−−告白「真樹」−−

　外からの南風が、優しく目覚めさせるように、ベッドにうつ伏せに横たわる恵子の裸身を、そっと撫でていった。
「気持ちいい・・・。」
「風？・・・。　どこから？」
　恵子は、意識が少しづつ蘇り、風の心地良さと、まだ体の中に残る、わずかな余韻を楽しんでいた。なぜ、風が吹き込むのか疑問には思ったが、まだ、頭が稼動することを拒んでいるのか、どうでも良いことに思えた。そんなことより、もっと余韻に浸りたい、そう思い枕に顔を埋めた。

「真樹君が見てたら、どうなったんだろう・・・。」
　そう、思ったとき、部屋に風が入ってくる疑問と真樹というキーワードが連鎖しドッキとした恵子は、反射的に両手で上体を起こし、反り返るように、肩越しに振り返った。

「ま、真樹君！！」
　恵子は喉から心臓が飛びでるかと思うほど驚いた。真樹が、窓を細めにあけてカーテンの陰に屈みながら、部屋の中を身を乗り出すように覗いていたからだ。
　真樹は恵子の言葉を聞くと、自分が何をしでかしたのか気が付き、恐ろしくなったのか顔面が蒼白になった。

「ごめんなさい。ごめんなさい。」
　真樹は恵子に謝ると、膝まで下ろしていたパンツとスエットのハーフパンツを急いでたくしあげると自分の部屋に逃げようとした。

「待って。待ちなさい。」
　恵子は慌てて声をかけ、逃げようとする真樹を呼び止めた。真樹はベランダの手すりの所で足を止めた。
「だめよ、そこから動いちゃ。あぶないから、絶対だめよ。」
　恵子は、真樹が立ち止まっていることを確認するとベッドから降りて、床にあったバスローブを急いで羽織り、前を重ねて腰紐を巻き、ベランダの真樹のもとへ駆け寄り手を掴んだ。
「そっちは危ないからだめよ。とにかく中に入って。」
　恵子は、真樹の手をつかみ、寝室まで連れ戻し、真樹にベッドに座るように優しく即した。真樹は、一瞬、恵子の表情を見たが、すぐに下を向き、黙ってゆっくりと腰を下ろした。真樹は怯えた表情で、足の上で握りしねている両手を震わせていた。

　恵子は真樹の横に腰を下ろし、真樹の震える手の上に自分の手を優しく添えた。そして、母親のような優しい表情で真樹を見つめながら、真樹の体をそっと抱き寄せた。
「心配しなくていいから・・・。」
「私もこのことは秘密にするから・・・。今日のことは、二人の秘密・・・。」
「きょ、今日のこと・・・、秘密にしてくれるんですか？」
　真樹は、恐る恐る顔を上げると、少し安心した表情で恵子の顔を見上げた。
「うん、真樹君も、今日見たことは絶対にしゃべってはだめよ。」
　恵子も真樹の表情を見て安堵した。しかし、安堵した瞬間、真樹に全てを見られていたという事実を悟らされ羞恥心が体中を駆け巡り、胸の鼓動が高鳴った。

「真樹君・・・、今日はいつから覗いていたの？」
　真樹は、しばらく黙っていたが、それでも、恵子の目を見ながら答えた。
「す、すみません・・・。自分が覗いたときは・・・。お姉さんは・・・。」
　恵子は、優しい表情で真樹の顔を覗き込むようにして、真樹の坊主頭を撫でた。
「謝ることはないわ・・・。なあに？言ってみて。私はなにをしてたかしら？」
　真樹は、顔を真っ赤にしていた。
「赤い・・・、赤い首輪を嵌めてました・・・。」
「そう・・、そこから見てたの・・・。」
　恵子は、これから告白する内容に陶酔していった。
「今・・・、、私がしている、この赤い首輪ね・・・。」
　恵子は、真樹の手を取って、自分がしている首輪のところに真樹の手を導いた。
「この首輪・・・。真樹君に嵌めてもらうところを想像して・・・、自分で嵌めたの・・・。」
　真樹は、意味が理解できなという表情で恵子を見つめ息を呑んだ。
「私は、真樹君に飼われる飼い犬になったところを想像していたの・・・。飼い犬としてご主人様である真樹君に絶対服従を誓っていたの・・・。理解できる？」
「絶対服従？」
　真樹は、頭を上げ、思わず口に出した。
「私があのとき、口にしたこと聞こえた？」
　真樹は、首を横に振った。
「ぜ、全然聞こえませんでした。　窓が閉まってたし・・・。」
　真樹の目は、自分は絶対に嘘はついてませんと訴えていた。恵子は、このクライマックスともいえる状況に胸は張り裂けんばかりに高鳴り陶酔していた。そして、沈黙のあと、恵子は告白を続けた。
「今日から・・・　あなたの・・奴隷となる・・・恵子です。　そう言ったの・・・。」「ど、奴隷・・・？」
　真樹は目を見開いたまま奴隷という言葉を口にした。恵子は、真樹の前で、羽織っていたシルクのバスローブを脱いで床に下りると、両膝を整え正座した。そして、手を膝の前に置き、深々と頭を下げ、真樹に、ご挨拶した。
「今日から・・・　あなたの・・奴隷となる・・・恵子です。」
　恵子は、そのままの姿勢で続けた。
「私は、こういう女なの・・・。」
「あとは、あなたが見たとおり・・・。そこに落ちているバイブを・・・。」
「あなたの・・・、あそこだと思って・・・。オナニーしてたの・・・。」
「驚いたでしょ・・・。」
　恵子は、頭を上げ、哀願するかのような目で真樹を見つめた。

　真樹は、絶句し言葉が出なかった。全裸の年上の女性が「奴隷」や「絶対服従」の言葉を発し、目の前で自分の奴隷にしてくれと言っているのだ。しかも真樹が見た、恵子のオナニーは自分が相手・・・。この異常ともいえる状況下と、恵子の全裸は、真樹を極限まで興奮させ、目は恵子の乳房を一点に見つめていた。

「あなたを挑発したのは私なの。」
「だから、あなたが今日、覗きにきたのは、元々は私が悪いの・・・。」

　恵子の言葉に我に返った真樹は、乳房を見つめていたことを恵子に知られたと思い、恥ずかしさに困惑し目のやり場にこまった。恵子は、話を続けた。

「昨日も覗いていたのは分かっていたの。」
「最初は驚いて部屋から逃げ出したんだけど・・・。」
「からかい半分で・・・。ゲーム感覚であなたを誘惑したの。」
「だから、あなたの前で・・・。　あんな風に下着姿になったの・・・。」
「もし、あのとき、私が悲鳴を上げて逃げ出したら、きっとあなたは今日、こなかったでしょ・・・。」
「今日だって・・・。」
「あなたがベランダで覗いてくれることを待っていたの・・・。本当は・・・。」
　真樹は、「えっ」という表情をした。
「本当よ・・・。だから、覗きやすいようにカーテンだって開けておいたの。」
　恵子は、恥ずかしさで真樹の目を見ていられなくなり下を向いた。
「私、あなたの名前まで知ってるわ・・・。　斉藤真樹君・・・。そうでしょ・・・。」
　真樹は、予想以上に驚いた表情をした。
「今日、真樹君の部屋のベランダを覗いて、干してある体操着に、名前が書いてあるのを見つけたの・・・。」

　真樹は、そんな話しはどうでも良いと言わんばかりに、話を遮り恵子に尋ねた。
「お姉さん、どうして自分に・・・。　自分の奴隷になりたいんですか？」
　恵子はハッとして真樹の顔を見上げた。恵子は胸が張り裂けそうになった。次に自分が発する言葉で恵子は完全に真樹の前に奴隷として屈服しなければならないからだ。

「真樹君を愛してるから・・・。」
　恵子は、追い詰められた小動物が、助命を哀願するような弱々しい目で真樹を見上げた。
「じ、自分を？」
　真樹は、恵子の告白が信じられなかった。真樹の口からでる言葉は支離滅裂で、自分でも何を言っているのか、分からないくらい動揺していた。
「じ、自分は、童貞じゃないけど、彼女と別れて・・・、あっ、Ｈは大好きだけど。」
「じゃなくて、ＳＭも知ってるけど、あっ、やったことはないですけど。」
「でも、インターネットで、毎日、ＳＭのサイトは見てます。」

　恵子は支離滅裂にしゃべる真樹の前に膝立ちになり、そして、真樹の手をとり、自分の乳房を手の平で覆わせた。真樹は、口をあけたまま唖然となり、しゃべることを止めた。
「真樹君がインターネットで見たとおり、私に命令すればいいの・・・。」
「命令って・・・。本当なの？」
　恵子はベットに座る真樹にゆっくりと顔を近づけ、目をつむり唇を重ねた。そして、一旦、唇を離すと耳元で囁いた。
「試して見て・・・。」

（つづく）