−−娼婦「真樹」−−

「今日はどこまで見せつけてしまうのかな。」
「私の秘密も全部・・・・。」
　恵子は正直、エスカレートする自分が心配だった。昨日のことを思い出すと興奮し何も手につかなかった。そして、絶えず頭に思い浮かぶことは、吉岡と彼をダブらせて、彼の前にひざまづき、彼に弄ばれる自分の姿だった。年下の子供に制服され逆らえず、自分から頭を下げて哀願してしまう屈辱感は、吉岡のそれとは比べ物にならいほど興奮した。さらに、自分が年下の子供に溺れる敗北感は、想像しただけで自然と足が開き、手が下着の中へと導かれた。

　今、恵子が身に着けているシルクのバスローブは紐を締めず前がはだけた状態になっていた。乳房はかろうじて隠れても、ヘアーは丸見えだった。しかもベッドに腰掛けているため、なおさら捲りあがり露出度は相当なものである。また、恵子は吉岡と関係している間、定期的に服用していた避妊薬を、昨晩から再び服用していた。

「Ｈな格好して・・・。」
　恵子はドレッサーの鏡に映る自分の胸元に目を落としながらつぶやいた。
「私、また、やっちゃうんだろうな。彼への誘惑・・・。」
　恵子は彼とのＳＥＸも期待していたし覚悟もしていた。もし、彼とＳＥＸしたときに避妊具などつけたくない。彼が夢中で放出したものを全て受け止めたい。吉岡のときとは全く違う理由で避妊薬を服用していた。

　恵子はドレッサーに場所を移し化粧を始めた。
「彼くらいの年頃の子ってどんな女性に憧れるんだろ。」
「丸の内に勤めてるＯＬさんみたいな女性？それも、学校の女教師？」
「やっぱり隣のお姉さん？」
「ホステスなら自信あるんだけど。」
　恵子は笑ってしまった。
「ＯＬや女教師ってどんな化粧をするの？」
「ＡＶでみた隣のお姉さんは、キャバクラの女の子みたいだったし。」
　しかたなく、恵子はいつもどおりに化粧をして美しい顔立ちの上に妖艶美を加えた。

　カーテンは昨日のまま、少しだけ隙間ができていた。恵子はベッドに行くと、ベッドサイドのスイッチを押下した。カーテンが電動で少しづつ中央から左右に開いていく。恵子は開いていくカーテンの動きを目で追いながらカーテンが全開する前に、スイッチを再度押下した。カーテンは途中で止まり左右５０ｃｍ程度の幅でまとまっている。カーテンを全て開けると彼がベランダに侵入したときに隠れる場所がなくなってしまう。恵子は彼のために５０ｃｍ程の隠れる場所を作った。窓からは、南からの夏の日差しで、部屋が南国のコンドミニアムのリビングルームように明るくなった。

「まぶしい・・・」
　彼のことを考えるのに少しだけ疲れた恵子は、明るい日差しを浴びて少しはしゃぎたくなった。
「外の風・・・。気持ちよさそう。」
　恵子はベランダに出ようと思った。そして、乱れていたバスローブを整えベッドから腰を上げた。そして、腰の紐を結ぼうと思ったが手を止めた。
「ちょっとだけ、冒険・・・。」
「周辺には、同じ高さのビルもないし。絶対に誰も気がつかない。」
　恵子はバスローブをはだけたまま、窓を開けて裸足でベランダに降り立った。

　東京湾からの風が恵子には心地よかった。風になびく前髪を片手で押さえベランダに立ち、遠くを見つめている恵子は美しかった。そして、風は恵子のバスローブもなびかせ、恵子の乳房はもちろん、風は恵子の裸体全部を太陽の日差しの前に晒した。恵子も風に、されるがまま、無抵抗のまま風を受入れていた。

「気持ちいい・・・。」
　恵子は既に、彼がカーテンの裏に隠れていることを心の中で期待し興奮していた。もし、自分の後ろに、彼がいたらどうしようか。鼓動が高鳴り、ゆっくりと後ろを振り返ったが、彼はいなかった。

　少し落胆した恵子は隣の部屋の方へ近づくと、はだけたバスローブを着物のように左右を重ね合わせ、片手でバスローブが乱れないように押さえた。もう片方の手で、手すりを掴み体を支えながら、少しだけ外に身を乗り出して隣のベランダを覗いた。
「あの子、こんな危ないところを乗り越えてくるの？」
　下を見ると足がすくんでしまうため、なるべく見ないようにした。

「誰もいないわよね。」
　隣のベランダには洗濯物が干され風になびいていた。そこに、学校の体育の授業で着る体操着が干してあるのを見つけた。
「彼の体操着かな。」
　体操着の背中にはクラスと氏名が書かれた布が縫いこまれていた。
「２年Ｆ組、斉藤真樹。」
「真樹君っていうのね。」
「どこが真樹君の部屋かな。」
　恵子は更に身を乗り出しながらベランダの奥のほうを覗いた。
「私が手すりを乗り越えて真樹君の部屋に行っちゃおうかしら。」
　恵子は冗談のようにつぶやいたが、行けるなら本当に行きたいと思った。しかし、体操着なんか見てしまい、相手は、まだ高校生の子供であるという現実を目の当りにして、少し切なくなった。
「そうよね。あの子は・・・。」
　恵子は寝室に引き返した。窓を閉め部屋に戻りドレッサーの前に腰掛けた。寝室も静寂な空間へと戻り恵子の気持ちも沈んだ。

「無理よね。高校２年生といえば１６か１７でしょ。」
「私とは年齢が一回りも違うし・・・。」
「それに、真樹君は未成年・・・。」
　恵子は悩んだ。恵子が真樹に望んでいるのは相思相愛の純愛ではない。純愛なら赦されるかもしれない。しかし、恵子が望んでいるのは純愛とは程遠いアブノーマルな関係なのだ。この過ちともいえる関係は絶対に赦されるわけがなかった。恵子はそれ以前に、彼が自分を受入れていくれるか不安で一杯だった。
「私の秘密を知ったら、彼は怖くなって逃げ出すかもしれない。」
　恵子はもう、考えるのが嫌になった。ドレッサーのテーブルの端にうつ伏せになっていた恵子は、頭を上げて鏡を睨みつけた。

「なによ、その顔・・・。」
「まるで、場末の娼婦のように、もの欲しそうな顔して・・・。」
「そんなに真樹君に溺れちゃったの・・・。」
　恵子は鏡に映る自分に話しかけた。
「なら、簡単じゃない。あたは娼婦なんだから・・・。」
「相手に求めるのはお金だけ。そうでしょ。」
「実際にホステス時代は、売上のために、たくさんの客と寝てきたじゃない。」
「吉岡ともそうでしょ。」
　恵子は、側に置いてあったバックから財布を取り出し、中から紙幣を全部取り出して、鏡の自分に投げつけた。
「これだけ払えば満足でしょ。あなたは、拒否することはできないの。」
「これで、あなたは、客が求めればどんな要求も受入れるのよ。」
「今日のお客は、隣の未成年の男の子。名前は斉藤真樹君」
「お金を払ってくれれば、誰でもただのお客。それだけのことでしょ。」
「真樹君の要望は、あなたを性奴隷として扱うこと。」
「真樹君の前に平伏して、その子の命令に従いなさい。」
「あなたは、お金を受け取った娼婦なんだから。真樹君に逆らうことなんて許さない。」
「昨日みたいに逃げちゃだめよ。逃げたら許さないからね。」
「あなたは真樹君の前で、すべてを曝け出しなさい。」
「体はもちろん。あなたの秘密も全て・・・。」
「そして、真樹君に、たくさん泣かせてもらいなさい。」
「あなたは、真樹君に買われた、おもちゃなんだから・・・。」
　恵子は催眠術をかけるように、自分の人格を心の奥へと追いやった。そして娼婦という別人格が恵子の全てを支配した。そして、心の中にあった罪悪感から解き放たれた恵子は、彼に奉仕でき服従できることに身震いするほどの官能の喜びを全身に感じていた。

「さあ、支度をするの。真樹君に、恵子を地獄の快楽へと誘ってもらうための道具を。」
　恵子は、クローゼットの下から吉岡が置いていったバックを引っ張り出した。バックの中には、淫靡な世界へと突き落とし、恵子に絶対服従を誓わせるための道具が入っていた。

（つづく）