２．−−子供の前で「真樹」−−

　恵子はスポンジに泡を立て汗でべとついた体をシャワーと共に洗い流していた。先ほどのオナニーで汚してしまった股間は手に泡をつけて優しく手入れをした。
　体中の泡をシャワーで流したあと、自分の背後を鏡に映し、背中とお尻にあった、鞭の跡が綺麗になくなっていることに寂しさを感じた。
「もう、一ヶ月近くになるものね。吉岡さんが行方不明になって。」
「仕手戦で私が吉岡さんを支えていれば、あの人は今も私の背中に鞭を振り下ろしてくれたんだろうな。」
　バスタオルで体を拭きながら、恵子はそんなことを考えていた。
「もう、すぐ思い出してぇ。こら！！」
　恵子は、自分で自分のお尻を「パチン」っと叩き吉岡のことを思い出す自分にお仕置きをした。

　全裸の体に白いシルクのガウンだけを体に羽織り腰の紐を締めずに寝室に向かった。寝室に入るとダブルベッドの上に腰掛け、目の前のベランダに出る窓のカーテンの隙間をぼんやりと眺めてた。
「隣の男の子・・・。」
　ベッドに座った反動でガウンの前がはだけ、丈の短いガウンが更にまくれ上がり、太ももから露出している自分の足を見つめながら恵子は小さい声でつぶやいた。
「Ｈな格好して。私、また、やっちゃうんだろうな。彼への誘惑・・・。」

　恵子は昨日、今日と同じようにシャワーを浴びバスタオルを体に巻いただけの格好で、寝室のドレッサーの前に座り、髪をブローし化粧をしていた。ふとドレッサーの三面鏡に映る自分の横顔を見ると、鏡の中にカーテンの隙間から誰かが覗いて姿が映っていた。
「えっ。」
　悲鳴を上げそうになったが、覗いている相手の顔を見て直ぐに誰だか理解できたため、なんとか落ち着くことができた。
「隣の子・・・」
　恵子は相手に悟られないように横目で、覗いている相手をドレッサーの鏡で再確認した。
「間違いないわ。隣の男の子。」
「覗かれてる。」
　恵子は頭の中が真っ白になり、無意識の内にクローゼットの扉を開け、中の引き出しから下着を取り出し、寝室の外へ逃げるように飛び出し、寝室の扉を急いで閉めた。そして扉に背を向けその扉にもたれかかった。恵子は恐怖で膝が震え立っていることも容易ではなかった。

「あの隣の子、毎朝ゴミ出しするときに明るく挨拶してくる子でしょう。」
「いつも、ブレザーの制服を着ていたから高校生位でしょ。」
　恵子は覗いていた相手が少なからずも知っている人間であることに気づくと少しづつ落ち着きを取り戻した。なによりも自分より１０才以上も年下の子供であることが、安心感を増幅させた。
「それよりも、これからどうしよう。」
　恵子は床にしゃがみ込むと、寝室の扉に背中をあずけ膝を抱えて悩んだ。膝を抱えた手には、ショーツを一枚握りしめていた。白いレースで縁取られたシルクのハイレグタイプのＴバックだった。
「寝室から逃げ出すときに持って出たのね。」
　恵子は目の前でショーツを広げて見つめながらため息をついた。
「こんなＨな下着、いくら高層マンションだからってベランダに干したら、隣の彼からは丸見えよね。」
「ましてや、こんな下着を着けてる私を、彼は知ってるんだもん。覗いて実際に着けている姿を見たいと思っても仕方ないわよね。」
　恵子は以前、友人から借りたＡＶ「隣のお姉さん」を思い出し苦笑した。
「彼から見れば、私は年上のやさしそうなお姉さんなのかな。」

　恵子はこれまで年上の男性しか知らなかった。特に銀座でホステスをしていたころは自分より二回りも年の離れた男性を相手にしていたので「隣の男の子」は新鮮であり、いつのまにか恵子の頭の中では「男の子」から「彼」に代わっていた。

「誘惑」
　頭の中にこの二文字が浮かんだ。そして、心臓の鼓動が高まり興奮していることに気がついた。目を閉じると、吉岡の姿が彼に代わり、自分が彼に奉仕している姿が目に浮かび、恵子は慌てて目を開けた。
「何を考えているの。」
　しかし、恵子にとって彼は、既に「株」以上に刺激的な対象となっていた。
「ほんの遊び。心配することは何もないじゃない。」
「それに、着替えは寝室のクローゼットにしか置いてないし、入らなければ私はずっとバスタオルの格好のままよね。」
　恵子は自分に言い聞かせ立ち上がった。そして緊張した手で扉を少しづつ開いた。恵子はそのとき、彼も逃げてしまっていることのほうが、逆に心配になっていた。

　寝室に入ると何事もなかったようにドレッサーの前に腰掛けた。そして、ヘアースタイルを整え、化粧を続けた。化粧を続けながらドレッサーの鏡で彼が覗いているか横目で確認した。彼は、もうベランダにはいないようだった。カーテンの隙間から彼は覗いてはいなかった。恵子は少しがっかりしたが正直これで良かったと安心した。
「そうよ、これでよかったのよ。」
　恵子は化粧が終わり着替えるために、先ほど握っていたショーツを手に持ち、椅子から腰を上げクローゼットの前に立った。クローゼットの扉は開けっ放しになっていた。さっき慌てて、閉めるのを忘れたことは容易に想像できた。クローゼットの中の、これもまた開きっぱなしの引き出しから、ショーツとおそろいのブラを取り出すと、それを胸に当て扉の内側の鏡で自分の胸元を映した。ドキッとした。恵子は心臓が口から飛び出しそうになるほど驚いた。彼が覗いている姿が鏡に映っていたからだ。しかし恵子の頭の中は冷静だった。逃げ出すどころか、いつもと変わらないしぐさで着替えを始めた。隣の彼が覗いている前で。

　恵子はバスタオルを巻いたまま、お尻が捲くれないように慎重にショーツを身に着けた。
　そしてバスタオルを外しあっさりと床に落とした。彼の目には、鏡に映った恵子の正面の姿と後姿の裸体が映っているはずだ。恵子は身震いするほと興奮していた。
「見て。もっと見てちょうだい。」
　恵子は心の中で彼にお願いをしていた。そして、鏡を通して恵子のＤカップの乳房を彼に見せつけるように、ゆっくりとブラを着けた。
「本当は振り返って、あなたに全てを見せたいの。見てもらいたいの。」
　恵子は鏡の中の彼を探した。彼は真剣な眼差しで恵子を見つめていた。恵子は無意識の内に目を閉じて指をブラの谷間から挿入し乳首をそっと愛撫した。
「はぁぁ・・・。」
　ため息に近い声が恵子の口から漏れた。そして、おへそのあたりを押さえていたもう片方の手が次第に下へ降りていき、その手はショーツの中へと侵入した。両足もこれにあわせるように少しだけ開いていた。
「あぁぁ・・・。見て。私触ってるの・・・。お願い、見て・・・。」
　恵子の指はショーツの中で生き物のように動いていた。恵子は感じていた。足がよろめき目を開けた恵子は、鏡の中の彼と目と目が合ってしまった。恵子はハっとして我に返り急いで洋服を取り出すとクローゼットの扉を閉め寝室を後にした。恵子は洋服を抱きしめながら彼の前でオナニーをしてしまった淫乱な自分に罪悪感を感じた。
「彼はまだ子供なのよ。」
「子供の前であんな姿を見せてしまうなんて・・・。」
　恵子は自分の行為を思い出すと鼓動が早くなり興奮した。これ以上の興奮は経験したことがないほど官能的であった。この興奮は恵子の倫理観を簡単に壊し、彼の奴隷になりたいと真剣に思っていた。

（つづく）