２

　岩場を登り、飛び込み岩の上に出た。後ろには私たちの車がある以外にあいかわらず人の気配もしない。荷物を置いた岩が死角になってしまっているのが気にはなったけど、どうせあそこに行くためにはここから岩場を渡るか泳ぐかしかないはずだ。
「貸し切りだね？」
「うん。」
　下を見ると水面までは３メートルぐらい、子供がちょっと勇気を出して飛び込める高さギリギリというところだ。もうあと一週間もすれば子供達でいっぱいになるのだろう、なんだか子供用プールをオトナが占領しているような気分だ。
（ちょっと恥ずかしいけど、いいか。）
「せーの！」
　誰もいないのをいいことに、二人で同時に水面へと飛び降りた。バッシャーンと大きな水音が一瞬だけ聞こえ、二人ともすぐに水の中へと沈んでいった。足がわずかに底の気配を感じたが、先に深さを測っていたため特に不安はない。強い日差しであっという間に乾いた肌が川の水で冷やされるのが心地よかった。
「おもしろーい！」
　水の上に出した顔を拭いながら顔を見合わせて笑った。そのまま身体をすり寄せるように泳いで足がつくところまで移動すると、私たちは水の中で足をからませ、周りを見渡したあとでキスをした。
「好きよ、隆史。」
「うん。」
　月並みなセリフだと思ったけれど、今は他に言葉がみつからないほど本当に幸せだった。
「あん・・・。」
　タカシの手が私のお尻を触った。飛び込んだ拍子に水着がめくれ上がっていたせいで肌が直接に触れる。
「だめ・・・子供が来るよ。」
　水着の中に指を入れようとするタカシをそう言って止めると、私は体を離して水着をなおした。タカシは「ちぇっ。」と子供のマネをしてすねた。

＊

　しばらくそうやっていちゃついたり水をかけあったりして遊んでいると、遠くでウゥゥゥゥゥっというサイレンの音が鳴った。
「昼かな？」
「着いたのが１１時ぐらいだっけ？」
　私たちは荷物を置いた岩の上で一休みしながらそれを聞いた。
「適当にあがったほうがいいかな？」
「そうね。」
　夏休みまでは何日かあるけど、もう半日授業で終わりかもしれない、そろそろ子供達にこの場所を返さなくてはいけなかった。
「最後にもう一回飛び込み行こうか？」
　タカシはそう言って私を誘った。
「やりたいんでしょ？」
「分かるか？」
　タカシはそう言って水の中に入った。肩に掛けていたタオルを後ろに置いて私もそれに続いた。
「洋子、水着今度ビキニにすれば？」
　タカシが私の水着の脇腹のあたりを撫でながらそう言った。
「うーん、考えたんだけどねぇ・・・恥ずかしいからなぁ。」
（今あれがあったらよかったかしら・・・。）
　去年この水着を友達と買いに行ったとき「絶対に似合うから。」という友達と店員さんの言葉にのせられてビキニの試着をしてみたことがある。やはりブルーの、かなり大胆なデザインのものだったが、着てみると確かに似合った・・・と、思う。
（「日本人でこのタイプが似合うほどスタイルの良い方は珍しいんですよぉ。」）
　店員のお姉さんと友達にさかんに勧められたけど、結局人前で着る勇気が無くて無難なデザインのものを選んでしまった。
「なんで？今時ビキニなんて珍しくもないのに。」
　私がその話をするとタカシは残念そうにそう言った。
「まあね・・・海外の誰もいないビーチとかだったら絶対向こうを選んだんだけどね。」
　私はそのとき彼女達にしたのと同じ言い訳をした。事実、買わなかったけれどあの水着は私の心に残った。大胆といっても最近の中では別に普通だし、ちょっとしたきっかけさえあれば着てみたいと今でも思う。
　女には誰でも露出願望があるという偏った意見を聞いたことがあるけど、このところの夏場のファッションの露出の多さを考えると、それも必ずしも的はずれではないのかもしれない。性的嗜好の問題だけではなく、肌を出す開放感というものがとても魅力的な感じがする。
（もちろん視線を集めるのも悪くないのよ・・・多分ね。）
　少なくとも、そのとき友達はそう言った。彼女が買ったのは黒い小さな紐ビキニだった。
　私がそう話すと、タカシは何度もうなずいて、水中で私を後ろから抱くようにしてワンピースのおなかの部分を撫でた。
「じゃあさ、水着でも何でもいいから今度はなんかセクシーな恰好に挑戦しようよ？」
「ええっ？コスプレですかぁ？」
　私はおどけてそう言った。
「いや、そうじゃなくって。」
　タカシは苦笑した。
「セクシーな下着？」
「おおぉ、いいなあ。」
　二人で笑いながら話している間にもタカシの左手が私の腿の辺りを撫でている。お尻の後ろでは硬くなったアレが水着越しにはっきりと感じられる。
（熱い・・・。）
　冷たい水の中で、タカシのペニスの発する熱が伝わってくる。右手は私の水着の胸元に差し込まれ、直に乳房を愛撫し始めた。
「うん・・・だぁめ。」
　私は笑いながら体を離した。死角になっているとはいえやはり人目が気になる。
「ちぇ。」
　タカシも笑ってそう言って、私たちは飛び込み岩の方へと泳ぎだした。

＊

　上に登っても、まだ人が来る気配は全くない。私たちは安心して例の大岩へと向かった。途中でちらりとタカシの水着の前を確かめたけれど、冷たい水で冷やされたのか、もう通常の大きさに戻っているようだった。
「じゃあ最後の一本行こうか？」
「了解。」
　岩の先端に前後に並んで立ち、人が来る気配が無いのを確かめたあとで、タカシの両手を私の肩に添えてぴったりとくっつくようにしてタイミングを合わせた。
「じゃあ行くよ。いち、にの、さん！」
　二人が同時に前に飛び出した。バシャァンと大きな水音が一つ聞こえ、私たちは再び水の中に消えた。
　先に水面に上がったのは私だった、タカシの手は私の腰のあたりにあった。
「・・・ハァッ！」
　顔を上げて大きく息を吐くときにタカシが私を少し引っ張ったような気がしたが、彼もほとんど間をおかずに私の後ろで浮かび上がり、そのまま両手で後ろから私を抱き寄せた。
「はぁんっ！」
　タカシにつかまれた乳首に快感が走った。
（水着が・・・！）
　水に落ちたときにタカシが紐をほどいたのだろう。私の水着は身体の前にだらしなく垂れ下がり、おへその辺りまで裸になっていた。
「あん、隆史ぃ・・・見られちゃう。」
　ニヤニヤ笑うタカシの手を逃れ、水着を直そうとしたが、かなり下まで下げられたせいか泳ぎながらではなかなかうまく戻らない。
　幸い上にはまだ人の気配はない、私は水の中に隠れるようにしてそのまま荷物の置いてあるほうへ向って泳ぎだした。
「もう、何するのよ、ホントに！」
　泳ぎながら怒ったが、それに勢いがないのは分かっていた。タカシも相変わらずニヤニヤと笑って私の裸の上半身にさかんに手を伸ばそうとする。
「だってほら、開放感あるだろ？」
「・・・ありすぎよ！」
　死角になる岩へとたどり着いたとたん、彼は水着を直すのを妨げるようにまた後ろから抱きついてくる。
「ああん、もう・・・。」
　タカシは半分水面に浮いた私の乳房を両手で楽しそうに揉んでいた。
「・・・感じる？」
「う・・・ん・・・。」
　私はちょっと悩んだ末にうなずいた。本当はさっき水着に手を入れられたときから、いつもと違う刺激に興奮していたのだ。
「じゃあもっと・・・。」
「あ、ダァメッ！」
　私の静止よりも早く、タカシは私の水着をさらに下に引っ張って腿のあたりまで一気に降ろした。果物の皮をむくように、あっさりと私の下半身が露わになる。
「ちょっ？まっ！」
　ちょっと待って、と言いたかったのだが言葉にならなかった。タカシはそのまま水の中に潜ると水着を足下まで降ろしていった。彼の意図を察した私は観念して足を持ち上げ、水着を脱がそうとするのを手伝った。
「ほらっ。」
　再び顔を水面に出したタカシが、丸めた私の水着を満足そうに顔の前に広げてみせてから岩の上に置いた
「もう・・・。」
　口ではそう言ったが、本音は私も結構楽しんでいるのかもしれない。タカシの手が水の中で私の裸の身体を愛撫するのを止めないのもそのためだ。
　濡れた青いワンピースがだらしなく岩の上に広がって、それが私が全裸であるということを強く意識させる。
（脱いだ後の水着ってイヤらしい・・・。）
　誰かがこの水着を発見すればもちろんその持ち主がどんな恰好をしているか興味を持つだろう。透明なこの水の中ではすぐに私が裸だというのは分かってしまう。私は入り口の方を眺めたが、こちらからも向こうは見えない。
「ねえ・・・誰かきちゃうよ？」
　私はそう言ったがタカシは構わずに私の乳首と内股に置いた手を動かした。
「ん・・・。」
　私のくぐもった喘ぎ声が誰もいない水面を渡っていく。タカシは指だけでも私をイカせる方法を知っている。そのためこの程度は愛撫と言うより悪戯だったけれど、私を興奮させるには十分だった。誰かがやってくるかもしれないというスリルと、いけないことをしているという認識がさらに興奮を助長させているようだ。
「隆史、硬いよ？」
　私は後ろに回した手で彼のペニスを水着の上から撫でた。
「そりゃ硬いさ・・・。」
　タカシはそう言って笑うと私の足を開かせ、ペニスを押しつけるようにして身体を密着させた。
「あん！」
（挿れて欲しい・・・。）
　反射的にそう思ってしまった。水の中で触られるのがこんなに興奮するなんて思わなかった。
　タカシの水着の中に手を入れてペニスを直接触る、熱い・・・冷たい川の水にも負けず、それは硬く、大きく勃起している。
「欲しいの？」
　タカシが耳元でささやいて、私は恥じらいながらうなずいた。
「ここで？」
　さすがに彼もここでは難しいと思っているようだ。声のニュアンスがそう言っている。
「どこか、あとで・・・。」
「うん、分かった。」
　私は首を後ろに回してタカシとキスをした。タカシの両手は裸の私を後ろからしっかりと抱きしめてくれた。冷たい水の中のせいか、肌と肌が触れ合うと相手の体温がとてもきもちいい。
「ん。」
　舌をからませた長いキスの後で私はゆっくりとタカシから離れた。タカシの体温が遠ざかり、火照った全裸の身体のすみずみまでを川の水が包んだ。
（すごい・・・。）
　裸でいると川のわずかな流れまでが敏感に感じられるようだった。タカシに弄ばれて硬く尖った乳首の先端をゆっくりと水流が撫でていく。
（大丈夫かな・・・。）
　人の気配がないのを確認して、全裸のまま泳ぎだす。何もつけていない身体は不思議なほど軽い。
（うわぁ魚になったみたいって言うのはこういうことなのね・・・。）
　話には聞いたことがあるが、全裸で泳ぐのがこれほどに気持ちいいなんて初めて知った。私は調子に乗って岩の周囲をぐるぐると回るように泳いだ。タカシは私のその姿を見て満足そうに微笑んでいた。