10．小手川 沙希（29歳）

　わたし大学を卒業して銀行に勤めたんです。
　その銀行にＴ大を卒業して入行した村上 孝明、33歳と、３ヵ月後に結婚することになっています。
　１年ぐらい前から交際を始め、２ヶ月前に結納を済ませました。

　村上は所謂エリートで、皆、羨ましがっています。
　だけど・・・村上と付き合う前のわたしは、結構、遊んでいたんです。
　銀行って、結構、私生活にも煩くて、その反動と言うか、夜になるとこっそり羽目を外し、今、思うと、かなり淫らに遊んでいました。
　でも村上と付き合うようになったら、先を考えて遊びを控え、村上も婚前交渉は求めてこない堅いタイプでした。
　それも、もう限界・・・。
　だって、あと３ヶ月もしたら、完全に遊べなくなるし、もう今しかない！って思ったんです。
　村上にも誰にも気づかれないような淫らな戯れを・・・。

　沙希は前から興味のあった写真ブログを始めることにした。
　無論、それこそが、沙希の結婚前の淫戯だった。
（20代も終わり・・・花の独身も終わり・・・そして、この身体も、次第に衰えていく・・・）
　沙希は自分のプロポーションに、絶対的な自信があった。
　顔も目鼻立ちがハッキリして見栄えも良く、銀行でも、お客様の評判は、群を抜いて良かった。

　デジカメをセットし、何枚かテスト撮影をした。
　背景や部屋の様子が分からないように暗幕の前で撮った。
（う〜ん・・・もう少し・・・これじゃ、顔が分かっちゃう・・・）
　沙希が始める写真ブログは、自分のヌード写真ブログだった。
　自分の自慢の身体を写真で残したい・・・。
　20代最後の、独身最後の身体を写真で残したい・・・。
　そして・・・不特定多数の男たちから絶賛されたい！
　そんな思いで、自分で自分を撮影していたのだ。
（最初は乳房を・・・前からと斜め、横の３カット・・・）
　細く長い首の下は鎖骨が浮かび、細い腕が伸びていた。
　乳房は彫刻のようにクッキリと象られ、正面から見ても充分に鑑賞できる形をしていた。
　横から見れば、反り上がるような美しい形をしていて、その膨らみの下は、肋骨が薄っすらと浮かび、無駄な肉は一切無いという見事なプロポーションだった。
　何枚か撮影し、写真加工ソフトでトリミングした。
　首から下、ヘソから上の３カット。
　だが、一切加工はしなかった。
（イヤらしさには欠けるかもしれないけど・・・これが、わたし！）

『わたしの記念撮影』
　それが、沙希のブログタイトルだった。
　写真の下には、沙希のコメントが記載されていた。
『自分で自分の写真を撮ること・・・それが自分の確認。それを多くの人にみてもらい、コメントを頂くこと・・・それが自分の証明。今日は、先ず胸を撮影しました。皆さんのコメント、お待ちしています』
　アップした途端に、数多くのコメントが書き込まれた。
『面白くないぞ！もっと下を見せろ！』
『そんなに見せたいなら、全部見せたらどうだ！』
『オレのザーメンで汚してやる！』
　その他、数多くの批判？コメントが書き込まれていたが、真面目なコメントも数多くあった。
『自分を再認識・・・いいんじゃないですか！キレイです』
『年齢が不明なのは残念ですが、多分・・・25歳前後？いろんな形がありますが、魅力的だと思います』
『彫像を思わせる乳房・・・全体の肢体を想像させますね！』
　沙希は真面目なコメントには丁寧にコメントを返し、批判や中傷、イヤらしいコメントは削除せず、そのままにした。
（こういうコメントも、ある意味で嬉しいわ！）
　沙希はブログの開設に満足していた。

　２回目のアップは１週間後に行なった。
　今回は乳房の下から腰の下、恥毛の上までを３カット掲載した。
　滑らかなウェストラインを見て欲しいと思った。
　恥毛の手入れも怠らず、不自然にならない程度に脱毛した。
（剃ったら、写真に変に写るとイヤだから・・・）
　３回目のアップは、さらに１週間後、この時は、太股から踵までの脚を撮影掲載した。
　引き締まって長い太股と脚の線形は、かなり自信があった。
　前後左右の４点を掲載し、脚フェチのコメントも多かった。
　４回目は、ヒップライン。
　この撮影には気を遣った。
　真後ろ、斜め後ろ、真横・・・、この真横が問題だった。
　そう、恥毛が写ってしまうのだ。
（全部を脱毛するわけにも、剃るわけにもいかないし・・・）
　微妙に脚を交差させ、何枚か撮影して、やっと完了した。

　そして最後は、全体を撮影した。
　フレームを大きく固定し、好きなポーズを何枚も撮影した。
　顔と股間はモザイクで隠し、それ以外はそのまま掲載した。
（いろんなコメントがあったけど、いい記念になったわ！だんだん真面目なコメントが多くなって・・・本当にブログやって良かった！）
　沙希は満足感に浸りながらコメントを読んでいた。
（ん？非公開コメント？）
　数多くのコメントの中に、非公開のコメントがあった。
　沙希はチョッと首を傾げながらコメントを開いた。
『沙希さん、お久し振りです。中原 公也です。間違いなく、沙希さんだと確信して書き込んでいます。もうじき結婚すると聞いています。おめでとうございます！少し前に戦場から帰国しました。また出掛けることになると思いますが、もう一度、逢えれば・・・ご連絡をお待ちしています』
（中原さん・・・中原さん、帰っていたんだ・・・）
　沙希はその書き込みを読むと遠い瞳をし、想い出していた。

　中原は大学時代の写真サークルの先輩だった。
　そして、沙希をオンナにしたオトコでもあった。
　中原は世界を舞台に報道カメラマンになっていた。
　それが、ふたりの別離の理由でもあった。
（中原さんじゃ、わたしが分かるのも頷けるわ・・・）
　学生時代、中原は沙希をモデルによく写真を撮っていた。
　日頃はヌードなど撮らない中原だったが、沙希だけは例外だった。
『沙希、キレイだ！そのプロポーション、大事にしろよ！』
　そう言っては何枚も撮影し、何度も肌を重ねた。
　中原が世界を舞台にと決めた日、ふたりは別れたのだ。
『ゴメンなさい・・・いつ死ぬか分からないあなたを・・・わたし、待っていられるほど、強くない・・・』
　中原と別れた日、沙希は中原が撮ってくれた自分の写真を焼いた。
（逢いたい・・・）
　沙希は、ただ、そう感じた。
　もしも自分のブログを見て、自分だと当てた男が居れば、その男と独身最後のセックスをしようと思っていたが、本心では、そんなことは有り得ないと思っていた。
（写真を撮ることが淫戯なのか？それとも・・・結婚を控えた女が男と交わることが淫戯なのか？）
　沙希は不思議な縁を感じないではいられなかった。
　沙希は中原にメールを送った。
『ご活躍しているようで・・・嬉しく思います。結婚・・・あなたに祝ってもらえるのが、一番嬉しいです。結婚祝い・・・あなたからいただけるのなら、お逢いしたい・・・』
『どんなお祝いがいいのか分かりませんが・・・、沙希が望むものなら、何でも・・・』
　週末は村上との約束があったので、沙希は翌日の日中に、少し離れた街で逢うことにした。

　その街は、ふたりが通った大学のある街だった。
　再開発も進み、当時と街並みはすっかり変わっていたが、ふたりでよく行った喫茶店は、ビルの片隅に残っていた。
「お久し振り・・・」
（凄く野性的になった・・・どんな苦労を・・・？）
　久し振りに見た中原は、逞しく野性的に見えた。
　同時に、その長い年月に語り尽くせないことが、数多くあったであろうことは、容易に察することは出来たが、その中身までは、到底、想像も出来ないと沙希は思った。
「変わらないね！沙希・・・あの頃のままだ」
「そんなこと・・・もう30歳が目前よ！オバサンになっちゃった！」
「否、あのブログを見る限り、沙希は何も変わってない・・・」
「また・・・行くんでしょ？」
「あぁ、沙希の花嫁姿を見たら行くかな」
「もぅ〜どうしてそういう意地悪なこと言うの〜中原さん、結婚は？・・・・・・しているわけないわね」
　ふたりは当時いつも座っていた場所で、いつものコーヒーを飲み、止まった時間の中で、しばらく無言で過ごしていていた。
「ねぇ、本当に変わっていないかどうか・・・確かめてみない？」
「いいのか？結婚を２ヶ月後に控えたオンナのセリフかい？」
「結婚してからじゃ、もっとマズイでしょ！？」
「フフッ、そりゃそうだ！」
（逞しくなったあなたを感じたい・・・）
　ふたりは喫茶店を出て、裏通りのラブホに入った。

　部屋に入ると、沙希は浴室に向かった。
「チョッとお化粧を・・・」
　そう言って洗面所に向かった沙希だが、実際にはバスタブに湯を溜めるために行ったのだった。
「今、裸になった方がいい？それとも・・・一緒にお風呂に入る？」
「どっちでも・・・沙希の好きにすればいい」
「じゃあ、一緒に裸になって・・・ちゃんと確かめてからお風呂に」
「フッ、分かった」
　ふたりは同時に裸になり、お互いの身体を見た。
「えっ！凄い・・・この傷、全部、戦場で？」
「あぁ、そうだよ。一度は、生死の境を彷徨って・・・」
　沙希は中原の胸に刻まれた大きな傷痕を指でなぞっていた。
　数多くの傷痕は、中原の戦場での生活を物語っていた。
「やっぱり沙希は変わっていない・・・キレイだ・・・」
　中原は沙希の裸の身体を引き寄せ抱き締め、その可愛い口唇に激しい口づけをした。
（うわぁ〜前はこんな強烈なキスはしなかった・・・）
　沙希は求められるがままに応えていた。
「ふぁ〜中原さん、情熱的な感じ・・・」
「そぅ・・・いつ死ぬか分からない次元に棲んでると、どうしても、今・・・この時！そんな感じになっちゃうのかな」
　沙希は中原の胸の傷痕に口唇を寄せ、癒すように舐めた。
　その舌の動きは次第に下腹部に流れ、懐かしい肉棒に達した。
　沙希は可愛い口にスッポリと含んで舐め回した。
（これで、わたしはオンナになった・・・）
「沙希・・・それ以上されたら、出ちゃうよ」
「いいわ！そうしたら、また大きくしてあげる・・・」
　何故だか分からないが、沙希は無性に中原の精液を飲みたかった。
　玉袋を口に含んで優しく舐めながら、肉棒を手で扱いた。
「うっ、昔、教えた通りだな・・・」
「ううん、もっと上手になってるわ！」
　玉袋と肉棒の周囲を舐め、指先で玉袋を優しく刺激し、再度、口に肉棒を咥え、手の動きと併せ口唇で扱いた。
「うあっ・・・あ、あぁ、イッ、イクッ・・・」
　中原は沙希の頭を自分の股間に圧し付け、ドクドクと熱い白濁の粘液を放出した。

　その後、ふたりは一緒に入浴し、沙希は中原の腕に抱かれ、何とも言えない安心感の中に包まれて過ごした。
　ベッドに入ってからは一変し、沙希は中原の愛撫に狂喜した。
　大きな嬌声をあげ、獣のように淫悦を貪り、その見事な肢体を火照らせ、乱れた時間を満喫した。
「また、逢える？」
「沙希・・・逢いたいけど、逢えばズルズル引き摺りそうで・・・お互いの為には、もう・・・」
「だよね！」
　沙希は悲哀に満ちた微笑を浮かべていた。

　沙希は中原との密会で、鬱積していた淫欲を少しは発散したが、同時に、押し殺していた淫欲に火を点けた。
（中原さんと逢って良かったわ・・・ずっと気になっていた存在だったし、これでやっと踏ん切りがついたって感じ・・・）
　沙希は中原と逢った時に持っていたデジカメで、自分の満足した姿態を中原に撮ってもらっていた。
　ＰＣに取り込んで見ると、自分でも驚くほどキレイだった。
（イヤらしさは感じない・・・最後にコレもアップしよう）
　沙希は写真ブログに何枚かモザイク処理をして掲載した。
『これが最後のわたしになります・・・いい記念になりました。皆様からの多数のコメント、ありがとうございました』
（あと１ヶ月半・・・わたし本当に人妻になるんだ・・・）
　中原によって火の点いた沙希は、悶々としていた。

　翌日、ブログを見ると、コメントが50を越すほど入っていた。
（凄いわ〜真面目なコメントかしら？）
　中でも幾つかは非公開があった。
（いくらなんでも、もう知り合いは無いわよね・・・）
　丁寧に書き込みに応え、非公開を開けていった。
『多分、ご結婚をされるのでしょう〜最初からずっと見させていただきましたが、そんな印象を受けました・・・（的外れだったらスミマセン）僕は男ですが、何とも言えないフラストレーション、分かるような気がします。変なご提案をするようですが・・・何もかも忘れて、一緒の時間を過ごしませんか？他意はありません・・・ただ、そうしたいだけです。あなたも、そうしたいのではないかと・・・勝手な思い込みかもしれませんが、もし、宜しければ・・・明日の夕方・・・・・・・・・』
（えぇ〜っ！信じられない〜何か見抜かれてるみたい・・・ひょっとして、孝明さんだったら・・・可能性はあるかも？指定の時刻に指定場所を遠くから見て判断すれば・・・そうね！うん、それがいいわ！変な感じの人だったら困るし・・・そうしよう！）
　淫欲を満たしたい気も強かったが、用心深さも忘れなかった。
　返信のメールはしなかったが、沙希は行く気持ちだった。

　翌日の夕暮れ、指定された場所から少し離れた場所で、沙希は人待ち顔の男を探していた。
（あの人かしら？もう指定時刻だし・・・）
　30代半ばぐらいのスーツ姿の男が、落ち着かない様子で周囲を見渡していた。
（普通のサラリーマン風みたい・・・大丈夫そうね・・・）
　沙希は念のため、近くの公衆電話から書き込まれていた携帯に電話を入れて確かめることにした。
　ルルルル・・・
　男が慌てて携帯電話を開いて見た。
（やっぱり！良かったぁ〜普通の人で・・・ウフッ、孝明さんじゃなくてホッとしたわ！）
　男はすぐに切れてしまった電話に首を傾げていた。
「あのぉ〜スミマセン・・・時間をご一緒しませんか？」
「えっ！あっ、あなたなんですか？」
　沙希は黙って頷いた。
「本当に来てくれたんですね！正直、期待していなかったんですが・・・それに・・・こんなにキレイなひとだったなんて・・・」
「ご不満ですか？」
「と、とんでもない！」
　男は本当に意外だった様子で、落ち着かなかった。
「僕の名前は・・・」
「それは止めましょう！お互いに・・・ネッ！その方が・・・」
「そう、ですね・・・ふぅ〜それじゃ・・・」
　男は少し落ち着き、沙希を促して歩き始めた。

　ホテルの中に入ったふたりは、夢中になって淫戯に終始した。
　男は少し前とは違い、沙希の身体を味わうように愛撫し、その肉棒とテクニックは、沙希を十二分に悦ばせた。
「あぁあああああ〜〜〜いっ、いぃ〜〜っ・・・いいわ、いいわ、あぁぁ、最高〜はぁ、素敵よ〜〜」
　沙希は正常位でも後背位でも騎乗位でも、思い切り自分を解放し、淫欲を発散させていた。
「あなたも最高の身体と感度だ！もっと、もっと淫らにさせてあげたい」
「えぇ、いいわ！もっと淫らに感じさせてぇ〜」
　沙希はありとあらゆる淫らなセックスを楽しんだ。

　別れ際に男は再会を期待した。
「また携帯に連絡をくれれば・・・」
「そうね、ウフッ・・・」
　沙希は再び会ってもいいような気がしていた。
（あまり多くの危険は冒したくないし・・・この男なら、毎日でもセックスしたいくらいに上手だし・・・でも・・・帰ってブログをチェックして、それから・・・）
　沙希にとっての淫戯は、男との奔放なセックスではなく、やはり、ブログだったのかも・・・。