第２章　バスルーム

　あっという間に数日たちました。
　生活はすこぶる順調です。
　茜ちゃんは、いろいろと気の付く子で、なにくれとなく家事全般を手伝ってくれます。私の着替えの場所さえちゃんと覚えてしまって、私が出かけるときは、ハンカチをあたりまえのように渡してくれます。
「新婚時代でも、君はしてくれなかったのに」
　妻に向かって笑うと、何よ、といいつつも、うれしそうに応えます。
「やっぱり、お父さんという存在に飢えてたのね」
　しょぼん。まだ二十八歳で「お父さん」か。
　まあ、しかたのないことですけど。
　圭司君の方は、ちょっと意外でした。確かに体を動かすのはあまり得意ではないようでしたが、野球が大好きだったのです。だから、彼の夏休みの一日は、少々離れてしまった地元の公園に、草野球に行くことで始まります。
　本を読むのも好きなようで、特に僕のミステリーコレクションがお気に入り。アガサから、日本の最近の作品まで、ヒマさえあれば、読みふけっています。
　これまでの彼の環境では自由に本を読むこともままならなかったはずです。まるで、飢えた旅人が、差し出されたパンにむしゃぶりつくように、暇さえあれば、本を読んでいます。僕は、その旺盛な読書欲に、ますます、彼が好ましい人物に見えてきました。
　お姉ちゃんは、そんな風だし、弟も、私が好意を持って迎えているのが伝わったのでしょう。大人しいなりに、私へ、だんだんなついてきました。おかげで、我が家は、二人のメンバーを迎えても、少しもギクシャクせずにすんだのです。
　そういえば、いつの間にか、フロは三人で入るのが定着してしまいました。
　妻が茜ちゃんを呼び、弟君は、お姉ちゃんに呼ばれ、というぐあいです。昨日は、呼ばれる前から、圭司君は自分で脱衣所に向かっていました。
　なんだか複雑です。
いいな。
「あら、あなたも一緒に入ったら」
　２人のベッドで、妻がこともなげに言います。どきりとしました。
「僕はちょっと。だって、茜ちゃんが嫌がるでしょ」
「そんなことないと思うわよ、なんであなたは来ないのって、昨日も言ってたし」
　妻にとっては、女らしい線を見せ始めた身体の、あの膨らみかけの胸よりも、教え子という意識ばかりがあるのかもしれません。なによりも、妻にとってはあの年頃の女の子に性的なものを感じるのは異常者に違いないという意識がありすぎるのです。
　もちろん、夫である私が、そんなヘンなものを持つはずもないというのが、妻なりの常識だったのでしょう。
「じゃ、そのうち」
　そういいながらも、目の前にあの成長途中の形の良い胸を見て、平静でいられるか、ちょっと心配でした。もし、こらえきれずに私のものが反応してしまったとしたら、妻にどう思われるでしょう。第一、何よりも、お年頃の、当の茜ちゃんに軽蔑されるのは辛いものがあります。　
　でも、目の前で見てみたいな。で、洗ってあげるぅ、な〜んて言って、偶然みたいにさわっちゃう。いやん、なんて、茜ちゃんの明るい笑顔に、だんだん、ほんのりと赤みが差してきて、遂に恥ずかしい快楽に喘ぎ始めて…
　イメージだけは膨らみます。しかし、そんな大それたことが私にできるはずもなく、私の想像は、きっと永遠に想像のままでしょう。
「それより、あなた…」
「なあに？」
　ちょっと、ためらったあと、いいの、なんでもないと言いながら向こうを向いてしまいました。その背中に、何かしらのためらいというか、悩んでいるのかなと感じましたが、まあ、たいしたこともなかろうと、そのままにしていたのです。
　
　深夜のことでした。妻がベッドからそっと抜け出て行くのに気がつきました。トイレにでも行くのでしょうか。
　しかし、妻はなかなか戻ってきません。トイレの音もしないのです。私は気になってベッドからゆっくりと降りました。
　うっすら漏れてくる光は廊下の先、バスルームの電気でしょうか。
　私が静かな動きでベッドを降りて、そっと廊下を窺うと、脱衣場をのぞき込む妻の後ろ姿が見えました。
　何を見てるのだろう？
　妻を驚かさないように、扉の開く音を静かにさせながら廊下に出ると、妻はハッと振り向きました。
　相当動揺しているようです。妻は目で来ないでと訴えました。しかし、そうもいきません。私が有無を言わせず近寄ると、妻は懇願する目つきで私を押さえたそうな仕草をします。わかった騒がないよ、とサインを送りながら妻に近寄ります。妻がばつの悪そうな表所で目を伏せていました。
　それを横目に見ながら、妻がのぞき込んでいたシーンを、私も眼にすることになったのです。
　圭司君？
　ズボンとパンツを脱ぎ捨てていました。目を閉じ、立ったまま、まだ無毛のなま白いペニスを速い動きでしごいています。まだ仮性包茎の頃の、よくあるやり方で、包皮ごと上下させる幼いオナニーです。
　しかし、そのペニスは、カチンと音がしそうなくらい硬くなっていました。
　まだ、ウインナーとソーセージの間くらいの大きさで、包皮を扱き降ろすと未発達で先の尖った、まだ真っ赤と言っていい亀頭が顔を覗かせます。
　そんな幼いペニスを握りしめ、一心不乱にしごいていたのです。
　あれ？
　左手に持っている白っぽい布地を、時折、鼻に近づけています。妻が今日着けていたブラジャーだということは、すぐにわかりました。もちろん、妻にもわかったはずです。
　ああ、と妻のさっきの動揺が納得できたのです。
　妻の横でのぞき込んだ私と目を合わせず、さっきのばつの悪そうな顔のまま、部屋に戻っていきました。妻のシャンプーの残り香だけが小さな風のように肌に巻き付きます。
　きっと、夜中に偶然起きた妻が、この姿を発見したのでしょう。
　常に良き教育者であろうとする妻は、とっさに、男の子のオナニーを叱って、傷つけるのを恐れたのに違いありません。
　オナニー自体は、別に悪いことではないのですから。
　ただ、その「おかず」が、自分の下着だったことに気づいたはずの妻は、それをどう思ったのでしょうか。
　とっさに、叱ろうとしなかったのは、さすが、小学校の先生だけのことがあると感心しました。しかし、あの真面目な妻が、目撃してしまったのです。
　男の子の、それも、今日まで何度も一緒に風呂に入っている男の子が、自分を性の対象にしながら、オナニーをするところを。
　いったい、どう思ったのでしょうか。
　普通の女性なら、自分の下着の匂いで恋人でもない男にオナニーされることなど、おぞましい限りでしょう。まして、セックスに関して潔癖なところがある妻なら、許せるはずもありません。
　それなのに、自分の下着の匂いを嗅ぎながらオナニーする少年をなぜ見守っていたのか。いいえ、見守ると言うより、さっきの姿は、覗いていたと言っても良いかもしれません。
　そこまで考えて、はたと思い至りました。　
『妻は、このことを今日、初めて知ったのだろうか？』
　果たして、圭司君のオナニーは今晩が最初なのか。そして、最初ではないとすれば、妻が、それを知っていたのかどうか。それが問題でした。
　子どもと一緒にフロにはいるのと、「オトコ」と混浴するのは、わけが違います。
　もし、圭司君のオナニーを妻が知っていたとしたら、自分を性の対象としている「男」と、そうと知りながら一緒に風呂に入ったことになるのです。
　圭司君も、無邪気な振りをしながら、いやらしいオトコの眼で、妻の裸身をたっぷりと眺めていたはずです。
　そういえば、最後に入る圭司君は、必ず、妻と茜ちゃんが上がってから、たっぷりと時間をかけて風呂に入っています。上がってくる時は、いつも真っ赤な顔でした。ひょっとして、風呂から上がる前に、ついさっきまで目の前にあった妻のヌードを思い出しながら、一人でオナニーをしているのかもしれません。
　今だって、こうやって、きっと、妻の入浴姿を思い出しながら、さっき脱いだばかりの下着の匂いを嗅いでオナニーをしているのですから、妻と風呂に入れば、敏感な若いオスはその欲望を我慢することなど、できなくなるに決まっていました。
　もちろん、オナニーを覚えたくらいですから、その若さゆえに敏感な硬直は、簡単に勃起してしまうに違いありません。いえ、目の前に妻のヌードがあれば、必ず勃起するに違いないのです。
　いくら、こういったことにうとい妻にだって、それをわからないはずがありません。　
　勃起した少年のペニスを見て妻は、どう感じていたのでしょう。いえ、勃起した少年の前で裸身をさらしながら、妻は何を考えていたのでしょうか。
　そう思い至った時、下着の中で、ひどく勃起してしまっている自分に気がつきました。
「ああ、せんせい、あ、でる」
　圭司君は、たしかにそう小さくつぶやいて、身体をピンと張りつめます。きっと、若さゆえに、濃厚な白い液体を打ち出しているのでしょう。
　その先端は左手に持った布で覆われています。
　そう、今まで左手に持っていたブラジャーの中に出していたのです。
　心の底から気持ちよさそうにのけ反る圭司君をそのままに、私は何も言わず部屋に帰ることにしました。

「いつ気がついたの」
「おととい。洗濯物から、あなたのと似た匂いがして。変だなって。だって、あの子たちが来てからしてないでしょ。最初は、あなたが自分でしたのかって思ったけど、匂いがちょっと違うの」
「匂いが？」
　そんなに違うものでしょうか。
「うん、なんだか、青臭い匂いが強くて。で、ひょっとしてって思ってたら、その、昨日…　してたの」
「見たの」
「うん」
「ひょっとして、今日の洗濯物にもついてたの？」
「うん、ブラに…」
「そのブラは」
「もう、洗濯して、取りこんだけど」
　やはり、と思いつつも、目の前でため息をついている妻の考えがわかりません。
　だって、今日も、妻は圭司君と風呂に入っているのです。自分の下着でオナニーする「男」と、そうと知った上で、一緒に風呂に入ったことになります。
　その上、男の精がたっぷりと浴びせられた下着を、捨てもせずに、洗濯しただけで着るなんて、潔癖症気味ですらある妻の普段の感覚からすれば、とても考えられない行為でした。
　いえ、妻と言わずとも、普通の女性が、恋人や夫のものならともかく、他の男の精子にまみれたブラジャーを、また身にまとえるものなのでしょうか。
　しかし、何と言っても気になるのは、自分の下着でオナニーをするような「男」と一緒に平気でフロに入るということです。
　圭司君が、妻の裸を目の前にして勃起しないはずもありません。当然、妻は気づいているはずでした。
　勃起している「男」と、妻は平気で何度も風呂に入っているのでしょうか。
　私は妻の考えを問いただそうとしました。
　しかし、一方で、なぜか私の勃起はおさまりません。下着の布地を押し上げながら、苦しい形になっているのを、手を入れて直します。
　妻は私の仕草を見ていましたが、それには何も言いませんでした。
　ただ、しきりに唇を舐める仕草をします。普段はなかなかしない動作です。
　下を向きながら、やっと、ぼそぼそと答えてくれました。
「だって、あの年頃よ。一緒に入りたいっていうのも無理がないと思うの。お母さん、あの子達を置いてっちゃった分、甘えさせて上げたいじゃない」
　それに、と妻は、さらに、声を落として、続けます。
「急にダメって言ったら、あの、ほら、えっと、自分でしてること、私に知られちゃったって気がついて、傷つくと可哀想だもの…」
「平気なんだ？カラダ、見られても」
　何気ない口調で尋ねながらも、私は、なぜなのか、これ以上ないくらい勃起したものを持てあましていました。
「ホントは恥ずかしいのよ。でも、彼が無邪気な顔して、お風呂に入って来ちゃったら、出なさいって言えないじゃない。だから、なるべく早く出てきたけど」
　けど？
「やっぱり、見てたみたい。視線が、まとわりつくの。でも、だからって、あんまり、あからさまに身体を隠せないから、すっごく恥ずかしかったわ」
　やっぱり。
「あのね」
　妻はしきりに髪をいじり、唇を舐めながら、ぼそぼそと続けます。
「お風呂で大きくなってたみたい」
　見たの？
「ううん、でも、湯船にはいるとき、交代する私のお尻にあたったかも…」
　妻は、湯船に入ろうとする圭司君と後ろ向きにすれ違おうとしたようです。確かに、なるべく身を隠そうとするときの、女性の本能的な行動です。
　しかし、それは、男の方からは、女性の目を気にせず行動するチャンスでもあるのです。
　わざとくっつけたかどうかはわかりませんが、きっと、圭司君は、適度に肉が付いて官能的な、形良い妻のお尻をたっぷりと見ることができたに違いありません。
　そして、私しか知らないはずの、柔らかく、弾力性のある妻のヒップの感触をそのカチンと硬くなったペニスで味わってしまったに違いありません。
　つまりは、妻の教師としての「本能」の強さの問題でした。
　オナニー自体が罪悪だとは思っていない妻にとって、教え子の圭司君を傷つけないのが最優先だったのです。そのためには、私にしか見せないいはずの裸を、「男」に見られることも我慢したと言うことでしょう。
　しかし、果たしてそれだけでしょうか。
　相手は、自分の下着でオナニーする「男」です。さっきのオナニーだって、風呂でじっくり見た妻の全裸を思い浮かべながらに違いありません。
　さっき、そのオナニーを、廊下から密かに見つめていた妻の視線が濡れていた気がしました。
「仕方ないのよ」
　もちろん、妻は言い訳します。
　ね、ホントは、あの子がおっきくしているところ、見たんでしょ？
　妻はなかなか認めませんでした。
「ね、見　た　よ　ね？」
　耳の中に息を吹き込むように、もう一度、尋ねると、ああと、淫声に似たため息をひとつ吐き出してから、密かな動きで、しかし、はっきりと、コクリと肯いたのです。
「昨日も入っているし、どうせ、もう見られているんだから」
　まるで、自分自身への言い訳のようにも聞こえました。
　ね、圭司君のオナニーを、見つけて驚いた？
「えぇ」
　ためらいがちですが、目を閉じたままの妻は、はっきりと答えます。声がしっとりと湿り気を含んでいました
「よく、叱らなかったね」
「だって、男の子が、あの、オ…　自慰を覚えるのって自然なのでしょ？だから、そっとしておいて上げなきゃって」
　妻が、ごく自然な動きで、私にくっつきます。胸に、妻の柔らかな膨らみが押しつけられていました。
　くっついた下半身は、妻の両脚が、何気なく、広がっていることを伝えてきました。
　そっと、妻の腰から、左脚へとなで下ろします。妻の肩が、ヒクリと動きます。
　じゃあ、なぜ、さっき覗いていたの？　だって、そっとしておくなら、今日は見に行く必要もないだろ。放っておけばいい。
「だって、なんだか、気になっちゃったの、あん、あなた、やめて」
　パンティーのゴムを、サッとかいくぐらせて、妻の秘所を探っていたのです。
　妻の抵抗は弱々しいものでした。
　さらに驚いたことに、妻の秘所は、信じられないほど潤っていたのです。
　びしょびしょと言っても良いくらいです。
「なんでこうなっているの」
「わからない…」
「昨日も見たんだっけ」
　妻は何も応えません。押さえきれるはずもない私の右手を、服の上から押さえようとしています。
「昨日もこうなった？」
　妻はしばらくためらっていましたが、かすかに、コクっとうなずいたようにも見えました。
「すごいね、これ、こんなになってる」
「あぁ、やめて、お願いよ、あの子たちがいるのよ、ああ」
　しかし、私の手を押しとどめようとする力は、ほとんどありませんでした。
　それでも、やめてと小さな声であらがいましたが、勝手知ったる妻の身体です。ナイトウエア越しに、ピクンと硬くなった乳首を唇でついばみ、柔らかな下着をかいくぐった右手は、ビショビショの秘唇に伸ばし、硬くなったクリトリスにちょんちょんと触れると、あっという間に、力が入らなくなってしまいます。
「あぁ、あなた…　やめて。聞こえちゃうから」
　たいして抵抗も受けずに全てを脱がしてしまいました。聞こえちゃうといいながら、妻も最後には、あきらめたのでしょう。私の手を押さえていた両手は顔を覆い、足をやや広げてしまいます。
　いつになく、敏感になっている様子がひしひしと伝わってきます。
　完全にピンと勃った乳首を、そっと手のひらで転がします。妻の好きな愛撫です。
「ああ、やめて、聞こえちゃう、声が、あぁ、だめよ、あなた、お願い、あうっ」
　言葉とはうらはらに、妻の身体は、完全にセックスを求めている状態でした。足も閉じることができないようです。
　乳首を唇にくわえ、閉じられなくなった両足の間で、ぬかるみを探るように動かします。
「ああ、ああ、や、め、て、あぁ」
　妻の声には押し殺した興奮と淫靡さが隠れています。私は、新鮮な驚きに包まれました。妻がこんなに快感の声を漏らしたのは初めてだったのです。
　まだ出会ったばかりの、学生時代にそうしていたように、ついつい妻の身体から、快感を掘り起こすことに熱中してしまいました。
　そんなことをすれば、妻の身体は、学生時代とは比較にならないほど、格段に熟れています。女性として完成されたその身体に掘り起こされる快感は、私が思っていたよりも遥かに大きくなっていたようでした。
「ああ、もう、ああ、あうう、あんん」
　まだ、理性は残っているようで、懸命に声を抑えようとしますが、止めることはできないようです。こんなに声が漏れだしてしまう妻も初めてなら、必死に声を出すまいとこらえている健気な妻も初めてです。その様子が、とても新鮮で、健気に感じられ、愛おしさがこみ上げてきました。
　そのせいでしょうか、さっきから硬くなっている私の怒張も、これほどになったのは覚えがないほど、硬く、大きくなっていました。
　しかし、ある予感が、挿入をこらえさせたのです。
　ひょっとしたら、もっともっと感じて、淫らになるかもしれない。
　それは、妻と付き合いだして以来の願いだと言っても良いかもしれません。
　乳首を右手でいじりながら身体を起こしました。秘唇の愛撫を喪ったのが、ちょっと不満そうに、腰がヒクンと動きます。
　ゆっくりと妻の顔を膝でまたぐと、上半身を妻の下側に傾けました。
　そう、シックスナインと呼ばれる形です。
「俺のもしゃぶってよ」
　そう言いながら、ゆっくりと頭を逆さに潜らせるようにして、妻の濡れそぼった秘唇に舌を使いました。匂いはほとんど無く、わずかにしょっぱい、私がよく知っている妻のいつもの味です。
「ああ、やめて、おかしくなっちゃうから、声が出ちゃうの、あぁ、やめてぇ」
　何度も舐めないうちから、妻の声がどんどん大きくなります。ぬかるみ具合も、妻の色気のある声も、覚えがないほど激しくなってきます。
「ほら、そんなに大きな声を出すと聞こえちゃうよ。まだ寝てないだろうから、見に来ちゃうかもよ」
「ああ、やめて、おねがい、ああ」
　妻はもはや、自分の声が制御できないようでした。二人を、いえ、違います。おそらくは、圭司君を意識すると、よけいに、淫声が、堪えきれなくなるのです。
「声が我慢できないなら、俺のを口に入れるんだよ。それなら声が漏れないだろ」
　ほら、と顔をまたぐようにした体勢から、硬くなった怒張を口元に突きつけると、突然、ネットリと柔らかくあたたかな場所に怒張が包まれます。妻がおずおずと口に入れたのです。
　初めての本格的なフェラでした。
　もちろん、技巧などなく、ひたすら、歯を当てないようにしてくれるだけでしたが、なんだか必死な様子で咥えるのに、感動すらしてしまいます。初めて味わう、柔らかで温かい感触です。技巧はなくとも、素直に怒張にからみつけてくる舌の柔らかさと、根本まで飲み込むようにしながら肉厚な唇で締め付けてくる感触は、最高と言えました。
　妻に、こんなに気持ちの良い部分があるなんて。
　しかし、このままでは思わぬ限界に、私だけが達してしまいそうです。妻に負けまいと秘唇をさらに激しく舐めることにしました。
　足を広げきっています。膝をやや持ち上げるようにして広げている股間は、見るからに舐めて欲しそうですが、妻が自分からこの姿勢を取るのは見たことがありません。それほど、肉体の中にこみ上げた淫靡な感覚が、せっぱ詰まっているに違いありません。
　薄明かりの中で、しばし、顔を離して妻の秘唇を見つめます。秘唇に突き刺さる視線が妻にはわかるのでしょう。私を含んだまま、妻がくぐもったうめき声を上げます。
　けれども、両脚を閉じようとするそぶりさえ見せません。
　クリトリスは、ぷっくりと顔を覗かせ、いかにも舐めて欲しそうです。そして、入り口は、と見れば。
　びっしょりと濡れています。寝室のぼんやりした明かりだけでは見えない、尻の間の闇の方にまで、妻の愛液が微かな光を受けて光っていました。
　おもむろに、再び顔を近づけ、ヌルッとした入り口に舌を入れて、妻の蜜を味わいます。私のものを口に入れているのに、妻のむううっという、くぐもった声が寝室に響いています。それは抗議の声ですらなく、快楽に悶える声そのものでした。
　このまま、飲ませてみたいという欲求は確かにありました。しかし、一度出してしまえば、すぐに回復できるかどうかわかりません。結婚以来、一晩に二度以上したこともないし、今では、週一度あるかないかなのです。自分の回復力に、自信など持てるはずもありませんでした。
　このまま出すべきか、飲ませるべきか。
　しかし、結局、悩むまでもありませんでした。妻が早すぎる限界を超えたのです。
　セックスを覚えたての頃のように、いまだに妻の膣は狭いままです。そこに舌をねじ込むと、急に全身に力が入って、私を一瞬持ち上げるような動作をしました。
　ヒクン、ヒクンと妻の身体がケイレンします。
「あ、ふぅぐぅ…」
　私のものでふさがれたままの口から、淫声が漏れます。それでも、懸命に私の怒張に歯を立てまいとしてくれたのだけは分かりました。　
　あっさりと達してしまったのです。こんなに短時間で達したのを見たのは初めてです。　いつになく早い、そのくせ、かなり大きなオーガズムを迎えた妻は、私の下で、ゆっくりと力なく崩れていったのです。