に浮かんでいたのです。