13.期待

　月曜日になり、亮介は祐二と部屋で勉強していた。
　週末どこかに出かけたかという話になる。
　どこにもいけなかった祐二が、不満をもらす。

「お父さん、寝てばかりでさあ、まったく、そんでもって今日なんか、自分だけどっかホテルに泊まるんだよ。ずるいよ。」

「ん？今日はお父さんいないの？」

「そうだよ。出張だってさ、そんでね、、、」祐二はしゃべり続けるが、亮介は違うことを考えていた。

（そうか、、、わざわざ出張の日にねえ、、、）

　遊びの時間に少し離れた公園に行くと、祐二を疲れさせるためハードな運動をした。

　夕食時すでに眠そうになっていた祐二は、食事くれと言ったのは、自分なのだ。亮介は忠実に守ってくれている、年上の自分がそれを、、、。

　だが、夫がいない日に期待して呼ぶ、という行為をしているのも自分だ。
　欲望と理性にはさまれ、どうしたらいいのかわからないまま、じりじり時間だけが過ぎていく。

（だめ、やっぱり期待するのがおかしい。先生も忘れたように振舞ってくれているし、何より上に祐二がいるじゃない。）

　母親としての理性が勝ち、２階に祐二がいることを思い出した祥子は、起こして帰るように言おうと決心する。

　起こそうとして立ち上がる。

「せん、、、」ガチャッン！

　勢いよく立った足にテーブルがぶつかり、ほとんど飲んでいないコーヒーをひっくり返してしまった。テーブルからこぼれたコーヒーが絨毯にしみてしまう。

　とりあえずティッシュでふき、慌てて雑巾と布巾をとりにいく、、、。

14.目覚め

（ん？）

　亮介はガラスのぶつかる音で目が覚めた。

（しまった、寝ちまったのか、、、今、何時だ？）

　目を開けると対面のキャビネットの上にある置時計は１０時前になっている。
　ドアから祥子が出て行く背中がみえた。

（２時間近くも寝ていたのか？なんで起きなかったんだ？）

　そこへ、雑巾を持って帰ってくる祥子のスリッパの音が近づいてきた。

　反射的に寝たふりをした。

　薄目をあけてみると、どうやら何かをこぼしたようだ。

（これの音だったのか、、、しかし、なんで起こさなかったんだ？、、、普通なら起こして帰すだろう、、、やはり期待しているのか？）

　祥子がテーブルをテレビの方にどかして、絨毯を雑巾で叩き始める。

「ん、んー、、、あれ？どうしたんです？」のびながら亮介が聞く。

「えっ、ええ、コーヒーをこぼしてしまって、、、」

「手伝いましょうか？」

「いえ、大丈夫ですわ、キッチンにコーヒーがありますので、どうぞ。」

「はあ、すいません。」

　コーヒーを持って戻ってくると、祥子は雑巾を洗ってまた絨毯をたたいていた。
　今日はぴったり目のＴシャツと膝上ぐらいのタイトなスカートだ。
　Ｔシャツからはブラの線が、むっちりした尻をつつむきつめのスカートからは下着の線がよくわかる。
　亮介は祥子の後ろに立ち、コーヒーを飲みながら周りを見た。
　キャビネット近くのカレンダーに目がとまる、今日の日づけに出張の文字をみつけた。

（よし、つついてみるか、、、）

「すいません、寝てしまったようで、起こしてくださればよかったのに。」

「あ、あまり気持ちよさそうに寝ていたので、、、」

　起こさないでいた自分が恥ずかしく、顔が上げられない、もう染みのとれた絨毯を拭き続ける。

「奥さん、、、奥さんが忘れるようにいった、あの夜のことなんですが、、、」

「は、はい」
（な、なにかしら、、、もしかして、、、）

「実は、、、なかなか忘れられないんで困っているんです。昼はいいのですが、夜になると思い出してしまって、、、その、、、自分でしてしまうんです。」

（？なんてこと、亮介さんも自分で？なんてもったいない、、、）

「奥さんは、忘れられるのですか？」

「え、ええ。」　目をそらしたまま祥子が答える。

「そうですか、、、、、では、なんで旦那さんが出張の日に、僕を呼んだのですか？」

　いきなり浴びせられた言葉に、祥子の手が止まる。
　隠していた心をあばかれ、心臓がつかまれたような気になった。

「わざわざ旦那さんがいない日に、呼んだってことは、、、」

「ち、ちがうの、そんなつもりじゃ、、、」

「どんなつもりだったんです？」

「、、、、、」

　言葉が出なかった。
　図星なのだ。
　だが、ここで認めるわけにはいかない。
　なにか言わなければ、、、。

「ど、どうして、今日夫が出張だと、、、」

　亮介はカレンダーを指差した。

「と、とにかく、ちがいます。」
（なんてこと、私ったら、、、消しておくべきだった、、、）

「奥さん、もう一度、もう一度だけあなたを抱きたい。」

　懇願するように亮介が聞きたかった言葉を言う。
　この一週間望み続け、一番聞きたかった言葉を言われた身体は準備活動をはじめる。
　ふとももからしたたり落ちているのではないか？と、心配するくらい淫らな液体が下着を濡らす。
　その言葉に、身をゆだねてしまいたくなったが、踏みとどまる。

「だめ、いけない事なの、私は人の妻なの。亮介君だってわかってくれたじゃない。」

　そういいながら、なんとか立ち上がりキッチンの方に歩いていった。