第５話　糸口

　妻の寝顔を見ながら、ぼんやりと今日のレッスンの後のことが蘇ります。
　何種類もの甘やかな香りだけが残るだけの部屋に、遠藤氏が降りてきました。
　どちらかというと、泰然自若といった落ち着きと重厚さを併せ持っている遠藤氏の顔が、遠足の小学生のように紅潮し、はしゃいでいました。
　何度も、何度も、こちらが恥ずかしくなるほどの熱烈な感謝の言葉の後でした。
「いやあ、本当にうらやましい。いつも、あんな風に触れるのですか？」
「触るだなんて、そんな」
「いえいえ、先生のお気遣い。本当に感謝いたします。もう、あんなシーンを見せてもらえるなら、今年の就職は、どーんとお任せいただいて」
　ハッとしました。

　そうです。森さんに触れるとき、妻の視線を遮ることばかり私は考えていました。それは同時に、遠藤さんからよく見える位置に立つことを意味していました。
　優子さんに言われるまま、何度も胸に手を伸ばし、その度に、遠藤氏に「よく見えるように」していたのです。
　かといって、優子さんに囁かれて胸を触っていた、などとは口が裂けても言えないのですから、これでは、勘違いされても当然かもしれません。
「まあ、あれは、あくまでも、必要があってのことですから」
「もちろん、分かっておりますとも。先生のお気遣いで、次回も本当に楽しみになりました」
「あの？次もいらっしゃる…」
「もちろんですとも。できれば、ずっとおつきあいいただきたいものですな」
「それは、ちょっと…」
「ま、決して先生にご迷惑がかかるようにはいたしませんから。それにしても、うちのヤツ、先生にずいぶんぞっこんみたいですなあ」
「え？そんな…」
　口を濁すしかない私に、興奮が募るように次第に早口でたたみかけてきます。
「いやあ、ウチのも年ですから先生のお目を汚すだけですが、ウチのヤツにじっくり触れるように、個人レッスンをして貰いましょうかねぇ」
「そんな、十分おきれいじゃないですか。って、え？さわれる？」
「先生、もし、個人レッスンを頼んだら、特別に受けていただけますか」
「それは…」
　ちょっと困ると言いかけたその瞬間、遠藤さんの目が、今までにない真剣さが込められているのを感じ取ったのです。それは、興奮に隠された本気の目でした。
「えっと、あの、考えさせていただいて」
　思わず、気圧された格好で、断りの返事を飲み込んでしまいます。
「是非、お考えください。まあ、年ですが、まだまだ、けっこういける部分もあるんですよ」
「いや、それは十分に」
　考えようによっては、ずいぶん、間抜けな返事ですが、そう言うのが精一杯だったのです。
「それにしても、森君は、あんな素敵なオッパイをいつも揉んでいるのか。くぅ〜、私も触りたかった、ウン、実に残念だ」
　私のとまどいを見透かしたかのように、さっきまでの興奮で一杯の顔を見せながらしきりに、残念だと繰り返します。
　アトリエを出るとき、つい私は外まで見送ってしまいました。
　少年のようにはしゃぎながらも、遠藤氏には、そんな威厳がごく自然に備わっているのかもしれません。
「じゃあ、先生、この後も楽しみにしておりますので。そのうち、私も」
　ニヤリと笑います。
「よし、出せ。それでは、妻も楽しみにしていますから」
　興奮冷めやらぬ顔のまま、迎えの車に乗った遠藤さんが、その瞬間に、冷厳な重役の顔に戻っていたのを覚えています。
　最後にこちらを見た瞬間だけ、にこりと笑ったのが印象的でした。
『妻も楽しみにしている…』
　どうやら、すさまじく有能そうな遠藤さんの魔手に取りこまれつつあるのではないか、そんな恐怖心がふと湧いてきましたが、今さら、引き返すわけにはいきません。
　それに、思い過ごしかもしれません。きっとそうです。
　部下の奥さん達のヌードを見て興奮するのは分かりますが、自分の妻のヌードを見せて興奮するわけ無いのですから。
『本当にそうか？』
　さっきの狂乱したような妻のオーガズムの中での射精の快感は、果たしてなんだったのか。
　いくら考えても出ない答えを求めて、枕の下で腕を組みながら、天井を仰ぐことしかできませんでした。
　
　岸川さんは、三人の中で一番ほっそりとしています。おそらく、細身の妻と並んでも、それほど違いはありそうもありません。
　だから、と言うべきなのかは分かりませんが、服の上からでもわかるほど、胸はありません。これもきっと妻と良い勝負ではないでしょうか。
　そのせいなのかどうかは分かりませんが、岸川さんが思わぬ抵抗を見せていました。
「もう、お二方、ご自分のお務めを果たされましてよ」
「で、でも、お二人ともお若いし、身体のラインだって」
「あら、岸川さんも、スリムでいらっしゃるし、それに、女同士ですもの。何も恥ずかしがることありませんことよ」
　おそらく、優子さんに逆らったことなどなかったのでしょうから、よほど勇気のいることだったでしょう。
　まあ、それほど嫌なのにここに来てしまったのが、限界と言えばそうなのでしょうが。
　しかし、私としては嫌がる人に無理矢理モデルをさせるわけにはいきませんので、優子さんをなだめるしかありません。
　優子さんの優美な眉は、おもわぬ「反乱」にすっかり逆立っています。
「えっと、あの、無理矢理というわけにもいきませんから、ここは一つ、遠藤さん、ね」
　なだめようとする私に、かえってエキサイトしてしまったのかもしれません。
「もう、いいわ、ご自分だけわがままをおっしゃるなら」
「いえ、あの、決して、そう言うわけでは」
「遠藤さん、まあまあ」
　今にも、噛みつかんばかりの表情です。
　何気なさを装ってますが、向こう側で妻もハラハラしている様子がよく分かります。　その時、ふと優子さん表情を緩めたのです。
「ねえ、岸川さん、あなた、ご自分のお美しさがおわかりになってらっしゃらないんじゃないかしら」
「そんな、私なんて、本当に、ダメなんです」
「そうね。清美さんなんて二十代ですものね。森さんだって、三十になったばかりの上、お二人とも見事なボディをお持ちですものね」
　優子さんのトーンが急にやさしげになって、明らかに岸川さんはホッとしていました。
　オドオドしながら、わずかに頬が緩んでいます。
「ね、じゃあ、こうしましょ。ちょっと恥ずかしいけど、私が先に務めましょう」
「は？」
　おそらく、教室内には何重にも、その「は？」は重なっていたに違いありません。
「私だって若いときは捨てたモンじゃなかったけど、もう、この年ですもの」
「ちょ、ちょっと、遠藤さん」
　私は、どうしたものかとおろおろするだけです。向こうでは、清美さんが口に手を当てながら、ビックリした表情は隠せません。
　優子さんのイスを用意しようとしていた森さんは、イスを持ったまま凍り付いていました。
「ほら、こんなおばあちゃんの身体なんて、先生もご覧になりたくないでしょうけど」
　妖艶な視線が私に送られます。
「そんな」
　思わずドギマギしながら下を向いてしまいます。
「こんなおばあちゃんがやるんですもの、岸川さんも、次はおできになりますわよねえ」
　一瞬、氷のような冷厳な、それでいてナイフのように尖った空気が流れます。
　それは、一切の抵抗を許さない、猛禽類の鋭さを持った言葉でした。
「今回は、わたくし。来週は岸川さん。それなら、ようございますよね」
　そんなことを私に言われても困るのですが、妖しげに光る目を見ると、返す言葉が見つかりません。
「じゃあ、その次は、私か山崎さんかしら」
　突然の声に、みんなが振り返りました。
　そこには、初めて見るような笑顔を浮かべた緑川さんが立っていたのです。
　
「どうしよ」
「どうしようと言っても今更、キミだけが、イヤって訳にはいかないだろう」
「だって、岸川さんもそうだろうけど、私だって森さんと比べたら」
　深刻そうな顔です。
　もちろん、森さんと比べるのもおこがましい妻の胸が、ためらいの理由だということはよくわかっています。
「じゃあ、来週から辞めちゃえば。できないから辞めますって言うのなら大丈夫だよ」
　妻にさりげなく、辞めてしまえとささやきます。
　まさかの展開でした。私としては、遠藤氏の部下の奥さん三人でヌードデッサンを終える予定だったのです。
　今日の思わぬ展開から、遠藤氏をどうしようということばかりが頭を悩ませています。
『このままでは妻のヌードを見られてしまう』
　事実、今日の遠藤氏は、これ以上ないというほくほく顔で帰りました。
「いやあ、こういう場だと、うちのやつも結構見れるモンですなあ。いやいや、お恥ずかしい粗品ですが、結構、ま、これが。どうです、先生？」
　確かに優子さんの身体は年齢からするととても若々しく、そして、身体の張りもラインもすばらしいものでした。
　かといって、そのご主人に、奥さんの身体をほめていいものやら。
　私は、答えに窮してしまいましたが、元々、私の答えなど必要なかったのでしょう。
　ひたすら、この後が楽しみだと、何度も、熱烈に感謝されてしまうと、まさか、岸川さんまでしか見せません、とも言えませんでした。
　そして、恐るべきことに、遠藤氏の一番のお気に入りが、なんと妻であることがわかったのです。
「いや、ほら、こんど入った山崎さん。あの人、ホント楽しみですよね。ああいう真面目そうな奥さんが目の前で脱いでくれるなんて、いや、もう、生きててよかったぁ」
　端正な表情に子どものようなあどけなさで良かった良かったと繰り返すのです。
「でも、あの奥さんは、身体は貧弱だと思いますよ」
「いえいえ、ああいうほっそりしたタイプは乱れるとすごいんですよ。それに、私の見るところ、あの奥さんはけっこうＭッ気が強そうだ」
「え？そんなことわかるんですか」
「ははは、ああいうタイプは羞恥心が強い分、それを快感に変えてしまうんですな。それに、なんだかんだ言っても、相手にあわせてしまうから、たっぷりと乱れる」
　なんだか、自信たっぷりに断定してきます。それほど、遠藤氏は女性経験があるのでしょうか。いささか、鼻白んだ私に遠藤氏は、それならと握り拳を差し出します。　
「この拳。さ、この拳の上に、手を乗せてみてください」
　ほらと促された私は、コップを持つ形で突き出された拳に、私も拳を作って上にそっと乗せました。
「ははは、先生もＭッ気がおありのようだ」
　うれしそうに、はははとカラリと笑います。他人にＭだ、などと言われたのは初めてですし、そんな自覚もない以上、怒ってもいいのですが、遠藤氏の笑いに思わずつられて愛想笑いを浮かべてしまいました。
「まだ、お疑いですね。私なら、こうします」
　そういって、いきなり私の拳を包むように広げた手で覆ってきます。
「はあ」
「私は、Ｍでもありますが、いささかＳが強いんですな。だから、相手を支配したいから、こうやって相手の手を」
　ぐっと、私を包んだ手に力がこもります。
「覆って、支配する。Ｍは、相手にあわせたいから同じ形にして乗せる」
　その後、ひとしきりＳとＭの見分け方のうんちくを傾けてから、私に見送られて、悠然と帰って行ったのです。
　こうやって、あれこれ悩む妻とベッドに入っている今、遠ざかる車の姿が頭をかすめたせいか、ふと、試してみたくなったのです。
「ね、ちょっと手を乗せてみて」
　急に身体を起こした私に、妻は、怪訝な顔をしますが、抱き上げるようにして妻の身体も起こしてしまいます。
「なによ、急に。なんか仕掛けがあるの？」
「ううん、ちょっとね、まあ、占いみたいなものかな」
「もう、人が真面目に悩んでいるのに」
　そういいながら差し出した手に、妻が手を乗せてきます。
　どきりとしました。
　妻は手を同じ形にして乗せたのです。
『Ｍは相手にあわせたいから同じ形にして乗せる』
　私は、その手を素早く下に下げます。妻の手は、私の手にくっついて下がります。
「もう、どうしたのよ」
　降ろした位置で、ピタリとくっついたままの二人の手を見ながら、心臓の音だけが響いているような気がしました。
『もし、これで、急に手を下げて、そのままピタリとくっついてくる人は、もう、完全にＭですね』
　遠藤氏の声がすぐそばで聞こえた気がしました。
『妻はＭ…』
　もちろん、そんなに簡単に決めつけられるものではありませんが、遠藤氏のあれこれの話の中に、思い当たることが確かにあったのです。
「どうしたのよ、あなたったら」
　そういいながら、妻はそっと手を引っ込めます。
　妻の真実を見極めたくなるのは当然でした。
「あ、きゃ、あなたったら、あん、もうっ、まだ、考えて、むぐっ」
　長々とキスをすれば、妻の身体はたちまち、抵抗を無くしてしまいます。妻はますます感じやすい身体になっているのです。
「あう、もう、あなたったら、最近、すごいんだから」
「ね、今日はちょっと、変わったことやってもいい？」
「何なの？」
「ちょっと、ね」
　旅行用にアイマスクというものがあります。飛行機などで寝るのに、まぶしさを防いでくれるので重宝しているやつです。
　実は、迷いながらも、さっき枕の下に忍ばせておいたのです。
「あ、ちょっと、やだ、あなた、これ、見えない」
「だめ、だめ、きょうはこのまま、このままだよ」
「だって、何にも見えないのよ」
「たまにはいいだろ、ね」
　抵抗を封じるべく、外そうとする妻の手を押さえながら、たっぷりとキスを続けます。
「もうっ、ヘンな趣味」
「大丈夫、これだけだからね」
「これ以上、ヘンなことしたら、やだからね。今日だけよ」
「わかってるって。任せておけ」
「なんだか、あんまり任せたくないですけど」
　そういいながらも、夫婦のセックスですから、マスクの下でニコッとしてくれた気がしました。
「あ！　いやぁ」
「脱がないとね」
「だって、見えないと」　　　
「大丈夫、ちゃんと脱がせてあげるからね」
「なんだか、恥ずかしいわ。あなた、これ、取っちゃダメ？」
　どちらかというと勝ち気な妻には珍しく、不安そうな声でした。
　答えの代わりに、そっとキスすると、妻はいつになく積極的に舌を絡めてきます。
　不安そうにもじもじとする妻を見ながら、最後に、妻の腰から小さな下着を降ろそうとすると、妻がイヤイヤと抵抗します。
「だめ、ね、あなた、いやあ、あかりを消して」
「何で、いつもの通りだろ」
「だって恥ずかしくて」
「いいから、さ、ほら」
「あうう」
　ピンと立った乳首に吸い付くようになめ回せば、妻はたちまち抵抗するどころではなくなってしまいます。
「あぁ、恥ずかしいの、なんだか。あなた、お願い、見ないで」
　か細い声が、いつもの妻らしくありませんでした。
「あれ？どうしたの？」
　愛撫らしい愛撫をろくにしていませんでしたが、妻の秘唇はたっぷりと蜜をしたたらせています。
「あう、いやあ、いいの、いいんだもん」
　指先で蜜をすくっただけで、妻は、すっかり感じていました。
「あなた、寝、もう来て」
　いつになく早いおねだりでしたが、妻の不安そうになりながらも感じている様子が、私には刺激的で、私自身も我慢ができなくなっていました。
「あうう、あなたぁ」
　濡れそぼった美肉に怒張を締め付けられて、私はいくらか落ち着きます。妻はと言えば、早く動いて欲しいのか腰がもじもじとうごめいています。　
　しかし、このまま動くわけにはいきません。
「ね、ＳＭって知ってる？」
「あう、何？あう、ああん、もう、あなたったらあ」　
「ね、どんなことを想像する？」
「いやよ、そんなこと」
「本当にするわけじゃないよ。ただ、キミがＳＭって、どんなイメージなのかなって」「あう、だって、ああん、もう、言わなきゃダメ？」
「言ってくれたら、ほら」
　大きく腰を使いました。私のモノは期待に満ちていつもより硬くなっている気がします。
「あう、あなた、すごい、あう、ね、もっと」
「じゃあ、教えて、ＳＭってどんなことするの？」
「女の人が縛られて、あう、ああん、なんかエッチなことされちゃうの」
　その瞬間、私の背骨を強烈に何者かが貫きました。
　遠藤氏の言葉が、忌まわしい呪詛のように、脳髄の中で反響します。
『本当のＭの女性はね、まだＳＭに目覚める前、つまり、自分が普通だって思っている時には、必ずこういうんだ』
「あう、あなた、ね、もう、お願い、動いて」
『まず、Ｍ役は必ずオンナ。無意識に自分を重ねるからね。そして、ここが肝心なんだが、鞭でもローソクでもなく、縄か、縛られているところを想像する』
　うねうねとうごめく妻の美肉に、思わず、わずかに腰を動かしていました。
「あなた、あう、いいわ」
『意外かもしれませんけどね』
　口調がまたいつもの丁寧な遠藤氏に戻っています。
『ＳＭの本質は、拘束する・される、って所にあるんですよ。ですから、本当のＭの女性は、本能的にその本質に感づいているんでしょうねえ』
　まさに、妻の答えは、遠藤氏の言う「本当のＭ」の模範解答そのものでした。
　もちろん、真面目な妻がＳＭのことなど、何も知るはずもないのに。
『あぁ、あの山崎さんは、きっと、すっごく感じやすいはずなんですよ。私なら、もっと、あの人から女性の魅力を引き出せるのに』
　そう言いながら、遠藤氏は、夢見るような視線で私を見つめました。
『先生、何とかなりませんですかねえ、一度で良いんですよ。一度だけ。代わりに妻を自由にしてもらって。年はいってしまいましたが、その分、技はすごいんですよ』
　私に言われてもちょっと、と言い逃れるほかありませんでした。
　もし、私の妻だと知られたら、そのまま、真剣に「抱かせて」と頼んで来かねない勢いだったのです。
　遠藤氏の言葉が、胸の中で響きながら、私のモノはこれ以上ないくらい膨らんでいます。
　いつしか、ぬかるんだ妻の美肉の中で、怒張を大きく動かし始めていました。
「あう、あなたあ、すごい、あうぅ、いい」
　アイマスクに隠された顔が、快楽にゆがんでいます。お気に入りの、肉感的な唇が、空気を求めるかのようにパクパクと開き、閉じます。
　なぜか、それとシンクロするように、美肉までもが、ヒクンヒクンと強く締め付けるのです。
『一度で良いんですよ』
　遠藤氏の声が耳に響いた気がしました。
　あの、遠藤氏が、この妻の身体にのしかかる。
　遠藤氏には、ずいぶん女性経験がありそうな感じです。その老獪なテクニックを妻のカラダが受け止める。
『私なら、もっと』
　思わず、妻の一番奥に差し込んでいます。先端が、何かプニプニしたモノにあたります。
「あ、あなた、あう、いい、ああ、お願い、とめないで」
　言われるまでもなく、もう、ストッパーが完全に外れている状態です。
『あの人から女性の魅力を引き出せるのに』
　妻のカラダがどうなってしまうのか。
　最大限に膨張した私の猛烈な往復に、もはや、妻も、我を忘れたように喘ぐばかりです。その嬌声が、さらに私を加速します。
　不意に、遠藤氏の紳士然とした背中を思い出します。あの背中が妻の上で…

　画家の哀しい性で、いったんイメージができると、その光景は実質以上のリアリティーを持ち、それは容易に離れなくなります。
　妻の喘ぐ顔を見下ろす遠藤氏の、あの端正な表情。
　私は不意に、背中に熱いものが爆発した気がしました。その瞬間、怒張から、弾丸を撃ち出すような勢いで激しく射精していました。
　こんな射精があったのか。
　この年になって、そう思わせるような、コントロールが一切効かない、いつまでも、ほとばしるような射精です。
　白い噴出が妻の子宮に激しくあたっている気がしました。
　噴出しながら、さらなる、刺激を求めて動き続けていました。
「あう、あなた、あう、え？あなた、う、う、あうぅ、あう、い、いっちゃうう！」
　ほとばしりを胎内に受けたのがスイッチになったのでしょう。妻も、あっという間に達しています。ヒクンヒクンとまだ柔らかくならない私のものを搾り取るように何度も締め付けていました。
　細身の妻は、私が体重を乗せると苦しがります。
　だから、肘で体重を支えながら、妻の上に乗っていました。もちろん、奥深く噴出していながら柔らかくなっていない私は、妻の中で、たゆたっています、
　エアコンの効いた部屋なのに、顎からポタリと汗が妻の胸に垂れました。
　くすぐったいのか、無意識の動きで妻の指先が、その汗を拭います。
「ああん、どうしたの？あなた、今日、すっごい」
「いや、キミの表情がエッチだったから」
「もう、エッチなのは、あなたなんだから」
　すねたような、そのくせ、愛情にあふれる仕草で、背中を撫でまわします。
「まあ、すごい汗。暑かったの？」
「そんなことないけど」
「ね、もう、これ取って良いかしら」
　マスクを取ろうとした妻の手をとっさに右手で絡め取ってしまいました。
「あん、もう、ね、もう、オシマイでしょ？もう、ね」
　だだっ子をなだめるような声ですが、そのくせ、怒張を飲み込んだままの美肉がうごめいた気がします。
　さっきの余韻か、それとも…
　私が、妻の手を押さえ込んだせいでしょうか。
　遠藤氏の言葉の呪縛は生きていました。だから、つい、それが言葉になったのです。
「ね、このまま、ここに誰か来たらどうする？」
「え？何、これから誰か来るの」
　妻の腕に不安そうにヒクリと力が入ります。
「いいや、少なくとも今じゃないけど、こうやっているところを誰かが見たら」
「もうっ、嫌に決まっているじゃない」
「でも、こうやって目隠ししてると、キミは分からないよね」
「そうだけど。いやよ、そんなの」
「でも、想像してみてよ」
「ああ、何を」
　もっと嫌がるのかと思ったのですが、意外にも、妻は私を乗せたまま、私の言葉を待ったのです。
「この格好。ベッドの周りにオトコがいて、キミを見ている」
「嫌よ、そんなの、恥ずかしい」
「でも、キミはこうやって押さえつけられているから逃げらんないだろ」
「ああん、いやあ、逃げられないの。見ちゃ嫌」
　妻が腰を左右に振ります。それは逃げる仕草にも見えますが、架空の観客達に媚びを売る仕草にも見えました。
　妻の両手を組んだ格好のまま枕の下に押し込みます。
　もちろん、その気になれば手を戻せますが、まるで、両手を縛られている姿に見えます。
「ほら、みんなが見てる。このオッパイも」
　尖りきったままの乳首を指先で捻ると、ああ！と思わぬほど湿った声を上げます。
「どうする。そんな声をだしたら、みんなの前で感じてるのがバレちゃうよ」
「いやあ、だって、あなたが触るから」
「え？俺は触ってないよ、見てる人が勝手に触ってるんだよ」
　そう言いながら、妻の両方の乳首を、できる限り左右の触り方を変えて、弄くりまわします。
「あぁ、ウソ、いやあ、あなたなのぉ。この手、あう、あなたでしょ、ね、あなたあ」
　しきりに、私を求めながら、そのくせ、妻は、いつもと違う感じ方をしています。まるで「感じてはいけないのに感じてしまう」という風情なのです。
「あう、あなた、へんになっちゃう」
「良いんだよ、そのまま感じて。みんなに感じさせて貰いなさい」
「あう、いやあ、他の人はいやなのぉ。触っちゃいやあ、あうう、触らないでぇ」
　そう言いながら、不思議と妻の両手は枕の下から出ることはありません。
　妻の言葉は、あたかも、縛られたまま、大勢に嬲られて感じている姿を想像しているようでした。
「ほら、奥さんの中に入ってるチ○ポ。どうだ、感じるか」
　知らずに遠藤さんの口調を、また真似ている私がいました。目隠しした妻には、声色を使った演技が、なおさら強烈に響くようです。
「あぁ、違うのぉ、あなたなの、あう、今、入ってるの、あなたなのぉ」
　懸命に、そう自分に言い聞かせているようにも見えました。
「奥さん、どうですか。ほら、もっと感じて良いんですよ。ご主人も見てますからね」
「うぅ！あなた、いやあ、見ないでぇ。見ちゃ嫌ぁ」
　懸命に首を振る妻の頭の中で、夫は、今、自分を見ていると想像してしまったのでしょう。当然、今、入っている怒張は、他の誰かということになります。
「奥さん、奥さん、ほら、このチ○ポで、逝くんだよ。旦那の見てる前で」
「あぁ、いや、あう、だめぇ、あう、あう、あなた、ダメ、逝っちゃいそうなの、ダメ、あぁ、そんなに激しくしたら、だめぇ」
「イキそうか？奥さん」
　ガクガクと首を立てに振りながらも、妻の唇から嬌声が漏れ続けていました。
「ほら、逝って良いぞ、ほれ、旦那に、逝くって言うんだ、さもないと抜いちまうぞ」
「あぁ、ダメ抜かないで、逝きそうなの、ダメ、あうあぁ！あなた、あなたいっちゃうの、あなたあ、逝っちゃう、あぁ、ごめんなさい」
「ちゃんと言え。ほら、旦那の前で」
「あう、ごめんなさい、あなたの前で、あうぅ！いく、いく、逝っちゃうぅ！ああ！」
　妻の中でめいっぱい膨張した私は「私ではない誰かに逝かされた」妻を見下ろしながら、ドクドクといつまでも放出し続けていました。