第１章　２＋２

　世間からは、少々変わった夫婦と思われるかもしれません。
　結婚して、もう６年。大学のサークルで出会った妻とは、熱烈とは言えないまでも、それなりの恋愛。そして地方出身ゆえの妻のアパートでの同棲を経て、卒業後まもなく結婚しました。
　私たちが卒業したのは、いわゆる、教育大だったため、夫婦共に教師をしています。
　私は別に、熱烈に教師を志望していたわけではなかったのですが、何をやろうという明確な目標もないままにズルズルとしていたところを、私立高校の教師の口を紹介され、今でも惰性のように勤めていまです。
　一方で、妻と言えば、大学時代から、やれボランティアだ、やれ勉強会だと、子どものころからあこがれの小学校の先生を目指してまっしぐらでした。
　結婚したのも、きっと、妻にとって決して積極的な意味があったわけではないでしょう。ただ、仕事に思い切って打ち込むなら、いっそのこと結婚してしまった方が、恋愛関係特有の面倒くささがなくて良いという計算があったのかもしれません。
　去年まではそれでうまくいっていました。
　しかし、ほつれ目は結婚３年目でした。
　彼女が二十五の春になって、そろそろ子どもが欲しい、と言い始めたのがきっかけだったのです。
　仕事上、性的な知識は豊富です。それも、そう、保健の時間に教わったような「正しい性知識」ってヤツですね。
　しかるべく体温を測り、妊娠を狙ったのです。もちろん、私は、逆らう気もなく、かといって積極的に協力する気持ちもないまま、言われたとおりの日にセックスしました。
「あなた、最初の子どもは、女の子がいいわ。だから、さめたセックスにしてね」
　そう言われなくても、学生のころの同棲時代とは違い、仕事に疲れています。第一、お互いに慣れた関係ですから、そうそう、毎回、激しいセックスもしていられません。
　すっきりと整った、細面で、目鼻がくっきりとした顔立ち。無駄な肉一つない細身。回転の速い頭と、誰にでも優しい性格。そして、なによりも、私しかオトコを知らず、私だけを愛してくれる貞淑さ。（そうなのです、女子校育ちの妻にとって、あらゆる意味で、私は「初めての男性」だったのです）
　妻はどこから見ても、世の夫達から、うらやましがられる女性でした。
　しかし、恋人時代からの唯一の悩みの種がセックスでした。
　もともと、セックスには奥手でした。いや、奥手というより全然興味ないと言ってもいいかもしれません。
　一生懸命、こちらが反応を絞りだそうとしても、息こそ荒くなるものの、クライマックスで多少、喘ぎ声ともつかない声が出るだけです。それなりに、感じてはいるようです。しかし、彼女の受けた厳格な躾のせいなのか、それとも、生まれつきのものなのでしょうか。性的なことに対して、そして何より、自分が快感に乱れることに幾重もの抵抗があるようでした。
　最近でこそ、なだめすかして、やっと、絶頂の時の「いく」という声を出すようになってくれたのが、進歩と言えば進歩でしょう。　
　性的な消極さがあっても、プロポーション自体は、完璧といっても良いと思います。贅肉一つない締まったラインと、つくべき所に、いっそう女らしい肉が付いた、グラマラスになった身体は見事なものです。ただし、本人は、それをさして自慢にも思っていないようですが。
　夫の私が言うのも変ですが、何も知らなければ、その肉感的な身体は、見る男の欲望をそそることだけは確かです。
　ことに、形が崩れることもないまま、ますます柔らかさと弾力性を併せ持つようになった胸とヒップは見た目も触り心地も極上と言っていいでしょう。
　ですから、妻の注文に応じて、当時の私は、その、形の良い胸を思い切り握るようにしながら、「子供を作るためのセックス」をして、淡々と射精しました。
「最初は女の子が育てやすいっていうものね」
　どうやら、男女生み分けのためには、入り口付近で射精した方が女の子の確率が上がるらしいのです。妻の要求通りに、セックスし、子どもができるのを待ったのです。
　しかし、次の生理は淡々と訪れました。
　翌月も、翌月も。
「正しい性知識」を持っている妻は、病院に行くことをためらいませんでした。
　結果は、残酷でした。妻と私に少しずつ欠陥がありました。私は自然状態での妊娠が可能なほどには精子の数がありません。
　普通なら人工授精を勧めるのですがと医者は言ってくれました。しかし、と医者は続けます。
　奥さんも大変妊娠しにくい体質で、通常の性交では妊娠できないでしょうと。
　天は、夫婦に平等にハンデを課したのです。
　しかも、妻の子宮は、受精した卵子を守る力がきわめて弱く、人工授精のようなリスクは受け付けない体質でした。
　我々夫婦の間では子供ができないことがわかったのです。
　毎日、子ども達に囲まれて、人一倍子ども好きの彼女が、いざ欲しいと思った時には、自分の子どもが作れなかった…
　そんな運命の皮肉を知ったのが去年のことだったのです。

　それから、夫婦の関係が変わりました。
　いや、彼女は、今でもとっても優しいのです。私のことを愛してくれている、と思います。でも、いまだに古い価値観で凝り固まった地方の家庭で生まれ育った彼女にとって、産めない女は去るべきだとしか思えないらしいのです。
「離婚してください」
　突然、そう言いだしてきた時には、ビックリしました。
　私が一人息子だと言うことを意識したせいかもしれません。
　彼女には「産めない妻は、離婚されるものだ」と思いこむ理由がそれなりにあったのです。
　確かに、妻が普通の身体であれば、人工授精によって子供が作れます。しかし、妻だって、精子が大変多い体質の男性と結婚していれば子どもができた可能性も、低いなりにあったのも確かです。
　何とか離婚を思いとどまらせては見たものの、なんとなく、夫婦の関係が冷えてしまった感じになったのも仕方のないことかもしれなません。
　そこで、あるとき提案したのです。
「週末は、恋人に戻ろう」って。
　土曜日は、仕事の帰りに、どこかで落ち合って、デートです。
　映画でも、ビリヤードでも（妻はちょっとした腕前です）、ちょっとおいしいものを食べるのでも良いのです。
　で、その後、ホテルに泊まって、セックスする。
　昔から、どこかに泊まってのセックスは「特別な感じがするの。だから、セックスしても良いなって思えちゃう」というわけで、その時はいつもより多少乱れてくれます。声だって少しは出すようになりました。どうやら、セックスが「子ども作りのため」という役目を捨てた時から、夫婦のコミュニケーションの手段と変わったのが、彼女の中で何かを変えたのかもしれません。
　変わったと言えば、子供を産めない身体だとわかって、ひとつだけ良いことがありました。
　避妊が不要になったこと。
　なにしろ、仕事に差し支えたら、という理由で、避妊には気を遣ってきましたから。
　わずらわしいこと一切無しに、ナカダシ、し放題というのは、私にとってはうれしい限りでした。
　妻が、どう思っていたのかは知るよしもありませんが。

　明日から夏休み。学期末の忙しさから抜けて、ちょっとリラックスした夕食後の一時です。
　久しぶりに入れたフォートナム＆メースンのゆったりした香りが立ち上るティーカップを持った妻と夫婦仲良く隣り合って座るソファは、２人にはやや大きめのサイズです。
　真ん中にちょこんと２人で肩を並べて座るのが妻のお気に入りでした。
　湯気の中に、吐息をそっと落とし込んでから、いつにない妻の真剣な顔がありました。少しだけためらってから、カップをコトリと小さな音を立てておくと、妻が切り出します。
「お願いがあるの」
「ああ、いいよ」
「いったい、何よ、何にも聞かないで」
「いや、他ならない君が、こんなに真剣な顔で言ってくるんだから、どうせ、何を言ってもするんでしょ。どうぞ」
　妻の表情が、怒って良いのか、笑って良いのかと一瞬のうちに複雑に動いてから、クスリと笑います。
「あら、じゃあ、浮気したいっていったら、どうするの」
「おお！どうぞ、どうぞ、俺以外と、わざわざセックスしたいなら、止めませんよ。あ、それなら、俺も行って、そばで見せてもらおうかな」
　にやにやして、まぜっかえすと、莫迦といいながら私の胸を軽くたたきます。ごめんよ、本当は、本音が八割、混ざってるんだ。君は知らないけどさ。
「もう、どうせ、他の人としたいだなんて思いませんよーだ」
　こんな時の彼女は、ビックリするほどあどけない笑顔を見せます。見慣れているはずの私でも、ちょっとときめいてしまったりします。
「あのね、例のあの子。やっぱり、お母さん、男といなくなったらしいのよ」
　例のあの子。去年姉を卒業させ、今年はその弟の担任。しばしば我が家で話題になっている子です。
　若い母親。最初が十六の時の子だそうですから、親は私達とさほど変わらない年でしょう。
　父親は、とっくの昔に別れたのだそうで。
　以来、母親が水商売をしながら育ててきたそうです。典型的な、ヤンママ状態と言っても良いでしょう。
　子どもより自分の恋愛の方が大切らしく、しばしば、子どもたちをおいていなくなります。どうやら、男と旅行にでも行くらしいのです。
　で、今回は、もう一月以上も戻らない。いえ、戻る予定があるのかどうかもわからないらしいのです。
　娘は、その育ちにもかかわらず、とても良い子だそうです。
　素直で、明るくて、その上「将来美人になると思うわ」と妻が断言するほど、整った顔立ちだそうで。去年は学級委員、成績も運動もトップ。中学校に行ってもトップのままらしく、人望も抜群というのもむべなるかな、というわけです。
　弟は、姉と違って、大変地味な、大人しい性格だといいます。どちらかというとテレビゲームの方がすきなタイプで勉強はそこそこ。まあ、野球が大好きという程度のごく平凡な少年です。
　それでも、家庭環境を考えればたいしたものでしょう。
　その姉の方が、昨日、突然妻の学校に現れ、深刻な表情で相談に来たらしいのです。
　施設に入るにはどうすればいいのかと。
　どうやら、先月から母親がいなくなり、家に貯金があるはずもなく、唯一の栄養補給手段の給食も無くなってしまう夏休みをどうするか途方に暮れ、相談に来たのだとか。
　中学に入ったばかりとは思えないほど冷静な判断でした。
　今の担任は男性らしいですし、以前から何度も相談に乗り、家の事情を知る妻の方が頼りやすいと言うのもわかる気がしました。
「お願い。いずれ、施設に入るにしても、せめて３月まででいいの。みんなと卒業できるし、お姉ちゃんは、今の友だちと修学旅行に行かせてあげたいのよ」
　どうやら、それまで、我が家においとけないかと言うことらしいのです。
　途方もない申し出に、さすがに一瞬、躊躇しました。
　だって、せっかく恋人関係の夫婦がうまく行き始めたのに、そこに第三者が現れるのは。
　でも、どうせ、妻のことです。私をうまく説得してしまうでしょう。それなら、恩を売っておくに限ります。
「もちろん、ＯＫに決まってるよ。ただ…」
「ただ、なあに？」
「ごほうびが欲しいな」
「何をプレゼントすればいいの？」
「君の身体」
「莫迦」
　それでも、その晩は、特別サービスで、舌を使ってくれました。
　いえいえ、妻はフェラができないんです。だから、結婚以来、まだ、飲んでもらったこともありません。でも、リクエストに応じて、明るい電気の下で、恥ずかしがりながらも全裸で舐めてくれたのは、妻にとっては精一杯の感謝の気持ちだったのでしょう。その妻のいじらしさが、とってもうれしかったのです。
　よほど妻は恩義を感じてくれたのでしょう。
　一生懸命舐めてくれます。口の中にこそ入れなかったけれど、私はその舌遣いだけで逝ってしまいそうになり、慌てて体勢を入れ換えて挿入しました。
　少し意外だったのは、今日は前戯らしい前戯もしてないのに、妻がとても濡れていたことでした。手を添えなくても、簡単に奥まで入ってしまいました。
「ああ、これで、あん、しばらくは、できないもんね、ごめんね、ああ」
　挿入されて、わずかに喘ぎながら（これはとっても珍しいことです）妻はとんでもないことを言い出しました。
「だって、こんなに狭い家ですもの。いくら相手が子どもでも、ううん、あの年頃ですもの、どうしたって、気づかれちゃうから、家の中では当分禁止。外でデートしたときなら良いけど、しばらくは、置いてきぼりで外出なんて、かわいそうでしょ」
　そ、そんなあ。
　でも、確かに、年頃の姉と弟を置くとしたら、この寝室の隣。現在は、客間という名の、一つ余分になっている部屋がベストです。
　この部屋は、いつかは子ども部屋にと言っていたのが皮肉なものです。
　いくら妻が声を出さないとは言え、夫婦のセックスにはそれなりの気配というものがあります。薄い壁越しでは、気配が伝わってしまうおそれは十分にあります。
　はあ。あと半年あまりかあ。なかなか寂しいものがありました。

「お世話になります」
　セーラー服で、ぺこりとあいさつしたその子を見てびっくりしました。スレンダーで利発そうな顔立ち。整った目鼻立ち。ちょっと肉厚の唇。ストレートのさらさらの黒髪。
　妻にそっくりでした。
　いえ、昔の妻にと言い直しましょう。妻の中学生時代の写真。それにそっくりでした。
　へぇー君は、妻の若いときに似ているね。
「え？　亜希子先生に似てるんですかぁ。うれしい！ありがとうございます」
　本当にうれしそうに、ニッコリする笑顔はとっても輝いていました。そしてその時、わずかに身体を動かした時にできた風が、その子の匂いを運んできました。
　とっても甘い香りだったのです。
　そうだった。処女の時の妻もこんな甘い匂いがしたっけ。つかの間のノスタルジーに浸る私を知ってか知らずか、妻は、私の言葉に反応していました。
「あらあら、若い時ってなによ」
　笑顔で軽く私を睨む「あきこ先生」
　そうか、妻はそう呼ばれているのか。そうなんだ、妻は先生なんだよなあ。なんだか妻の笑顔が新鮮でした。
　弟は、姉の陰に隠れていました。姉の輝くばかりの存在感に比べ、あまりにも薄い存在感で、最初は気づかなかったのです。
　そして、もじもじする背中を、姉が押し出しました。
「弟の圭司です」
　お姉ちゃんが紹介すると、どうも、とかなんとか、口の中でつぶやいて、もごもごしながら、ぺこりとお辞儀します。やはり、聞いていた通り、はきはきはしない性格のようです。
　しかし、知的な目をしていたし、この年頃にありがちな、乱暴そうな所がないのが気に入りました。
　何とかやっていけるかもしれないな。
「ほら、あいさつなんて良いから、お風呂にでも入ってらっしゃい」
　そう言って送り出した妻は、我が身を振り返ります。
「私も一緒に入っちゃおうかな」
　妻も汗びっしょりでした。
　そうなのです。家賃なんて払えるはずもなく、その部屋を、思い切って引き払ってしまったのです。
　厄介払いができると言うんで、大家は、えびす顔でした。滞納していた家賃は、母親に後で請求するから、今はいい、とまで、言ってくれたそうです。
　もちろん、私が電話で多少強引に交渉した結果ですが。
　で、ビックリするほど少ない家具を処分し、手荷物だけ持って帰ってきたわけです。
　だから、今日はちょっとした引っ越しのようなものでした。三人は、汗とほこりまみれです。それに、二人はしばらく風呂に入っていないらしいのです。
　風呂のない部屋で、銭湯に行くどころではなかったのですからね。それでも、女の子らしいせめてもの努力で、流しで身体を拭いたりはしていたらしいのですが。
　そのせいでしょうか。彼女の匂いを、とっても強く感じました。
　それは決して嫌なものではなく、なんだか、甘酸っぱいときめきを思い出させてくれるかぐわしいものでした。なんだか、まだ独身の頃の妻の匂いに似ていた気がします。
　弟君のことに気づかないほど、お姉ちゃんの匂いに強くひかれてしまいました。
　やはり男の子とは違います。その強い女の子の匂いは、とっても甘いものだったのです。

　私は、妻が消えていった風呂場の方の様子が気になりました。
　楽しそうに入っているようです。我が家の風呂場は、ファミリータイプのマンションの常で、大きめのフロが売り物です。だから、三人でも、多少無理すれば湯船に一緒にだって入れるはずです。
　別に覗くつもりなんてありません。
　ただ、トイレに行くためには、風呂場の前を通らなくてはいけないだけです。
　狭い脱衣所の戸は開いていました。それは、いつもなら夫婦だけですから、ここの戸はいつも開きっぱなしになっていて当然です。
　ドキリとしました。
　風呂場で、楽しそうな話し声が聞こえます。
　シャワーの音で、どうやらこちらに気がつかないようです。曇りガラスは風呂場に夕日が差すと、向こうからは見えなくなるせいでしょう。
　妻の脱いだ服は、洗濯機の横にある汚れ物入れに入っています。そして、控えめに、その横にたたまれたセーラー服。その横には、弟君のジーンズ。脱衣籠には、おそらく、着替えでしょう。ジーンズとＴシャツが、それぞれおいてあります。
　ごめん。
　つい、その着替えに手が伸びました。そっとめくってみると、下には、白い、飾り気のないブラとパンティーが見えます。
　へえ。
　なんだか、そんな単純なものに、新鮮な色気を感じてしまう自分に慌てました。「子ども」を預かるはずが、我が家に「女の子」が来たんだと、なんだか、胸がドキドキしてしまいます。
　そんな自分が、なんだか急に後ろめたくなって、ついつい、逃げるようにトイレに入ってしまいました。
　そしてトイレから出た、その時でした。
　風呂場のドアがばたんと開きました。
　どうやら、買い置きのシャンプーでも出すつもりだったのでしょう。
「あら！」
　一瞬、動きが止まった妻は、自分の胸を隠します。
　今でも、明るいところで見られるのは恥ずかしいらしいのです。もっとも、いくら子どもとはいえ、弟君の前では隠してなかったようですけど。
　でも、すぐ気がついたみたいです。
「もう！あっち行っててよ」
　ぴしゃりと脱衣場への戸が閉められてしまいました。
　でも、その一瞬で見えてしまったのです。開いたドアの向こうで、立ったままシャワーを浴びている彼女の姿が。スレンダーな体に、意外なほどの胸がありました。
　ほんの一瞬でしたが、その成長途上のお椀を伏せたようなオッパイを目に焼き付けるのには十分すぎるほどでした。

　私が、ドキドキしているのを知ってか知らずか、風呂から上がってきた妻は、早速、歓迎の手料理に取りかかります。
　お姉ちゃんも、甲斐甲斐しく手伝っています。さっき置いてあった、あのジーンズとＴシャツ姿です。
　あの下に、さっきの下着を着てるんだろうな。
　目の前をさっと通り抜ける茜ちゃんの横顔よりも、私の目は、形の良い膨らみかけのかわいい胸に吸い寄せられていました。
　あの可愛いブラが、それを包んでいるんだよな。
　私が、そんなことを考えるとは、妻も、茜ちゃんも、きっと思いもよらないことでしょう。読みかけの本をダイニング・テーブルに広げても、文字がまったく頭に入ってこないまま、微かに股間が熱くなっている自分をもてあましています。
　妻は、私の身持ちの堅さ、というか、私が他の女性に興味を持たないことを、なぜか、確信しているのです。安全パイってわけですね。まあ、そうでもなきゃ、お年頃の女の子を我が家に住まわせようと思わないでしょうが。
　第一、こんな少女に欲望の視線を向けてしまう自分がいたことに、私自身が何よりも驚いていました。
　それを紛らわすためには、何か別のことを考えずにはいられません。他のこと、他のこと…　　
　あれ、弟君は？
「ああ、ゆっくり入りたいんだって。もうすぐ上がるでしょ」
　ふうん。私も一緒に入って、裸のつきあいをするべきなのでしょうか。
　なんとなく、そういうのもわざとらしくて、動けないままでした。そのうちに、弟君は、のぼせたのでしょう、真っ赤な顔で出てきました。
　ははは、そんなにのぼせるまで入らなくても良いのに。
　そう妻にからかわれながら、ちょっと照れたようにぽりぽり頭を掻く姿は、まだ、本当にあどけない顔でした。

「ねえ、ご飯の前に一つだけ決めておきましょう」
　呼び方の問題でした。
　私たちのことはおじさん、おばさんと呼びなさい。
　妻がそういうと、２人は怪訝な顔をしました。そうです。私のことはともかく、子どもたちにとって、妻は「先生」なのです。
　しかし、近所の手前もあります。
　まさか、この年で、急にこんなに大きな子どもができるとも思わないでしょうが、それなら、なおさら、周囲は気になるでしょう。
　まあ、親戚の子をしばらく預かるというのが、一応のタテマエです。
　で、この子達は、なんて呼べばいいのかな。
「名前で呼ぶのが一番自然でしょ。私はそれになれてるし」
　まあ、そうでしょうけど。
　じゃあ、よろしく、茜ちゃん。圭司君。