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Ⅱ－５
【快楽の二重否定】
何十分間していただろうか。オレはやっと彼女の恥部から口を離し、指を抜いた。右手も口の回りも、彼女の愛液でベトベトになっていた。
（いや、それだけじゃなくて、もらしちゃったのか？）
彼女を見ると、さきほどのあおむけからいつのまにか横向きになっている。両腕を胸の前で合わせ頬をソファーの背もたれに押しつけながら、グッタリとしていて、ときおり身体をビクビクと引きつらせている。
オレは彼女を再びあおむきにした。ソファーに浅く腰かけそのままずるずると下にずれていったような姿勢で、頭だけが背もたれにかかっているので顔はこちらを向いている。
「奥さん、気持ちよかったでしょう。何回くらいイキました？それともずっとイキっぱなしでした？」
彼女は顔をそむけたまま言った。
「イッたりなんかしてません...」
言いながら、あまりに白々し過ぎるとでも思ったのか、途中から消え入りそうな声になり、最後はほとんど聞こえないくらいだった。
「すごく気持ちよかったでしょ？」
さすがに否定できず、彼女はただ黙っている。
オレは彼女の脚を持ち上げながらふと面白い考えが頭に浮かんだ。
「奥さん、ところで先ほどの件、ほら画像掲示板にアップしない代わりに・・・」
彼女ははっとしたようにこちらを向いた。
「全裸で駅前を歩いてもらうってはなしですけど・・・」
オレはわざと少し間をおいあと、はなしの方向を変えた。
「奥さん、ダンナさんとやるときイッたふりしますよね？」
彼女の目が狼狽していた。応えざるを得ない状況で夫婦の秘め事について質問されたからだろう。
「それとも、毎回、そんな必要ないほどイカセテもらえますか？」
今までの彼女の言動から察してその可能性は低いだろうと思い、彼女の反応を待った。すると彼女はついに腹をくくったのか、目をつぶってゆっくりと首を横に振った。
「じゃ、やっぱり、イケなかったときはイッタふりをするんでしょ？」
彼女はまたゆっくりと横に首を振った。
「じゃ、ベッドの上で正直に無反応なままなんですか？」
彼女はとまどいながら、今度はうなずいた。
「ダメですねぇ、セックスのときは男性の努力に敬意を表して、感じてなくても感じているフリをするもんなんですよ。」
彼女は少し目を開けてこちらを盗み見た。顔に当惑の表情が浮かんでいる。
「というわけで、奥さんにしてもらうことですが・・・感じているフリをしてもらいましょう。」
彼女はやっとこちらを向いた。オレが過酷な要求をしてこなかったからホッとしたのだろうか？オレは分身の先っぽを彼女の下の口にあてがいながら続けた。
「いいですか、奥さん、愛しあう二人が愛のあるセックスをして、気持ちよくてたまらないっていうような演技をするんですよ。わかってますね？」
「あ、はい。」
「いやなら、駅前で露出プレイでもいいんですよ。どっちがいいんですか？」
「こっちの方がいいです・・・」
彼女は慌てて答えた。
「こっちってどっちですか、はっきりと言ってください。」
「感じてるフリの方です・・・」
すこしモジモジとしてからそう言った。
そこまで言わせてからオレは自分の分身を半分くらいまで彼女の中に沈め、そしてまた入口のところまで引き戻した。その浅い範囲だけで出し入れしてみる。
さんざんクリトリスを刺激されたあと、やっと挿入かと思ったらすこしじらされて、彼女の中は期待で熱くなっていた。湿り気も充分過ぎるほどで、亀頭のくびれが彼女の下の入口をくぐるたびに、くちゃくちゃとひわいな音を立てる。
「奥さん、気持ちいいですか？」
これくらいの刺激ではまだ物足りないくらいだろう。でも敢えて訊いてみたら、彼女はセリフを棒読みするような口調で答えた。
「気持ちいいです。」
彼女の顔に何とも表現しがたい複雑な表情が浮かんだ。羞恥、屈辱、安堵、不安、、、いったいどのような感情がその奥に渦巻いているのだろうか？
「演技がヘタですねぇ。もっと感情をこめて言ってもらわないと。」
そう言いながらすこし深めに分身を差し込んだ。彼女は一瞬息をのんだ後、、、
「き、きもちいい、、、」
と言った。オレは出し入れをかなり浅めにして続けた。
「じゃ、次はどうして欲しいのか言ってもらいましょうか。どうして欲しいですか？」
彼女はオレが何を言わせようとしているのか理解したようでモジモジとはするが、なかなかセリフがでてこない。
「ほら、みほ、言ってごらん、どうして欲しい？」
オレも付き合って恋人のような言い方にする。
「奥までちょうだい...」
消え入りそうな声で答えた。オレはかがみ込んで彼女の耳元でさらに、、、
「何をどこの奥まで、どういうふうにして欲しいんだ？」
「ああ... わかってるくせに、いじわる言わないで。」
彼女が甘えた声で言う。うまい言い逃れだ。もうすこしいじめてやろうかとも思ったが、オレももうそろそろ入れたくなってきた。これぐらいで手を打つべきだろう。
「じゃ、奥まで入れるよ。」
オレは身体を起して、それからゆっくりと彼女の中にペニスを沈め始めた。
＊ ＊ ＊
「奥までちょうだい...」
みほはやっとの思いで男の要求しているセリフを口にした。全身がカッと熱くなる気がし、それから自分の体が思わぬ反応をしているのに気づく。
（ううう、奥がむずむずする・・・）
“むずむず”という表現では言い表わせない感覚だった。むずがゆいような、ほてるような、しびれるような、、、明らかに身体が挿入を待ち望んでいた。今までくすぶるように静かに灯っていた種火が、男から無理やり恥ずかしいセリフを言わさたことで一気に大きな炎と化してしまった。
ところが男が沈めてきたのは下半身ではなく上半身だった。両手を耳のところに持っていき、ほほを合わせ、指先で耳をもてあそぶ。それから口を耳に近づけ、息を吹き掛けるように低い声でささやく、、、
「何をどこの奥まで、どういうふうにして欲しいんだ？」
（ペニスを、、、ワギナの奥まで、、、入れて、、、）
頭に質問の答えが思い浮かんだだけで全身の血液が逆流したような気がした。
「ああ...」
（どうしたらいいの、そんなことゼッタイに口にできない）。
「わかってるくせに、いじわる言わないで。」
とっさに思い浮かんだセリフをできるだけ思いっきり甘えた声で言うと、思いがけずそれは有効な返事だったようだ。
男は上半身を起し言った。
「じゃ、奥まで入れるよ。」
そしてゆっくりと、今度は下半身を沈めてくる。
「んんん、、、」
思わず、腰を浮かして出迎えたいという衝動に駆られる。
（みほ、しっかりして。感じちゃダメ。）
しかし、そのとき男の動きが止まった。そして、スッと肉棒を彼女の入口にまで後退させる。
「あ、それから...」
みほはうらめしそうに男をみた。
「黙ってイってはダメだから。ちゃんとイク！って言うんだよ。」
彼女が黙っていると男は浅く出し入れして返事を求めてくる。
「いいね？」
他に選択肢はない。
「はい」
そう答えた。男は再度、分身を沈めてくる。まるでこごえた手を暖かいお湯に浸したときのような、じんと痺れる感覚が背筋を駆け登ってくる。そしてついに男のものは根元まで収まった。
「きもちいい？」
（きもちよくなんかない！）
「あん、気持ちいい」
自分のあそこがヒクヒクとなっているのがわかる。
「もう一回言ってごらん」
（だめ、感じてなんかない）
「すごく気持ちいいよ」
男は浅瀬で５、６回出し入れして、またゆっくりと最深部まで戻ってきた。下半身が持ち主の制御を離れて暴走する。
「自分でもわかる？今、愛液がじゅんって溢れてきたよ。」
男がじっと目を見ながら言う。
（ああ、どうしよう？ヘンになっちゃう。）
「いやん、恥ずかしい」
男の期待通りの反応なんだろうが、他にどのように言えばいいというのだろう？
それを聞いて男がさらに奥へと下半身を押しつける。みほは自分がガマンの限界にあることを悟る。
（ダメ、ダメ、入れられてすぐイッちゃうのはイヤ！）
みほの意思を無視して快楽の洪水は堰を越えてあふれ始める。
（隠そうとしてもバレちゃう、でも「イクゥ」なんて言えない・・・）
どうしようか決められないまま愉悦は堰をきって氾濫し始めた。みほは、ピンク色の靄のかかった意識の中で、ビデオに写っていた自分の姿を思い出していた。
（隠してもイッタってこと、きっと、バレちゃう....）
声が出ないように呼吸さえ我慢して、からだの痙攣を懸命に隠した。
＊ ＊ ＊
いつの間にかギュッと目を閉じていた。呼吸が激しくなりそうなのを我慢しながら、みほは目をあけた。
「約束と違いますよ。」
男はすかさず、身体を繋げたままそう言った。彼女は恐る恐る相手の顔を見たが、幸い怒らせてはいないようだ。思いっきり甘えた声で言った。
「ゴメンなさい、だって恥ずかしかったんですもの。」
男はキスをして許しの意思表示をしたが、代わりに彼女が予想もしてなかったことを言いだした。
「そんなに恥ずかしいなら、今度からイクときは、代わりに『あいしてる』って言ってもらおうかな」
（うそ...）
彼女は自分の耳を疑った。恋人たちが愛を交わしながら「愛しているよ」だなんて言いあうなんて、外国映画の中だけで、自分にはまったく縁がないと思っていた。実際、独身時代にも結婚してからも、そんなこと言ったことがないし言われたこともない。
彼女が黙っていると、男はさらに続けた。
「じゃ、試しに今、言ってみて...」
彼女は男の顔をみる。相変わらずの作り笑いをうっすらと浮かべた表情だが、冗談を言っているわけではないことはわかる。「駅前を裸で」という男のセリフを思い出す。思わず目をそらし消え入りそうな声で言った。
「あい...してます」
「聞こえないよ。」
男がもう一度言うように促す。男が使うまるで恋人のようなやさしい口調が、かえって彼女の羞恥心を煽る。
（いやぁ、言わせないで...）
「あいしています」
「それじゃ他人行儀だ」
「あいしてる...」
それを聞いて男は満足そうに微笑んだ。それから、彼女の両ひざの下に両腕を通し、両手を彼女の腰のところまで伸ばした。
「オレに掴まって。」
彼女が両腕を彼の首の後ろにまわして掴まると、男は彼女をそのまま持ち上げ、ベッドに連れていった。男はベッドの上で彼女に覆いかぶさると、まくら元で約束通り部屋の照明を暗くした。そしてまた指先で彼女の耳をもてあそび始める。みほの全身を、ぞくぞくという感覚がかけめぐる。
「しかし、、、」
彼女がどういう表情をするか楽しみだと言わんばかりにジッと顔を見ながら言う。
「入れたらすぐにイッちゃったね。」
下半身を動かし、また出し入れを始めた。
（なんて応えればいいんだろう？）
みほは何も言葉が思い浮かばず、ただただ黙って赤面するしかなかった。
「こんなときは『だって欲しかったのずっと我慢してたんだもの』って答えるんだよ。」
彼女がさらに恥ずかしがるように男が煽る。
「どうしても言わないとダメですか？」
「ああ、どうしてもだ」
自分がそんなはしたないことを口にしているところを想像しただけでも頭がくらくらするような気がする。しかし、言うしか選択肢はない。
「だって、、、欲しかった、、、んですもの」
男の出し入れが激しくなり、明らかに男が興奮しているのがわかる。そしてみほは自分自身も興奮していることに気付いた。
＊ ＊ ＊
「上になって」
そう言って男は彼女を起き上がらせ、自分はベッドの上に横たわった。彼女は黙って彼にまたがり、分身に手を添えて、自分の入口にあてがった。男の顔をみると、多少にやけながら彼女の姿を眺めていた。
彼女はゆっくりと身体を沈める。
「そう、奥まで入れてごらん」
彼女の内部は充分過ぎるほど潤っていて、あっさりと男のモノの大部分をのみ込んでしまう。甘く痺れる感覚が、再び全身をかけめぐる。
「ふう」
彼女は小さく息を吐く。
「ほら、すこし下がって、ぎりぎり奥まで入れてごらん。」
言われたとおりにすると、彼の先端が子宮の入口にあたった。
「そこで、ほら、前後してごらん。」
言われたとおり、小さく腰を前後させる。前後させるたびに、コリッ、コリッと中で子宮の入口が弾かれる。
「ああ、ああ、ああ、、、」
声がもれる。あわてて抑えようとするが、抑えてはいけないことに気付き、声がもれるままにまかせる。
（感じてない、感じてるふりをしているだけなの、感じてないの）
心の中で自分に言い聞かせる。しかし自分が上に乗っての性交は思った以上に刺激的だった。中のコリッコリッという感覚だけでなく、外ではクリが男の恥骨あたりに押しつけられて刺激され、ゾクゾクするような快感を発している。
「どう、気持ちいい？」
男が尋ねる。
「うん、気持ちいいよ」
彼女はそう答えた瞬間、快感の水かさがぐっと上がったのを自覚した。
（気持ちよくない、気持ちよくない）
必死にそれを打ち消そうとするが、身体は口にした言葉の方に付き従う。
「もう一度言って」
「ああん、気持ちいいよぉ」
打ちのめされる気分だった。「気持ちいい」というセリフが自然と口からでる。そしてその言葉が認知の合図になって、身体じゅうの快感が前面に躍り出てくる。
彼女は腰を前後させている速度を自分で速めていっていることに気づいてなかった。
「愛してる？」
「ああ、愛してるわ」
さらに強く腰を押しつけ、激しく前後させている自分に気付き、彼女は慌てて自分に言い聞かせる。
（愛してないでしょ、気持ちよくないでしょ、みほ、しっかりして！）
しかし彼女の中で性感の水かさは勢いよく増すばかりで、再び氾濫を起こすのはもう目前だった。
彼女は今や、言葉の力を思い知らされて、なぜ男が「感じているフリをしろ」と言い出したのか理解した。自然と反応してしまう身体をいくら自分の心の中で否定しようとしても、口に出す言葉はその否定の心をさらに否定するものでなければならない。言葉と身体が共謀し、みほの意志を遠く置きざりにする。
男が手を伸ばしてきて胸を触ってきた。両方の乳首をかるくキュッとつまむ。頭の中で白いものが爆発したような感覚を覚える。
声に出さない孤独な心中での抵抗を再び試みる気力はもはや彼女にはなくなってしまっていた。羞恥心も自尊心も沈黙したまま、堤防の決壊を受け入れた。
（ああ、またイッちゃう・・・）
「あいしてる・・・」
全身が硬直し、みほの動きが止まる。その瞬間、男は手を彼女の胸から腰の下あたりに移動させる。男は彼女の腰をつかみ、前後に激しく動かした。
「ああ、ダメ。これ以上、ダメ。」
イって敏感になっているところに激しい刺激が与えられた。
（ああ、気が変になっちゃう・・・）
天井を破った先には青天井しかなかった。手を離してしまった風船のように、絶頂のさらにその上へと果てしなく舞い上がっていってしまった。
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