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Ⅱ－６
【抱擁】
硬直していた彼女のからだがぐったりなったのが分かった。オレは彼女の腰を動かしていた手を止める。彼女の上半身はふうっとオレの上に落ちてきた。
「はあ、はあ、はあ、、、」
彼女は息が上がったまま、余韻で身体をピクピクとさせている。気を失っているわけではなさそうだが、すっかり頭の中は空白になってしまってはいるようだ。
オレは彼女の背中に手を回してから、ゴロンとばかりに転がり、オレが上になった。彼女は目をあけたが、焦点が合ってるのか合ってないの分からない感じだった。
オレは上半身を起して彼女の表情を観察しながら、ゆっくりと出し入れをはじめた。彼女の呼吸が速くなり表情が変わってくるのに合わせて少しづつ出し入れの動きも速めていく。
彼女の意識が充分はっきりしてきたので、浅三深一に動きをかえる。
「ああ、きもちいい。。。」
彼女はうっとりと目を閉じた。もう充分過ぎるほど濡れていた彼女だけれども、さらに愛液をあふれさせ始めた。
オレは、腰の動きを止め、お芝居ゴッコは一旦中止だと伝わるような言い方で彼女に呼びかけた。
「奥さん」
彼女はあわててうっとりとした表情を押え込んだ。
「迫真の演技でしたね。どうみたって本気でイっちゃったとしか思えないほどでしたよ。」
彼女はどう答えていいか困ってしまっているようだった。気まずそうな表情で黙っている。
「しかも、ここなんて愛液でびしょびしょだし。」
と言いながらオレは二度三度と強く突き上げた。
「感じているフリをしろとおっしゃったじゃないですか。」
彼女は消え入りそうな声で反論してきた。
「だから誉めてるんですよ。」
とオレは言いながら右手を伸ばして彼女のお尻の下にさしいれた。尾てい骨のほうからアヌスまで手を伸ばすと、案の定、垂れた愛液はそこまできていた。
「ほら、垂れてここまできてる。」
指でぬるぬるとアヌスのまわりをなで回す。
「感じてるフリも疲れるでしょう。しばらくお芝居はお休みにしてていいですよ。」
彼女の視線が明らかに恨みがましくなったが、しかし彼女は黙ったままで何も言い返さなかった。
「あれ、何か不満そうですけど、それとも『気持ちいい』とか『愛してる』とか言ってた方がわたしとセックスを楽しめますか？」
そう言ってオレはゆっくりとまた腰を動かし始めた。
彼女は何も答えない。目が狼狽の色を見せてる。あっけらかんとすべてを認めてオレとのセックスを楽しむには彼女の羞恥心は強過ぎるのだ。でも同時に彼女には、いったん解き放ってしまった自分の性感を、すぐに押さえつけ沈黙させるのも難しいとわかっている。
「もう、いじわるはしないでください。」
息が荒くなりそうなのを抑えて、表情も殺して、彼女がそう言った。
「何がいじわるなんですか？」
オレはゆっくりとした腰の動きをやめ、浅三深一に戻した。彼女は黙っている。
また浅瀬で数回出し入れした後、やさしい口調で「おくさん」と呼びかけておいて、ゆっくりと奥まで押し入る。。。すると彼女はハッと息を呑んでギュッと強くまぶたを閉じた。
「ダメです、動かさないでください。」
「どうしてダメなんです？」
オレは出し入れを続けながら言った。
「ダメです、お願いです。許してください。」
彼女はもう、息が荒くなるのを我慢できなくなっている。オレは腰の動きを、大きく出し入れするように変えた。先っぽだけがちょっと潜っているところまでスッと抜いて、ゆっくりと根元まで沈みこませる。そしてギュッと押しつけると、また先っぽまで引き抜く。
そして彼女の表情を観察しながらこう言った。
「もう一度、感じているお芝居をしたいですか？」
彼女はちょっと躊躇したが、でもすぐに目をつぶりこっくりとうなずいた。オレは腰の動きを止め、目をあけた彼女の顔をじっと見ながら確認した。
「さっきのように迫真の演技で感じているフリをしなさい、ってわたしから命令されたいんですね？」
彼女はあわてて目をそらして、もう一度コクリとうなずいた。羞恥に耐えているからか、彼女の下半身がオレの分身をキュッと締めつけた。
＊ ＊ ＊
オレは彼女の両手を上にあげて両手のひらを彼女の後頭部の下に入れさせた。わきの下から胸までがまったく無防備な状態のままになるので、彼女は気まずそうな表情をみせる。彼女が勝手に腕を下ろさないように、彼女の両ひじの下あたりを押さえる。わきの下はキレイに処理されている。オレはそこをじっと見ながら言った。
「昨晩、オレとのセックスに備えて、キレイに処理したの？」
例によって彼女は何も答えない。
下半身を押しつけ、軽くずんずんと打ちつけながら、オレは上半身を左に傾け、唇をわきの下にあてた。はっと彼女から吐息がもれる。
オレは唇をわきばらへと下ろし、それから胸の膨らみのふもとまで上げた。そこから一気に頂には駆け登らず、すそ野をぐるりと巡った。かわりにあごや鼻が彼女の乳首をなでることになる。両方の乳首は正直にも硬く隆起していた。
横目で彼女の目線がオレの唇を追っているのを確認してから、ゆっくりと乳首へ唇を持っていった。まずはソフトに唇ではさむ。彼女がまた、はあと吐息をもらす。
「気持ちいい？」
「うん、気持ちいい」
あいている方のちくびを右の手のひらでころがしながら、唇はもう片方の乳首を舌でころがし、歯でかるくあまがみする。彼女が下半身を、オレが出し入れするのに合わせて、もぞもぞと動かしている。
「次は一緒にイキますからね、まだイッちゃダメですよ。」
そうくぎを刺して、乳首を強く吸った。それに合わせてもう片方の乳首も人差し指と親指でキュッとつまむ。
「あああ、、、」
彼女の奥からクプッと愛液が湧き出てきた。それと同時に彼女は脚を広げて下半身をオレの方に押しつけてくる、オレは出し入れを速く、大きくした。
「ああ、ああ、ダメ、ダメ。」
口を彼女の胸に付けたままでは動きづらい。唇を彼女から離して上半身を起し、両乳首は両手でつまむことにして、腰の動きを激しくした。
「ああ、ゴメンなさい、、、いっ、、、がまんできない。。。」
今までのようにぎりぎりまで我慢したあげくに達してしまったのではなかった。砂浜に築いた砂の城が小さな波にでも崩れ流されるように、あっけなく彼女は快感に押し流されてしまった。
しかしそれでも、息は荒くなり、そのせいで胸が大きく上下している。彼女は気恥ずかしそうな目でオレを見上げた。
「ゴメンなさい、がまんできなかったの」
「がまんしなかったんでしょ」
「そんなことないわ」
すこしだけ唇をとがらせて、すねたふりをする。
オレはまた出し入れを再開した。ゆっくりと腰を動かし、彼女の上気した顔を見ながら考えてしまう。
彼女がイってしまうとき、これは演技だと自分で自分に言い聞かせることができてるとはもはや思えない。ましてや、彼女自身、オレが彼女の反応を演技だと思っているなんてとうてい期待できないだろう。だがそれでも感じているフリをオレからさせられているというフィクションは必要なのだ。
性行為という生々しい営みの中にも、あやういフィクションがなくてはならない・・・男女の関係なんて、至って単純でしかもかくも複雑なものなのかもしれない。
萎えてしまいそうな考え事はもうやめにして、彼女に言った。
「一緒にいこうか」
彼女はコクンとうなずいた。
ベッドサイドに手を伸ばしながら、最後はどういう風に彼女を感じさせようかと考えていた。ともかくオレは彼女から一旦離れて、約束通りスキンをつけた。
＊ ＊ ＊
「風呂にお湯を入れてる。汗を流そう。」
男の声でふと我にかえった。二人同時に絶頂に達したあと、頭の中がまっ白になって、気を失ったような、突然眠りに落ちたような、そんな状態になっていた。
彼女がそれでもぼうっとしたままなので、男が見るに見かねて手を差し出した。
「ほら」
「あ、ごめんなさい。立てますので、大丈夫です。」
しかし、男はそれを無視して彼女の手を取り、ベッドから引き起こした。そして浴室まで彼女の手を引いていった。
二人は全裸だったので当然服を脱ぐ必要が無い。彼女はその当り前のことに改めて気づくと、なぜか急に照れくささを感じて、掛かり湯もそこそこにすぐに湯船へ身を沈める。
浴槽に注ぎ込まれている水量は、家庭用とは違ってかなりの勢いで、あっという間に半分以上にまで水位がきている。男もザアーっと湯にかかり、ゆっくりと湯船の中に入ってきた。湯船の水位が一気に上がる。
彼女は、自分が恥ずかしさよりも照れくささを強く感じていることを自覚した。浴槽の片側で身を縮めているいると、男が手を伸ばし彼女を引き寄せた。
（あっ・・・）
背後から抱きしめられるような形になった。今まで力んでいたが、それがきっかけになってフッとほぐれる。
（ああ、、、）
少しぬるめのお湯が気持ちいい。上半身を彼にあずけると、背後からお湯のぬくもりとは違う種類のぬくもりが肌ごしに伝わってくる。
（背中を抱かれたのっていつ以来だろう？）
もしかして生まれてはじめてだろうか？背中から、包み込まれるように抱きしめられ、何とも言えない安らぎを覚えていた。
男が両手を彼女の前にまわし、肩から胸へとやわらかになで回しながら、かるくうなじに唇をあてる。
（ああ、きもちいい、、、）
さきほどの余韻がまだ身体に残っていて、それがかすかな刺激の愛撫と合わさってうっとりするような感覚になる。
そのおだやかな恍惚感の中で、みほは一つだけはっきりとわかったことがあった。いや、それはずっと前から、こういうことが起る前からわかっていたはずなのに、ずっと長いあいだ気づいてないふりをしていただけなのかもしれない・・・
（わたしは夫から愛されていない・・・わたしも夫を愛していない・・・）
家のことを任せる主婦として、自分の子を育てる母親として、必要にはされていたかもしれないが、愛されてはいなかった。愛していない男とのセックスを経験して、ずっと前から夫との間にも愛など存在しなくなっているという事実をはっきりと自覚してしまった。
男の唇が、そのとき、うなじから首筋を経て、耳の裏にまで到着した。
「いやん、くすぐったい。」
彼女はおもわず笑い声になってしまう。
「ところで、さっきはどうだった？」
「もう、いじめないでください。」
恥ずかしくて、自然とそう答えた。男が背後で微笑んでる気配がする。
「それよりも...」
彼女は上半身をひねって振り向き、多少窮屈な姿勢のまま、男の顔を見て続けた。
「なんて呼べばいいのかしら、、、あなたの名前を教えてください。」
珍しくすこし男は照れたような様子を見せた。そしてゆっくりと彼女に名前を告げた。
―完―
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